今週は異端児として知られるフランスの作曲家、エリック・サティの音楽をお楽しみいただきました。80年代頃、日本でサティのブームが起きました。「ジムノペディ」をはじめ、「グノシエンヌ」や「ジュ・トゥ・ヴ」など、サティの曲がよくBGMに使われるようなります。サティといえばおしゃれなカフェで流れていそうな曲、というイメージはこの頃にできたものでしょう。本日演奏された曲も、なにも知らずに聴けば気持ちのよい音楽ばかりだと思います。
ところが実際のサティはとんでもないひねくれ者だったんですね。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んだら出版を断られたので、「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を持ち込んだというエピソードなど、並の神経ではありません。奇抜なタイトルの曲はほかにもたくさんあり、「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」などにも、サティのひねくれ者ぶりがあらわれています。
奇行も多かったようです。自作のバレエ音楽をパリ・オペラ座で上演してもらおうと楽譜を送りますが、これを無視されたために支配人に決闘を申し込んだとか(面会は実現しましたが上演は断られました)、批評家に無礼な手紙を送ったかどで罰金刑を課されたりとか、さまざまな逸話が語り継がれています。
楽壇の主流派にはなりえなかったサティですが、不思議なことにドビュッシーとは気が合ったようで、若くして知り合って以来、長年にわたる交友関係を築きました。ただし、その友情には複雑なところもあったようです。音楽界の脚光を浴びるドビュッシーに対して、サティは自身の屈従を隠そうとしてか、もっぱら道化役に甘んじたといいます。「梨の形をした3つの小品」は、ドビュッシーに「もっと形式に気を配るべきだ」と指摘されたサティが、その忠告にこたえた書いた作品だとか。サティのひねくれ者ぶりがよく伝わってきます。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)