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絵画から生まれた合唱曲を楽しむ音楽会

投稿日:2025年10月25日 10:30

 今週は三善晃と間宮芳生の合唱曲を水戸博之指揮東京混声合唱団のみなさんによる演奏でお届けしました。ともに絵画に由来する作品という共通項を持っています。
 三善晃作曲の合唱組曲「クレーの絵本」は全5曲からなり、それぞれがパウル・クレーの絵画に紐づけられています。クレーは音楽一家に育ち、幼少時よりヴァイオリンを学んで音楽家を目指すほどの腕前でした。そんなこともあってか、よくクレーの絵画は音楽的だと言われます。
 といっても、この曲の場合、三善晃がクレーの絵画に直接的に触発されたのではなく、まず詩人の谷川俊太郎がクレーの絵画を題材に詩を書いて「クレーの絵本」を作り、その谷川の詩に三善が曲を付けるという経緯をたどっています。少し珍しい形で画家、詩人、作曲家のコラボレーションが実現しました。
 今回、この組曲から取り上げられたのは「階段の上の子供」「幻想喜歌劇『船乗り』から格闘の場面」「黄色い鳥のいる風景」の3曲。絵画に詩と音楽が加わることで一段と作品世界が広がったように感じます。音楽ファンにとって気になるタイトルは「幻想喜歌劇『船乗り』から格闘の場面」でしょう。あたかも「船乗り」というオペラがあるのかと思ってしまいますが、一般的なオペラのレパートリーにそのような作品は見当たりません。クレーにとっての想像上のオペラなのか、あるいは世に広く知られていないオペラがあったのか、そのあたりは判然としませんが、想像力を刺激する絵画です。
 間宮芳生作曲の合唱のためのコンポジション第5番「鳥獣戯画」は全4楽章からなる作品。本日はフィナーレの第4楽章をお届けしました。合唱が大笑いして始まる冒頭はインパクト抜群。作曲者は「ハヤシコトバによる構成という原則をとりながら、声と音の身振りによって可笑しさ、わらいをあらわす」ことに取り組んだといいます。宴、あるいは儀式を思わせる表現から、爆発的な生のエネルギーが伝わってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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16歳のトランペット奏者・児玉隼人の音楽会

投稿日:2025年10月18日 10:30

 今週はいま熱い注目を集める16歳のトランペット奏者、児玉隼人さんをお招きしました。昨年5月に「未来への扉!ニュースターの音楽会」でご紹介した児玉隼人さんですが、さらなる飛躍を遂げて、活動の場が一段と広がっています。2024年の第39回日本管打楽器コンクールトランペット部門では全部門を通じて史上最年少で優勝を飾り、今年はソロ・アルバムをリリース。現在はドイツに渡り、世界的トランペット奏者であるラインホルト・フリードリヒに師事。先生の家に住み込みで学んでいるというお話にもびっくりしましたが、その家が築500年以上のお城のような住居だといいますから驚きます。
 今回はトランペットのソロ、チェロとハープとの共演、金管五重奏と多彩な編成による楽曲をお届けしました。
 1曲目はジェルヴェーズ作曲、モーリス・アンドレ編曲による「アルマンド」。曲名は「ドイツ風」の意。バロック期の組曲によく使われた舞曲を指しています。澄んだ明るい音色から古雅な雰囲気が伝わってきました。
 2曲目はテオ・シャルリエの「36の超絶技巧練習曲」より第2番。愁いを帯びた曲想がノスタルジーを喚起します。「超絶技巧練習曲」の題にもかかわらず、技巧を感じさせない自然体の音楽になっているのがすばらしいと思いました。
 3曲目のラフマニノフ「ヴォカリーズ」の原曲は歌曲です。ヴォカリーズとは歌詞を用いない母音唱法のこと。さまざまな楽器のために編曲されている名曲ですが、今回はトランペット、チェロ、ハープという珍しい編成で。それぞれの楽器の持ち味が発揮された陰影豊かなラフマニノフでした。
 最後のアーノルドの金管五重奏曲第1番は、金管五重奏の定番曲。全曲のフィナーレである第3楽章を、10代の仲間たちと共演してくれました。みんな本当にうまい! 途中の「ヒソヒソ話」の部分がおもしろいですよね。小気味よく軽快で、金管五重奏ならではの爽快さがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~フルート編〜

投稿日:2025年10月11日 10:30

 今週はシリーズ企画「3曲でクラシックがわかる音楽会」のフルート編。伊集院光さんを聞き手にお招きして、多久潤一朗さん、神田勇哉さん、梶原一紘さんにフルートの魅力がわかる3曲を演奏していただきました。
 冒頭に演奏されたのはビゼーの組曲「アルルの女」より「メヌエット」。フルートとハープの組合せは絶妙です。今回は多久さんの編曲でアルトフルート、バスフルートまで加わり、多彩なフルートの音色を楽しむことができました。
 ドビュッシーの「シランクス」は、本来は独奏フルートのための作品。こちらも多久さんによるハープとフルート3人のための編曲でお届けしました。耳なじみのよい曲ではありませんので「知らんくす」と言われても仕方のないところではありますが、フルート奏者にとっては超重要レパートリー。題のシランクスとは、ギリシャ神話に登場する美しいニンフの名に由来します。牧神パンに追いかけまわされたシランクスが、逃げ場を失って川のほとりで葦に姿を変えたところ、パンはその葦で笛を作りました。これがパンの笛、別名シランクス(シュリンクス)と呼ばれます。曲調からほのかな官能性と気だるさが伝わってきます。
 それにしてもコントラバスフルートの大きさと音の低さにはびっくりしました。他の木管楽器とはまた違った深みのある音色がします。フルートというと高い音を出す楽器というイメージですが、こういった低い音を出す楽器もあるんですね。
 チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」に登場する「あし笛の踊り」もフルートが活躍する代表的な名曲です。今回の編曲ではフルートの音色がひとつに溶け合うところが聴きどころ。とても爽やかな「あし笛の踊り」になっていました。
 おしまいはリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」。本来はオペラ「サルタン皇帝の物語」の一場面で使われる曲だったのですが、今ではオペラ本体はめったに上演されず、もっぱら「熊蜂の飛行」のみが「速弾きの曲」として人気を博しています。すごい速さで熊蜂が飛んでいました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7拍子でもっと楽しくなる音楽会

投稿日:2025年10月04日 10:30

 今週はタブラ奏者のユザーンさんをお招きして、7拍子の魅力について教えていただきました。以前にもユザーンさんをゲストにお招きして5拍子を特集しましたが、今回は7拍子。5拍子以上になじみの薄い拍子だと思います。
 拍子は強弱を伴う拍の周期的な連なりから生まれます。多くの曲は2拍子、3拍子、4拍子といった拍子で書かれているのですが、まれに5拍子や7拍子で書かれた曲があります。5拍子の有名曲といえば「テイク・ファイブ」や「ミッション・インポッシブル」(スパイ大作戦)のテーマ。それに比べると、7拍子でだれもが知っている曲はなかなか見当たりません。
 「7拍子を使った世界でいちばん有名かもしれない曲」とU-zhaanさんが語るのは、ビートルズ「愛こそはすべて」。前に「つんのめる」ような感覚があって、おもしろいですよね。スピッツの「美しい鰭」でも、7拍子の部分は「つんのめる」ようになっています。7拍目の後に1拍休符が入れば普通の曲になるのでしょうが、そこで休みが入らずに次に進むことで、背中を押されているような気分になります。ちなみにクラシックでは、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番の終楽章が7拍子で書かれた曲として知られています。楽章の頭からおしまいまで、ずっと7拍子が続くのですが、尋常ではない緊迫感があります。
 U-zhaanさんのお話で驚いたのは、7拍子の裏拍(バックビート)でノるというお話。7拍子の裏拍と言われても、いったいどこなのかと思いますよね。2拍目、4拍目、6拍目、7拍目で手を打てばいいのだとか。6拍と7拍で連続するところで、すっきりした気分になれます。
 おしまいの「ラーガ・ヤマン」は、インド伝統音楽における7拍子の定番曲なのだとか。ゆったりと、たゆたうように始まって、次第に熱を帯びて高揚していく様子がすばらしいと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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