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クラシック奏者が演奏したいアニメソングの音楽会

投稿日:2021年12月25日 10:30

今週はクラシック音楽の名奏者たちが思い入れのあるアニメソングをスペシャルアレンジで演奏してくれました。かつてはアニメソングといえば子供でも歌えるような平易な曲が中心でしたが、アニメが世代を超えた文化として定着するにしたがって、アニメソングも音楽文化としての成熟度を格段に深めてきました。クラシックの奏者たちが演奏したくなるのも自然なことだと思います。
 最初に演奏されたのは『東京リベンジャーズ』より「Cry Baby」。ストーリー中で大きな役割を果たすタイムリープをたびたびの転調で表現したという曲ですが、なるほど、どこに連れていかれるのかわからなくなるような曲調はそのためだったんですね。ヴァイオリン、チェロ、フルートを中心にした編成が生み出すサウンドは、パワフルでありながらもエレガント。ほのかなノスタルジーが漂います。
 日本音楽コンクールヴァイオリン部門第1位の俊英、荒井里桜さんが選んだのは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』より「炎(ほむら)」。荒井さんのつややかなヴァイオリンの音色が、エモーショナルな曲想にぴたりとマッチしていました。この曲は泣かせますね。
 超絶技巧と自由な発想力で新たなフルート奏者像を築く多久潤一朗さんは、『BEASTARS』より「怪物」を選んでくれました。草食獣と肉食獣が共存する学園生活を描いたという『BEASTARS』。主人公が自身の感情を恋なのか食欲なのかと葛藤するという展開が実に斬新ですが、多久さんの演奏もまったく想像のつかない斬新さでした。まさかフルートでオオカミの遠吠えを表現できるとは。
 ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールに優勝し、国際的な活動をくりひろげる宮田大さんが選んだのは『呪術廻戦』より「廻廻奇譚(かいかいきたん)」。宮田さんのキレキレのチェロがオーケストラと一体となって荘厳なサウンドを作り出していました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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反田恭平・小林愛実 ショパン国際ピアノコンクール入賞者の音楽会

投稿日:2021年12月18日 10:30

今週は10月に開催されたショパン国際ピアノコンクールで入賞を果たした反田恭平さんと小林愛実さんをお招きしました。反田恭平さんが第2位、小林愛実さんが第4位。これは快挙です! コンクールさながらの集中度で見事なショパンを披露してくれました。
 今回のショパンコンクールでは、すべての演奏がインターネットで動画配信されました。審査員やメディアだけではなく、世界中の人々に開かれたコンクールとなったことで、いっそう注目度が上がったように思います。1次予選から2次予選、3次予選、さらにファイナルへと段階を進むにつれてコンテスタントがどんどん減っていく形式ですから、予選の結果発表のたびに、応援するピアニストが残っているかどうか、ドキドキしていた方も多いことでしょう。
 反田さんは過度の緊張のあまり「3次予選で空回りしてしまった」とおっしゃっていたのに対して、小林さんは3次予選で前奏曲を弾いていたのが「いちばん楽しめた瞬間」と対照的な感想を述べていたのが印象的でした。
 おふたりのここまでに至る道のりも対照的といっていいかもしれません。小林さんは小学生の頃にすでに「世界一YouTubeで視聴された日本人ピアニスト」として有名になり、早くも中学生でメジャーレーベルへのデビューを実現しました。ショパンコンクールには2度目の出場で、前回もファイナルに進出しています。少女時代の印象が強いので、何歳になっても「あの女の子がこんなに大きくなったなんて!」という感慨を抱かずにはいられません。一方、反田さんはデビュー後あっという間に活躍の場を広げ、実力と人気に対して国際コンクール歴が追い付いていない感がありました。今回めでたく第2位を獲得したのはふさわしい結果というほかありません。おふたりとも今後、日本を代表するピアニストとして目覚ましい活躍をくりひろげてくれることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラで奏でる「ゲーム音楽」の音楽会

投稿日:2021年12月11日 10:30

今週はオーケストラの迫力あるサウンドでゲーム音楽をお楽しみいただきました。ゲーム音楽ほど近年に発展を遂げた音楽のジャンルはないかもしれません。当初はハードウェアの制限から「ピコピコ音」と形容されていた音楽が、今やなんの制限もなく作曲家たちが創造性を発揮できる分野へと進化しました。
 「モンスターハンター」シリーズの作曲家、甲田雅人さんのお話でおもしろかったのは、「英雄の証」のお蔵入りバージョンについて。今回、そのお蔵入りバージョンと採用されたバージョンを比較することができましたが、オーケストレーションがぜんぜん違います。お蔵入りバージョンは分厚いサウンドで、一度にいろいろな音が聞こえてきます。とてもゴージャスですばらしいのですが、これに魅了されるのは、先に採用バージョンを聴いて知っているからでしょう。初めて聴いたときに強いインパクトを残すのは、すっきりと洗練された採用バージョンだと思います。
 ブルックナーという交響曲の作曲家は、同じ曲に異なるバージョンをいくつも残したことから、どの稿がよいかファンの間でよく議論になるのですが、それを少し思い出しました。まさか「モンハン」の音楽にも初期稿があったとは!
 指揮の佐々木さんも言っていたように、ホルンの活躍は狩を連想させます。もともとホルンは狩の角笛を起源とすることから、ワーグナーやベートーヴェン、ブルックナーら多くの作曲家がこの楽器を狩のシンボルとして使いました。19世紀の音楽では森の動物を狩っていたのに対して、21世紀にはモンスターを狩っているわけです。
 「ファイナルファンタジー」や「グラディウス」「キングダム ハーツ」はゲームとして名作であるのみならず、音楽も名曲ぞろい。特に「ファイナルファンタジー」の「勝利のファンファーレ」を耳にすると、もうそれだけでささやかな達成感を味わえます。ゲーム音楽の枠にとどまらず、純粋にファンファーレとして傑出した音楽だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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「ウエスト・サイド・ストーリー」“対立”が仕掛けられた音楽会

投稿日:2021年12月04日 10:30

今週は「ウエスト・サイド・ストーリー」の音楽をお楽しみいただきました。作曲者バーンスタインが作品に込めたさまざまな仕掛けに、改めて名作の名作たるゆえんを知った思いがします。
 ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」が初演されたのは1957年。もう今から半世紀以上も前なんですね。多くの方は1961年製作の映画で親しんでいることでしょう。スピルバーグ監督によりリメイクでまた新たな話題を呼びそうです。そもそも「ウエスト・サイド・ストーリー」はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を20世紀のアメリカによみがえらせたもの。モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、ジェッツとシャークスの対立に置き換えられています。ですからこの作品自体が古典のリメイクとも言えるのですが、不朽の名作になったのはなんといってもバーンスタインの音楽の力があってこそでしょう。
 バーンスタインの舞台作品のおもしろいところは、ミュージカルでもありオペラでもあるところ。「ウエスト・サイド・ストーリー」に限らず「キャンディード」や「オン・ザ・タウン」なども、ミュージカルとして上演される一方、オペラとして上演されることもあります。作曲者自身が指揮した「ウエスト・サイド・ストーリー」のレコーディングでもオペラ歌手が起用されています。今回の番組でもそうでしたが、オペラ歌手もミュージカルの歌手も歌うのがバーンスタインの音楽。ジャンルの枠に収まらない傑作だと思います。
 そんな野心作だけに「ウエスト・サイド・ストーリー」の最初のオーディションには苦労したと言います。バーンスタインによれば、「マリア」の増4度は誰も歌えなかったし、ミュージカルには音域が広すぎると言われたそうです。「だいたい第1幕が終わってふたつの死体が転がってるミュージカルなんて誰が見たいんだ?」。そう揶揄されたそうですが、結果は歴史的ヒット作となりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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