近年、スケート・シーズンに合わせて、フィギュアスケートの人気曲を集めたコンピレーション・アルバムをレコード会社がリリースするようになりました。これは荒川静香さんがトリノ・オリンピックで金メダルを獲得した際に、プッチーニの「誰も寝てはならぬ」が大ヒットした影響が大きいのでしょう。フィギュアスケートをきっかけに曲に親しむファンが増えてきました。有力選手たちが新シーズンにどの曲を採用するのかは、ファンのみならず業界関係者も気になるところです。
今週の「舞うヴァイオリニストの音楽会」で独自の美の世界を披露してくれたヴァイオリニストの川井郁子さんは、そんなフィギュアスケートの世界で大人気のアーティスト。羽生結弦、ミシェル・クワン、村上佳菜子、荒川静香といったそうそうたる顔ぶれのスケーターたちが、川井さんの楽曲を使用してきました。
なぜそんなに人気があるのか。番組中で荒川静香さんが「(川井さんの楽曲は)スケートの伸びと重なりやすい」というスケーターならではの表現で理由を説明してくれました。これは実際に滑ってみて体感できる感覚なのでしょう。「ヴァイオリンと和楽器の組み合わせによって、強さと繊細の相反する要素が重なり合う」とも。ヴァイオリンとピアノのような純然たる西洋楽器の組合せよりも、性格の異なる楽器を組み合わせたほうが表現の可能性が広がるのは、なんとなくわかるような気がします。
川井さんのオリジナリティは、音楽的に踊れる曲であるというだけではなく、奏者自らがダンサーと共演して舞うところ。最後に演奏されたピアソラの「リベルタンゴ」は、鬼才ギドン・クレーメルがヴァイオリンで演奏したことがきっかけで、クラシック音楽界でも広く演奏されるようになった曲ですが、この曲で演奏しながら舞ったヴァイオリニストは川井さんだけではないでしょうか。
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舞うヴァイオリニストの音楽会
ジャンルを超えた仲間たちの音楽会
普通だったら絶対に共演しないようなアーティストが、いっしょになってひとつの作品を生み出す。刺激的ですよね。今週の「ジャンルを超えた仲間たちの音楽会」では、異ジャンルのアーティストたちが集った、ふたつのユニットに登場していただきました。
この両ユニットは10年以上にわたってコラボレーションを継続しています。ジャンルを超えるコラボレーションというと、一回性のものはたくさんあるのですが、こうしてずっと続いている例は決して多くはありません。
ひとつめはピアノの上原ひろみとタップダンスの熊谷和徳。ピアノとタップダンスとは、相当に意外性のある組み合わせです。最初はタップダンスにピアノで音楽の伴奏が付くのかなと思いましたが、実際に目にするとそう単純なものではないことがよくわかります。タップダンスが一種のリズム楽器のように機能して、ピアノと対話をくりひろげます。タップダンスが音楽的であると同時に、ピアノにもどこかダンスの要素が感じられて、音楽とダンスの境界線が見えなくなってくるような一体感が印象的でした。
もうひとつは古武道。チェロの古川展生、ピアノの妹尾武、尺八の藤原道山、三人の名前から一文字ずつを取って「古武道」と名付けられました。これほどジャンル違いの音楽家たちが10年以上にわたって活動を続けていることには驚かずにはいられません。
本来ならフル・オーケストラを必要とするラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を、3人で演奏するというアイディアがおもしろかったですよね。原曲が持つロシア流の濃密なロマンティシズムに代わって、清涼感のあるサウンドや、トリオならではの親密な雰囲気が生み出されていました。既存の曲から新しい魅力を引き出す。こういった大胆な編曲も、異ジャンル・コラボレーションの醍醐味といえるでしょう。