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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~本番

投稿日:2025年02月22日 10:30

 番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」。前回と前々回で練習の模様をお届けしましたが、今回はついに本番を迎えました。東京藝術大学の奏楽堂を舞台に、18歳以下の子どもたちが上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」を演奏してくれました。
 指揮の山田和樹さんが言うには「やる気のある子どもたちが集まった。二度とない経験ができた」。子どもたちの一期一会にかける思いが伝わってきました。こんなにも熱くて濃密な音は、ふつうの演奏会ではなかなか聴けるものではありません。子どもたちは緊張した面持ちで入場してきましたが、いざ演奏がはじまると、音楽に完全に集中している様子。みんなが指揮者をよく見ていることも、映像からわかりました。
 「ツィゴイネルワイゼン」の部分で、子どもたちが入り乱れてソロを奪い合うという趣向にはびっくり。まさか、そんな演出が入るとは! しかもみんなソロが上手なんですよね。「新世界より」の部分も練習の成果が発揮されて、アボカドのような濃厚さ。「ロメオとジュリエット」の部分では、モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、鋭く勢いのある音で表現されていました。
 「ラプソディ・イン・ブルー」の部分は柔らかく、しなやか。山田さんが大好きだと言っていたところですが、ニュアンスに富んだ音に胸がいっぱいになります。最後の「ボレロ」でみんながいっせいに立ち上がった場面も決まっていました。
 山田さんは今回の練習を通じて「こうしなきゃダメ!」といった指示は、ほとんど出さなかったと言います。みんなが自発的に考えて、リハーサルではうまくいかなかったことも本番ではうまくいったとか。本当に頼もしいですよね。子どもたちの前に広がる輝かしい未来に思いを馳せずにはいられません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの練習会~後編

投稿日:2025年02月15日 10:30

 今週は先週に引き続きまして、番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」の全体リハーサルの模様をお届けしました。指揮は世界の第一線で活躍する山田和樹さん。練習の間、次々と金言が飛び出してきて、まったく目が離せません。
 ドヴォルザークの「新世界より」の部分で山田さんが言っていたのは「自分の音を聴くことはすごく大事」。山田さんの指導で、トランペットの音がだんだんまろやかで伸びのある音に変わってゆきます。音のイメージを食べ物で表現する場面もおもしろかったですよね。ふつう、音楽を食べ物で表現する機会はあまりないと思うのですが、子どもたちからは、うどん、ドリア、肉など、いろいろな食べ物が挙がりました。山田さんのイメージはアボカド。石丸さんからは「アボカドをイメージして弾くと、音が粘っこくなった」という解説がありました。とろりとしてホクホクした食感のイメージが子どもたちに伝わったようです。
 第1ヴァイオリンに向かって「ひとりひとりがもっと個性を出して」と指導する場面も印象的でした。大勢で一緒に演奏するのですから、一見、みんなが同じように弾くことを要求しそうなものですが、そうじゃないんですね。目標は「自分にしか出せない音を出す」こと。指導の結果、パッと上を向いたような音が出てきました。
 プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」の部分では、山田さんはこの音楽がモンタギュー家とキャピュレット家の対立を表現したものであることを伝え、戦っている雰囲気を出してほしいと求めます。一気に音楽に命が吹き込まれました。
 「ウィリアム・テル」の部分の練習では、生きるヒントにまで話が及びます。「先回りできる人になったらすごい」。それが思いやりとつながっているのであり、人生がうまくいくと言います。子どもたちだけにとどまらず、大人にとっても学びの多いリハーサルだったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの練習会~前編

投稿日:2025年02月08日 10:30

 番組放送60周年を記念してスタートした新プロジェクトが、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」。今回は山田和樹さんの指揮による初めての全体リハーサルの模様をお届けしました。世界の第一線で活躍する山田さんが子どもたちを指導する様子が本当に興味深かったですよね。音に命が吹き込まれてゆくプロセスを目の当たりにした思いです。
 よく「指揮者はなにをしているのかわからない」と言われたりしますが、リハーサルの風景を見れば指揮者の重要性は一目瞭然。もちろん、プロのオーケストラと子どもたちのオーケストラではリハーサルのあり方は違うでしょうが、メンバーたちを触発し、ひとつの方向に向かうように導くという点では同じでしょう。山田さんが子どもたちにくりかえし求めていたのは「存在感」。音量が欲しいわけではなく、音に存在感がほしいのだと言います。
 ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で、山田さんは「僕を見てほしい」と要求します。楽譜だけを見るのではなく、指揮者を見る。そのためにまちがえたのなら責めないと言って、コミュニケーションを促します。山田さんの棒に合わせて、手拍子を打たせる練習がありましたが、その後で演奏をすると、みんながひとつになって棒の動きにぴたりとついていきます。山田さんの自在の棒にこたえて、格段に音楽が表情豊かになっているのがよくわかりました。
 ベートーヴェンの交響曲第7番でのコントラバスのシーンもおもしろかったですね。山田さんは弓をぜんぶダウンで弾いてみるように提案します。実際にやってみると、子どもたちはほとんどがふつうに弓を返すほうが好きだと答えます。山田さんは残念そうですが、そこでダウンを一律に求めるのではなく、子どもたちの自主的な選択に任せてしまうのが印象的でした。
 これから「未来オーケストラ」がどう変わってゆくのか。次回の後編も見逃せません!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編

投稿日:2025年02月01日 10:30

 今週は伊集院光さんをお招きして、人気企画「3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編」をお届けしました。ソプラノの森麻季さん、テノールの西村悟さん、バリトンの大西宇宙さんが、それぞれの声とオペラの役柄の関係を解説してくれました。
 今回、歌われたのはプッチーニの「蝶々夫人」および「トゥーランドット」、そしてビゼーの「カルメン」に登場する名曲でした。この3作品はオペラ入門にもふさわしい傑作だと思います。
 プッチーニの「蝶々夫人」はなにしろ明治時代の長崎が舞台なのですから、日本人にとっては特別な作品です。没落藩士の娘、蝶々さんは芸者になり、アメリカ海軍士官ピンカートンと出会います。ふたりは結婚しますが、ピンカートンにとって蝶々さんはひとときの恋の相手。蝶々さんを見捨てて帰国してしまいます。蝶々さんは夫に一途な愛を捧げており、帰ってくると信じて「ある晴れた日に」を歌うのです。悲愛の物語であると同時に、個人と家の関係、国と国の関係など、いろんなテーマが作品に盛り込まれています。
 同じくプッチーニの「トゥーランドット」は北京を舞台にした名作。異国の王子たちが皇帝の娘トゥーランドットの課した3つの謎に挑むも、正解できず次々と処刑されるなかで、カラフだけが正しい答えを言い当てます。「だれも寝てはならぬ」はとてもカッコいい曲ですよね。全編にわたってスペクタクルにあふれ、プッチーニのオペラのなかでもっとも壮麗な作品だと思います。
 ビゼーの「カルメン」は生まじめな兵士ホセが自由奔放なカルメンと恋に落ち、道を踏み外すという物語。ホセを愛したカルメンですが、闘牛士エスカミーリョに心移りしてしまいます。「闘牛士の歌」をはじめ、このオペラは親しみやすいメロディの宝庫。ビゼーの天才ぶりが爆発した「オペラの中のオペラ」と言ってよいでしょう。
 決して堅苦しいものではありませんので、まだ観たことがないという方は、ぜひオペラを劇場で体験してみてください。無尽蔵の楽しみが待っています!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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