• mixiチェック

60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの練習会~前編

投稿日:2025年02月08日 10:30

 番組放送60周年を記念してスタートした新プロジェクトが、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」。今回は山田和樹さんの指揮による初めての全体リハーサルの模様をお届けしました。世界の第一線で活躍する山田さんが子どもたちを指導する様子が本当に興味深かったですよね。音に命が吹き込まれてゆくプロセスを目の当たりにした思いです。
 よく「指揮者はなにをしているのかわからない」と言われたりしますが、リハーサルの風景を見れば指揮者の重要性は一目瞭然。もちろん、プロのオーケストラと子どもたちのオーケストラではリハーサルのあり方は違うでしょうが、メンバーたちを触発し、ひとつの方向に向かうように導くという点では同じでしょう。山田さんが子どもたちにくりかえし求めていたのは「存在感」。音量が欲しいわけではなく、音に存在感がほしいのだと言います。
 ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で、山田さんは「僕を見てほしい」と要求します。楽譜だけを見るのではなく、指揮者を見る。そのためにまちがえたのなら責めないと言って、コミュニケーションを促します。山田さんの棒に合わせて、手拍子を打たせる練習がありましたが、その後で演奏をすると、みんながひとつになって棒の動きにぴたりとついていきます。山田さんの自在の棒にこたえて、格段に音楽が表情豊かになっているのがよくわかりました。
 ベートーヴェンの交響曲第7番でのコントラバスのシーンもおもしろかったですね。山田さんは弓をぜんぶダウンで弾いてみるように提案します。実際にやってみると、子どもたちはほとんどがふつうに弓を返すほうが好きだと答えます。山田さんは残念そうですが、そこでダウンを一律に求めるのではなく、子どもたちの自主的な選択に任せてしまうのが印象的でした。
 これから「未来オーケストラ」がどう変わってゆくのか。次回の後編も見逃せません!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編

投稿日:2025年02月01日 10:30

 今週は伊集院光さんをお招きして、人気企画「3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編」をお届けしました。ソプラノの森麻季さん、テノールの西村悟さん、バリトンの大西宇宙さんが、それぞれの声とオペラの役柄の関係を解説してくれました。
 今回、歌われたのはプッチーニの「蝶々夫人」および「トゥーランドット」、そしてビゼーの「カルメン」に登場する名曲でした。この3作品はオペラ入門にもふさわしい傑作だと思います。
 プッチーニの「蝶々夫人」はなにしろ明治時代の長崎が舞台なのですから、日本人にとっては特別な作品です。没落藩士の娘、蝶々さんは芸者になり、アメリカ海軍士官ピンカートンと出会います。ふたりは結婚しますが、ピンカートンにとって蝶々さんはひとときの恋の相手。蝶々さんを見捨てて帰国してしまいます。蝶々さんは夫に一途な愛を捧げており、帰ってくると信じて「ある晴れた日に」を歌うのです。悲愛の物語であると同時に、個人と家の関係、国と国の関係など、いろんなテーマが作品に盛り込まれています。
 同じくプッチーニの「トゥーランドット」は北京を舞台にした名作。異国の王子たちが皇帝の娘トゥーランドットの課した3つの謎に挑むも、正解できず次々と処刑されるなかで、カラフだけが正しい答えを言い当てます。「だれも寝てはならぬ」はとてもカッコいい曲ですよね。全編にわたってスペクタクルにあふれ、プッチーニのオペラのなかでもっとも壮麗な作品だと思います。
 ビゼーの「カルメン」は生まじめな兵士ホセが自由奔放なカルメンと恋に落ち、道を踏み外すという物語。ホセを愛したカルメンですが、闘牛士エスカミーリョに心移りしてしまいます。「闘牛士の歌」をはじめ、このオペラは親しみやすいメロディの宝庫。ビゼーの天才ぶりが爆発した「オペラの中のオペラ」と言ってよいでしょう。
 決して堅苦しいものではありませんので、まだ観たことがないという方は、ぜひオペラを劇場で体験してみてください。無尽蔵の楽しみが待っています!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

平均年齢60歳の新人バンド!葉加瀬太郎&THE LADSの音楽会

投稿日:2025年01月25日 10:30

 今週は葉加瀬太郎&THE LADSのみなさんをお招きしました。葉加瀬太郎さんがジャンルの枠を超えて日本のトップ奏者たち9人と新たに結成したのがこのバンド。平均年齢60歳のベテランぞろいのメンバーながら、バンドとしては新人です。LADSとは若者たちの意。新しいことにチャレンジしていこうという気概がネーミングから伝わってきます。
 メンバーはドラムの屋敷豪太、ベースの渡辺等、パーカッションの田中倫明、キーボードやフルート他のマルチプレイヤーである大島俊一、マニピュレーターの八巻誠、ギターの田中義人、天野清継、チェロの柏木広樹、ピアノの羽毛田丈史。これら日本のトップミュージシャン9名にヴァイオリンの葉加瀬太郎が加わります。百戦錬磨のミュージシャンたちによる、まったくスタイルの異なる4曲をお楽しみいただきました。
 1曲目は天野清継作曲の「Moon Beams」。クロスオーバー、ジャズ、フュージョンの融合から生まれたという曲で、ソロの見せ場が満載。輝かしく、開放的なエネルギーにあふれていました。
 2曲目は柏木広樹作曲「VIDA FELIZ」。「幸せな人生」を意味する曲名にふさわしく、明るく軽快な曲調に心が浮き立ちます。葉加瀬さんのヴァイオリンは爽快。フルートのソロもカッコよかったですよね。
 3曲目は葉加瀬さん作曲の「“WATUUSI”!!」。耳なじみのない言葉ですが、“WATUUSI”(ワトゥーシ)とは「パーティでいちばん目立っているヤツ」なのだとか。ハモンドオルガンのレトロ感漂う音色が効いています。葉加瀬さんのエレキヴァイオリンも熱い!
 ドラムソロをはさんで4曲目は羽毛田丈史・葉加瀬太郎作曲の「Lads in Town」。カントリー、ブルーグラス、ジャズ、R&Bといったさまざまな要素が合わさって、独自のヴァイオリン音楽が生み出されていました。すばらしい高揚感でしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

葉加瀬太郎が直接指導!題名プロ塾の軌跡

投稿日:2025年01月18日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」のこれまでの軌跡をたどりました。プロの音楽家を目指す若者たちのために、葉加瀬さんがポップスの演奏法を指導するこのシリーズは、これまでに4回、開催されています。第1回の林周雅さんをはじめ、堀内優里さん、ミッシェル藍さん、新美麻奈さんの4名の合格者がこれまでにプロデビューを飾ってきました。
 第1回の林周雅さんの回は懐かしかったですね。「情熱大陸」のアドリブ演奏で、まさかの風船を使った演奏を披露。この荒技には度肝を抜かれましたが、オーボエ奏者の最上峰行さんからは手厳しいコメントが。でも、終わってみれば林周雅さんが見事に合格。その後の活躍ぶりには目覚ましいものがあります。
 林さんはポップスもクラシックもどちらの分野でも旺盛な活動を続けています。林さんが第2ヴァイオリンを務める弦楽四重奏団、ほのカルテットは大阪国際室内楽コンクール2023で第2位を獲得する快挙をなしとげました。注目度の高いコンクールですので、新たな弦楽四重奏団が頭角を現してきたという強い印象をクラシック音楽界に残しました。
 林さんのお話で印象に残ったのは、クラシックとポップスの違い。「リズムの感覚が真逆。クラシックではリズムの揺らぎが大切だが、ポップスはリズムが一定であることが大切」と話していました。クラシックの古典的なレパートリーでは、その作曲家や作品に応じた自然なリズムの揺らぎがあるもの。これをどう揺らがせるか、という点に奏者のセンスが現れます。しかし、クラシックであっても新しい時代の曲では、林さんの言うようにジャンルの垣根があいまいになり、ポップス的なインテンポの演奏が求められることも珍しくありません。クラシックもポップスも演奏できることは、これからの奏者にとって大きな武器になってゆくことでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

60周年記念企画⑩「山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~誕生」

投稿日:2025年01月11日 10:30

番組放送60周年を記念して新たなプロジェクト、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」がスタートしました。
 指揮を務めるのは、世界的指揮者の山田和樹さん。山田さんは2009年に第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したことをきっかけに国際的な注目を集め、現在はモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、さらにバーミンガム市交響楽団首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーを務めるなど、目覚ましい活躍をくりひろげています。欧米のトップレベルのオーケストラへの客演も多く、昨年はニューヨーク・フィルやサンフランシスコ交響楽団にデビューを果たし、今年6月には世界最高峰の楽団であるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会へのデビューが予定されています。ベルリン・フィルへのデビューともなれば、日本のみならず世界中の音楽関係者から注目が集まることはまちがいありません。
 そんな超多忙な山田さんが今回の企画では自らオーディションに立ち会って、書類審査を通過した104名もの参加者ひとりひとりを審査してくれました。オーディションは5時間にわたる長丁場となりましたが、その結果、山田さんが出した結論はまさかの「全員合格」! 全員そろって、クラシックの名曲をメドレーでつないだ「クラシックのおもちゃ箱」に挑戦することになりました。
 参加してくれた子どもたちは年齢も楽器もさまざまでしたが、音楽にまっすぐに向き合う姿勢は同じ。山田さんはオーディションを通じて、何人もの逸材に出会います。なかには以前に番組に出演してくれた懐かしい顔ぶれも。ほとんどの子が将来は音楽家になりたいと語ることに対して、山田さんは「もはや運の問題」と語ります。ふさわしい先生に出会うことの大切さ、そして最終的には「センスと表現力」が求められるのだというお話が印象に残りました。
 はたしてどんなリハーサルでは、山田さんがどんな指導をしてくれるのか。続きが楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

箏の革命者をたどる休日~失われた音を求めて~

投稿日:2025年01月04日 10:30

 あけましておめでとうございます。今週はLEOさんとともに、筑紫箏を巡る旅へと出かけました。
 現在の箏の起源をたどると安土桃山時代に九州北部で始まった筑紫筝にたどり着くといいます。筑紫筝曲の創始者は北九州の善導寺の僧侶、賢順。賢順は幼少時に善導寺で善導寺楽を通して筝と出会いました。賢順の弟子であった法水は、江戸で八橋検校に出会います。もともと三味線の名手として名を馳せていた八橋検校は、法水から筑紫箏を学んで箏に転向し、芸術音楽としての近世箏曲を確立するに至りました。
 佐賀県多久市の郷土資料館でLEOさんたちが目にしたのは、450年前の筑紫筝。そんなに昔の楽器なのに保存状態は意外と良いようですね。全面漆塗りで、美術品としての価値も感じさせる点は、西洋音楽の楽器と似ています。それにしても16世紀後半に製作された楽器が現存しているのはすごいことではないでしょうか。よくヴァイオリンの名器として、イタリアのストラディヴァリウスが挙げられますが、ストラディヴァリウスは17世紀後半から18世紀初めに製作されていますので、筑紫筝はさらに古い時代の楽器ということになります。
 残念ながらオリジナルの楽器を鳴らすことはできませんが、筑紫筝曲研究の第一人者、宮崎まゆみ先生のご協力により、復元楽器の筑紫筝をLEOさんに弾いてもらうことができました。「だいぶ小さくて、かわいらしい」と話すLEOさん。弾き方もずいぶん異なるようです。LEOさんが復元楽器で演奏してくれたのは「小倉の曲」。芯があって深みのある音色が印象的でした。グリッサンドにも味わいを感じます。
 さらにLEOさんは筑紫筝と二十五弦筝を用いて、旅から得たインスピレーションをもとに作った「常若」を演奏。幽玄な筑紫筝ときらびやかな二十五弦筝を組合せて、幻想的な世界を描き出していました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

題名のない音楽会の“クリスマス・パーティー!”

投稿日:2024年12月21日 10:30

 今週はクリスマス・パーティー企画。フルートのCocomiさん、笙のカニササレアヤコさん、田中祐子さん指揮東京フィルハーモニー交響楽団のみなさんをお迎えして、クリスマスにぴったりの名曲を演奏していただきました。
 最初の曲は田中祐子さん指揮東京フィルの演奏で、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」より「行進曲」。「くるみ割り人形」はクリスマスイブに起きる不思議な出来事を題材にしたバレエ音楽です。少女クララがクリスマスプレゼントにもらったくるみ割り人形が、夜になると王子さまに変身し、クララをお菓子の国へと誘います。毎年この時期になると、世界中の劇場でこのバレエが上演されます。
 石丸幹二さんが歌ってくれたのは「ビー アワ ゲスト(おもてなし)」。こちらはミュージカル「美女と野獣」の名曲です。作曲はアラン・メンケン。「リトル・マーメイド」や「アラジン」など数々の名作を手がけてきたディズニー音楽の巨匠です。石丸さんの輝かしい声がパーティへの期待感を高めてくれます。
 Cocomiさんは「Let’s Fall In Love」で、洒脱で軽快な演奏を披露してくれました。この曲は1933年の同名の映画で使われ、以後、スタンダード・ナンバーとして親しまれています。作曲者はハロルド・アーレン。ミュージカル「オズの魔法使い」の「オーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)」を作曲した人ですね。
 カニササレアヤコさんは「きよしこの夜」と「O’HOLY NIGHT」をまさかの笙で演奏。笙がパイプオルガンに似ているというお話には目から鱗が落ちました。たしかに、どちらも多数の管に空気を吹き込んで音を出す楽器です。
 おしまいはフルートと笙の共演でクリスマス・キャロル「JOY TO THE WORLD」。笙が単旋律を奏でるアレンジは新鮮です。クリスマスとお正月が一度にやってきたような祝祭感がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会

投稿日:2024年12月14日 10:30

 ミュージカル映画の名作に「シェルブールの雨傘」という作品があります。主演はカトリーヌ・ドヌーブ。といってもミュージカルなので、歌は吹き替えで、ダニエル・リカーリという歌手がうたっています。この作品では会話の部分もすべてが歌になっています。オペラでいうところのレチタティーヴォ(叙唱)みたいなもので、物語がすべて音楽とともに進んでいくのです。
 これって、すばらしいなと思うんですよね。セリフではなく、音楽になっているから表現できることがたくさんあると思うのです。ミュージカルであれば、歌うのは自然なこと。だったら音楽番組もぜんぶトークの部分が歌になっていてもおかしくないのでは。そんな発想から生まれたのが、今回の「ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会」。番組全編をミュージカル仕立てにして、ミュージカルの魅力をお伝えしました。
 もちろん、これはミュージカル界を牽引してきた石丸幹二さんの司会があってこそ。さらに大人気トップスターの井上芳雄さん、注目度ナンバーワンの若手である屋比久知奈さんが加わって、豪華歌手陣の共演が実現しました。曲はいずれもミュージカルの代表的な名曲ばかり。シチュエーション別に、主役の歌として「モーツァルト!」より「僕こそ音楽」、ドラマのある歌として「レ・ミゼラブル」より「オン・マイ・オウン」、駆け引きの歌として「エリザベート」より「闇が広がる」、ロマンスの歌として「ミス・サイゴン」より「世界が終わる夜のように」をお届けしました。締めくくりは「レ・ミゼラブル」より「民衆の歌」。トーク部分には「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」を用いました。
 井上芳雄さんの明るくリリカルな声、屋比久知奈さんの伸びやかで艶やかな声、石丸幹二さんの輝かしく芯のある声、三者三様の魅力が伝わってくるぜいたくな声の饗宴だったと思います。田中祐子さん指揮東京フィルのサウンドはゴージャス。歌とオーケストラが一体になったときの高揚感は最高です!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

60周年記念企画⑨ショパン国際ピアノコンクール第1位 ブルース・リウの音楽会

投稿日:2024年12月07日 10:30

 今週は2021年ショパン国際ピアノコンクールで第1位を獲得したカナダのピアニスト、ブルース・リウさんをお招きしました。このコンクールでは、第2位に反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさん、第3位にマルティン・ガルシア・ガルシアさん、第4位に小林愛実さんが入賞しています。今回ようやく第1位のブルース・リウさんの出演が実現しました。
 コンクール後、リウさんはクラシック音楽界における名門レーベルのドイツ・グラモフォンと契約するなど、着実にキャリアを積み上げています。「とても忙しくなって空港・ホテル・コンサート会場の3か所を回っているだけ」というお話から、トップアーティストの暮らしぶりが垣間見えます。とても多趣味であることは以前から耳にしていましたが、マジックにしてもレースにしても想像以上に本格的で驚きました。音楽家として多忙であるがゆえに、音楽以外の事柄にも情熱を注ぐことでバランスをとる必要があるのでしょう。
 現在、リウさんが力を入れているレパートリーはチャイコフスキーだとか。これは少し意外な感じもしました。ピアノ協奏曲を別とすると、演奏会でチャイコフスキーのピアノ曲を聴く機会は決して多くありません。リウさんが選んだ曲はピアノ曲集「四季」。忙しい日々を送るなかで、「四季」の各曲を日記のつもりで弾いて、自分の時間を過ごしたといいます。なるほど、この曲集はそんな密やかな時間にぴったりかもしれません。
 「四季」を題材に曲を書いた作曲家にはヴィヴァルディやハイドン、グラズノフらがいますが、これらの「四季」が春夏秋冬の4曲からなるのに対して、チャイコフスキーの「四季」は1月から12月までの12曲より構成されます。これは月刊誌で連載の形で各曲が発表されたため。6月の「舟歌」は切なく甘美な曲想が郷愁を誘います。4月は「松雪草」。リウさんのみずみずしい演奏から、春の息吹が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

ありそうでなかったデュオ!ギターとマリンバの音楽会

投稿日:2024年11月30日 10:30

 今週は村治佳織さんと出田りあさんによるギターとマリンバのデュオをお楽しみいただきました。ギターは小さな空間に適した楽器、一方マ
リンバは大編成のオーケストラのなかからも音が突き抜けてくるほど大きな音が出る楽器です。本来なら共演困難なはずの楽器ですが、音響機器の発達のおかげでこういった組合せも可能になりました。
 最初に演奏されたのは映画「ディア・ハンター」より「カヴァティーナ」。カヴァティーナとはもともと簡潔で単純な形式の歌を指す言葉ですが、転じて抒情的な器楽曲を題するようにもなりました。たとえば、ベートーヴェンの後期の傑作、弦楽四重奏曲第13番の第5楽章もカヴァティーナと題されています。でも、この映画の大ヒット以来、カヴァティーナといえばこの曲が思い出されるようになったのではないでしょうか。ギターとマリンバの音色の組合せが絶妙で、幻想的な味わいがありました。
 2曲目はイギリスの作曲家ジェラルド・フィンジの「フォルラーナ」。これはかなり意外性のある選曲でした。フィンジはだれもが知る作曲家とは言えませんが、イギリス音楽ファンには根強い人気があります。ヴォーン・ウィリアムズやホルストに続く世代の作曲家で、ロンドン生まれながら都市の喧騒を離れ、イングランド南部に移って田舎暮らしを送りました。フィンジならではの田園情緒とみずみずしいリリシズムが、このフォルラーヌにも感じられました。
 おしまいの曲はラヴェルの「道化師の朝の歌」。こちらは人気曲ですね。原曲はピアノ曲ですが、ラヴェル本人の編曲によるオーケストラ版でも盛んに演奏されます。組曲「鏡」のなかの一曲で、フランス人のラヴェルはこの曲の題をあえてスペイン語で記し、ピアノでギターを模倣させてスペインの情景を想起させます。これを本物のギターで演奏しているのが今回の編曲のおもしろいところ。軽快でダイナミックなマリンバが加わって、道化師の情熱がよく伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

フォトギャラリー

フォトギャラリーを詳しく見る≫