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鉄道を音楽で楽しむ休日

投稿日:2020年12月26日 10:30

今週の「鉄道を音楽で楽しむ休日」では、熱心な鉄道ファンとしても知られるサクソフォン奏者、上野耕平さんが大活躍。鉄道視点から見た音楽の楽しみ方に目から鱗が落ちました。
 なにより驚いたのは、上野さんによるドヴォルザーク「新世界より」の新解釈。ドヴォルザークが大変な鉄道好きだったという逸話はよく知られています。駅にでかけては飽きもせず機関車を眺め、車体番号を記録したり、模型を作ったりと、その姿は現代の鉄道ファンと変わりません。そんなドヴォルザークの代表作が交響曲第9番「新世界より」。作曲者本人は明言していませんが、「新世界より」の第4楽章は、蒸気機関車が加速して、やがて爆走する様子を連想させます。
 そこまでは比較的よくある解釈なのですが、上野さんはさらに一歩踏み込んで、この傑作に秘められた鉄道モチーフを明らかにしてくれました。第4楽章でたった一度だけ鳴らされるシンバルの音は、蒸気機関車のブレーキ音。しかも、これに続く管楽器のフレーズを「ブレーキ後の煙」とおっしゃるのには、思わず膝を叩いてしまいました。なるほど! シンバルという楽器は、普通なら強烈な一撃でクライマックスを盛り上げてくれそうなものですが、ドヴォルザークはメゾフォルテ(やや強く)というやや不思議な指示を楽譜に書き込んでいます。映像で実際の蒸気機関車のブレーキ音を確かめてみると、たしかにこれはフォルテでもピアノでもなく、メゾフォルテくらいのニュアンスだとわかります。
 さらに上野さんの指摘で納得したのは、第3楽章の解釈。一般的には、この楽章は農民舞曲風、民謡風の音楽だと受け取られているかと思います。でも上野さんによれば、冒頭部分は汽笛を表現し、トライアングルの連打が発車ベル、弦楽器のリズムは「ガタンゴトン」をあらわすのだとか。しかも弦楽器による「プシュー」という蒸気音まで登場するのですから、これは蒸気機関車そのもの。今後、この曲の聴き方が変わってしまいそうです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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日本ポップス 冬の協奏曲の音楽会

投稿日:2020年12月19日 10:30

もしもクラシックの大作曲家たちが日本のポップスを協奏曲にアレンジしたら……。今回はそんな発想から生まれた実験的シリーズの第5弾。日本の冬を感じさせるポップスの名曲が、本條秀慈郎さん、實川風さん、村治佳織さんの豪華ソリスト陣の演奏で、協奏曲に生まれ変わりました。
 第1楽章は「もしもヴィヴァルディが石川さゆりの『津軽海峡・冬景色』をアレンジしたら?」。イタリアのヴェネツィアで活躍した作曲家ヴィヴァルディの代表作といえば、協奏曲集「四季」。その中の「冬」第1楽章が「津軽海峡・冬景色」と融合しました。ヴィヴァルディと石川さゆりでは曲調がぜんぜん違いますが、震えるような冬の厳しさなど、表現している情景は意外と近いかもしれません。しかもソロ楽器は三味線。三味線とオーケストラの共演ということで、楽器編成も和洋混合になっていたのが、おもしろかったですね。
 第2楽章は「もしもショパンがglobeのDEPARTURESをアレンジしたら?」。ショパンは自身がすぐれたピアニストでしたので、作品はもっぱらピアノ曲ばかり。ピアノ協奏曲は2曲残していますが、できればもっとたくさん書いてほしかったなと、よく思います。その願いをかなえてくれるような巧みなアレンジで、DEPARTURESがショパン風の流麗でノスタルジックな音楽に仕立てられていました。一般に協奏曲の第2楽章には抒情的なメロディが登場しますが、DEPARTURESはぴったりです。
 第3楽章は「もしもヘンデルが山下達郎の『クリスマス・イブ』をアレンジしたら?」。クリスマス・シーンに欠かせない日本のポップスが山下達郎の「クリスマス・イブ」であるように、クラシック音楽ではヘンデルの「メサイア」がクリスマスの定番曲。「ハレルヤ・コーラス」があまりに有名ですが、ほかにも名曲がぎっしりと詰まっています。時代を超えた両曲が重なり合って、華やかなフィナーレを築きました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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滅危惧種!?蛇腹楽器の秘密を知る休日

投稿日:2020年12月12日 10:30

今週はバンドネオンの小松亮太さん、アコーディオンの田ノ岡三郎さん、小春さんの3人の蛇腹楽器奏者のみなさんをお招きいたしました。
 蛇腹楽器にもずいぶんいろんな種類があります。アコーディオンはなじみがあるようでいて、実はよく知らない楽器かもしれません。そもそもアコーディオンには鍵盤式とボタン式があるのをご存じでしたか。石丸さんもおっしゃっていましたが、昔、学校に鍵盤式のアコーディオンが置いてあったのを覚えていらっしゃる方も多いことでしょう。学校にあったのは教育用のアコーディオンだったと思いますが、今は鍵盤ハーモニカが普及しているので、昔ほど出番はないかもしれません。
 これに比べるとボタン式のアコーディオンを見かける機会は少ないと思いますが、実は歴史が古いのはこちらのほう。一見、鍵盤があったほうがわかりやすくて便利なようにも見えますが、小春さんの「ボタン式は同じ指遣いでキーを変えられるので、歌の伴奏に適している」という解説を聞いて、目から鱗が落ちました。なぜあんなにたくさんのボタンがあるのか不思議だったのですが、これならキーが変わっても、まったく同じ指の動きで対応することができます。
 バンドネオンは蛇腹楽器のなかでも独自性の強い楽器だと思います。絶滅危惧種などと言われるくらいですから、実物を触ったことも見たこともない人が大半でしょう。しかし、さまざまな名曲を通して、バンドネオンの音を耳にする機会は決して少なくありません。これはまさに小松亮太さんのおかげでもあるのですが、鑑賞するための楽器として確固とした地位を築いています。そして、なんといってもバンドネオンの世界にはピアソラという大音楽家がいます。ピアソラの「リベルタンゴ」や「アディオス・ノニーノ」といった数々の名曲が忘れ去られない限り、この楽器が廃れることはないのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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藤田真央がモーツァルトのピアノ・ソナタを弾く音楽会

投稿日:2020年12月05日 10:30

今週は国際的に活躍する若手ピアニスト、藤田真央さんの演奏によるモーツァルトのピアノ・ソナタをお楽しみいただきました。以前、辻井伸行さんにベートーヴェンのピアノ・ソナタに独自の視点からタイトルを付けてもらいましたが、今回も同様に真央さんならではの視点で名曲に新たなタイトルが添えられました。
 実はモーツァルトのピアノ・ソナタは同じ曲でもいろいろな名前で呼ばれています。たとえば、今回最初に演奏されたピアノ・ソナタ ハ長調K.545。モーツァルトに詳しい方は「ケッヘル545」などと呼びます。ケッヘル番号とは一種の作品番号で、この番号があれば確実に曲を特定できます。でも3桁の数字って、なかなか覚えられないんですよね。CDではこの曲を「ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545」と表記することが多いと思います。ところが、同じ曲を最近「ピアノ・ソナタ第16番」と表記するケースも目立ってきました。数え方の違いで番号が変わってしまったのですが、これでは混乱してしまいます。番号ではなく、「ハ長調ソナタ」のように調で区別する方法もあります。でもモーツァルトのソナタにはハ長調がいくつもあって、これだけでは曲を特定できません。
 そんな事情もあって、この曲に愛称がついていればいいのにな……と思うこともしばしば。これからは真央さん流に、この曲を「天真爛漫」と呼ぶことにしたい!と思ってしまいました。
 しかも真央さんの演奏は「天真爛漫」と呼ぶにふさわしい自然体のモーツァルト。歯切れよく軽快で、しかも情感豊か。モーツァルトを得意のレパートリーとするピアニストは限られていますが、真央さんはそのひとりとして今後ますます活躍の場を広げてくれそうです。
 ピアノ・ソナタ イ短調K.310は「満身創痍」、ピアノ・ソナタ 変ロ長調K.281は「温故知新」。これも真央さんの説明を聞いて納得。四字熟語でそろえているのがおもしろいですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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