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葉加瀬太郎がふたたび“坂本龍一を弾く”音楽会

投稿日:2026年03月28日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんがふたたび坂本龍一さんの名曲をスペシャルアレンジで演奏してくれました。葉加瀬さんは坂本龍一作品を「現代のクラシック音楽」と呼びます。モーツァルトであれ、ベートーヴェンであれ、作品はまず作曲者自身によって演奏され、やがて時を経て他人によってくりかえし演奏されることで、「クラシック」になりました。現在、坂本龍一作品も同様のプロセスをたどっていると言えるのではないでしょうか。
 1曲目に演奏されたのは「BEHIND THE MASK」。YMO時代の作品です。1979年発売のアルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」に収録されました。当時はシンセサイザーを用いたテクノポップが斬新な音楽として受け止められていましたが、今回は伊賀拓郎さんの編曲で、あえてアコースティックな楽器が用いられています。振り子式メトロノームが効いていましたね。半世紀近く前の作品なのですから、まさしく「クラシック」と呼ぶに足る名曲だと思います。
 2曲目は「Aqua」。こちらは1998年発売のアルバム「BTTB」収録の一曲。啼鵬さんの編曲による弦楽四重奏での演奏でした。葉加瀬さんの第1ヴァイオリンに、第2ヴァイオリンの成田達輝さん、ヴィオラの田原綾子さん、チェロの横坂源さんが加わった陣容は豪華。現代のトップ奏者たちによるドリーム・カルテットと言ってもよいでしょう。深みのある優しい音楽が紡ぎ出されていました。
 3曲目は「ぼくのかけら」。1981年発売のアルバム「左うでの夢」収録曲です。タブラ奏者のU-zhaanさんの編曲で、北インドの古典音楽を参考にした編成が、まったく新しい世界を切り拓いてくれました。
 おしまいは「Parolibre」。1986年発売のアルバム「未来派野郎」収録曲です。作曲者自身の編曲によるピアノ・トリオ・バージョンで、萩原麻未さんのピアノ、葉加瀬さんのヴァイオリン、横坂さんのチェロという名手たちの共演でお届けしました。とても抒情的な音楽で、ショパンへのオマージュとも言うべき淡いノスタルジーが漂っていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行が鍵盤上にオーケストラを表現する音楽会

投稿日:2026年03月21日 10:30

 今週はオーケストラ曲などをピアノ用に編曲した作品を辻井伸行さんに演奏していただきました。こういった編曲を「ピアノ・トランスクリプション」と呼びますが、19世紀から現代に至るまで、さまざまな名ピアニストたちが「ピアノ・トランスクリプション」を通じて、その名技を披露してきました。
 辻井さんが「自分がオーケストラの指揮者になった気分で自由にいろいろな楽器の音色を表現できる」と話していたように、ピアノ1台であっても、その表現力は原曲に劣るものではありません。今回はプレトニョフ、ヴォロドス、リストによる編曲作品をお届けしましたが、いずれもピアノの名手だけに、楽器の魅力が最大限に発揮される編曲が施されています。
 チャイコフスキーの「くるみ割り人形」を編曲したのは、名ピアニストであり名指揮者でもあるミハイル・プレトニョフ。来日も多いので、日本にもファンは多いと思います。原曲では「行進曲」のトランペットのファンファーレや、「こんぺい糖の踊り」でのチェレスタのきらびやかな音色が特徴的ですが、ピアノで演奏してもそれぞれトランペットやチェレスタのイメージが伝わってくるのがおもしろいところ。とくにペダリングを駆使した「こんぺい糖の踊り」は幻想的でした。
 ラフマニノフの「ここはすばらしい場所」の原曲は歌曲。愛の歌が辻井さんのピアノでやさしくしなやかに奏でられました。編曲者のアルカディ・ヴォロドスは超絶技巧を得意とするピアニストとして名声を誇り、すぐれた編曲者としても広く知られています。
 ワーグナーの歌劇「ローエングリン」より「エルザの大聖堂への行列」を編曲したのは、史上最大のピアニストとでもいうべきフランツ・リスト。リストはワーグナーの才能を認め、さまざまな形で支援を行いました。歌劇「ローエングリン」を指揮者として初演したのもリストです。ピアノによる「エルザの大聖堂への行列」は、音楽的に深く共鳴し合った天才同士から生まれたものといえるでしょう。味わい深い余韻が残りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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リストに学ぶ!「売れるコンサート」の音楽会

投稿日:2026年03月14日 10:30

 今週はリスト国際ピアノコンクール優勝者の阪田知樹さんをお迎えして、リストの「売れるコンサート」2大戦略について、教えていただきました。
 戦略その1は「超絶技巧で魅せる!」。リストと言われてまず連想するのは、華麗な超絶技巧がふんだんに盛り込まれた作品でしょう。なかでもよく知られるのが「ラ・カンパネラ」。作品そのものが高い演奏効果を持っていますが、阪田さんはそこに聴衆を熱狂させるための仕組みがあると言います。高音域の高速連打は視覚的な効果が抜群。しかもあんなふうに客席に目線を向けられたら、胸がきゅんとしてしまいますよね。両手の交差も「魅せる」要素のひとつ。ふつうに弾くよりも、聴く側のテンションが一段あがります。腕を高々と上げて強奏する姿も、キマっていました。
 戦略その2は「最新人気曲をアレンジ!」。当時はピアノ・トランスクリプション、すなわちオペラや歌曲、オーケストラ曲などをピアノ独奏用に編曲することが盛んに行われていました。録音再生技術のない19世紀のことですから、音楽を聴くということは、すなわち、人間が演奏するということ。話題のオペラの名場面をピアノ一台で演奏できるアレンジには、大きな需要があったのです。
 今回、阪田さんが演奏してくれたのはヴェルディのオペラ「リゴレット」を題材にリストが編曲した「リゴレット・パラフレーズ」。このオペラの主人公リゴレットは、公爵に仕える道化師です。大切な娘ジルダが公爵に弄ばれてしまい、リゴレットは復讐のために暗殺者を雇って公爵を殺そうとします。この曲では、公爵が居酒屋の女を口説いているところを目にしてジルダが動揺し、リゴレットは公爵がいかに不実な男であるかを娘に諭す、といった場面が描かれています(それでもジルダは公爵を忘れられず、公爵の身代わりとなって死ぬことを選ぶのですが……)。
 最後に演奏されたのは「調性のないバガテル」。時代の先を行くリストの革新性が感じられたでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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藤原道山と山田和樹が初公開する「尺八協奏曲の練習会」

投稿日:2026年03月07日 10:30

 今週は日本を代表する尺八奏者、藤原道山さんが、デビュー25周年を記念して開いたコンサートのリハーサルの模様と、本番のダイジェストをお届けしました。曲は道山さんがこの演奏会のために委嘱した新作、冷水乃栄流(ひやみず・のえる)さん作曲の尺八協奏曲「風は花となる」。尺八、そして日本音楽の未来のために、新しいレパートリーを作っていきたいという道山さんの思いから、注目の若手作曲家である冷水さんに新作の作曲が依頼されたのです。
 この新作のために世界的指揮者の山田和樹さんが、東京藝大の教官や講師から構成される藝大フィルハーモニア管弦楽団を指揮するというのですから、これ以上はないというくらいにすばらしいメンバーがそろいました。そして、世界初演のリハーサルを目にする機会はなかなかありません。今回はたいへん貴重な映像を見ることができました。
 オーケストラのリハーサルといっても、通常のレパートリーを演奏する場合と、新作を演奏する場合では大きく違います。最大の違いは、やはりそこに作曲家本人がいるということでしょう。奏者や指揮者が作曲家と直接コミュニケーションをとれることは、現代の音楽ならではの利点です。山田さんが冷水さんに作曲家の意図を尋ねる場面がなんどかありました。そのたびに、指揮者の指示により音楽の表情が変わってゆきます。同じ楽譜からも奏者によって異なる音楽が生まれてくることが、よくわかります。こういったリハーサルもまた創造の場であることを実感します。
 本番のダイジェストからも、この協奏曲の斬新さが伝わってきました。洋と和が融合した色彩感豊かな第1楽章、抒情的な第2楽章、技巧的でスリリングな第3楽章という構成でした。第3楽章のフィナーレはすごくカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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