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初夏の北海道①自然の音が彩る苫小牧組曲の音楽会

投稿日:2026年06月27日 10:30

 今週より初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画を3週連続でお届けします。第1週は「自然の音が彩る苫小牧組曲の音楽会」。ヴァイオリンの成田達輝さんと山根一仁さん、トランペットの児玉隼人さんという北海道出身の演奏家のみなさんに、苫小牧を象徴するさまざまな音を採集してもらい、これらの音を演奏と組み合わせて「苫小牧組曲」を作りあげました。
 「苫小牧組曲」第1番は「港町」。映画「ロシュフォールの恋人たち」のために書かれたミシェル・ルグランの名曲「キャラバンの到着」が、苫小牧のカモメの鳴き声やフェリーの汽笛の音に彩られます。児玉隼人さんが汽笛の音をオーケストラの金管セクションのサウンドに似ていると話していたのが、おもしろかったですね。秀逸なたとえだと思いました。
 「苫小牧組曲」第2番は「名馬の産地」。ヴァイオリンの弓に使われるのが馬のしっぽの毛。成田さんと山根さんのふたりのヴァイオリニストが、馬のいななきや足音を採集してくれました。意外とレアな馬のいななきですが、無事に採集することができました。西部劇の名作、映画「荒野の七人」のメインタイトルに、苫小牧の馬のいななきと足音が織り込まれます。楽器対抗いななき選手権では、ファゴットがまさかの大活躍。
 「苫小牧組曲」第3番は「野鳥の宝庫」。朝3時起きで採集したツツドリ、ウグイスらの野鳥の鳴き声が用いられます。曲は葉加瀬太郎さんの「エトピリカ」で始まり、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第2楽章へ。エトピリカとは海鳥の名だったんですね。ベートーヴェンの「田園」には、フルートがナイチンゲールを、オーボエがウズラを、クラリネットがカッコウを模倣する場面があります。自然散策を好んだベートーヴェンらしい趣向ですが、今回はさまざまな楽器が加わって、さらにたくさんの野鳥たちに参加してもらいました。最後はエトピリカも加わっていましたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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時空を超えて新しい音を生み出す音楽会

投稿日:2026年06月20日 10:30

 今週は古くからある機器や楽器を用いて、新しい音を生み出す二組のアーティストをお招きしました。オープンリール式テープレコーダーを楽器として用いるオープンリールアンサンブルのみなさん、そして日本の雅楽で用いられる伝統楽器の笙を自在に操るカニササレアヤコさん。ともに意外性にあふれた奏法と楽曲を披露してくれました。
 オープンリールアンサンブルの「録音再生機器を楽器として使う」という発想には感嘆せずにはいられません。今でこそデジタルレコーディングが当たり前になりましたが、アナログレコードの時代にはプロ用の音響機器としてオープンリール式テープレコーダーが広く使われていました。編集の際にはテープを切り貼りしていたのです。オーディオ好きであればオープンリールに憧れを抱いていた方も少なくないはず。マニアのなかにはカセットテープでは飽き足らず、家庭用のオープンリールを導入する人もいました。
 そんな懐かしいオープンリールを楽器として使って生まれた音楽は不思議なほど新鮮です。レトロフューチャーなテイストに魅力を感じます。テープタップ(磁跳打)、テープオルガン(磁盤)、テープボウイング(磁楽弓)といった多彩な奏法は、くらくらするほど独創的。「磁楽弓三重奏」と「Magnetik Phunk」、どちらも本当にカッコよかったですよね。
 カニササレアヤコさんの笙の音色にもシンセサイザーを思わせる未来的なイメージを感じます。古くからある楽器ですが、リードは金属製なのだとか。タンギングもできるとは知りませんでした。「Untitled」のようなミニマル・ミュージックのスタイルが、よく似合います。笙でもこんな軽快な表現ができるんですね。「糸竹のアリア」は笙とチェンバロのひとり二重奏。チェンバロのキラキラとした音色にも金属的なイメージがあって、笙と無理なくなじみます。バロック音楽を思わせる優雅な曲想に心がなごみました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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自分と同じ年だった頃の師匠から学ぶ休日

投稿日:2026年06月13日 10:30

 今週は現在大活躍中の音楽家のみなさんに、現在の自分たちと同じ年齢だった頃の師の秘蔵映像を見ていただきました。師匠のみなさんの若き日の姿に思わず見入った方も多かったのではないでしょうか。
 山田和樹さんの師は「炎のコバケン」こと、小林研一郎さん。映像に登場したのは、ベートーヴェンの「第九」を指導する47歳の頃の小林さん。若々しく情熱的な指揮ぶりはまさに「炎のコバケン」ですが、話しぶりは今とあまり変わりません。「ベートーヴェンの天国の心になってやってくれる?」といった言葉をはじめ、音楽の核心に切り込んでゆくような言葉が随所に聞かれました。そんな「伝える技術」の高さは、そのまま山田さんにも受け継がれているのではないでしょうか。
 挾間美帆さんの師匠は山下洋輔さん。38歳の頃の山下さんがオーケストラと初共演した貴重な映像をご覧いただきました。曲は童謡「砂山」ジャズアレンジ。とてもスリリングで、底知れないパワーが画面から伝わってきます。挾間さんが当時の師匠の姿を嬉しそうに眺めながら、「ライバル心を持って、しっかり対抗していこうと思います」と宣言してくれたのが印象に残りました。
 上野耕平さんの師匠は須川展也さん。須川さんはクラシック音楽界におけるサクソフォンの第一人者。須川さんの登場でサクソフォンのレパートリーは飛躍的に広がりました。上野さんは自分が憧れていた頃の師の年齢に自身が近づいていることを「恐ろしい」と表現します。こういった感覚は師弟ならではなのでしょう。
 松井秀太郎さんの師は小曽根真さん。最初の授業で小曽根さんが語った「出来ないことは宝物」という言葉から、挑戦することの大切さを学んだと言います。49歳の頃の小曽根さんが弾くショパンのノクターンはいま見ても新鮮。楽器は異なりますが、師のスピリットは松井さんの中にしっかりと息づいていることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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フルートの可能性を広げる音楽会

投稿日:2026年06月06日 10:30

 今週は多久潤一朗さんをお招きして、フルートの可能性を広げる遊び心いっぱいの新奏法を披露していただきました。柔軟な発想と驚くべきテクニックの数々に、ただただ圧倒されます。
 フルートの可能性を広げる奏法①は「縦にして吹く」。もともとフルートという言葉は、縦笛にも横笛にも使われていました。バロック音楽の時代には、縦笛のリコーダーと区別するために、横笛のフルートのことを「フラウト・トラヴェルソ」、すなわち「横向きのフルート」と呼んでいたのです。今でも、たとえばバッハ・コレギウム・ジャパンのようなオリジナル楽器のオーケストラで使われるフルートのことは「フラウト・トラヴェルソ」と呼びます。だったら、現代のフルートを縦にして吹いてみてもいいのではないか。そんな多久さんの自由な発想から、縦吹きのフルートが生まれました。どうやって息を吹き込むのかと思いましたが、特製の縦吹き用の頭部管を使うんですね。曲は久石譲作曲の「もののけ姫」より「アシタカせっ記」。尺八を思わせるような、縦フルートでしかできない表現を聴かせてくれました。
 奏法②は「声を出しながら吹く」。まさか、そんなことが可能だとは! 名曲「スタンド・バイ・ミー」をバスフルートとコントラバスフルートを演奏してくれました。口で吹きながら鼻で歌う離れ技には唖然。声とフルートで和音を作るという技法もすごすぎます。
 奏法③は「穴があいている他のものを吹く」。多久さんの定義によれば、フルートとは「穴に息を吹き込んで音を出す楽器」。フルートの概念を拡大し、ちくわ、ビン、おちょこ、けん玉、スプーンまでもがフルートになってしまいます。ちくわの音色が意外と澄んだきれいな音で、爽快感がありました。
 奏法④は「ジャンルに合わせて音を変える」。おなじみの「ボレロ」がジャズ、フラメンコ、サンバなどいろいろなスタイルに変身します。痛快な「着せ替えボレロ」でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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