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角野隼斗が新たな音を生み出す!プリペアド・ピアノの音楽会

投稿日:2025年03月29日 10:30

 今週は角野隼斗さんをお招きして、プリペアド・ピアノの演奏に挑戦していただきました。プリペアド・ピアノとは、弦にねじやゴムやフェルトなどの異物を装着し,音を変化させるピアノのこと。アメリカの作曲家ジョン・ケージが1940年に「バッカナーレ」という作品のために考案したものです。当初、打楽器アンサンブルを使用するつもりでいたケージですが、会場の演奏する場所が思いのほか狭く、やむを得ず備え付けのグランドピアノを使うことになります。そこで、ピアノの音を変えることを思いつき、弦の間にねじなどの異物を挟みました。こうして偶発的に発明されたプリペアド・ピアノは、以後、現代音楽の分野でしばしば用いられるようになります。
 プリペアド・ピアノのために書かれた作品で、とりわけ名高いのが「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」。ケージが1946年から48年にかけて作曲しました。この曲は16曲のソナタと4曲のインターリュード(間奏曲)の計20曲から構成され、全曲を演奏すると1時間を超えるくらいの大作です。今回、角野さんが演奏してくれたのは、ソナタ第5番。知らずに聴けばピアノとは思えないような打楽器的な響きがしていました。ソナタ第5番からもわかるように、この曲は意外なほど聴きやすい作品です。ユーモラスな曲、エキゾチックな曲、詩情豊かな曲など、いろいろな曲が集まっており、あまりケージになじみのない方でも全曲を楽しく聴くことができると思います。
 角野さんはケージの作品に加えて、アップライトピアノにプリパレーションを施したラヴェルの「ボレロ」や、現代アメリカの作曲家アンディ・アキホの「唐紅(KARAKURENAI)」、さらに即興演奏を披露してくれました。いずれもこれまでに聴いたことのない新しい音楽ばかり。ピアノ3台を使った即興演奏がカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2025年03月22日 18:19

 今週は第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。同賞は「題名のない音楽会」放送25周年を記念して、1990年に制定されました。今年の受賞者はピアノの務川慧悟さん、ヴァイオリンの戸澤采紀さん、同じくヴァイオリンの前田妃奈さんの3名。それぞれの受賞者のみなさんがガラコンサートにふさわしい気持ちのこもった演奏を披露してくれました。
 務川慧悟さんが選んだのはラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。フランス音楽に深い共感を寄せる務川さんらしく、20世紀フランスを代表する傑作協奏曲を鮮やかに演奏してくれました。留学時代に師のフランク・ブラレイ(有名なピアニストです)から、たった5分の曲のレッスンに1時間30分もかけられて自信を砕かれたというエピソードがありましたが、それほど緻密な音楽作りが要求されるのかと驚かされます。
 戸澤采紀さんはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調を演奏。高揚感あふれる快演でした。戸澤さんのお父さんは著名なヴァイオリニスト、戸澤哲夫さん。子どもの頃から「戸澤哲夫さんの娘さん」と呼ばれてしまうことは避けられません。それに対して「いつか父を戸澤采紀のお父さんと呼ばせよう」と思って頑張ったと言います。音楽一家ならではの苦労もあったとは思いますが、すばらしい親子関係ではないでしょうか。
 前田妃奈さんが演奏したのは、「本当に大好きな作品」と語るブルッフの「スコットランド幻想曲」。演奏する様子からも、この曲に対して並々ならぬ思い入れを持っていることが伝わってきます。ドイツの作曲家ブルッフは民謡の持つ普遍性を信じ、スコットランド民謡をこの曲に取り入れました。メロディの親しみやすさと雄大なロマンティシズムが一体となっており、前田さんの演奏にあらためて作品の魅力を知った思いがします。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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日本を代表する名指揮者、秋山和慶が残したメッセージ

投稿日:2025年03月15日 10:30

 今週は今年1月に84歳で世を去った日本を代表する名指揮者、秋山和慶さんの功績を振り返りました。
 秋山和慶さんのデビューは1964年。23歳で東京交響楽団を指揮しました。日本のほとんどのオーケストラを指揮してきた秋山さんですが、東京交響楽団とはキャリアの最初期から特別な結びつきがあり、1968年から2004年までの長きにわたって音楽監督・常任指揮者を務めました。
 なにしろデビュー直後に、スポンサー契約の打ち切りにより楽団の経営が破綻し、自主運営の団体として再出発するという試練を迎えたのですから、その苦労は想像に余りあります。少しでも仕事を増やそうとした結果、「ひと月に32回本番があった」という凄まじい状況に。そのすべてを秋山さんがひとりで指揮したといいますから、尋常ではありません。
 世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルからの客演を3回も断ったというお話がありましたが、それも先に東京交響楽団のスケジュールが入っていたから。もしも秋山和慶指揮ベルリン・フィルの演奏会が実現していたら……と、つい思ってしまうところですが、秋山さんは「自分の楽団を放っておいてベルリンに行くことなどはできない、してはならない」と、ご自身の回想録で振り返っています。
 秋山さんは北米を中心に国際的に活躍した指揮者でもありました。1972年にカナダのヴァンクーヴァー交響楽団の音楽監督に就任。31歳の若さで海外のオーケストラの音楽監督に就任したわけです。以後、アメリカ交響楽団の音楽監督、ニューヨーク州のシラキュース交響楽団音楽監督を歴任しました。
 秋山さんは後進の育成にも力を注ぎました。弟子にあたるNHK交響楽団正指揮者の下野竜也さんが、若き日に秋山さんに言われた言葉は「音楽を出世や自分をよく見せるための道具に使っちゃいけない」。秋山さんの人柄が偲ばれます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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題名のない音楽会放送60周年組曲の音楽会

投稿日:2025年03月08日 10:30

 今週は一年間をかけて少しずつ収録を進めてきたスペシャル企画「題名のない音楽会放送60周年組曲」をお届けしました。イメージしたのは、バロック音楽の古典組曲。バッハでいえばフランス組曲やイギリス組曲、無伴奏チェロ組曲といった組曲が典型ですが、前奏曲で始まって、アルマンド、サラバンド、メヌエット、ジーグなど種々の舞曲が続くスタイルです。この古典組曲の枠組みを借りて、出演者のみなさんに一曲ずつ演奏してもらい、ぜんぶそろったところでひとつの組曲として放送しようというプランを立てて、収録を積み重ねてきました。こうしてまとめて聴くと、改めてすばらしい奏者のみなさんに参加していただけたと感じますね。
 全10曲からなる組曲ですが、最初はやはり前奏曲(プレリュード)がよいだろうということで、鈴木優人さんがバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻のプレリュード第1番を弾いてくれました。
 2曲目からはバロック期の舞曲にこだわらず、次々といろいろな踊りの音楽が登場します。第2曲から第5曲まではワルツ・セクション。反田恭平さんのショパン「小犬のワルツ」、角野隼斗さんの自作「大猫のワルツ」、上野耕平さんのボノー「ワルツ形式によるカプリス」、務川慧悟さん、小林愛実さん、反田恭平さんのラフマニノフの「6手ピアノのための小品」よりワルツが並びました。
 第6曲から第8曲は和のセクション。藤原道山さん、本條秀慈郎さん、LEOさんによる和楽器を用いたバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」、LEOさんの「松風」、藤田真央さんの野平一郎「音の旅」より「秋祭り」が演奏されました。
 第9曲と第10曲で、ふたたびバッハが帰ってきます。宮田大さんはバッハの無伴奏チェロ組曲第3番より第5曲ブーレを演奏。ブルース・リウさんはバッハのフランス組曲第5番のジーグを選んでくれました。明るく軽快なジーグは、組曲のしめくくりにぴったり。さわやかな幕切れでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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実はひねくれ者だったエリック・サティの音楽会

投稿日:2025年03月01日 10:30

 今週は異端児として知られるフランスの作曲家、エリック・サティの音楽をお楽しみいただきました。80年代頃、日本でサティのブームが起きました。「ジムノペディ」をはじめ、「グノシエンヌ」や「ジュ・トゥ・ヴ」など、サティの曲がよくBGMに使われるようなります。サティといえばおしゃれなカフェで流れていそうな曲、というイメージはこの頃にできたものでしょう。本日演奏された曲も、なにも知らずに聴けば気持ちのよい音楽ばかりだと思います。
 ところが実際のサティはとんでもないひねくれ者だったんですね。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んだら出版を断られたので、「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を持ち込んだというエピソードなど、並の神経ではありません。奇抜なタイトルの曲はほかにもたくさんあり、「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」などにも、サティのひねくれ者ぶりがあらわれています。
 奇行も多かったようです。自作のバレエ音楽をパリ・オペラ座で上演してもらおうと楽譜を送りますが、これを無視されたために支配人に決闘を申し込んだとか(面会は実現しましたが上演は断られました)、批評家に無礼な手紙を送ったかどで罰金刑を課されたりとか、さまざまな逸話が語り継がれています。
 楽壇の主流派にはなりえなかったサティですが、不思議なことにドビュッシーとは気が合ったようで、若くして知り合って以来、長年にわたる交友関係を築きました。ただし、その友情には複雑なところもあったようです。音楽界の脚光を浴びるドビュッシーに対して、サティは自身の屈従を隠そうとしてか、もっぱら道化役に甘んじたといいます。「梨の形をした3つの小品」は、ドビュッシーに「もっと形式に気を配るべきだ」と指摘されたサティが、その忠告にこたえた書いた作品だとか。サティのひねくれ者ぶりがよく伝わってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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