今週の「ピアノの巨匠と音楽家たち」、仲道郁代さんと中野翔太さんのお話がおもしろかったですよね。
「影響を受けた演奏家は?」というのは演奏家へのインタビューで定番の質問ですが、これに喜んで答えてくれる方もいれば、あえて名前を挙げようとしない方もいます。仲道さんはルービンシュタインとホロヴィッツへの、中野さんはベネディッティ・ミケランジェリへの愛を率直に語ってくれました。仲道さんの「毎晩寝る前にルービンシュタインが弾くショパンのポロネーズのレコードを大音量でかけていた」というエピソード、これって最高ですよね。こう言われて、ルービンシュタインのポロネーズを聴きたくならないはずがありません。久しぶりにルービンシュタインの録音を聴いてみると、香り立つ気品と風格にくらっと来ます。
中野さんが挙げたベネディッティ・ミケランジェリは、極度の完璧主義者で知られる鬼才。以前、現代の名ピアニスト、エフゲニー・キーシンがある映像インタビューでため息をつくように語っていました。「ミケランジェリは本当にすごい。まったくミスがない……」。いやいや、あなただって相当すごいんですが、と思わずツッコミを入れたくなってしまいましたが、それほど完璧さの次元が違うということなのでしょう。番組内で中野さんと龍さんがおっしゃっていたように、ミケランジェリの場合は単にミスタッチがないだけではなく、音色へのこだわりが尋常ではありません。
高木裕さんがホロヴィッツのピアノについてのお話もとても興味深いものでした。ホロヴィッツのきらきらと輝くような明るいサウンドは、あの軽い鍵盤から生まれてきたんですね。仲道さんがおっしゃるところの「改造車」。言いえて妙です。
仲道さんがホロヴィッツのピアノで弾いた「トロイメライ」は、やはりキラキラと輝いていました。
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ピアノの巨匠と音楽家たち
吹奏楽部を知る音楽会Ⅲ
吹奏楽部も強豪校やマンモス校ともなれば部員が100人を超える大所帯も珍しくはないでしょう。しかし世は少子化。なかには年々生徒数が減り続け、部員の確保に苦労するといった学校もあるのではないでしょうか。
だったら少人数であることをむしろ強みに変えるような作戦があるのでは? 本日の「吹奏楽部を知る音楽会Ⅲ」では、サクソフォン奏者の上野耕平さんとこぱんだウインドオーケストラのみなさんが、そんな小編成吹奏楽の奥義を教えてくれました。
上野さん、本当にアイディアが豊かですよね。なるほど、こんな手があったのかと、思わず膝を打ってしまいます。
特にいいなと思ったのは、編成を絞った「華麗なる舞曲」。吹奏楽の難曲として知られる作品ですが、軽快で歯切れよい演奏は新鮮でした。単に少人数で演奏効果を出すということ以上に、演奏のクォリティ自体を高めることにつながっていたように思います。
吹奏楽に限らずオーケストラでもそうですが、一般に編成が大きくなればなるほど、迫力が増す代わりに、細かい音の動きをピタッと合わせることが難しくなり、音の輪郭はぼやけてきます。小編成だから可能な小気味よさ、機動力、メンバー間の親密な音の対話というものがあるはず。そもそも曲によっては、あまり大きな編成にしないほうが、作品が生きてくる場合も多いんじゃないかな、とも感じます。
最後の「ハッピー」はカッコよかったですよね。譜面台をなくすということは暗譜が必須になりますが、視覚的な効果は絶大です。客席のノリが確実に違ってくるのではないでしょうか。
協奏曲の音楽会
今週は「協奏曲の音楽会」。反田恭平さんと五嶋龍さんのソロと、アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団が共演するという豪華な組合せが実現しました。聴きごたえがありましたよね。
現在大ブレイク中の反田恭平さんが弾いたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番より第1楽章。フィギュアスケートやテレビドラマなどでも使用される人気曲で、おそらく今コンサートでもっとも演奏機会の多い協奏曲ではないでしょうか。自身が大ピアニストでもあったラフマニノフの作品だけに、高度で華麗な技巧が要求される作品です。反田さんはイタリアでこの協奏曲をバッティストーニ指揮でレコーディングしたばかり。オーケストラは異なりますが、ピアノと指揮が息の合ったところを聴かせてくれました。
五嶋龍さんが演奏したのはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番より第1楽章。こちらは今春、龍さんがヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団との来日公演で演奏して好評を博したのが記憶に新しいところ。アイロニーやユーモア、リリシズムが渾然一体となったプロコフィエフの魅力がひしひしと伝わってきました。
ラフマニノフもプロコフィエフもどちらもロシア生まれの作曲家です。ともに祖国を離れて活躍しましたが、両者がたどった運命は対照的です。
ロシア革命直後に身一つで祖国を離れ、1918年からアメリカに定住し、その後二度と祖国の土を踏むことがなかったラフマニノフ。彼にとって創作の源泉はロシアの大地。アメリカ移住後はめっきり作品が少なくなってしまいます。
一方、プロコフィエフはやはり革命後にアメリカに亡命し、さらにパリに移り住みますが、1936年に成功を求めてソ連に帰国を果たします。帰国後も作品は書かれたものの、他のソ連の作曲家たちと同様にスターリン政権下の文化統制により、創作活動は制約されてしまいました。奇しくもスターリンと同じ日に世を去ったため、プロコフィエフの訃報はひっそりと伝えられたのみだったといいます。
ふたりの作品を並べて聴くと、どちらの決断が正しかったのかと、つい考えてしまいます。
バッティストーニの音楽会
指揮者って不思議な職業ですよね。自分では一音も演奏しないにもかかわらず、オーケストラの演奏に対する最終的な責任を負うのが指揮者。指揮者は楽曲に対する自分のイメージや解釈をオーケストラの団員たちに伝えなければいけません。
本日は「アンドレア・バッティストーニの音楽会」。若きイタリアの俊英が、表情豊かに東京フィルハーモニー交響楽団を指揮してくれました。一曲目の「カヴァレリア・ルスティカーナ」では、バッティストーニは指揮棒を置いて両手で音楽の表情を指示し、オーケストラから情感豊かな音楽を紡ぎ出していました。バッティストーニのジェスチャーに、オーケストラが鋭敏に反応するのを感じていただけたでしょうか。これは指揮者とオーケストラの間に信頼関係があってこそ。
つい先日、バッティストーニがこの東京フィルの首席指揮者に就任すると発表されました。オーケストラの顔ともいえるポジションに、29歳の若い指揮者が抜擢されたことに驚きますが、引く手あまたの若い才能との密接な共同作業は、楽団に大きな実りをもたらしてくれることでしょう。経験がものをいう指揮者の世界では、40代でもまだ若手、70代、80代になってようやく巨匠と呼ばれることが一般的。しかし近年は、有望な若手指揮者に早くから重要なポジションを任せるという世界的なトレンドがうかがえます。まさにバッティストーニもそんな新世代の指揮者のひとり。これから大指揮者への道を歩んでいくのでしょう。
最後に演奏されたヴェルディの「運命の力」序曲はバッティストーニ得意の一曲。すごい迫力でしたよね。ダイナミックな指揮ぶりからもうかがえるように、バッティストーニの音楽はとても熱い音楽です。しかし、熱いだけではなく、細部まで音楽を彫琢する緻密さも併せ持っているところに、彼の非凡さを感じました。
武満徹の魅力を語る音楽家たち
作曲家のなかには、生前名声を誇っていても没後急速に忘れ去られてゆく人と、亡くなっても変わらず作品が演奏され続ける人がいます。
前者の例は、モーツァルトのライバルとして知られるサリエリ。生前はモーツァルトをしのぐ権勢を誇りましたが、現在彼の作品が演奏されることはまれです。オペラ作曲家マイヤベーアも、存命中はヨーロッパ中に名声をとどろかせましたが、今その作品が上演されることはめったにありません。
武満徹は後者のタイプです。1996年に世を去った後も、世界中で武満作品は演奏され続けています。佐渡裕さんが2011年にベルリン・フィルの定期演奏会に招かれた際に、ショスタコーヴィチと並んで指揮したのは武満徹の「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム」。30分近くある大きな作品です。
日本人だけではなく、欧米の演奏家もすでに20世紀の古典として武満作品を演奏しています。その意味では、武満作品は「クラシック音楽」の仲間入りを果たしたといってよいでしょう。
武満徹はシリアスなオーケストラ作品のみならず、ギター曲や歌、映画音楽でも親しまれています。本日の「武満徹の魅力を語る音楽家たち」では、谷川俊太郎さん、渡辺香津美さん、鈴木大介さんといった、ゆかりの方々が武満徹の魅力を語ってくださいました。
特に印象的だったのは谷川さんによる武満徹の人物評。ご自身の詩による「死んだ男の残したものは」について語る場面で、「武満ってもっと軽やかで明るいんですよね、人間もそうですし」とおっしゃっていました。少し意外な感じがしました。
今年没後20年を迎えて、武満徹の作品は各地のコンサートで盛んに演奏されています。節目の年を機に、改めて武満作品の魅力に気づかされたという方も少なくないのではないでしょうか。