今週は「いま音楽業界が注目する4人の音楽家たち」。ピアノの反田恭平さん、辻井伸行さん、ヴァイオリンの成田達輝さん、クラリネットの吉田誠さん、いずれも音楽専門誌や音楽業界関係者の間で実力が認められた気鋭の奏者たちです。
反田恭平さんは昨年夏にデビューアルバムをリリースして以来、大きな話題を呼んでいます。今年1月にはサントリーホールでデビュー・リサイタルを開くという快挙を成し遂げました。新人ピアニストが2000席クラスの大ホールでデビュー・リサイタルを開くのは異例中の異例。しかもチケットは完売。番組では得意のリストの作品から「タランテラ」を弾いてくれましたが、今の反田さんの勢いが伝わってくるような生き生きとした演奏でした。
辻井伸行さんがヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで優勝を果たしたのは2009年のこと。もう7年も前のことになるんですね。以後、世界的巨匠ゲルギエフやアシュケナージと共演するなど、着実にキャリアを築いています。「悲愴」ソナタの第2楽章、名演でした。以前放送したピアノ協奏曲第5番「皇帝」もそうでしたが、辻井さんのベートーヴェンは風格があって、聴きごたえがあります。
ヴァイオリンの成田達輝さんはぜひこれから長く聴き続けたいアーティストです。最近、成田さんにインタビューをする機会があったのですが、音楽に対して真摯な姿勢をお持ちで、技術の高さはもちろんのこと、表現という点でも突きつめられた演奏を聴かせてくれる人だと思います。
クラリネットの吉田誠さんも楽しみな大器です。クラリネット奏者として際立った活躍をくりひろげる一方で、指揮も学んでいるという異色の奏者。今後どんな領域に活動の場を広げていくのでしょうか。
楽しみな才能が次々と登場する日本の音楽界。俊英たちから目が離せません。
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いま音楽業界が注目する4人の音楽家たち
日比谷公会堂さよなら音楽会
今、日比谷公会堂でコンサートを聴いたことがあるという方はそう多くはいらっしゃらないかもしれません。しかし、かつてはこの場所こそが東京のクラシック音楽シーンの中心地でした。開館は1929年。後に東京文化会館やサントリーホール、東京オペラシティなど、東京にはすぐれたコンサートホールがいくつも誕生することになりますが、日比谷公会堂はその先駆けとなった存在です。メニューインやシャリアピン、ハイフェッツなど、伝説の巨匠たちがこの舞台に立っています。
その日比谷公会堂がこの3月をもって休館を迎えることになりました。会場の独特の雰囲気は放送を通じても伝わったのではないかと思います。現代のホールとは一味違った趣があり、歴史の重みと品格を感じさせます。定員は2000人強ですので、現代のコンサートホールと変わりません。しかし客席に座ってみると意外と舞台が近く感じられます。残響が少なく、オーケストラの音は豊麗というよりは、生々しくひきしまったサウンドに聞こえます。
2007年にこの日比谷公会堂でショスタコーヴィチ作曲の交響曲全曲演奏会を指揮したのが井上道義さん。今年2月にはふたたびこの会場でショスタコーヴィチの交響曲第9番と第15番を指揮しています。番組では交響曲第9番の第1楽章をお聴きいただきましたが、かねてよりショスタコーヴィチの作品に特別な情熱をもって取り組んできたマエストロの思いが伝わってきたのではないでしょうか。軽快でコミカルな表情とアイロニーが一体となったような、一筋縄ではいかない多面性はショスタコーヴィチならでは。日比谷公会堂の古き良き伝統と、ショスタコーヴィチのモダンな響きが不思議と調和していました。
この会場で若い五嶋龍さんが演奏している姿を見ることができたのもうれしかったですね。ブルッフのヴァイオリン協奏曲に、胸がいっぱいになりました。
アメリカン・クラシックの音楽会
ヨーロッパを中心に長い歴史を持つクラシック音楽の世界では、アメリカは若くて新しい国の立場です。1892年、ニューヨークにもヨーロッパ並みの本格的な音楽院を設立しようと考えた富豪のジャネット・サーバー夫人は、院長としてドヴォルザークを招きました。ドヴォルザークのような著名な作曲家をヨーロッパから招くことが、音楽院の声望を高めるためにどうしても必要だったのでしょう。当初、ドヴォルザークはチェコを離れることを逡巡していましたが、破格の報酬が約束されたこともあって、アメリカ行きを決断しました。
ドヴォルザークがアメリカにわたったおかげで、交響曲第9番「新世界より」のような傑作が生まれたのですから、わたしたちはジャネット・サーバー夫人に感謝するよりほかありません。もっとも、1893年に恐慌が起き、サーバー夫人が高額な報酬を支払えなくなったため、ドヴォルザークのアメリカ時代は長くは続きませんでした。
やがて、アメリカはガーシュウィンやコープランドのような自国の作曲家によって、独自のクラシック音楽を作り出すようになりました。番組中でガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の冒頭が演奏されましたが、この曲はジャズでもありクラシックでもあるという、アメリカならではの名曲です。
レナード・バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」は、映画やミュージカルで知ったという方が多いでしょう。オーケストラ用の組曲はコンサートでしばしば演奏される人気曲です。新日本フィルのみなさんの「マンボ!」の掛け声、盛り上がりましたよね。バーンスタインといえば生前は、作曲家よりも指揮者として注目を浴びることが多かったのですが、没後四半世紀を経た今、彼の作品の演奏機会は着実に増えているように思います。バーンスタインはアメリカの作曲家として、すでにクラシック音楽の伝統の一部になった感があります。
それにしても井上道義さん、カウボーイの衣装がさまになっていました。絵になりますよね。
歴史を彩るヴァイオリニストたち
同じ作品が、演奏するアーティストによって違った表情を見せる。クラシック音楽の聴き方のひとつとして、こういった同曲異演の楽しみがあります。
では、現在第一線で活躍するプロのヴァイオリニストたちは、往年の大ヴァイオリニストの演奏について、どう感じているのでしょうか。今回の「題名のない音楽会」では、徳永二男さん、三浦文彰さん、そして司会の五嶋龍さんの三人のヴァイオリニストたちが、「演奏の違い」について語ってくれました。徳永二男さんは長年NHK交響楽団のコンサートマスターを務めていらっしゃいましたので、テレビを通してご存知の方も多いと思います。また、三浦文彰さんは大河ドラマ「真田丸」のオープニングテーマで、ソロを演奏している若き俊英です。ちなみにお父さまの三浦章宏さんは現在東京フィルのコンサートマスターを務めていらっしゃいます。
三浦文彰さんが憧れのヴァイオリニストとして挙げたのはナタン・ミルシテイン。品格と高雅さを感じさせる大家です。決して派手な人ではありませんので、若い奏者からこの名が挙がると「おお!」と思ってしまいますね。徳永二男さんが挙げたのはヤッシャ・ハイフェッツ。「技巧が高い」と呼ばれる名奏者は大勢いますが、そのなかでも別格なのがハイフェッツでしょう。龍さんはお姉さんの五嶋みどりさんの名を挙げていました。幼いころからいちばん身近なところに世界の「MIDORI」がいたわけですから、これは納得です。
後半ではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をイヴリー・ギトリスとイツァーク・パールマンの演奏で聴き比べていただきました。ふたりの個性の違いを感じ取っていただけたでしょうか。濃厚で奔放なギトリスと、天衣無縫の流麗さを誇るパールマン。番組内ではほんの少しだけの演奏でしたが、もし機会があったら、全曲演奏を聴いてみてください。同じ曲でもこんなに違ったアプローチができるのかという驚きが待っているはずです。