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箏にうってつけなクラシックの音楽会

投稿日:2021年06月26日 10:30

西洋楽器と組合せても、楽器の特徴が生きるのが箏。今回は箏にぴったりの楽曲を独自のアレンジでお楽しみいただきました。
 一曲目は坂本龍一の「1919」。原曲はピアノ、ヴァイオリン、チェロによるトリオに、1919年のレーニンの演説が重ねられています。今回はこれを箏とピアノとチェロのトリオのためにアレンジ。箏の特殊奏法が次々と飛び出して、想像以上に色彩感豊かな音楽になっていました。3人の演奏から張りつめた雰囲気が伝わってきて、なんともカッコよかったですよね。
 ドビュッシーの「亜麻色の髪のおとめ」の原曲は、前奏曲集第1集に収められたピアノ独奏曲。本来、ピアノ独奏のために書かれた曲を、箏とピアノのデュオで演奏したわけですが、不思議なほど違和感がありません。LEOさんいわく「お箏の古典を演奏しているような感覚になる」。こちらも箏の音色が多彩で、音と音の余白から生まれる余韻が豊かなイメージを喚起します。
 チック・コリアの「スペイン」は、箏とピアノとギターのトリオで。どの楽器もシャープな音色を表現できる楽器ですので、とても躍動感にあふれた「スペイン」になっていました。「1919」でチェロを弾いていた伊藤ハルトシさんが、ここではさりげなくギターを弾いていてびっくり。チェロとギターの両方ができるなんて、すごすぎます!
 最後の曲の藤倉大作曲「Ryu(竜)」はLEOさんが委嘱した作品です。イギリスを拠点に活躍する藤倉大さんは、現代音楽の世界では知らぬ人がいない存在。ヨーロッパの歌劇場でオペラが上演されるほど国際的に活躍する作曲家なのですが、邦楽器にはなじみが薄かったため、LEOさんと何度も楽譜や演奏動画のやり取りをしながら作曲を進めていったと言います。優雅さ、力強さ、生命力、神秘性など、楽曲からいろいろなイメージが伝わってきたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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1人で何役もこなす大変な音楽会

投稿日:2021年06月19日 10:30

今週は「1人で何役もこなす大変な音楽会」。演奏家の超絶技巧と作曲家の創意が可能にした一人多役の音楽をお楽しみいただきました。
 パガニーニは従来の常識を覆す華麗な技巧でヨーロッパを席巻した伝説的なヴァイオリニスト兼作曲家です。あまりの超絶技巧ぶりに「悪魔に魂を売り渡した」とまで噂されました。そんなパガニーニが書いたとびきりの難曲が「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」による変奏曲。イギリス国歌としてスポーツシーンでもおなじみの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」(国王が男性の時代は「ゴッド」、女性の時代は「クイーン」と呼びます)をテーマに、技巧的な変奏が連続します。成田さんいわく「地球上に存在するヴァイオリン曲のなかでいちばん難しい曲」。そんな曲を涼しい顔で弾いてしまう成田さんには脱帽するしかありません。
 シューベルトの「魔王」は、ゲーテの詩を用いた歌曲。ひとりの歌手がナレーター、魔王、父親、子供の4役を歌います。西村悟さんの歌唱で聴くと、改めてこの短い歌曲にどれほど大きなドラマが凝縮されているかが伝わってきます。甘言で子供をたぶらかす魔王がなんとも怖いですよね。
 フルートの多久潤一朗さんはまさかの一人五役。フルートを吹きながら、歌までうたえてしまうとは。「ガーシュウィン・メドレー」は意外性の連続で、あっけにとられるばかり。フルートという楽器自体への印象が変わってしまいます。
 最後は川島素晴さん編曲による弦楽器たった9人による「ボレロ」。本来90人の曲を9人で弾く、しかも弦楽器だけでどうやって?……と思っていたら、いきなり冒頭から低音楽器のコントラバスが最高音域でテーマを奏でるという想像の斜め上を行く展開。次から次へとアイディアが飛び出して、すべてが普通ではない「ボレロ」。そして9人の精鋭たちの演奏がすごい! 痛快の一語でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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シューベルトの歌曲を現代日本語訳で聴く音楽会

投稿日:2021年06月12日 10:30

今回は作詞家の松本隆さんによる現代日本語訳で、シューベルトの歌曲をお楽しみいただきました。
 シューベルトはウィーン生まれの作曲家ですので、歌曲の歌詞はドイツ語で書かれています。クラシック音楽の世界では原語歌唱が基本。日本人歌手であっても、ドイツ語の歌曲はドイツ語で歌い、イタリア語の歌曲はイタリア語で歌うのが一般的です。したがって、ほとんどの日本人の聴衆にとって、歌曲とは耳で聴いて意味を理解できるものではなく、別途歌詞対訳などを読んで意味を知っておく必要のあるものなのです。
 ただ、歌詞対訳に頼るとなると、どうしても歌詞の理解が間接的になってしまうことは避けられません。そこで松本さんが挑んだのが、現代日本語訳によるシューベルトの訳詞。これまでに「冬の旅」「美しい水車小屋の娘」「白鳥の歌」のシューベルト三大歌曲集が訳されています。お聴きいただいたように、どれも自然でなめらかな日本語で歌われており、曲のイメージがぐっと湧きやすくなっています。昔からの日本語訳詞がなかったわけではありませんが、年月が経てば言葉も変わるもの。松本さんの訳詞は、私たちにまっすぐに伝わる現代日本語で書かれているのが特徴です。
 松本さんの訳詞による「海辺」「ドッペルゲンガー」「鳩」の3曲を聴くと、日本語が美しいだけではなく、言葉が聴き取りやすく書かれていることに気づきます。曲の情景が無理なく頭のなかに浮かんでくるのは、この聴き取りやすさゆえでしょう。加えて、ドイツ語と日本語が持つ響きの違いも感じました。ドイツ語のアクセントや子音が持つ強い調子に比べると、子音の後に常に母音が続く日本語はとても柔らかいように思います。そういった響きの違いも、私たちにとって親しみやすく感じられる理由のひとつなのかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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変わった音のオンパレード!レア奏法を楽しむ音楽会

投稿日:2021年06月05日 10:30

今週は東京佼成ウインドオーケストラのみなさんをお迎えして、さまざまなレア奏法について教えていただきました。普段は目にしない奏法がたくさんありましたが、これらは決して奇をてらったものばかりではありません。古くから作曲家たちは、通常とは異なる奏法で想定外の音色や効果を生み出すことに熱心に取り組んできました。最初は風変わりに思えた奏法が、さまざまな曲で使われるうちに、次第に不可欠な特殊奏法として定着してゆくこともしばしば。レア奏法は創意工夫の証と言ってもいいでしょう。
 ミュートを用いたトランペットの奏法はだれもがどこかで耳にしているはず。今回はジャズの例が実演されていましたが、クラシックでも、たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」ではトランペットのミュートが印象的な使われ方をしています。
 ホルンのゲシュトップ奏法ももはや欠かせない奏法です。今回はリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」の例が紹介されましたが、チャイコフスキーの「悲愴」やマーラーの「巨人」などでも使われています。金属的で震えるような音色が、独特の効果を醸し出します。
 レスピーギの「ローマの祭」で使われるトロンボーンのグリッサンドは効果抜群。なんの説明がなくとも、酔っぱらいが千鳥足で歩いている様子が伝わってきます。さすがオーケストレーションの達人レスピーギ。バルトークの「管弦楽のための協奏曲」でもトロンボーンのグリッサンドが登場して、ブーイングを模したような音を発します。
 これらに比べると、「レア度3」の激レア奏法に出会う機会はめったにありません。フルートのジェットホイッスル奏法はもっぱら現代作品に登場する印象ですが、クラシックの作曲家ではヴィラ=ロボスにその名も「ジェットホイッスル」という作品があります。曲の終盤であたかも空に飛んでゆくかのごとく、ジェットホイッスルが連発されます。機会があれば聴いてみてください。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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