この楽器にこれほどの表現力があったとは。今週は鍵盤ハーモニカ、大正琴、ミュージカルソーの3種類の楽器に着目して、そのポテンシャルをさまざまなアレンジで引き出しました。
鍵盤ハーモニカは学校教育用の楽器として広く用いられていますので、ある意味でもっとも身近な楽器かもしれません。ただ、あまりに教育用としての印象が強く、鑑賞する楽器として鍵盤ハーモニカに接する機会はまれ。そこで、今回は弦楽四重奏との共演で「森のくまさん」をピアソラ流のスタイルにアレンジしました。鍵盤ハーモニカがぐっと大人びた雰囲気の楽器に変身! 鍵盤ハーモニカは薄い板に空気を送って振動させるフリーリード楽器です。発音機構としてはバンドネオンやアコーディオンの仲間に分類されるので、これは納得のアレンジですね。
大正琴は習い事で学ぶ楽器として広く親しまれています。もともと家庭用の楽器として、名古屋の楽器発明家森田吾郎が考案したもので、1912年(大正元年)に発売されました。大正元年生まれだから大正琴と呼ぶんですね。驚くべきは、U-zhaanさんがおっしゃっていたように、大正琴がインドの音楽に取り入れられているということ。『新編音楽中辞典』(音楽之友社)の「大正琴」の項目にも「インドなどのイスラム賛歌でも使われる」と記述されています。まさかインドに渡るとは、発明者は夢にも思わなかったことでしょう。
ミュージカルソーは200年以上の歴史があるといいますから、斬新な音色に反して意外と古い楽器です。音から音へなめらかに移るポルタメントが特徴的です。サキタハヂメさんが演奏してれたのはサン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」より「水族館」。原曲も独特の楽器法がおもしろい響きを作り出していますが、ミュージカルソー版は水族館から海へと飛び出して、一段と幻想的な光景を表現していました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)