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世界一難しい楽器ホルンとオーボエを知る休日

投稿日:2025年05月31日 10:30

 しばしば難しい楽器の筆頭に挙げられるのがホルンとオーボエ。一流オーケストラには卓越したホルン奏者とオーボエ奏者が欠かせません。今回はオーボエ奏者の最上峰行さんと山本楓さん、ホルン奏者の福川伸陽さんと五十畑勉さんをお招きして、それぞれの楽器の難しさについて語っていただきました。
 オーボエ奏者というと、よく言われるのが「いつもリードを削っている」。リードは手作りだったんですね。消耗品なので、常に作り続けなければなりません。最上さんがリードを製作しているところを見せてくれましたが、予想以上に工程が多く、まさに職人の技です。トータルの製作日数は2週間から1か月だとか。ずいぶん日数がかかります。しかも10本作っても、使えるのは1本だけ! 本番を迎える前に、こんなに長い道のりがあったとは。湿気が大敵なので、山本さんは「天気がいい日は家にこもってリード作り」と言います。目に見えない苦労がたくさんある楽器だということがよくわかりました。
 ホルンの福川さんは、指をまったく動かさずに、唇だけで音程を操ってみせてくれました。そんなことができるんですね。しかし、福川さんのような名手でも「高い音を当てるのは神頼み」。たしかに一流オーケストラであっても、常に完璧とは行かないのがこの楽器です。一方で低音域は五十畑さんが実演してくれたように、息が足りなくなる苦労があります。
 それだけ難しい両楽器ですが、いずれも最高の音色を聴かせてくれる楽器でもあります。アルビノーニの「2つのオーボエのための協奏曲」では、オーボエのいくぶん愁いを帯びた甘く暖かい音色を、ベートーヴェンの「2本のホルンと弦楽四重奏のための六重奏曲」では、柔らかくふっくらとしたホルンの音色を堪能できました。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番では、ホルンとオーボエがともに独奏楽器を務めます。ぜいたくな音の饗宴でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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未来への扉!ニュースターの音楽会 2025

投稿日:2025年05月24日 12:36

 今週はクラシック音楽界の未来をリードするニュースターをいち早く紹介するシリーズ企画の第3弾。ピアニストの鈴木愛美さんとソプラノの野々村彩乃さんにご出演いただきました。
 鈴木愛美さんは2023年に日本音楽コンクールピアノ部門で第1位、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリで第1位を獲得。さらに2024年、第12回浜松国際ピアノ・コンクールで日本人として初めての第1位に輝きました。世界各地から多数の若き才能が参加する同コンクールで、日本人が第1位を受賞したのは初めてのこと。また、いずれのコンクールでも第1位と同時に聴衆賞も獲得しているのですから、快挙というほかありません。
 今回は鈴木優人さん指揮東京交響楽団との共演で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の第3楽章を演奏してくれました。ベートーヴェンの楽曲は、そのスタイルから初期、中期、後期に分けられますが、1803年に初演されたこの協奏曲は中期の入り口に書かれた傑作です。中期の代表作である交響曲第5番「運命」と同じように、苦悩から歓喜へと至る様子が音楽で表現されています。フィナーレに相当する第3楽章では喜びが爆発。ピアノとオーケストラの対話を通じて、高揚感あふれる力強いクライマックスが築き上げられました。作品の核心に迫る本格派のベートーヴェンだったと思います。
 野々村彩乃さんは高校野球の開会式での国歌独唱で注目を集め、その後、全日本学生音楽コンクール声楽部門で高校の部第1位、大学の部第1位を獲得。以後、ジャンルを超えた活躍を続けています。山田耕筰作曲の「からたちの花」では、柔らかくクリーミーな声が印象的でした。人気ゲーム「サガ スカーレットグレイス 緋色の野望」のオープニング主題歌「砕かれし星」では、ドラマティックな歌唱を披露してくれました。まるでオペラの一場面のようでしたね。ゴージャスでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~チェロ編

投稿日:2025年05月17日 10:30

 今週はクラシック音楽の基礎知識を楽しく知る好評企画の第6弾。伊集院光さんを聞き手にお招きして、宮田大さんにチェロの魅力を解説していただきました。
 最初の曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」。ヴォカリーズとは歌詞を使わずに母音で歌う唱法のこと。つまり、原曲は歌曲なのですが、歌よりも器楽で耳にする機会のほうが多いかもしれません。ありとあらゆる楽器のために編曲されているといってもよいほどの人気曲です。人間の声にもっとも近い楽器と言われるだけあって、チェロによる演奏は曲想とぴたりとマッチしています。「チェロが人間の心情を表し、ピアノは風景を立体的に描く」という宮田さんの解説がありましたが、感情の動きがチェロからよく伝わってきます。
 2曲目はフィッツェンハーゲンの「アヴェ・マリア」。これはほとんどの方にとって初めて耳にする曲だったと思います。フィッツェンハーゲンは作曲家という以上にチェロ奏者として言及されることが多く、チャイコフスキーの名曲、「ロココの主題による変奏曲」を献呈された名奏者です。このとき、フィッツェンハーゲンがチャイコフスキーに無断で作品に手を入れて、ふたりの間が気まずくなったというエピソードが知られています。「アヴェ・マリア」はチェロの音域の広さを生かしたチェロ四重奏曲。4人のチェリストたちの音色がひとつに溶け合って、潤いのある響きが生み出されていました。
 3曲目はファジル・サイのチェロ・ソナタ「4つの都市」より第2曲「ホパ」。ファジル・サイはトルコ出身のピアニスト兼作曲家です。ピアニストとしての来日も多く、作曲家としても旺盛な活動をくりひろげています。トルコの文化に由来する作品を数多く作曲しており、「4つの都市」の「ホパ」もそのひとつ。チェロのさまざまな奏法を駆使して、民族楽器の音色を模すなど、従来の楽曲にはない新しい表現を切り拓いています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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小学校の教科書に載っている名曲なのに口ずさめない!クラシックの音楽会

投稿日:2025年05月10日 10:30

 今週は小学校の音楽の教科書に載っている名曲をどれくらい口ずさめるものなのか、街頭調査で検証してみました。名前を知っているような曲でも、歌ってみようとすると意外と出てこなかったりするものです。
 口ずさめないランキングの第5位はベートーヴェンの「よろこびの歌」。いわゆる「第九」の「歓喜の歌」です。ベートーヴェンは生涯に9つの交響曲を書きましたが、その最後に書かれた作品がこちら。日本では年末の風物詩として親しまれていますね。
 第4位はエルガーの行進曲「威風堂々」。中間部のゆったりとしたメロディは「希望と栄光の国」の別名でも知られています。格調高いメロディなので、卒業式の音楽によく使われます。
 第3位はハチャトゥリアンの「剣の舞」。こちらはネッケの「クシコスポスト」と勘違いしている人が続出。どちらも運動会でよく使われる曲です。ハチャトゥリアンはバレエ「ガイーヌ」の一場面のためにこの曲を書きました。急場しのぎで一晩で書いた曲なのですが、「剣の舞」は爆発的な人気を呼び、作曲者の代表作になりました。あまりに「剣の舞」が有名になって、ほかの作品がかすんでしまったことから、後にハチャトゥリアンはこの曲を書いたことを後悔したと言います。
 第2位はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より行進曲。この曲はまちがえやすいですよね。なにしろ同じ「くるみ割り人形」に「こんぺいとうの踊り」「葦笛の踊り」「トレパーク」「花のワルツ」など、有名曲がぎっしり詰まっているので、混同しても無理はありません。むしろ50人中9人が正しく口ずさめたことが驚きでは。
 第1位はサン=サーンスの「白鳥」。組曲「動物の謝肉祭」の一曲ですが、白鳥つながりで、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を思い出してしまう人が少なくありません。正解は50人中4人。お見事です!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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スター・ウォーズで楽しむ!パイプオルガンの音楽会

投稿日:2025年05月03日 10:57

 映画「スター・ウォーズ」ではジェダイの騎士たちが銀河の平和と自由を守ります。ジェダイの騎士が操る特別な力が「フォース」。彼らはしばしば挨拶のように「May the Force be with you(フォースと共にあらんことを)」と口にします。この決まり文句と May the 4th をかけて、5月4日は「スター・ウォーズの日」と呼ばれるようになりました。もともとはファンたちの遊び心から生まれた記念日だったのですが、今では公式の記念日として定着しています。
 今回はオルガニストの石丸由佳さんが、東京藝術大学奏楽堂のパイプオルガンのさまざまな音色を駆使して、「スター・ウォーズ」メイン・タイトルを演奏してくれました。たったひとりで演奏しているにもかかわらず、その壮大さは「スター・ウォーズ」の世界観にぴったり。石丸由佳さんのジェダイの騎士を思わせる衣装も決まっていましたね。
 有名な冒頭の勇ましいメロディは、主人公ルーク・スカイウォーカーのテーマと呼ばれます。輝かしさと重厚さが一体となったパイプオルガンの音色が、ルークの冒険心と秘められたフォースの強大さを伝えてくれました。いったん音楽が静まった後に登場するフルートのパッセージは、あたかも本物のフルートのように軽やか。王女レイアの主題では、弦楽器系のストップに「ウンダ・マリス」のストップが重なって、うねりを作り出します。優雅なメロディなのですが、暗い色合いが加わって、悲劇を予感させるところがなんとも味わい深いと思いました。
 オルガンのストップについての解説もとても興味深いものでした。あんなにもたくさんのストップがあるとは。「フルート」や「トランペット」といったストップはイメージしやすいですが、鼻声風の「ナザート」や、古楽で使われる弦楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」があるのがおもしろいですね。ストップの組合せから音色を作り出す様子はまるでシンセサイザー。多くの作曲家たちがこの楽器に魅了された理由がよくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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