今週は第30回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。会場は東京オペラシティコンサートホール。本来であれば昨年開催されるところでしたが、コロナ禍により、一年延期して無観客での開催となりました。受賞者の服部百音さん、佐藤晴真さん、藤田真央さんは、いずれもすでに華々しい活躍をくりひろげている実力者ばかりです。
服部百音さんが演奏したのは、タルティーニ作曲のヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」より。タルティーニはイタリア・バロック期の作曲家、ヴァイオリニスト。夢のなかで悪魔がヴァイオリンで美しい曲を弾くのを聴き、目覚めてからこれを楽譜に書き留めたという逸話が知られています。技巧的なトリルが頻出する難曲ですが、百音さんの鮮やかなテクニックと高い集中力が印象的でした。
佐藤晴真さんは2019年に難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で優勝し、国際的に脚光を浴びました。今回演奏したのはチャイコフスキーの人気曲、「ロココ風の主題による変奏曲」より。ほとんどのチェリストは、この曲を初演者が演奏効果を高めようと改変した版で演奏しているのですが、佐藤さんは原典版で演奏しています。チャイコフスキー本人の意図を尊重することで作品の核心に迫ろうという狙いがあるのでしょう。音楽に対する誠実で知的な姿勢と、とても情感の豊かな演奏を両立しているのが佐藤さんの魅力だと思います。
藤田真央さんはクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝、チャイコフスキー国際コンクール第2位の経歴を誇り、世界に向けて大きく羽ばたきつつある才能です。今回演奏したのはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番。この曲には作曲者がカデンツァ(終結部直前のソロの部分)を残していません。そこで真央さんは自作のカデンツァを披露してくれました。18歳で書いたそうですが、まさに才気煥発といった様子ですばらしいですよね。これぞ協奏曲の醍醐味だと感じ入りました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)