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第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2024年02月24日 10:30

 今週は第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの亀井聖矢さん、阪田知樹さん、ソプラノの森野美咲さんの3名でした。
 亀井聖矢さんはまだ22歳という若さながら、今もっとも勢いのあるピアニストとして熱い注目を集めています。今回は数あるピアノ協奏曲のなかでもいちばんの傑作と亀井さんが語るプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏してくれました。この曲はプロコフィエフならではのモダンでアグレッシブなテイストに、リリシズムやユーモアが渾然一体となっているところが魅力。亀井さんの切れ味鋭い演奏から、作品の多面的な魅力が伝わってきました。
 森野美咲さんが選んだ曲は、リヒャルト・シュトラウスのオーケストラ伴奏付きの歌曲「明日!」と「アモール」の2曲。「明日!」はシュトラウスが結婚の記念に妻となるソプラノ歌手のパウリーネに贈った曲だけあって、とても甘美な曲です。一方、「アモール」とは愛の神キュービッドのこと。翼が燃えてしまい、泣きながら羊飼いの娘に飛び込んだら、娘に恋の炎が燃え上がった……というウィットに富んだ恋の歌です。森野さんの柔らかく豊かな声を堪能しました。
 阪田知樹さんが演奏したのは、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」。ラヴェルは2曲のピアノ協奏曲を書いています。両手のために書かれたピアノ協奏曲ト長調は多くのピアニストが好む人気曲であるのに対して、「左手のためのピアノ協奏曲」は、阪田さんの言葉にもあったように、傑作のわりにはあまり演奏されません。戦争で右腕を失ったピアニストに依頼されて、ラヴェルは左手のみで弾ける作品を書いたのですが、曲想は両手の協奏曲以上に雄大で荘厳です。阪田さんの輝かしく力強いソロが最高にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会~学校で習ったのに編

投稿日:2024年02月17日 10:30

 今週は「名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会」の第2弾「学校で習ったのに」編。曲は知ってるけど、作曲家の名前が出てこない……。そういうことって、よくありますよね。
 「ボレロ」の作曲家ラヴェルの名前を覚えていたのは50人中7人。少ないといえば少ないですが、でも大健闘ともいえるのでは。ラヴェルは20世紀前半のフランスを代表する作曲家で、カラフルなオーケストレーションが特徴的です。
 「白鳥」はサン=サーンスの人気曲。組曲「動物の謝肉祭」のなかの一曲です。サン=サーンスはラヴェルの一世代前のフランスの作曲家で、交響曲第3番「オルガン付き」など、多数の傑作を残しています。名前を覚えてくれていたのは50人中6人。大健闘です。
 「威風堂々」を作曲したのはイギリスのエルガー。この曲は以前からテレビCMでひんぱんに使われています。エルガーの曲は「威風堂々」といい「愛のあいさつ」といい、なぜかCMで好まれる傾向があります。近年では入学式、卒業式の音楽としても使われます。エルガーとわかった方は50人中4人。もう少し多いかと思ったのですが……。
 運動会でおなじみ、「トランペット吹きの休日」の作曲家はルロイ・アンダーソン。アメリカ軽音楽の巨匠と呼ばれ、「そりすべり」「タイプライター」「ワルツィング・キャット」など数々の名曲を残しました。こちらの正解者は50人中2人のみ。まさに曲はだれでも知っているけど、作曲家の名前は出てこない典型だと思います。難問でした。
 最後の「ラデツキー行進曲」も運動会でよく使われます。ヨハン・シュトラウス1世の作曲と答えられたのは50人中1人のみですが、無理もありません。なにしろ息子のヨハン・シュトラウス2世のほうが有名なので、つい混乱してしまいます。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでは毎年アンコールに息子の「美しく青きドナウ」が演奏され、次に父親の「ラデツキー行進曲」が演奏されて幕を閉じます。もっぱらお正月と運動会で耳にする名曲といってもいいかもしれませんね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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冬から連想する音楽会

投稿日:2024年02月10日 10:30

 今週は好評の「四季を感じる音楽会」シリーズの「冬」編。冬から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「冬」といえば「雪」。「アナと雪の女王」より「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を、石上真由子さんのヴァイオリン、大井駿さんのチェレスタ、中村滉己さんの津軽三味線でお届けしました。ふつうではありえない楽器の組合せから、独特の味わいを持った「レット・イット・ゴー」が誕生しました。津軽三味線が醸し出す和のテイストが効いていましたよね。日本の雪景色が目に浮かんできます。
 「雪」から大井駿さんが連想したのは「雪だるま」。曲はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の精の踊り」。子ども時代に雪だるまを作って手がキーンとかじかんだ思い出から、チェレスタの音色をイメージしたといいます。チェレスタといえばこの曲。チャイコフスキーは当時まだ知られていなかったチェレスタの音色を耳にして、いち早く「くるみ割り人形」に取り入れました。バレエが人気作になったことからチェレスタも世界中に広がったといいますから、チャイコフスキーはこの楽器を広めた立役者といってもよいでしょう。
 中村滉己さんが「雪だるま」から連想した言葉は「孤独」。少し意外でしたが、説明を聞いて納得。人がいなくなった後の雪だるまって、孤独ですよね。そして「孤独」からイメージした曲が、上京したての孤独な頃に演奏していたという青森県民謡「ホーハイ節」。スカッと突き抜けるような声が爽快でした。
 石上真由子さんが「孤独」から連想した言葉は「人間」。孤独だった大学受験時代に、音楽を聴いて「人間」を感じたことからの連想です。そして「人間」からイメージした曲は、チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」より「メロディ」。石上さんの伸びやかで温かみのあるヴァイオリンが郷愁を誘います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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役柄は声の高さで決まる!オペラの音楽会

投稿日:2024年02月03日 10:30

 今週はオペラの役柄と声の関係を探ってみました。オペラの世界ではもっぱら声の高さによって役柄が決まっています。多くの場合、主役は高い音域を担いますので、ヒロインはソプラノ、ヒーローはテノールの役になります。となると、そのライバルや悪役はコントラストをつけるために、より低いメゾソプラノやバリトンが歌うことになります。さらに低い声、男声であればバス、女声であればアルトになると、特殊な役柄を歌うことが多くなります。賢者や権力者、神様、老人、魔女など。
 プッチーニの「トスカ」ではヒロインの歌姫、トスカの役をソプラノが歌い、その恋人である画家の役をテノールが歌います。そして、悪役のスカルピアはバリトン。今回、大西宇宙さんがスカルピアを歌ってくれましたが、この役は数あるオペラのなかでも悪役中の悪役といえるでしょう。血も涙もない冷血漢で、このオペラを観るたびにムカムカしてくるのですが、そういう役にもプッチーニは見せ場を作ってるんですよね。ストーリー上は心底嫌なヤツなのに音楽で魅了してくるという……。悪役にもすばらしい音楽が用意されるところがオペラの魅力かもしれません。
 同じくプッチーニの人気作「トゥーランドット」では、流浪の王子役カラフが歌う「だれも寝てはならぬ」がよく知られています。フィギュアスケートでもおなじみですね。本来はテノールが歌う曲ですが、今回は実験的にバリトンで歌ってもらいました。やっぱりそこはかとなく悪役感が漂ってきます。
 バリトンが主役を務めることもありますが、その場合はアンチ・ヒーロー的な物語がほとんど。常軌を逸したプレイボーイを描く「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルト)、王を殺して王位を簒奪する「マクベス」(ヴェルディ)、大酒飲みの好色な老騎士の物語「ファルスタッフ」(ヴェルディ)など。どれも一癖も二癖もある役柄です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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