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シン・バロックの音楽会

投稿日:2023年07月29日 10:30

バロック音楽とは17世紀から18世紀半ばにヨーロッパで栄えた音楽のこと。クラシック音楽の歴史のなかでもとりわけ古い時代の音楽です。「温故知新」と言いますが、そんなバロック音楽にこそ現代に通じる新しさが潜んでいるのでしょう。今週はバロック音楽に精通した鈴木優人さんと、新時代の旗手、角野隼斗さんの共演で、「シン・バロック」の可能性を探ってみました。
 1曲目はバッハの「2声のインヴェンション」より第1番。ピアノ学習者の方には懐かしい曲かもしれません。本来はひとりで演奏する曲ですが、今回は鈴木優人さんと角野隼斗さんの連弾で。途中からどんどん即興が入ってきて、インヴェンションが新しい姿に生まれ変わりました。角野さんがチェンバロを弾く姿は貴重ですね。同じ鍵盤楽器といっても、ピアノとチェンバロでは発音のメカニズムがまったく違います。
 バッハの「2台のチェンバロのための協奏曲第3番」は、オーケストラなしで2台のチェンバロによる演奏。こちらも名曲です。同じ曲を原曲の「2つのヴァイオリンのための協奏曲」として親しんでいる方も少なくないのでは。今回は即興の掛け合いが入る特別仕様の演奏でした。時代を超越したスリリングな現代版バッハの誕生です。
 ピアソラの「リベルタンゴ」ではレガールという蛇腹付きの珍しい楽器が用いられました。発音原理が共通するだけに、鍵盤ハーモニカとの相性は抜群。時を超えたふたつの楽器の共演によるピアソラは新鮮でした。
 クラークの「トランペット・ヴォランタリー」は式典など、さまざまな機会に耳にする曲だと思います。晴れやかな冒頭部分から一転して、中間部はまさかのプログレ風。松井秀太郎さんのトランペット、角野さんのチェンバロ、優人さんのポジティブ・オルガン&レガールの組合せによる音色の妙を堪能しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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呼吸(ブレス)が大事な音楽会

投稿日:2023年07月22日 10:30

今週は世界水泳選手権2023福岡大会の応援企画として、元競泳日本代表の松田丈志さんをお招きし、音楽と水泳における呼吸(ブレス)の大切さについて迫ってみました。
 まずは松田丈志さんとフルート奏者の多久潤一朗さんが、どちらの息が長く続くか、コップにストローを入れて対決したところ、多久さんがよもやの勝利……というか、反則勝ちとでもいうべきでしょうか。管楽器奏者ならではのテクニック、「循環呼吸」を用いて悠々と息を吐き続けてくれました。「鼻で吸った息を頬にためて、頬の筋肉で空気を押し出す」というのですが、説明を聞いてもできる気がしません。
 一曲目の「ultra soul」では、その多久さんのフルートが多彩な奏法をくりだします。突風のような音を出すのは「ジェットホイッスル」。いろいろな曲で使われますが、たとえばブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスには、その名も「ジェットホイッスル」という作品があります。音が連なる長いフレーズでは「循環呼吸」を活用。息を吸う音は聞こえましたが、音楽は実に滑らかで、つなぎ目が感じられません。さらには楊琴(ヤンチン)風、尺八風、ビートボックス風など、驚きの奏法のオンパレード。フルートって、こんなにいろいろな音が出せるんですね。
 現在大活躍中のバリトン、大西宇宙さんは、「オー・ソレ・ミオ」でたっぷりとしたロングトーンを披露してくれました。深くまろやかな美声を聴くと、この歌声にいつまでも浸っていたいと思ってしまいます。オペラでもしばしばこういったロングトーンが客席を沸かせます。
 おしまいは林周雅ストリングスによるモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。弦楽器のアンサンブルであっても、こんなにも呼吸が大切な役割を果たしていたんですね。タイミングを合わせるだけではなく、音色や音量など、音楽のニュアンスまで息で伝えているとは。驚きました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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夏から連想する音楽会

投稿日:2023年07月15日 10:30

暑い日が続きますね。今週は「夏から連想する音楽会」と題しまして、夏から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「夏」といえば「暑い」。辻彩奈さんのヴァイオリン、松井秀太郎さんのトランペット、近藤利樹さんのウクレレで、ガーシュウィンの「サマータイム」が演奏されました。ジャズのスタンダードとして、さまざまなアレンジで演奏される名曲ですが、こんな編成で演奏されることはまずありません。この曲はもともとはオペラ「ポーギーとベス」の一部。ガーシュウィンがアメリカならではのオペラを生み出すべく、ブルーズやジャズ、黒人音楽の語法を取り込んで作曲した意欲作です。第1幕のイントロダクションに続いて、「サマータイム」が子守唄として歌われます。3人の演奏からは、うだるような暑さのなかにサッと清風が吹き込んだかのような爽快さが感じられました。
 松井秀太郎さんが「暑い」から連想したのは「海」。こんなに暑いと海に行きたくなりますよね。曲はボサノバの創始者として知られるアントニオ・カルロス・ジョビンの「Wave」。トランペットのソロが少しけだるいムードを醸し出して、なんともいえない心地よさがありました。
 辻彩奈さんが「海」から連想したのは「嵐」。辻さんがイタリアのパレルモに滞在した際、海辺で嵐に出会ったことからの連想です。そしてヴァイオリンで「嵐」といえば、まっさきに思い浮かべるのがヴィヴァルディの「四季」。「夏」の第3楽章は嵐を描写した音楽として知られています。辻さんが奏でる嵐の音楽はスリリング。鋭く激しい嵐が自然の脅威を表現します。
 近藤利樹さんが「嵐」から連想したのは「雷」。FUJI ROCK FESTIVALに出演した際、雷が落ちたときに演奏していたというボン・ジョヴィのLivin’ On A Prayerを選んでくれました。重厚な原曲とはまた一味違った、ウクレレならではの歯切れよさが魅力。カッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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箏アーティスト・LEOの冒険する音楽会

投稿日:2023年07月08日 10:30

今週は箏アーティスト、LEOさんの演奏をグランドプリンスホテル高輪貴賓館からお届けしました。伝統楽器を用いながらも、既存の枠にとらわれない新しい発想で音楽と向き合うLEOさん。格調高い空間に斬新な音楽が鳴り響いていました。
 日本古謡「さくらさくら」では、エフェクターを用いた幻想的な表現が印象的。箏でこんなことができるとは。桜の花びらがゆらゆらと水面を漂っているようなイメージを思い浮かべましたが、みなさんはいかがでしたか。
 デリック・メイの「Strings of Life」は、3種の箏を用いたテクノ。メロディ担当の十三絃、ベースライン担当の十七絃、リフ担当の二十五絃を、エレクトロニクスを活用して、ひとりで演奏してくれました。新鮮できらびやかなサウンドがカッコよかったですよね。
 ティグラン・ハマシアン「ヴァーダヴァー」では、あえて箏の余韻を打ち消して演奏することで、箏に打楽器的な性格を持たせるというアイディアが効果的でした。20世紀の作曲家バルトークがピアノから打楽器的な性格を引き出した作品を書いたことを連想します。チェロ、ピアノ、箏の組合せから、シャープで透明感のあるサウンドが生み出されていました。
 坂本龍一「1919」は「調子悪く」演奏するミニマルミュージック。いったいどういう意味かと思ったら、日本音楽でいう「調子」のことだったんですね。チェロやピアノにあえて音程を合わせずに演奏するという趣旨です。アレンジはいま注目を集める若い作曲家、梅本佑利さん。オリジナルの「1919」ではレーニンのスピーチが用いられていますが、梅本さんはレーニンの代わりにアニメ声を使用。これはインパクトがありました。切迫感のあるリズムと混沌とした響きから、今の時代の空気を反映した「1919」が誕生したように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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DREAMS COME TRUEをオーケストラアレンジする音楽会

投稿日:2023年07月01日 10:30

今週はDREAMS COME TRUEの名曲を、オーケストラアレンジでお届けいたしました。演奏は鈴木優人さん指揮東京フィル。大編成のオーケストラならではのサウンドをお楽しみいただけたのではないでしょうか。ゲストの中村正人さんもおっしゃるように、アレンジひとつで楽曲の印象は大きく変わるもの。今回は山下康介さんと萩森英明さんが、それぞれの曲に創意に富んだオーケストラアレンジを施してくれました。
 「未来予想図Ⅱ」の編曲テーマは「かわらぬ愛を貫いていく少しの不安と大きな希望」。冒頭のオーボエのソロをはじめ、クラリネットやチェロ、ホルンなど、ソロの聴かせどころがふんだんにあって、陰影豊かなオーケストレーションになっていました。不安交じりではあるけれど、希望の力がそれを上回っていく。そんな様子が伝わってきます。
 「晴れたらいいね」の編曲テーマは「カラフル!ワクワク!」。フリューゲルホルンのふくよかで柔らかい音色と、弦楽器のピチカートが効果的に用いられていました。明るく軽やか、でも少しレトロな風味も入っていてチャーミング。洗練されたサウンドが心地よかったですよね。
 「やさしいキスをして」の編曲テーマは「やさしさと不穏な関係」。こちらは独奏ヴァイオリンとオーケストラの共演でした。ヴァイオリンは「題名プロ塾」でデビューしたミッシェル藍さん。まるで19世紀ロマン派のヴァイオリン協奏曲を思わせるような豊麗で幻想味豊かなアレンジで、独奏パートも堂々たる本格派。もう一度聴きたくなる濃厚なアレンジです。
 「決戦は金曜日」の編曲テーマは「決戦」。こちらは思い切り華やかでカラフルなオーケストレーションで、期待感と高揚感があふれ出ていたように感じます。きらびやかな管楽器にエレガントで厚みのあるストリングスが加わって、オーケストラを聴く醍醐味を堪能させてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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