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世界的ピアニスト ガルシア・ガルシアが母国スペイン音楽の魅力を伝える音楽会

投稿日:2026年07月18日 10:30

 今週はピアニストのマルティン・ガルシア・ガルシアさんをお招きして、母国スペインの音楽を演奏していただきました。今回紹介してくれた作曲家は、マヌエル・デ・ファリャ(1876~1946)とフェデリコ・モンポウ(1893~1987)のふたり。ファリャは今年生誕150年を迎え、一段と注目度が高まっている作曲家です。一方、モンポウは1987年まで存命でしたので、比較的新しい時代の作曲家です。
 ファリャはアンダルシア地方の港町カディスの出身。この地方の伝統音楽を題材に用いながら、独自の作風を築きました。バレエ音楽「恋は魔術師」(ガルシア・ガルシアさんは原題に従って「呪われた愛」と紹介してくれました)や、バレエ音楽「三角帽子」がよく知られています。いずれもわたしたちが耳にして、いかにもスペインらしいと感じるような作風です。
 「恋は魔術師」のなかでも広く親しまれているのが「火祭りの踊り」。原曲はオーケストラのための作品ですが、ピアノ独奏版もよく演奏されます。この曲は作曲者と親交のあった往年の大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインが好んでアンコールに弾いたことで、絶大な人気を獲得しました。
 モンポウはカタルーニャ地方のバルセロナ出身。カタルーニャ地方出身の芸術家といえばガウディやダリ、ミロなどが有名ですが、偉大な音楽家もたくさん輩出しています。モンポウ、アルベニス、グラナドスといった作曲家に加えて、チェリストのカザルス、歌手のカレーラスなどなど。
 モンポウの作品の大きな特徴は、簡潔さや静謐さにあると言えるでしょう。独特の響きにより、しばしば瞑想的で内省的な雰囲気が醸し出されます。モンポウが好んで用いたのがメタリック・コード。幼少期に祖父の鐘鋳造工場で耳にした響きがもとになっているといいます。ガルシア・ガルシアさんの解説にあったように、不協和音が含まれているのですが、なぜかノスタルジーを喚起するところがおもしろいと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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初夏の北海道・苫小牧③アイヌ音楽に影響を受けた巨匠・伊福部昭の音楽会

投稿日:2026年07月11日 10:30

 今週は初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画の第3弾。釧路に生まれた偉大な作曲家、伊福部昭(1914~2006)の音楽を特集しました。
 伊福部昭は9歳の頃に音更に移り、アイヌの人々と親しく交流します。
ここで接したアイヌの音楽や踊りは、後の作曲家人生に大きな影響を与えることになりました。独学で作曲をはじめ、北海道帝国大学農学部を卒業後、チェレプニン賞に応募した「日本狂詩曲」が第1位を獲得。北海道では林務官として勤務していましたが、戦後、東京に移り音楽に専念します。管弦楽曲や器楽曲、さらには300作を超える映画音楽を手がけるなど、旺盛な作曲活動をくりひろげました。また、名著「管絃楽法」はこの分野における古典として知られています。
 一曲目に演奏されたのは、「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲」第1楽章より。1948年に作曲され、その後、改稿が繰り返されて1971年に決定稿が作られました。映画「ゴジラ」と共通のテーマが用いられています。どこか懐かしさを感じさせる民謡のような旋律、力強く荒々しいリズム、湧きあがるような生命力。伊福部昭の音楽の特徴がよく伝わってきます。
 続いて演奏されたのは「土俗的三連画」の第1曲「同郷の女達」、第3曲「パッカイ」。1937年に書かれた初期の代表作です。チェレプニン賞を得た伊福部は、来日したチェレプニンの招きにより横浜のホテルに滞在し、一か月にわたって作曲を学びました。レッスン代どころか滞在費も食費もすべてチェレプニンにより賄われ、「払おうにも当時の月給が65円で、部屋代が一晩45円ではどうにもならなかった」といいます。金の心配は一切するなというチェレプニンに対して、伊福部は作品の献呈でお返しをしたいと申し出て、師を喜ばせました。こうして書かれたのが「土俗的三連画」です。
アイヌ文化からの影響とチェレプニンとの出会いが、伊福部独自の音楽世界に結実しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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初夏の北海道②アイヌ音楽を楽しむ音楽会

投稿日:2026年07月04日 10:30

 今週は初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画の第2弾。いずれも北海道出身の音楽家であるヴァイオリンの成田達輝さん、山根一仁さん、トランペットの児玉隼人さんとともに、北海道の白老町にある「ウポポイ」を訪れました。
「ウポポイ」はアイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンター。長い歴史と自然のなかで培われてきた
アイヌ文化をさまざまな角度から伝承・共有するとともに、人々が互いに尊重し共生する社会のシンボルとしての役割を担う空間です。
「ウポポイ」とは、アイヌの言葉で「大勢で歌うこと」を意味するのだそうです。ウポポイ伝承課のチャッケさんが、いろいろな伝統楽器や歌、踊りを紹介してくれました。
 アイヌの伝統楽器ムックリは口琴の一種。セタレさんの即興演奏がすばらしかったですよね。小さな弁が振動する音を口で共鳴させるという説明がありましたが、シンプルな作りにもかかわらず、想像以上に表現力が豊かでびっくりしました。低音のパルスなど、かなり不思議な音が出てきます。チャッケさんが「シンセサイザーみたいな」と形容していましたが、まさしく! 児玉さんが「トランペットと口の使い方が似ている」と指摘していたのが、おもしろいと思いました。
 「杵つき歌 イウタ ウポポ」は、輪唱のような音の重ね合わせから、生き生きとした表情の音楽が生み出されます。成田さん、山根さん、児玉さんの3人がとても楽しそうにチャレンジしてくれました。
 ウポポイのみなさんによる「伝統の踊り イヨマンテ リㇺセ」では、独特の発声法ホロㇽセを用いた力強い響きに圧倒されました。まるで鳥の鳴き声のよう。
 「座り歌 ウポポ」は、シントコと呼ばれる漆器の蓋を叩きながら歌われ、ここにも輪唱の要素がありました。成田さん、山根さん、児玉さん、石丸さんも加わった即興のコラボが実現。これは熱かったですね。終わった後のみなさんの達成感にあふれた表情が印象的でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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初夏の北海道①自然の音が彩る苫小牧組曲の音楽会

投稿日:2026年06月27日 10:30

 今週より初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画を3週連続でお届けします。第1週は「自然の音が彩る苫小牧組曲の音楽会」。ヴァイオリンの成田達輝さんと山根一仁さん、トランペットの児玉隼人さんという北海道出身の演奏家のみなさんに、苫小牧を象徴するさまざまな音を採集してもらい、これらの音を演奏と組み合わせて「苫小牧組曲」を作りあげました。
 「苫小牧組曲」第1番は「港町」。映画「ロシュフォールの恋人たち」のために書かれたミシェル・ルグランの名曲「キャラバンの到着」が、苫小牧のカモメの鳴き声やフェリーの汽笛の音に彩られます。児玉隼人さんが汽笛の音をオーケストラの金管セクションのサウンドに似ていると話していたのが、おもしろかったですね。秀逸なたとえだと思いました。
 「苫小牧組曲」第2番は「名馬の産地」。ヴァイオリンの弓に使われるのが馬のしっぽの毛。成田さんと山根さんのふたりのヴァイオリニストが、馬のいななきや足音を採集してくれました。意外とレアな馬のいななきですが、無事に採集することができました。西部劇の名作、映画「荒野の七人」のメインタイトルに、苫小牧の馬のいななきと足音が織り込まれます。楽器対抗いななき選手権では、ファゴットがまさかの大活躍。
 「苫小牧組曲」第3番は「野鳥の宝庫」。朝3時起きで採集したツツドリ、ウグイスらの野鳥の鳴き声が用いられます。曲は葉加瀬太郎さんの「エトピリカ」で始まり、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第2楽章へ。エトピリカとは海鳥の名だったんですね。ベートーヴェンの「田園」には、フルートがナイチンゲールを、オーボエがウズラを、クラリネットがカッコウを模倣する場面があります。自然散策を好んだベートーヴェンらしい趣向ですが、今回はさまざまな楽器が加わって、さらにたくさんの野鳥たちに参加してもらいました。最後はエトピリカも加わっていましたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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時空を超えて新しい音を生み出す音楽会

投稿日:2026年06月20日 10:30

 今週は古くからある機器や楽器を用いて、新しい音を生み出す二組のアーティストをお招きしました。オープンリール式テープレコーダーを楽器として用いるオープンリールアンサンブルのみなさん、そして日本の雅楽で用いられる伝統楽器の笙を自在に操るカニササレアヤコさん。ともに意外性にあふれた奏法と楽曲を披露してくれました。
 オープンリールアンサンブルの「録音再生機器を楽器として使う」という発想には感嘆せずにはいられません。今でこそデジタルレコーディングが当たり前になりましたが、アナログレコードの時代にはプロ用の音響機器としてオープンリール式テープレコーダーが広く使われていました。編集の際にはテープを切り貼りしていたのです。オーディオ好きであればオープンリールに憧れを抱いていた方も少なくないはず。マニアのなかにはカセットテープでは飽き足らず、家庭用のオープンリールを導入する人もいました。
 そんな懐かしいオープンリールを楽器として使って生まれた音楽は不思議なほど新鮮です。レトロフューチャーなテイストに魅力を感じます。テープタップ(磁跳打)、テープオルガン(磁盤)、テープボウイング(磁楽弓)といった多彩な奏法は、くらくらするほど独創的。「磁楽弓三重奏」と「Magnetik Phunk」、どちらも本当にカッコよかったですよね。
 カニササレアヤコさんの笙の音色にもシンセサイザーを思わせる未来的なイメージを感じます。古くからある楽器ですが、リードは金属製なのだとか。タンギングもできるとは知りませんでした。「Untitled」のようなミニマル・ミュージックのスタイルが、よく似合います。笙でもこんな軽快な表現ができるんですね。「糸竹のアリア」は笙とチェンバロのひとり二重奏。チェンバロのキラキラとした音色にも金属的なイメージがあって、笙と無理なくなじみます。バロック音楽を思わせる優雅な曲想に心がなごみました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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自分と同じ年だった頃の師匠から学ぶ休日

投稿日:2026年06月13日 10:30

 今週は現在大活躍中の音楽家のみなさんに、現在の自分たちと同じ年齢だった頃の師の秘蔵映像を見ていただきました。師匠のみなさんの若き日の姿に思わず見入った方も多かったのではないでしょうか。
 山田和樹さんの師は「炎のコバケン」こと、小林研一郎さん。映像に登場したのは、ベートーヴェンの「第九」を指導する47歳の頃の小林さん。若々しく情熱的な指揮ぶりはまさに「炎のコバケン」ですが、話しぶりは今とあまり変わりません。「ベートーヴェンの天国の心になってやってくれる?」といった言葉をはじめ、音楽の核心に切り込んでゆくような言葉が随所に聞かれました。そんな「伝える技術」の高さは、そのまま山田さんにも受け継がれているのではないでしょうか。
 挾間美帆さんの師匠は山下洋輔さん。38歳の頃の山下さんがオーケストラと初共演した貴重な映像をご覧いただきました。曲は童謡「砂山」ジャズアレンジ。とてもスリリングで、底知れないパワーが画面から伝わってきます。挾間さんが当時の師匠の姿を嬉しそうに眺めながら、「ライバル心を持って、しっかり対抗していこうと思います」と宣言してくれたのが印象に残りました。
 上野耕平さんの師匠は須川展也さん。須川さんはクラシック音楽界におけるサクソフォンの第一人者。須川さんの登場でサクソフォンのレパートリーは飛躍的に広がりました。上野さんは自分が憧れていた頃の師の年齢に自身が近づいていることを「恐ろしい」と表現します。こういった感覚は師弟ならではなのでしょう。
 松井秀太郎さんの師は小曽根真さん。最初の授業で小曽根さんが語った「出来ないことは宝物」という言葉から、挑戦することの大切さを学んだと言います。49歳の頃の小曽根さんが弾くショパンのノクターンはいま見ても新鮮。楽器は異なりますが、師のスピリットは松井さんの中にしっかりと息づいていることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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フルートの可能性を広げる音楽会

投稿日:2026年06月06日 10:30

 今週は多久潤一朗さんをお招きして、フルートの可能性を広げる遊び心いっぱいの新奏法を披露していただきました。柔軟な発想と驚くべきテクニックの数々に、ただただ圧倒されます。
 フルートの可能性を広げる奏法①は「縦にして吹く」。もともとフルートという言葉は、縦笛にも横笛にも使われていました。バロック音楽の時代には、縦笛のリコーダーと区別するために、横笛のフルートのことを「フラウト・トラヴェルソ」、すなわち「横向きのフルート」と呼んでいたのです。今でも、たとえばバッハ・コレギウム・ジャパンのようなオリジナル楽器のオーケストラで使われるフルートのことは「フラウト・トラヴェルソ」と呼びます。だったら、現代のフルートを縦にして吹いてみてもいいのではないか。そんな多久さんの自由な発想から、縦吹きのフルートが生まれました。どうやって息を吹き込むのかと思いましたが、特製の縦吹き用の頭部管を使うんですね。曲は久石譲作曲の「もののけ姫」より「アシタカせっ記」。尺八を思わせるような、縦フルートでしかできない表現を聴かせてくれました。
 奏法②は「声を出しながら吹く」。まさか、そんなことが可能だとは! 名曲「スタンド・バイ・ミー」をバスフルートとコントラバスフルートを演奏してくれました。口で吹きながら鼻で歌う離れ技には唖然。声とフルートで和音を作るという技法もすごすぎます。
 奏法③は「穴があいている他のものを吹く」。多久さんの定義によれば、フルートとは「穴に息を吹き込んで音を出す楽器」。フルートの概念を拡大し、ちくわ、ビン、おちょこ、けん玉、スプーンまでもがフルートになってしまいます。ちくわの音色が意外と澄んだきれいな音で、爽快感がありました。
 奏法④は「ジャンルに合わせて音を変える」。おなじみの「ボレロ」がジャズ、フラメンコ、サンバなどいろいろなスタイルに変身します。痛快な「着せ替えボレロ」でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界を変える!!超新星の音楽会2026

投稿日:2026年05月30日 10:30

 今週はクラシック音楽界の未来を担う超新星、ピアノの天野薫さんとホルンの田中瑛大さんをお招きしました。おふたりともまだ中学生。演奏はもちろんのこと、話しぶりもしっかりしていて、本当にびっくりします。
 天野薫さんは12歳。2025年6月に開催された仙台国際音楽コンクールのピアノ部門で第3位および聴衆賞を獲得して、大きな話題を呼びました。ジュニアのコンクールではなく、大人も受けるコンクールでの受賞です。しかもファイナルで演奏したのが、矢代秋雄のピアノ協奏曲。矢代秋雄(1929~1976)は20世紀の日本を代表する作曲家のひとり。パリ音楽院に留学してフランスの伝統的書法を身につけ、妥協を許さない創作態度で磨き抜かれた作品を残しました。完全主義者として知られ、しかも46歳で急逝したため、残された作品は多くありませんが、没後50年を迎えて若い世代の演奏家からの注目が高まっているように思います。
 番組では、天野さんは矢代秋雄のピアノ・ソナタの第2楽章を演奏してくれました。作曲は1961年。モダンなスタイルで書かれていますが、天野さんは「歌を感じて弾いている」と言います。決してわかりやすい曲ではないかもしれませんが、こういった曲であっても、音楽に無理のない自然な流れが感じられるところがすばらしいと思います。また、ドビュッシーの「喜びの島」からは豊かなイマジネーションが伝わってきました。
 ホルンの田中瑛大さんは13歳。日本ジュニア管打楽器コンクール金賞、ジュニアソロホルンコールで優勝を果たした新星です。福川伸陽さんが「いろんな人を幸せにする音を持っている」と太鼓判を押してくれましたが、まさにその通りの演奏をモーツァルトのホルン五重奏曲とピアソラの「アヴェ・マリア」で披露してくれました。モーツァルトは明るく溌溂としているだけではなく、陰影も豊か。寂しげな表情が心に残ります。ピアソラの「アヴェ・マリア」では、のびやかなメロディからほのかなノスタルジーが漂ってきます。ホルンという楽器の魅力が存分に伝わってくる演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックの殿堂!サントリーホール40周年③ 最多出演の名匠・小林研一郎が祝祭をあげる音楽会

投稿日:2026年05月23日 10:30

 今週は開館40周年を迎えたサントリーホールからお届けする第3弾。日本のクラシック音楽界を牽引してきた名匠、小林研一郎さんがサントリーホール祝祭オーケストラを指揮してくれました。これまでにサントリーホールで500回以上指揮をしてきた小林研一郎さんは、「炎のマエストロ」の愛称で親しまれています。86歳を迎えてもなお、その情熱の炎が衰えることはありません。
 今でこそ「音楽の殿堂」として親しまれるサントリーホールですが、1986年の開館当初は交通の便がよくなかったため、「陸の孤島」のように言われていました。しかし、このすばらしいホールで演奏したいと、89年に日本フィルが定期演奏会の会場をサントリーホールへと移行します。当時、日本フィルの首席指揮者を務めていたのが小林研一郎さんでした。その後、地下鉄の溜池山王駅や六本木一丁目駅ができて、ホールへのアクセスは格段によくなりました。現在ではほとんどの在京オーケストラがこのホールで定期的に演奏しています。また、ウィーン・フィルやベルリン・フィルなど、来日オーケストラの多くが、サントリーホールで公演を行っています。
 今回、小林研一郎さんが指揮したのは、ブラームスの交響曲第1番より第4楽章。名手たちが集うサントリーホール祝祭オーケストラとともに、すばらしいブラームスを演奏してくれました。マエストロが指揮台に立つと、それだけで空気が一変。オーケストラから気迫のこもった力強い音がわきあがってきます。
 この楽章の中ほどで、弦楽器による歌うようなメロディが奏でられます。よくベートーヴェンの「第九」の「歓喜の歌」に似ていると言われるメロディですが、マエストロによれば「暗黒から光明へと転じる勝利と歓喜のメロディ」。緊迫感あふれる楽章の途中で、このメロディが登場すると、ほっとした気分になるんですよね。終結部は輝かしく、高揚感にあふれています。忘れがたい名演が誕生しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックの殿堂!サントリーホール40周年②世界中から愛されるホールの館長・堤剛が贈る音楽会

投稿日:2026年05月16日 10:30

 今週は先週に引き続き、今年開館40周年を迎えたサントリーホールからお届けいたしました。サントリーホールの館長を務めるのは、チェロの巨匠、堤剛さん。83歳の現在も現役チェリストとして活躍しています。
 今回は堤さんの独奏、小林研一郎さん指揮サントリーホール祝祭オーケストラによる演奏で、チャイコフスキーの傑作、「ロココ風の主題による変奏曲」を全曲お楽しみいただきました。この曲はチェリストにとって欠かすことのできないレパートリーと言ってよいでしょう。親しみやすく、しかも華やか。作品自体に親密な雰囲気があります。
 「ロココ」とは本来は美術や建築で使われた用語ですが、音楽作品では優雅で軽やかな、洗練されたスタイルを指しています。ここでは18世紀趣味、すなわちモーツァルトが生きていた時代への憧憬を表すものと考えればよいでしょう。チャイコフスキーがもっとも敬愛した作曲家がモーツァルトでした。まるでモーツァルト時代のようなコンパクトな編成のオーケストラが用いられ、冒頭のロココ風の主題が次々といろいろな表情に変奏されます。主題と変奏という形式もモーツァルトが得意としていました。
 チャイコフスキーはこの曲を書くにあたって、盟友であるチェリスト、ヴィルヘルム・フィッツェンハーゲンの助言を得ました。ところがフィッツェンハーゲンは助言をするにとどまらず、初演にあたり作曲者に無断で一部の変奏をカットしたり、変奏の順番を入れ替えてしまいました。楽譜はフィッツェンハーゲンが手を入れた形でそのまま出版され、これが現在も広く演奏されています。オリジナルに比べると、フィッツェンハーゲン版は華やかな変奏が最後に置かれるなど、演奏効果が優先されているように感じます。チャイコフスキーは決して嬉しくはなかったでしょうが、これだけ曲の人気が高いのはフィッツェンハーゲンのおかげなのかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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