今週はソプラノの森麻季さん、テノールの宮里直樹さん、バリトンの大西宇宙さんをお招きして、オペラ歌手の秘密に迫りました。3人ともすばらしい美声の持ち主ですが、声を客席の隅々まで届けるために、さまざまな工夫や練習を重ねていることが、よくわかりました。
オペラほど歌手にとって過酷な舞台はないと思います。まず、舞台にはマイクがありません。それでいて、大編成のオーケストラといっしょに歌わなければなりません。声量が足りないと、いくら歌がすばらしくても客席までは届きませんし、オペラは長丁場ですからスタミナも必要になります。宮里さんの肋間筋のお話や、大西さんの腕立て伏せをしながら歌う様子を見て、オペラ歌手にはアスリート的な側面があると感じました。連続スタッカートを披露してくれた宮里さんは「これができると、寝ていても座っていてもどんな体勢でも腹式呼吸で歌える」と話していましたが、実際の舞台でも横になったままで歌う場面は決して珍しくありません。
さらにオペラ歌手は暗譜と外国語が必須。舞台上では演技を伴いますから、どんな長大なオペラであっても最初から最後まで暗譜で歌います。3時間、4時間を超える大作でも、みなさん当然のように曲も歌詞も覚えているのです。しかも歌詞はほとんどの場合、外国語。オペラの世界ではイタリア語やドイツ語が中心です。フランス語、英語、ロシア語、チェコ語の作品もあります。森さんは「語学の勉強がいちばん大変」と話していましたが、歌うだけでも難しいのに、言葉の勉強もしなければならないとは。宮里さんは、新しい楽譜に向き合うと「これを全部覚えるんだ……」と、まずは一回落ち込むと話していました。これだけ活躍している人でも、そんなふうに感じるんですね。オペラの舞台は奇跡のような才能と努力によって支えられているのだと、あらためて実感します。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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