昨年大きな話題を呼んだ「夢響」が今年も開催されることになりました。「夢響」はオーケストラと共演するという夢をかなえるための企画。どんな楽器でも、あるいは歌や指揮でも参加可能です。年齢制限も経験も不問。プロの音楽家や音大生であってもオーケストラと共演するチャンスは決して多くありません。でも、もしそんなチャンスがだれにでも訪れるとしたら、いったいなにが起きるのだろう? 「夢響」はそんな発想から誕生しました。
前回同様、オーディションにあたっては書類審査がありません。応募者全員がオーディションに参加できます。親子やグループでも参加可。オーディション会場は昨年の4会場から6会場に増えて、北海道、宮城、東京、石川、大阪、福岡で開催されることになりました。今年もたくさんの応募が期待できそうです。
昨年はオーディションを通過した10組が、オーケストラと共演する夢をかなえました。惜しくも通過できなかった方のなかにも、「えっ、こんな人がいるんだ」と驚かされるような応募者の方々がいて、音楽の裾野の広さを痛感します。音楽の感動とは、技術だけではなく、音楽と向き合う姿勢から生まれてくるものなんだなということを「夢響」は教えてくれました。
「夢響」で夢を叶えたみなさんのその後を追った映像がありましたが、的場さんが地元熊本でサクソフォン・リサイタルを開いて、満席になったというのは嬉しい驚きでした。田久保さんは昭和音楽大学に特待生として進学。いつかまた別の形でステージ上でお見かけすることがあるかもしれませんね。
今年も審査員を務める上野耕平さんと村治佳織さんが、ピアソラの「タンゴの歴史」より「カフェ1930」を演奏してくれました。タンゴの発展を20世紀の歴史に重ねて描いた名曲です。ノスタルジックな曲想が、夢や憧れをかきたててくれるようでした。
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オーケストラと夢をかなえる音楽会~夢響2019始動!
音楽家の筋肉を知る音楽会
今週は「音楽家の筋肉を知る音楽会」。音楽家ってあんなに筋肉が発達するものなんですね。打楽器奏者の池上英樹さんが、筋肉がよく観察できるようにアスリート・スタイルの服装で演奏してくれましたが、それほど違和感がありません。演奏する動きそのものがすでにアスリート的だからなのでしょう。どんなに技術的に難しいことをやっていても、動きが洗練されていると難しさを感じさせないところも、運動競技と一脈相通じるように思います。
反田恭平さんは手の筋肉に「ラフマニノフ筋」や「リスト筋」といった独自の名前を付けているのがおかしかったですね。見るからに普通の人の手とは違っていて、パワフルで正確なタッチはあの筋肉から生まれてくるのかと納得。なにより驚いたのは「ハノン教則本」です。ピアノ学習者にとっておなじみの教則本ですが、機械的なトレーニングにうんざりしたという記憶をお持ちの方も多いことでしょう。そんなハノンを反田さんのような第一線のピアニストがお使いだったとは! それにしてもあんなに超高速で滑らかなハノンは聴いたことがありません。
最後に池上さんが演奏してくださったのは、シュトックハウゼンの「ツィクルス」より。シュトックハウゼンは2007年に世を去った、戦後ドイツを代表する作曲家のひとりです。ツィクルスとは、ドイツ語で循環、周期といった意味。これは演奏者をぐるりと打楽器が円環のように囲んでいるということを意味すると同時に、楽譜の任意のページからスタートして一周して終わるという、楽曲全体の循環構造も示しています。
こうして演奏中の姿をいろいろな角度からカメラでとらえると、常に下半身も動いていることがよくわかります。やはりこういった作品は聴くだけではなく、見ることで迫力がぐっと増してきますね。
実はすごい!リコーダーの音楽会
小学校や中学校の授業でほとんどの方がリコーダーを演奏した経験があるはず。今回はそんな身近な楽器が持つ真の魅力をお伝えいたしました。
学校で演奏したリコーダーはソプラノやアルトだったと思いますが、栗コーダーカルテットのみなさんは、これにテナーとグレートバスが加わったリコーダー四重奏を披露してくれました。ベートーヴェンの「運命」や「スター・ウォーズ」の「帝国のマーチ」など、本来なら重々しい曲でもリコーダーで演奏すると一気に脱力したテイストになります。ピンク・レディーの「サウスポー」は実に軽快。編曲も冴えていました。
リコーダーは古楽の世界ではごく一般的な楽器です。濱田芳通さんをはじめ、数多くの名奏者たちが活躍していますし、ルネサンス期やバロック期の大作曲家たちはたくさんリコーダーのための作品を残しています。
にもかかわらず、リコーダーに教育用楽器の印象が強いのは、歴史的にいったんはこの楽器が廃れてしまったからでしょう。18世紀中期に横笛のフラウト・トラヴェルソ(現代のフルートの前進)が広まると、リコーダーは表舞台からいったん姿を消します。フルートがオーケストラに定位置を獲得したのとは対照的です。しかし、20世紀に入ると古楽復興運動が起き、リコーダーは復活を果たしました。フランス・ブリュッヘンのような世界的名奏者(後に大指揮者となりました)も誕生し、多くのレパートリーが発掘されて、古楽の世界はぐっと豊かになりました。
能楽師で一噌流笛方の一噌幸弘さんは、リコーダーの名手でもあります。なにしろ1981年の全日本リコーダー・コンクールで最優秀賞を受賞しているほど。超絶技巧で彩られた前代未聞の「ドナドナ」には驚きました。まさかの6本同時演奏から、循環呼吸まで。キレッキレの高速パッセージも鮮やか。神技連発に唖然とするばかりでした。
世界の音楽コンクールを知る休日
今週は世界的なピアニストで、国際音楽コンクール世界連盟役員理事も務める小川典子さんをお招きして、世界の音楽コンクール事情についてお話をうかがいました。
音楽コンクールの役割はなんといっても有望な新人の発掘。よく勘違いされがちなのですが、スポーツの世界選手権やオリンピックのような世界一を決めるための大会ではありません。だから「30歳まで」とか「35歳まで」といったように年齢制限があるのが普通です。コンクールはゴールではなく、スタート。小川典子さんのおっしゃる「この人をもう一回聴くために私はチケットを買うかどうか」という選考基準が、コンクールの意義を言い尽くしているように思います。
若い演奏家にとって、コンクールで入賞することには大きな意味があります。有名なコンクールで入賞すれば、アーティストは自分のプロフィールにその受賞歴を書くことができます。あ、この人はこのランクのコンクールで優勝できるほどの実力があるんだな。そんなふうにプロフィール欄を通して、聴衆や音楽関係者に興味を持ってもらえます。また、賞の副賞として演奏会への出演機会も得られますので、そこで培われる経験や人脈が大きな価値を持つ場合も少なくありません。
小川典子さんによれば世界には約800ものピアノの国際コンクールがあるのだとか。大変な数ですよね。若い音楽家たちがコンクールで実力を競い合っているという裏側には、コンクールの側もすぐれた優勝者を出すために競い合っているという言い方もできるでしょう。数あるコンクールのなかでも、ショパン国際ピアノ・コンクールが最高峰に挙げられるのは、過去にアルゲリッチやポリーニ、ツィメルマンといった優勝者がいるからこそ。ふさわしくない人に1位を与えてしまうと、コンクールの価値が問われかねません。ときどき見かける「1位なしの2位」というコンクール特有の表現からは、そんな微妙なニュアンスが漂ってきます。
卒業ソングが交響曲になった!卒業シンフォニーの音楽会
今週は番組ならではの「卒業シンフォニー」をお楽しみいただきました。交響曲(シンフォニー)とは主に4つの楽章で構成され、それぞれの楽章の基本的なキャラクターが定められたオーケストラ曲のこと。4曲の卒業ソングが大作曲家たちの作風を借りて、交響曲に変身しました。
第1楽章は斉藤由貴の「卒業」をモーツァルト風に。ピアノ学習者にも人気の高いピアノ・ソナタ ハ長調K.545のメロディで始まり、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を引用しながら、「卒業」がモーツァルト風に展開されます。
第2楽章は荒井由実の「卒業写真」がドヴォルザークと合体。ともにノスタルジックな曲調が共通するということで、交響曲第9番「新世界より」が登場しました。「卒業写真」と「新世界より」が同時進行するという編曲の妙技にはびっくり。
第3楽章は太田裕美の「木綿のハンカチーフ」にベートーヴェンが融合するというまさかの組合せ。交響曲第7番と一体化して「木綿のハンカチーフ」がリズミカルに変身。「田園」や「第九」も混入して、ベートーヴェン風の執拗さも演出されていました。
そして第4楽章はフィナーレ。イルカの「なごり雪」にラフマニノフの交響曲第2番が寄り添います。第3楽章の思いきり甘美なメロディで始まって、そこから「なごり雪」が浮き上がってきて、ふたつの曲が同時進行する離れ技。終楽章で第1楽章から第3楽章までの先行楽章を回想するという、ベートーヴェンの「第九」に端を発した趣向も取り入れられていました。
指揮の鈴木優人さんもおっしゃっていましたが、もともとクラシック音楽の世界でも、過去の作曲家の作品や当時の流行歌などを自作に取り入れることは決して珍しくありませんでした。今回の「卒業シンフォニー」を編曲してくださったのは萩森英明さん。アイディアに富んだ編曲に感服するほかありません。