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オペラ歌手が秘密を打ち明ける休日

投稿日:2026年07月25日 10:30

 今週はソプラノの森麻季さん、テノールの宮里直樹さん、バリトンの大西宇宙さんをお招きして、オペラ歌手の秘密に迫りました。3人ともすばらしい美声の持ち主ですが、声を客席の隅々まで届けるために、さまざまな工夫や練習を重ねていることが、よくわかりました。
 オペラほど歌手にとって過酷な舞台はないと思います。まず、舞台にはマイクがありません。それでいて、大編成のオーケストラといっしょに歌わなければなりません。声量が足りないと、いくら歌がすばらしくても客席までは届きませんし、オペラは長丁場ですからスタミナも必要になります。宮里さんの肋間筋のお話や、大西さんの腕立て伏せをしながら歌う様子を見て、オペラ歌手にはアスリート的な側面があると感じました。連続スタッカートを披露してくれた宮里さんは「これができると、寝ていても座っていてもどんな体勢でも腹式呼吸で歌える」と話していましたが、実際の舞台でも横になったままで歌う場面は決して珍しくありません。
 さらにオペラ歌手は暗譜と外国語が必須。舞台上では演技を伴いますから、どんな長大なオペラであっても最初から最後まで暗譜で歌います。3時間、4時間を超える大作でも、みなさん当然のように曲も歌詞も覚えているのです。しかも歌詞はほとんどの場合、外国語。オペラの世界ではイタリア語やドイツ語が中心です。フランス語、英語、ロシア語、チェコ語の作品もあります。森さんは「語学の勉強がいちばん大変」と話していましたが、歌うだけでも難しいのに、言葉の勉強もしなければならないとは。宮里さんは、新しい楽譜に向き合うと「これを全部覚えるんだ……」と、まずは一回落ち込むと話していました。これだけ活躍している人でも、そんなふうに感じるんですね。オペラの舞台は奇跡のような才能と努力によって支えられているのだと、あらためて実感します。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界的ピアニスト ガルシア・ガルシアが母国スペイン音楽の魅力を伝える音楽会

投稿日:2026年07月18日 10:30

 今週はピアニストのマルティン・ガルシア・ガルシアさんをお招きして、母国スペインの音楽を演奏していただきました。今回紹介してくれた作曲家は、マヌエル・デ・ファリャ(1876~1946)とフェデリコ・モンポウ(1893~1987)のふたり。ファリャは今年生誕150年を迎え、一段と注目度が高まっている作曲家です。一方、モンポウは1987年まで存命でしたので、比較的新しい時代の作曲家です。
 ファリャはアンダルシア地方の港町カディスの出身。この地方の伝統音楽を題材に用いながら、独自の作風を築きました。バレエ音楽「恋は魔術師」(ガルシア・ガルシアさんは原題に従って「呪われた愛」と紹介してくれました)や、バレエ音楽「三角帽子」がよく知られています。いずれもわたしたちが耳にして、いかにもスペインらしいと感じるような作風です。
 「恋は魔術師」のなかでも広く親しまれているのが「火祭りの踊り」。原曲はオーケストラのための作品ですが、ピアノ独奏版もよく演奏されます。この曲は作曲者と親交のあった往年の大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインが好んでアンコールに弾いたことで、絶大な人気を獲得しました。
 モンポウはカタルーニャ地方のバルセロナ出身。カタルーニャ地方出身の芸術家といえばガウディやダリ、ミロなどが有名ですが、偉大な音楽家もたくさん輩出しています。モンポウ、アルベニス、グラナドスといった作曲家に加えて、チェリストのカザルス、歌手のカレーラスなどなど。
 モンポウの作品の大きな特徴は、簡潔さや静謐さにあると言えるでしょう。独特の響きにより、しばしば瞑想的で内省的な雰囲気が醸し出されます。モンポウが好んで用いたのがメタリック・コード。幼少期に祖父の鐘鋳造工場で耳にした響きがもとになっているといいます。ガルシア・ガルシアさんの解説にあったように、不協和音が含まれているのですが、なぜかノスタルジーを喚起するところがおもしろいと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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初夏の北海道・苫小牧③アイヌ音楽に影響を受けた巨匠・伊福部昭の音楽会

投稿日:2026年07月11日 10:30

 今週は初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画の第3弾。釧路に生まれた偉大な作曲家、伊福部昭(1914~2006)の音楽を特集しました。
 伊福部昭は9歳の頃に音更に移り、アイヌの人々と親しく交流します。
ここで接したアイヌの音楽や踊りは、後の作曲家人生に大きな影響を与えることになりました。独学で作曲をはじめ、北海道帝国大学農学部を卒業後、チェレプニン賞に応募した「日本狂詩曲」が第1位を獲得。北海道では林務官として勤務していましたが、戦後、東京に移り音楽に専念します。管弦楽曲や器楽曲、さらには300作を超える映画音楽を手がけるなど、旺盛な作曲活動をくりひろげました。また、名著「管絃楽法」はこの分野における古典として知られています。
 一曲目に演奏されたのは、「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲」第1楽章より。1948年に作曲され、その後、改稿が繰り返されて1971年に決定稿が作られました。映画「ゴジラ」と共通のテーマが用いられています。どこか懐かしさを感じさせる民謡のような旋律、力強く荒々しいリズム、湧きあがるような生命力。伊福部昭の音楽の特徴がよく伝わってきます。
 続いて演奏されたのは「土俗的三連画」の第1曲「同郷の女達」、第3曲「パッカイ」。1937年に書かれた初期の代表作です。チェレプニン賞を得た伊福部は、来日したチェレプニンの招きにより横浜のホテルに滞在し、一か月にわたって作曲を学びました。レッスン代どころか滞在費も食費もすべてチェレプニンにより賄われ、「払おうにも当時の月給が65円で、部屋代が一晩45円ではどうにもならなかった」といいます。金の心配は一切するなというチェレプニンに対して、伊福部は作品の献呈でお返しをしたいと申し出て、師を喜ばせました。こうして書かれたのが「土俗的三連画」です。
アイヌ文化からの影響とチェレプニンとの出会いが、伊福部独自の音楽世界に結実しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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初夏の北海道②アイヌ音楽を楽しむ音楽会

投稿日:2026年07月04日 10:30

 今週は初夏の北海道を舞台にしたスペシャル企画の第2弾。いずれも北海道出身の音楽家であるヴァイオリンの成田達輝さん、山根一仁さん、トランペットの児玉隼人さんとともに、北海道の白老町にある「ウポポイ」を訪れました。
「ウポポイ」はアイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンター。長い歴史と自然のなかで培われてきた
アイヌ文化をさまざまな角度から伝承・共有するとともに、人々が互いに尊重し共生する社会のシンボルとしての役割を担う空間です。
「ウポポイ」とは、アイヌの言葉で「大勢で歌うこと」を意味するのだそうです。ウポポイ伝承課のチャッケさんが、いろいろな伝統楽器や歌、踊りを紹介してくれました。
 アイヌの伝統楽器ムックリは口琴の一種。セタレさんの即興演奏がすばらしかったですよね。小さな弁が振動する音を口で共鳴させるという説明がありましたが、シンプルな作りにもかかわらず、想像以上に表現力が豊かでびっくりしました。低音のパルスなど、かなり不思議な音が出てきます。チャッケさんが「シンセサイザーみたいな」と形容していましたが、まさしく! 児玉さんが「トランペットと口の使い方が似ている」と指摘していたのが、おもしろいと思いました。
 「杵つき歌 イウタ ウポポ」は、輪唱のような音の重ね合わせから、生き生きとした表情の音楽が生み出されます。成田さん、山根さん、児玉さんの3人がとても楽しそうにチャレンジしてくれました。
 ウポポイのみなさんによる「伝統の踊り イヨマンテ リㇺセ」では、独特の発声法ホロㇽセを用いた力強い響きに圧倒されました。まるで鳥の鳴き声のよう。
 「座り歌 ウポポ」は、シントコと呼ばれる漆器の蓋を叩きながら歌われ、ここにも輪唱の要素がありました。成田さん、山根さん、児玉さん、石丸さんも加わった即興のコラボが実現。これは熱かったですね。終わった後のみなさんの達成感にあふれた表情が印象的でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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