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3曲でクラシックがわかる音楽会〜シューベルト編〜

投稿日:2024年07月20日 10:30

 今週は「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズの第3弾。第1弾のモーツァルト編、第2弾のショパン編に続いて、シューベルト編をお届けしました。ゲストの伊集院光さんもおっしゃるように、シューベルトと言われてまっさきに思い出されるのが「魔王」や「野ばら」といった歌曲。シューベルトはわずか31歳で早世してしまいましたが、600曲を超える歌曲を書いています。今回はカウンターテナーの藤木大地さんに、シューベルトが「歌曲王」と称えられる理由を解説していただきました。
 まず最初に挙げられたのは、ゲーテの詩による「野ばら」。同じメロディに1番から3番まで、異なる詩があてはめられていますが、それぞれの詩が描く情景はまったく異なります。にもかかわらず、詩と曲がぴたりと噛み合っている点に、シューベルトの「歌曲王」ぶりが現れていると言います。シンプルな曲なのですが、詩を3番までたどってみると、意外なほどドラマティックな曲だということに気づきます。
 2曲目は「音楽に寄せて」。こちらも名曲ですよね。詩を書いたのはフランツ・フォン・ショーバー。詩人という以上にシューベルトの親友として言及されることの多い人物です。「野ばら」のようにゲーテの詩を使った場合でも、「音楽に寄せて」のように友人の詩を使った場合でも、シューベルトは詩と曲を密接に絡み合わせて、傑作を生み出しました。
 3曲目はピアノ五重奏曲「ます」の第4楽章。こちらは器楽曲におけるシューベルトの代表作と言ってもよいでしょう。シューベルトが歌曲「ます」のために書いたメロディが、ここでは変奏曲の主題として用いられています。同じメロディが次々と姿を変えてゆくのが変奏曲のおもしろさ。藤木さんは、このような器楽曲からも歌を感じると言います。そして、さまざまな情景を思い浮かべながら聴くと、この曲も実はとてもドラマティックであることが、よくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画④宮田大12人のチェリストたちの音楽会

投稿日:2024年07月13日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第4弾といたしまして、日本のトップ・チェリストたち12人によるアンサンブルをお楽しみいただきました。ロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクール優勝者である宮田大さんを筆頭に、近年、日本人チェロ奏者が国際コンクールで次々と上位入賞を果たしています。今回はそんな気鋭のソリストたちに日本を代表するプロ・オーケストラの首席奏者たちが加わって、超豪華メンバーによるアンサンブルが実現しました。
 同じ楽器だけでアンサンブルが成立するのは、音域が広いチェロならでは。ご存じの方も多いと思いますが、この分野には「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」という先駆者がいます。1972年にベルリン・フィルのチェロ・セクションのメンバーが集まって、本日も演奏されたクレンゲルの「讃歌」を演奏した際に「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」を名乗ったのが結成のきっかけ。以来、チェロ・アンサンブルの魅力を世界中に広めることになりました。
 クレンゲルの「讃歌」は1920年の作品。作曲者ユリウス・クレンゲル(1859~1933)はドイツのチェリストで、チェロのための作品を多数作曲しています。ライプツィヒに生まれ、父親はあのメンデルスゾーンと親交があったとか。クレンゲルは15歳にしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のチェロ奏者になったといいますから、卓越した才能の持ち主であったことはまちがいありません。「讃歌」は12人のチェロ奏者のために書かれた作品で、クレンゲル本人と11人の生徒たちでこの曲を演奏し、ベルリン・フィルの首席指揮者アルトゥール・ニキシュの65歳の誕生日を祝ったという逸話があります。
 その後、クレンゲルの「讃歌」はいったん忘れ去られてしまいますが、「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」が蘇演したことで注目を集め、現在ではチェロ・アンサンブルの定番曲になっています。今回の放送を通じて、作品の魅力がますます多くの方に伝わったことでしょう。後世にこれほど人気を博すことになるとは、作曲者も想像していなかったにちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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嫌われているけど大人気!ブルックナーの音楽会

投稿日:2024年07月06日 10:30

 ブルックナーは今年生誕200年を迎えたオーストリアの作曲家です。一般的な知名度という点ではベートーヴェンやブラームスにかなわないでしょうが、熱心なファンの人気という点では負けていません。ブルックナーの交響曲はオーケストラのコンサートに欠かせないレパートリーになっています。日本のオーケストラはもちろんのこと、海外から来日する有名オーケストラもよくブルックナーをとりあげます。
 どれも大曲ですので、聴き終えた後の充足感は並大抵ではありません。コンサートでは70分や80分もあるブルックナーの交響曲が終わった後、客席に完璧な沈黙が訪れることがよくあります。これは、すぐに拍手をするのではなく、余韻をしばらく味わいたいという意思のあらわれでしょう。読書にたとえるなら、大長編小説を読み終えた後、パタリと本を閉じてすぐに現実に帰るのではなく、少しの間だけ物語世界に浸っていたくなるようなものです。
 沼尻竜典さんのお話にもありましたように、ブルックナーの人気はなぜか男性に偏っています。男性側のトイレにだけ長蛇の列ができる「ブルックナー行列」は本当の話です。どうしてそうなるのか、不思議ですよね。
 今回、沼尻さんと神奈川フィルが演奏したのは、交響曲第5番の第4楽章より。この曲をぜんぶ演奏すると80分くらいになってしまいますので、抜粋でしかお届けできませんが、お聴きいただいた部分だけでも、ブルックナーの音楽の荘厳さや重厚さはよく伝わってきたのではないでしょうか。交響曲第5番はブルックナーの9曲の交響曲のなかでも、とりわけ構築的な作品といえるかと思います。それゆえに第5番がもっとも好きというファンもいますが、よく演奏されるのは抒情性が際立った交響曲第7番、あるいは第4番「ロマンティック」でしょうか。最晩年の第8番、第9番も大傑作として知られています。機会があれば、ぜひ一曲を通して聴いてみてください。新たな喜びに出会えるかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本当は面白い“雅楽”の音楽会

投稿日:2024年06月29日 10:30

 日本の古典音楽でありながら、多くの人にとってなじみが薄いのが雅楽。今週はカニササレアヤコさんと東京藝術大学邦楽科雅楽専攻のみなさんをお招きして、雅楽について教えていただきました。きっかけとなったのは、雅楽にルーツを持つ日本語。「音頭を取る」「塩梅」「野暮」「やたら」「千秋楽」といった言葉が、実は雅楽に由来していたとは意外でした。
 「音頭を取る」の「音頭」とは雅楽における楽器ごとの首席奏者だと言います。たしかに字面が「音の頭」なので、これには納得。龍笛が実際に「音頭を取る」様子を見せてくれましたが、なるほど、龍笛のソロに篳篥と笙が追随しています。こういった曲の仕組みがわかると、曲に親しむヒントをもらった気分になります。
 「塩梅」は字面だけを見ると料理用語のようですが、こちらも雅楽の言葉だったとは。篳篥のなだらかに抑揚をつけて息づかいで音を変える奏法「塩梅(えんばい)」から来た言葉なのだとか。実演を見ると、本当に息づかいだけで大きく音程が変化しています。これをいい塩梅で変化させるのは、かなり難しそう。
 「やたら」の由来は、雅楽の「夜多羅(やたら)拍子」から。多くの雅楽が4拍子であるのに対して、「夜多羅拍子」は5拍子です。もともとは6拍子の曲が、舞が付くときに5拍子になるという説明が興味深いと思いました。やはり1拍のずれのようなものが、ダンスの要素を生み出すということなのでしょうか。聴いていて、どことなく急き立てられるような印象がありました。このあたりは西洋音楽の5拍子の名曲、たとえば「スパイ大作戦」(ミッション・インポッシブル)のテーマや、ホルストの組曲「惑星」の「火星」などと共通する要素があるかもしれません。
 「千秋楽」とは雅楽の曲名そのもの。これが歌舞伎や相撲の最終日を指すようになったというのですが、現代ではコンサートやミュージカルでも使われているのがおもしろいですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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おとぎ話から生まれたクラシックの音楽会

投稿日:2024年06月22日 10:30

 クラシック音楽の世界にはおとぎ話を題材とした名曲がたくさんあります。今週は「シンデレラ」「人魚姫」「美女と野獣」から生まれた名曲をお届けしました。
 最初の曲はプロコフィエフの「シンデレラ」から「真夜中」と「シンデレラのワルツ」。「シンデレラ・ストーリー」という言葉があるように、この物語には華やかな雰囲気がありますが、プロコフィエフの音楽には独特の緊迫感があります。不安と期待が入り混じった主人公の複雑な心情を表現したかったのでしょう。ちなみに「シンデレラ」を題材とした有名曲には、ほかにロッシーニのオペラ「チェネレントラ」もあります。こちらにはカボチャの馬車やガラスの靴は出てこないのですが、ストーリーの根幹は同じです。
 ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」は水の精ルサルカと王子の悲恋を描いた物語。ストーリー展開はアンデルセンの「人魚姫」とほぼ同じで、人間の王子に恋をしたルサルカが、魔法の力を借りて人間に姿を変えます。ただし、人間の姿になるには声を失う代償が伴います。オペラなのに主役がいったん声を失う設定になっているのは、なかなか大胆ですよね。このオペラ随一の名曲「月に寄せる歌」は、声を失う前のルサルカが歌います。ほかに「人魚姫」を題材とした曲には、ツェムリンスキー作曲の交響詩「人魚姫」もあります。こちらは大オーケストラで演奏される後期ロマン派スタイルの作品です。
 最後に演奏されたのは、ラヴェルのバレエ音楽「マ・メール・ロワ」より「美女と野獣の対話」。ラヴェルは子供の世界をこよくなく愛した作曲家でした。組曲「マ・メール・ロワ」では、ひとつの組曲のなかに「眠れる森の美女」「美女と野獣」「親指小僧」「緑の蛇」といった物語が描かれています。美女の役をクラリネットが、野獣の役をコントラファゴットが担うといったように、この組曲ではラヴェルの巧みなオーケストレーションが聴きどころになっています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画③反田恭平・小林愛実・務川慧悟豪華共演! 3台ピアノの音楽会

投稿日:2024年06月15日 10:30

 今週は反田恭平さん、小林愛実さん、務川慧悟さんをお招きして、3台ピアノの音楽会をお送りしました。
 反田恭平さんと小林愛実さんのおふたりが共演するのは、ご結婚後、これが初めてだとか。最初に演奏してくれたのはシューマンの「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品」より第12曲「夕べの歌」。本当に息の合ったピアノで、反田さんと小林さんが音で対話を交わしているような演奏でした。
 反田さんから見た小林さんは「自分の世界観を持った音楽家」。これには納得。小林さんの揺るぎないパーソナリティは聴衆にも伝わっていると思います。一方、小林さんから見た反田さんは「いつまでも少年っぽい音楽家」。おもしろい表現ですよね。その少年っぽさが音楽家としての反田さんの飽くなき探求心につながっているのかもしれません。
 続いて演奏されたのはモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」の第3楽章。モーツァルトはたくさんのピアノ・ソナタを書いていますが、2台のピアノのために書いた完成作はこの一曲のみ。「のだめカンタービレ」で主人公のだめと千秋がこの曲を演奏したことから、一段と広く知られるようになりました。この分野の貴重な傑作です。軽快で歯切れ良く、生命力にあふれたモーツァルトでした。
 務川慧悟さんは2012年の日本音楽コンクールで反田さんと並んで第1位を獲得。以来、反田さんとは同世代の盟友として信頼関係を築いています。反田さん、小林さん、務川さんによる3台ピアノで演奏したのは、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」。この曲は、まず2台ピアノのための作品として作曲され、続いてオーケストラ版が作られました。構想時からブラームスはオーケストラの響きを念頭に置いていたようです。今回は3台ピアノという珍しい編成による演奏でしたが、シンフォニックでスケールが大きく、オーケストラ版をほうふつとさせました。フィナーレは壮麗でしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画③夢を実現する反田恭平の音楽会

投稿日:2024年06月08日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第3弾といたしまして、ピアニスト、指揮者、経営者として、まさにボーダーレスな活躍をくりひろげる反田恭平さんをお招きいたしました。
 共演は反田さん自身が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラ。オーケストラを運営するだけでも十分に大変なことですが、反田さんの真の目標は、30年後に音楽学校を設立することだと言います。オーケストラはそのための第一歩にすぎません。これまでにも反田さんは、海外から日本に留学してくるようなレベルの高い学校を作りたいという願いをたびたび口にしてきました。きっと夢を現実にするには、こういったロードマップを描いて、それを公言することが大切なのでしょう。これまでにも次々と夢を実現してきた反田さんだけに言葉に重みがあります。
 今回、反田さんとジャパン・ナショナル・オーケストラが演奏したのは、モーツァルトとシュトラウス・ファミリーの音楽。ともに近年の反田さんが力を入れるウィーンの音楽です。モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の第3楽章では、ピアノと指揮を兼ねる「弾き振り」を披露してくれました。以前、同じ曲を番組で反田さんが演奏してくれたことがありましたが、そのときはピアノの演奏のみに留まっていましたので、今回は指揮者としても活動し、音楽家としての幅を一段と広げた反田さんの姿を目にすることができました。終盤のピアニストのみが演奏するカデンツァの部分は、前回と同様、往年の巨匠ベネデッティ・ミケランジェリの演奏に基づいています。第2楽章の主題が引用されるところが素敵ですよね。
 おしまいに演奏されたポルカ・シュネル「小さな年代史」の作曲者はエドゥアルト・シュトラウス。有名なヨハン・シュトラウス2世の弟にあたります。とても珍しい曲でしたが、軽快かつ優美で、ウィーンの香りがふわりと漂ってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新世代のイチ推し!新しいクラシックの音楽会

投稿日:2024年06月01日 10:30

 今回は宮田大さんと服部百音さんがおすすめする「新しいクラシック」をお楽しみいただきました。クラシック音楽を聴いているとつい忘れがちですが、どんな名曲であっても作曲された当時は最新の音楽だったはず。今回、演奏された曲は、いずれも現代の作曲家たちによる作品で「新しいクラシック」と呼ぶにふさわしい魅力を放っていたと思います。
 1曲目はノルウェー出身のラルフ・ラヴランド作曲の「ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン」。宮田大さんが「明るくも暗くも聞こえる」とお話ししていたように、さまざまなニュアンスに富んでいます。情感豊かで、初めて聴く人にも懐かしさを感じさせます。
 2曲目はポーランドのヴォイチェフ・キラル作曲の「オラヴァ」。キラルはポランスキー監督の「戦場のピアニスト」やコッポラ監督の「ドラキュラ」など、映画音楽の世界で成功を収めていますが、クラシックの分野にもたくさんの作品を残しています。この「オラヴァ」や交響詩「クシェサニ」などが、すでに日本のオーケストラでも演奏されており、まさに「新しいクラシック」と言ってよいでしょう。「オラヴァ」は躍動感にあふれて爽快。聴いていて広大な風景が目に浮かんでくるかのよう。
 3曲目はブラジルのハダメス・ニャタリ作曲の「チェロとギターのためのソナタ」第1楽章より。この曲はチェロとギターという楽器の組合せが斬新です。ラテン的なムードが色濃いのですが、即興部分が入るなど、先の予測がつかないおもしろさがありました。
 4曲目はトルコのファジル・サイによる「クレオパトラ」より。世界的ピアニストとして知られるサイですが、作曲活動も活発です。「クレオパトラ」は国際ヴァイオリン・コンクールの課題曲として委嘱されました。超絶技巧を用いたエキゾチックな楽想がイマジネーションを刺激します。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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川を感じるクラシック名曲の音楽会

投稿日:2024年05月25日 10:30

 今週は大井駿さん指揮による東京フィルの演奏で、川にまつわる名曲をお届けしました。大井さんによれば、当時のヨーロッパの人々にとって川は身近な存在で、飲料水を得るための生命線でもあったと言います。そのためか、クラシック音楽の名曲には川を題材にした曲が少なくありません。今回演奏されたベートーヴェンの「田園」とスメタナの「モルダウ」以外にも、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」やシューマンの交響曲第3番「ライン」、シューベルトの「冬の旅」や「ます」等々。
 ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」で描かれるのは自然の光景。第2楽章は「小川の情景」という標題が添えられています。弦楽器がさらさらと流れる小川を表現し、さらには小鳥の鳴き声も登場します。フルートがナイチンゲール、オーボエがウズラ、クラリネットがカッコウを模倣する場面は、まるで音の森林浴。散歩を日課としていたベートーヴェンにとって、自然がもたらす喜びは創作力の源になっていたのでしょう。
 ベートーヴェンが描いたのはごく小さな川でしたが、スメタナは交響詩「モルダウ」で大河を表現しました。山奥のふたつの源流が合流して、だんだんと大きな川になる様子が雄大なサウンドで表現されています。狩のホルンが聞こえたり、結婚式の踊りの音楽が登場したり、とても描写的な曲です。この曲は合唱曲としても親しまれていますし、さまざまな形でカバーされていますので、耳なじみのある方も多いのではないでしょうか。
 スメタナはチェコ国民楽派の創始者として知られる作曲家です。代表作は連作交響詩「わが祖国」。祖国の伝説や自然が題材になった全6曲からなる大曲で、その第2曲が「モルダウ」です。建国にまつわる神話や英雄たちの戦いなどと並んで、モルダウ川(ヴルタヴァ川)がとりあげられているのですから、川がその土地にとって大切なシンボルであることがよくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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「60周年記念企画②夢の対談が実現した音楽会」後編

投稿日:2024年05月18日 10:30

 今週は先週に続いて番組60周年記念企画第2弾といたしまして、「ボーダーレス」をテーマにピアニストの藤田真央さんと宇宙飛行士の野口聡一さんの対談をお送りいたしました。これから目指す道や人生観などについて、興味深いお話がいくつもあったと思います。
 藤田さんの言葉でとりわけ印象的だったのは、コンクールとのかかわり方。「いい意味でも悪い意味でも、典型的な演奏をしなければコンクールでは賞を獲れない」というお話がありました。中立的な採点が求められるコンクールの場では、どうしてもそうなってしまうのでしょう。しかし、藤田さんは20歳でチャイコフスキー国際コンクールの第2位を獲得しましたので、早い段階から今までになかった解釈での演奏にも取り組むことができるようになったと言います。「1小節1音ずつ考えることがいちばん重要」と語っていたように、真摯に楽譜に向き合う藤田さんの姿勢が、コンクール後の輝かしいキャリアの原動力になっているにちがいありません。
 野口さんのお話では宇宙飛行士ならではの「ボーダーレス」への視点がおもしろかったですよね。国ではなく大陸で人種を見るようになりアジア人としての自分を意識するようになったと言います。やがて人類が他の星に行くと、「地球人っぽい」という感覚が生まれるかもしれないという指摘には夢を感じました。
 藤田さんが演奏してくれたのは、セヴラック作曲の「セルダーニャ~5つの絵画的練習曲」より第2番「祭り(ピュイセルダの思い出)」。セヴラックはフランスの作曲家ですが、パリを中心とする楽壇からは距離をとり、生涯の大半を南フランスで過ごしました。南仏の土地に根差したローカル色豊かな作風が特徴とされています。セヴラックはスペインの作曲家アルベニスに師事し、両者は深い友情で結ばれていました。楽譜中でアルベニスとその娘について言及されるのは、そんなふたりの作曲家の結びつきがあったからなんですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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