今週は「世界が認めた新世代の音楽会」。著名なコンクールで上位入賞を果たし、音楽界の第一線で活躍する若くて実力のあるアーティストがそろいました。
おもしろかったのは選曲のセンス。萩原麻未さん、成田達輝さん、横坂源さん、吉田誠さんが、オススメの一曲を持ち寄ってきてくださったのですが、みんなが知っているような有名曲は一曲もありませんでした。でも、どの曲もとても親しみやすくて、シャレていて、カッコいい。なるほど、こういう曲がこれから受けるのかな、と思わされます。クラシック音楽の世界にも案外、はやりすたりがあるもの。その時々で作曲家や作品の人気が高まったり、逆に低くなったりすることは珍しいことではありません。
ヘンデルの原曲をハルヴォルセンが編曲した「パッサカリア」は、決して新しい曲ではないのですが、弦楽器2台で演奏できる貴重なレパートリーとして、近年耳にする機会が増えています。
一方、プーランクの「城への招待」、この曲は初めて聴きました。めったに演奏される機会のない曲だと思いますが、こうして聴いてみると機知に富んだおもしろい作品ですよね。短編アニメや映画に仕立ててもおもしろいかも。
最後に演奏された「アダムズ・ヴァリエーション」の作曲者、ギョーム・コネッソンは1970年フランス生まれの現代の作曲家です。現代の作曲家といっても作風は難解ではなく、「アダムズ・ヴァリエーション」もそうでしたが、軽やかで明快で、ポップといってもいいほどです。
この番組の収録をきっかけに気になって、コネッソンの作品をいくつか録音で聴いてみたのですが、この「オシャレ感」はすごく今風だなと感じました。これからぐっと人気が高まるのではないでしょうか。
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世界が認めた新世代の音楽会
指揮者のわがまま音楽会
指揮者のわがままって、いったいなんだろう……と思ったら、こういうことだったんですね。ノーリハーサルでの本番、楽団員の暗譜演奏、バラバラの楽器配置、楽団員が歌って演奏。どれも実際のコンサートではまずありえないようなことばかり。でも指揮者の山田和樹さんのお話を聞くと、音楽的な狙いがあってのことと知って納得しました。
ノーリハーサルで演奏してくれたのはプロコフィエフの「古典交響曲」の第3楽章。自在にテンポを動かしながら、強弱の表現もはっきりと付けた演奏でした。リハーサルがなくても、指揮のテクニックだけでこれだけ音楽を作ることができるとは。リハーサル嫌いの歴史的大指揮者クナッパーツブッシュも、こんなふうに指揮をしていたのでしょうか。
楽団員の暗譜演奏にもびっくりしました。指揮者で暗譜をする方は決して珍しくはありませんが、楽団員が暗譜で演奏する姿を見たのは初めて。譜面台がないと、ずいぶんオーケストラの景色が違って見えます。なにかさっぱりした感じ、とでもいいましょうか。暗譜のおかげなのでしょう、すこぶる精彩に富んだ「フィガロの結婚」序曲を聴くことができました。19世紀の名指揮者ハンス・フォン・ビューローが楽団員に暗譜を求めたのは、こんなスリリングな演奏を実現したかったからなのかもしれません。
いちばん予測が付かなかったのは、楽器のバラバラ配置。近年、一般的なストコフスキ式の楽器配置を見直して、それ以前のヴァイオリンを両翼に分ける対向配置を復活させようというトレンドが一部にあるのですが、山田さんのアイディアはもっと過激で、楽器ごとにグループを作らないという自由配置でした。さすがに楽器間の音のバランスは保てなくなってしまいますが、普段とは違った響きが生まれてくるのがおもしろかったです。オーケストラは集団である以前に、ひとりひとりのプレーヤーたちの集まりなんだな、ということも改めて感じました。
辻井伸行によるベートーヴェンの音楽会
ベートーヴェンの「皇帝」って、聴けば聴くほど傑作ですよねえ。辻井伸行さんの演奏を聴いて、改めて実感しました。
ベートーヴェンが最後に書いたピアノ協奏曲がこの「皇帝」。当時の協奏曲には共通する「型」があります。楽章の数は3つ。第1楽章と第3楽章が速いテンポで、第2楽章は遅いテンポで書かれています。第1楽章の終盤には「カデンツァ」と呼ばれるソロの聴かせどころが置かれます。カデンツァではオーケストラはお休み。ソリストだけが自由に即興的に演奏し、華やかな技巧を披露します。
カデンツァは「おお、このソリスト、すごい!」とお客さんに思わせるための見せ場とでもいえるでしょうか。楽譜にはカデンツァが入るという指示があるだけ。なにを弾くかはソリストが決めます。
しかし、型破りな作曲家ベートーヴェンは、「皇帝」で従来のようなカデンツァを止めてしまいます。当時、多くの場合、作曲家本人がソリストとしてピアノ協奏曲を演奏していましたが、すでに聴力の衰えていたベートーヴェンは演奏を他人に委ねるしかありませんでした。他人が弾くと決まっているのなら、即興などいらない、自分でぜんぶ作曲してしまおう。そう考えても不思議はありません。
番組中で辻井さんがおっしゃっていたように、その代わり、ベートーヴェンはソリストのための見せ場を曲の冒頭に用意しました。最初にオーケストラが力強い和音を響かせるやいなや、ソリストがきらびやかなパッセージを奏でて、聴衆にアピールします。普通の協奏曲であれば、ソリストの登場までお客さんはしばらく待たされるのですが、この曲ではいきなり見せ場がやってきます。こういった趣向もベートーヴェンの型破りなところのひとつです。
「皇帝」は第2楽章から第3楽章への移行部もすばらしいですよね。静かに瞑想するかのような雰囲気のなかで、ゆったりと第3楽章のテーマが出現して、切れ目なくパワフルな第3楽章へと突入します。あの瞬間にブルッと鳥肌が立つのは私だけではないでしょう。
※辻井伸行さんの姓の「辻」は正式には、点がひとつの「辻」です。
弦を奏でる音楽家たち
今週は「弦を奏でる音楽家たち」。そうなんです、ヴァイオリンもギターも同じ弦楽器だったんですね。
たしかにどちらも弦を奏でているわけですが、ヴァイオリンとギターではずいぶん雰囲気やキャラクターが違います。ヴァイオリンというとコンサートホールのようなかしこまった空間が似合う楽器のように感じますが、ギターはぐっと身近な楽器といいましょうか、日常のなかの親密な空間で演奏される楽器というイメージがあります。
そんなキャラクターの違いもあってか、ギターとヴァイオリンがいっしょに演奏するようなクラシックの名曲はあまりありません。しかし、例外的にパガニーニはこのふたつの楽器が共演する曲をいくつも作曲しています。最後にお聴きいただいた「ヴァイオリンとギターのためのカンタービレ」もそのひとつ。
パガニーニといえば「悪魔に魂を売り渡した」とウワサされるほどの超絶技巧を持ったヴァイオリンの名手でした。その一方で、演奏旅行に出る際には常にギターを携えて、折に触れて弾いていたといいます。一説によればパガニーニは若き日の一時期、ギターを嗜む裕福な貴婦人の寵愛を受け、そこでギターを習得し、婦人のために作品を書いたとか。常に最高難度の技巧をアピールしなければならなかったヴァイオリンと異なり、パガニーニにとってギターとはリラックスして心からくつろぐための楽器だったのかもしれません。
今回はギターの持つ音色の多彩さにも目を見張りました。村治佳織さんと村治奏一さんがさまざまな奏法を披露してくれましたが、ギターってこんなに表現力の高い楽器だったんですね。アルペジオ奏法とかトレモロ奏法はいかにもギターらしい奏法ですが、ベリナティの「ジョンゴ」でのパーカッション奏法にはびっくりしました。弦楽器なのに、まるで打楽器のように演奏できるとは! しかもギター2台で共演。楽しかったですね。