番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」。前回と前々回で練習の模様をお届けしましたが、今回はついに本番を迎えました。東京藝術大学の奏楽堂を舞台に、18歳以下の子どもたちが上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」を演奏してくれました。
指揮の山田和樹さんが言うには「やる気のある子どもたちが集まった。二度とない経験ができた」。子どもたちの一期一会にかける思いが伝わってきました。こんなにも熱くて濃密な音は、ふつうの演奏会ではなかなか聴けるものではありません。子どもたちは緊張した面持ちで入場してきましたが、いざ演奏がはじまると、音楽に完全に集中している様子。みんなが指揮者をよく見ていることも、映像からわかりました。
「ツィゴイネルワイゼン」の部分で、子どもたちが入り乱れてソロを奪い合うという趣向にはびっくり。まさか、そんな演出が入るとは! しかもみんなソロが上手なんですよね。「新世界より」の部分も練習の成果が発揮されて、アボカドのような濃厚さ。「ロメオとジュリエット」の部分では、モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、鋭く勢いのある音で表現されていました。
「ラプソディ・イン・ブルー」の部分は柔らかく、しなやか。山田さんが大好きだと言っていたところですが、ニュアンスに富んだ音に胸がいっぱいになります。最後の「ボレロ」でみんながいっせいに立ち上がった場面も決まっていました。
山田さんは今回の練習を通じて「こうしなきゃダメ!」といった指示は、ほとんど出さなかったと言います。みんなが自発的に考えて、リハーサルではうまくいかなかったことも本番ではうまくいったとか。本当に頼もしいですよね。子どもたちの前に広がる輝かしい未来に思いを馳せずにはいられません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)