番組放送60周年を記念してスタートした新プロジェクトが、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」。今回は山田和樹さんの指揮による初めての全体リハーサルの模様をお届けしました。世界の第一線で活躍する山田さんが子どもたちを指導する様子が本当に興味深かったですよね。音に命が吹き込まれてゆくプロセスを目の当たりにした思いです。
よく「指揮者はなにをしているのかわからない」と言われたりしますが、リハーサルの風景を見れば指揮者の重要性は一目瞭然。もちろん、プロのオーケストラと子どもたちのオーケストラではリハーサルのあり方は違うでしょうが、メンバーたちを触発し、ひとつの方向に向かうように導くという点では同じでしょう。山田さんが子どもたちにくりかえし求めていたのは「存在感」。音量が欲しいわけではなく、音に存在感がほしいのだと言います。
ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で、山田さんは「僕を見てほしい」と要求します。楽譜だけを見るのではなく、指揮者を見る。そのためにまちがえたのなら責めないと言って、コミュニケーションを促します。山田さんの棒に合わせて、手拍子を打たせる練習がありましたが、その後で演奏をすると、みんながひとつになって棒の動きにぴたりとついていきます。山田さんの自在の棒にこたえて、格段に音楽が表情豊かになっているのがよくわかりました。
ベートーヴェンの交響曲第7番でのコントラバスのシーンもおもしろかったですね。山田さんは弓をぜんぶダウンで弾いてみるように提案します。実際にやってみると、子どもたちはほとんどがふつうに弓を返すほうが好きだと答えます。山田さんは残念そうですが、そこでダウンを一律に求めるのではなく、子どもたちの自主的な選択に任せてしまうのが印象的でした。
これから「未来オーケストラ」がどう変わってゆくのか。次回の後編も見逃せません!
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)