今回は五嶋龍さんが司会を務める最後の回。となれば、龍さんにとっての特別な一曲を弾いてもらうほかありません。7歳のデビューから弾いているパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番より第1楽章をお聴きいただきました。
もう龍さんの演奏には「さすが!」というしかありません。まさにこういう演奏を「自家薬籠中の物」と呼ぶんでしょうね。流麗で覇気にあふれた演奏は、超絶技巧を超絶技巧と感じさせません。これは技巧をアピールするタイプの名曲が抱える自己矛盾とでもいうべきものなのですが、演奏が巧みであればあるほど、どこが難曲なのかわからなかったりします。じゃあ、楽器の奏法のことに精通していないと技巧的な曲の魅力はわからないのかというと、決してそうではないと思います。どういう技巧を用いた表現なのかわからなくても、技巧それ自体が一種の表現へと昇華されて人の心を動かすはずですし、そうでなくては「名曲」とは呼ばれないでしょう。
ヴァイオリンのソロが入る前の前奏の部分から、龍さんはオーケストラのメンバーといっしょになってヴァイオリンを奏でていました。なんだかにこやかな表情が印象的でしたね。
パガニーニの協奏曲で技巧に加えてもうひとつ感じる要素は、龍さんも言っていたように、オペラ風であること。19世紀のイタリア・オペラを思わせるような、華やかさ、軽快さがあります。主役をプリマドンナが務める代わりに、ここでは独奏ヴァイオリニストがスポットライトを浴びるわけです。
つい先日、龍さんは来日したエリアフ・インバル指揮ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団と共演して、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を披露して客席の喝采を浴びました。2018年1月にはNHK交響楽団定期公演への初出演も予定されています。番組を卒業して世界と日本でさらに一段と大きく羽ばたく龍さんに、心からのエールを送りたいと思います。
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五嶋龍 原点回帰の音楽会
詩情豊かなヴァイオリンの音楽会
五嶋龍さんの司会も残すところあと2回となりました。今週の「詩情豊かなヴァイオリンの音楽会」では、龍さんがかねてより弾きたいと言っていたショーソン作曲の「詩曲」をお聴きいただきました。すばらしかったですよね。渾身の名演だったと思います。
エルネスト・ショーソンは1855年、パリの生まれ。フランス音楽というと、華やかさや洒脱さをイメージする方もいらっしゃるかと思いますが、この「詩曲」から伝わってくるのは濃密で深遠な詩情です。若き日よりドイツの作曲家ワーグナーに強い影響を受けたショーソンが円熟期に書きあげたのが、この代表作の「詩曲」。当初はツルゲーネフの小説を題材として、ヴァイオリンと管弦楽のための交響詩「勝ち誇る愛の歌」と題されていましたが、最終的には標題を取り去って、単に「詩曲」と名付けられました。「詩曲」の原題はPoème、つまりポエムです。
「勝ち誇る愛の歌」はひとりの女性を巡る芸術家たちの三角関係を描いた愛憎劇だといいますが、こういった作曲家が途中でボツにした標題案を、どこまで参照すべきなのかは悩むところ。「勝ち誇る愛の歌」だと言われれば、ヴァイオリンがなんとも妖艶な旋律を奏でているようにも聞こえますし、単に「詩曲」だと思って聴けば、純化されたポエジーそのものの音楽とも聞こえます。
ツルゲーネフの小説とはちがって、ショーソン本人は円満な環境にありました。恵まれた家庭で幼少時よりなに不自由なく育ち、早くから教養を身につけ、結婚後は5人の子供に恵まれて、家庭生活も仕事も順風満帆だったといいます。しかし、「詩曲」を書いた3年後、44歳で自転車事故(自動車ではありません)により急逝してしまいました。もしもこの事故がなければ、その先にどんな音楽世界を切り開いたのか。そう思わずにはいられません。
世界の吹奏楽を知る音楽会
今回の「世界の吹奏楽を知る音楽会」では、アメリカ、イギリス、日本の吹奏楽を代表する作曲家たちの名曲が演奏されました。演奏は大井剛史さん指揮の東京佼成ウインドオーケストラ。すばらしい演奏でしたよね。豊麗なサウンドと精妙なアンサンブルが、作品の真価を知らしめてくれたように思います。
アメリカのアルフレッド・リードは日本でも非常に人気が高く、最晩年までくりかえし日本を訪れて、精力的に活動していました。「音楽祭のプレリュード」はかつて全日本吹奏楽コンクールの課題曲にもなったこの分野の古典。輝かしいファンファーレが気分を高揚させます。
イギリスからはフィリップ・スパークの作品を。この「ドラゴンの年」、なぜドラゴンかと思ったら、ウェールズのブラスバンドの100周年記念委嘱作品として書かれた(後に吹奏楽用に編曲)ということで、ウェールズ国旗の赤いドラゴンにちなんでいたんですね。ウェールズはイギリスの一部ですから普段のニュースで国旗を目にする機会はあまりありませんが、サッカーなどではウェールズ代表がこの国旗を掲げて出場します。昨年のEURO2016ではウェールズ代表が旋風を巻き起こしましたので、そこで赤い竜が描かれたウェールズ国旗をご覧になった方も多いかもしれません。
フィリップ・スパークも日本との縁が深い作曲家です。以前、来日した際のインタビューでは「日本以外の国で、軍楽隊を除くプロの吹奏楽団はほとんど見当たらないし、吹奏楽のコンサートで大ホールの客席が埋まることもまずない」と語っていました。この日の演奏の東京佼成ウインドオーケストラもそうですが、日本のようにプロの吹奏楽団が存在して、それが大勢のお客さんを集めているということは、本当にすごいことなんですよね。
おしまいは日本の作曲家、真島俊夫作曲の「地球 – 美しき惑星」が演奏されました。組曲「惑星」を書いたホルストへのリスペクトが伝わってくるような、生気にあふれた音楽でした。
歴代の指揮者を語る音楽家たち
今週は藤岡幸夫さん、山田和樹さん、三ツ橋敬子さんの三人の指揮者が集まって、歴代の名指揮者や指揮の秘密について語ってくれました。指揮者同士が語り合う風景って、それだけでもなんだか新鮮ですよね。
それぞれ憧れの名指揮者をひとりずつ挙げてくださりましたが、その人選がとても興味深いものでした。
藤岡さんは「帝王」カラヤン。20世紀後半の楽壇に君臨した大指揮者といえば、この人。ベルリン・フィルとともに流麗で輝かしいサウンドによって一時代を築きました。藤岡さん曰く、「カラヤンはライブの人」。カラヤンというと録音でも映像でも徹底的に作り込んだ記録を残す人というイメージがありますが、本領を発揮するのはライブだったといいます。これが言えるのはカラヤンの生演奏を体験している世代だからこそですね。
三ツ橋さんが挙げたのは天才肌のカルロス・クライバー。おそらくクライバーほど指揮姿の美しさで人々を魅了した指揮者はいないでしょう。クライバーはカラヤンとは正反対で、録音にも録画にも消極的で、しまいには指揮をすることすら珍しくなってしまい、存命中に半ば伝説の人になってしまいました。ですから、残された映像は限られているのですが、そのインパクトは絶大。三ツ橋さんによれば、「音楽が伝わってくる」指揮姿。ほれぼれとするようなしなやかな身振りには、各々に意味があって、それがプレーヤーに伝わるというあたりがクライバーの天才たるゆえんでしょうか。
山田さんはストコフスキを挙げていました。ストコフスキは既存の常識にとらわれず、次々と新しいアイディアを実現した人です。古い時代の大指揮者ですが、テンポの動かし方など独特の解釈を聴かせてくれることから、今でも根強い人気があります。ストコフスキ・ファンの方は快哉の声をあげたのでは。
三者三様、納得の人選だったのはないでしょうか。