• mixiチェック

60周年記念企画⑥上野耕平が挑む!新しい吹奏楽の音楽会

投稿日:2024年09月21日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第6弾として、上野耕平さんとぱんだウインドオーケストラのみなさんをお招きして、吹奏楽の魅力に新たな角度から迫りました。
 番組では以前より「吹奏楽を少人数でも楽しもう!」という発想のもと、7人制吹奏楽ブリーズバンドを提唱してきました。ブリーズバンドのベースにあったのは、7人全員がソリストであり、ひとりひとりが主役を務めるという考え方。今回はそのブリーズバンドの精神を生かしたまま、編成を22人へと拡大しました。指揮者は置きません。
 上野さんたちの最初の挑戦は「とことん歌い上げる」こと。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第2楽章を吹奏楽アレンジで演奏してくれました。この曲はビリー・ジョエルの「THIS NIGHT」はじめ、さまざまな分野でカバーされていています。冒頭はサクソフォン四重奏ではじまり、次第にほかの楽器が加わって音色が変化してゆく様子が見事でした。情感豊かに歌い上げることで、この曲にあるノスタルジーの要素が浮き彫りになっていたと思います。
 バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」では、「新たな音色を開発する」ことに挑戦。20世紀ハンガリーの作曲家バルトークは、東欧で採集した民謡をモダンな書法で生まれ変わらせることで独自の作風を築きました。土の香りと斬新さを両立するのがバルトークの音楽。今回は替え指やフラッタータンギングなどを用いることで、作品に新たな彩りが加えられていました。上野さんはソプラニーノ・サクソフォンも使用。濃厚で甘い音色が魅力的でした。
 Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」では、「リズムに音色をつけて刻む」ことに挑戦。高速ラップが印象的な曲ですが、吹奏楽でもこんなに小気味よくて鮮やかな表現が可能なんですね。思わず踊り出したくなるような楽しさがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

月の光を名曲で感じる音楽会

投稿日:2024年09月14日 10:30

 今年の中秋の名月は9月17日。秋の澄んだ夜空に月がきれいに見える季節になりました。クラシック音楽には月の光にちなんだ名曲がたくさんあります。今回はピアニストの務川慧悟さんが独自の視点から、月の光を感じる名曲を紹介してくれました。
 最初に演奏されたのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」。とても有名な曲ですが、「月光」という題はベートーヴェン自身によるものではありません。でも、本当に曲にぴったりなんですよね。務川さんはこの曲に月の光を感じるポイントとして「暗闇」を挙げてくれました。光があれば、闇もまたあるはず。たしかにこの曲はただ美しいだけの曲ではなく、どこか不穏な気配も漂わせているように感じます。
 ベートーヴェン自身はこの曲をピアノ・ソナタ第13番とともに「幻想曲風ソナタ」と名付けました。両曲には、ソナタという古典的な形式感を持つ楽曲に、自由な幻想曲のスタイルを融合させようというアイディアが込められています。「月光」の第1楽章はまさに幻想曲風です。
 2曲目はフォーレの歌曲「月の光」。原詩はフランス語ですが、務川さんの訳詩のおかげで、詩の描く情景がよく伝わってきました。務川さんがこの曲に感じ取ったのは「影」。短調と長調の間のゆらめくような動きが、楽しさと悲しさの間にある曖昧な領域を表現します。森谷真理さんのまろやかで温かみのある声も印象に残りました。
 3曲目はドビュッシーの「月の光」。この曲は「ベルガマスク組曲」のなかの一曲です。フォーレの歌曲「月の光」と同じヴェルレーヌの詩からインスピレーションを受けていたんですね。務川さんがこの曲に感じる月の光のポイントは「輝き」。ドビュッシーは倍音との調和を計算して月の輝きを表現していると言います。そういえば、この曲に限らず、ドビュッシーの音楽には光の輝きを感じることが多いような気がします。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

注目の音楽家が奏でる!ディズニー名曲の音楽会

投稿日:2024年09月07日 10:30

今週はディズニー名曲をフルートのCocomiさん、トランペットの児玉隼人さん、ヴァイオリンの新美麻奈さんという今注目を集める3人の音楽家による演奏でお届けしました。
 最初に演奏されたのは「エレクトリカルパレードのテーマ」。この曲の本来のタイトルは「バロック・ホーダウン」と言います。「ペリー・アンド・キングスレー」というエレクトロニック・ミュージック・デュオが1967年にリリースした楽曲です。「バロック」とは、あのバロック音楽のこと。オリジナルは初期のシンセサイザーを使って、バロック音楽でよく使われるチェンバロ風の音色を再現していたんですね。「ホーダウン」とはアメリカの伝統的なダンス。つまり、バロックの古雅な曲調と大衆的なホーダウンを合体させたうえで、これを当時の最新テクノロジーであるシンセサイザーの音色で表現するという斬新なアイディアが盛り込まれています。そんな電子音楽の名曲を今回は3人のソロとオーケストラで演奏しました。原曲とはまた違った浮き立つような気分が感じられたのではないでしょうか。
 3人の音楽家のみなさんがそれぞれイチ推しのディズニー名曲を演奏してくれましたが、Cocomiさんが選んだのは「塔の上のラプンツェル」より「輝く未来」。透明感のある清澄な音色が印象的でした。やさしくエレガントなラプンツェルでしたね。
 先月、日本管打楽器コンクールで史上最年少で優勝を果たした中学3年生のトランペット奏者、児玉隼人さんが選んだのは「リメンバー・ミー」の主題歌。情感豊かなトランペットのソロで始まり、オーケストラとともに次第に高揚する様子が見事でした。
 新美麻奈さんは葉加瀬太郎さんの「題名プロ塾」で合格したヴァイオリニスト。プロ・デビューとなる今回選んだのは、「シンデレラ」より「夢はひそかに」。のびやかなヴァイオリンの音色がシンデレラのまっすぐな心情を伝えてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

60周年記念企画⑤鈴木優人&BCJ 時代を超えて甦らせるクラシックの音楽会

投稿日:2024年08月31日 10:30

 今週は鈴木優人さんとバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏でベートーヴェンとメンデルスゾーンの名曲をお楽しみいただきました。
 バッハ・コレギウム・ジャパンは、バッハが生きていた時代の楽器を用いて演奏する団体として知られています。このようなピリオド楽器を用いた演奏は1980年代ごろから盛んになり、各地でいくつものオーケストラが結成されました。日本ではバッハ・コレギウム・ジャパンが1990年に設立され、国際的に高い評価を得ています。今回はバッハよりも新しい時代の作曲家、ベートーヴェンとメンデルスゾーンの作品にチャレンジしました。
 多くの場合、楽器は現代に近くなるほど、音域が広がったり、出せる音が増えたり、音量が大きくなるなど、さまざまな発展を遂げています。現代の楽器のほうが機能性は増していると言えるでしょうが、一方で作曲家が思い描いていた音とは違ったものになっていることは否めません。ピリオド楽器を用いたオーケストラは、作曲家が想定していた音を再現することで、作品のメッセージになるべく近づこうとしているのです。
 弦楽器の弦は羊の腸を用いたガット弦が用いられているというお話がありました。現代ではスチール弦やナイロン弦が広く使われています。優人さんの説明にあったように、ガット弦は「スピーチ、発音が強い」。音が出る瞬間にひっかくようなニュアンスがあります。ベートーヴェンの「運命」にその違いが感じられたのではないでしょうか。
 メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」では、オフィクレイドという金管楽器が登場しました。現代ではテューバで代用されることがほとんどですが、聴き比べるとその音色の違いは一目瞭然。テューバのふっくらとした音色に対して、オフィクレイドはもっとシャープで、鼻にかかったような甘い音色が特徴的です。メンデルスゾーンはこんな音をイメージしていたんですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

60周年記念企画⑤鈴木雅明&優人によるバッハの音楽会

投稿日:2024年08月24日 10:30

 今週は60周年記念企画第5弾として、バッハ・コレギウム・ジャパンの創設者で音楽監督の鈴木雅明さんと首席指揮者の鈴木優人さんの親子をお招きしました。優人さんにはたびたび番組に出演していただいていますが、お父さんの鈴木雅明さんは今回が番組初登場。バッハ・コレギウム・ジャパンとともに、バッハの名曲をお届けしました。
 バッハ・コレギウム・ジャパンは国際的にも高く評価されている古楽アンサンブルです。バッハが生きていた当時の楽器を用いたオーケストラと合唱団からなる古楽のスペシャリストで、ロンドン、パリ、ウィーンなど、ヨーロッパの主要都市でも公演を行い、絶賛を博しています。これまでにリリースしたCDは100タイトル以上。そして、これらのCDはスウェーデンのBISというレーベルからリリースされています。BISは意欲的な活動をする中堅レーベルとしてクラシック音楽ファンにはよく知られていますが、彼らが早くからバッハ・コレギウム・ジャパンの実力を認め、大規模なレコーディング・シリーズを敢行したことで、バッハ・コレギウム・ジャパンはヨーロッパで多数の聴衆を獲得するようになりました。こんなふうに日本のアンサンブルでありながら、本場ヨーロッパのレーベルが主体となって継続的に録音をリリースしている例はほとんどありません。
 バッハは音楽一家として知られ、息子たちも父親に並ぶ名声を築きましたが、そんなバッハの音楽を演奏するバッハ・コレギウム・ジャパンもまた、鈴木親子により牽引されています。若い頃から優人さんが少しずつ活躍の場を広げ、やがて成長して首席指揮者となり、他のオーケストラにも客演するようになる姿を、ずっと見守ってきたファンも多いことでしょう。まるで現代のバッハ親子のように思ってしまいますが、今回なにより驚いたのは、雅明さんが決して教育パパではなかったというお話。お父さんが優人さんを自らの後継者とすべく育てたのではなく、優人さんが自ら音楽家への道を歩んだのだということに深く感銘を受けました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会~この人も学校で習ったのに編

投稿日:2024年08月17日 10:30

 曲は知っているけど、作曲家の名前は出てこない。よくあることですよね。今週は、そんな気の毒な作曲家たちの名前を覚えてもらうための好評企画第3弾。小中学校の教科書に登場する曲から選んだ5曲をみなさんに聴いていただき、作曲者名をお尋ねしました。
 ハンガリー舞曲第5番を聴いて、作曲者がブラームスだと答えてくれたのは50人中8人。少ないといえば少ないですが、なかなか健闘しているとも言えるのでは。オーケストラのコンサートではよくアンコールで演奏される曲です。
 「ペールギュント」第1組曲から「山の魔王の宮殿にて」の作曲者は、ノルウェーのグリーグ。50人中6人がグリーグの名前を答えてくれました。この曲はテレビドラマや映画、スポーツシーンなどでもよく使われます。緊迫感があり、だんだんと曲調が激しくなってくるのは、これがピンチの場面を描いた音楽だから。主人公ペールが山奥で出会った女性に求婚したところ、なんと、その父親は山の魔王(トロールの王)。結婚を許すから人間をやめてトロールになれと命じられて、慌てて逃げ出す場面の音楽です。
 オペラ「カルメン」は名曲の宝庫。今回は「前奏曲」をとりあげましたが、ほかにも「闘牛士の歌」や「ハバネラ」などもよく知られています。作曲者ビゼーの名を答えてくれたのは50人中5人のみ。
 オペラ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」が日本で広く知られるようになったのは、2006年トリノオリンピックのフィギュアスケートがきっかけです。荒川静香さんの金メダル獲得が大きな話題になり、その際に使用されていた「誰も寝てはならぬ」は一躍人気曲になりました。作曲者プッチーニの名を答えられたのは50人中3人。意外と少ないですね。
 おしまいは運動会の名曲、「クシコスポスト」。作曲者ネッケの名を答えられた人はひとりもいませんでした。これは無理もありません。ネッケが話題になることはまずないこと。教科書に名前が出ているにもかかわらず、だれもよく知らないという点で、ネッケにかなう人はいません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

ラン・ラン&ジーナがフランスの名曲を奏でる音楽会

投稿日:2024年08月10日 10:30

 今週は世界的ピアニストのラン・ランと、妻で同じくピアニストであるジーナ・アリスのおふたりをお招きしました。トップレベルの檜舞台で活躍するかたわら、音楽教育活動にも尽力し、ユニセフ親善大使を務めるなど、いまやラン・ランはピアニストの枠を超えた音楽界のシンボル的な存在になっています。そんなラン・ランが2019年に結婚したお相手が、ドイツ出身のジーナ・アリス。ふたりはクラシックの名門レーベル、ドイツグラモフォンからリリースしたニューアルバムでも共演して話題を呼んでいます。
 パリにも拠点を置くラン・ランは、フランス音楽がアジアの音楽や文化とたくさんのつながりを持っていると指摘します。たしかにフランスの作曲家たち、たとえばドビュッシーであれば、交響詩「海」の楽譜の表紙に北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をあしらったり、日本の漆絵の錦鯉に触発されて「映像」第2集の「金色の魚」を作曲するといったように、さまざまな形でジャポニズム、オリエンタリズムの影響を目にすることができます。そう考えると、中国出身でグローバルに活躍するラン・ランならではの視点によるフランス音楽の表現があってもおかしくありません。
 今回演奏してくれたのは、サン=サーンスとフォーレの作品。サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」からは、ラン・ランの独奏で「白鳥」を、ジーナ・アリスとの連弾で「水族館」と「化石」を演奏してくれました。連弾する姿からふたりの仲睦まじさが伝わってきましたね。ラン・ランの自在の表現にジーナ・アリスがぴたりと寄り添う様子が印象的でした。
 最後に演奏されたのはラン・ラン独奏によるフォーレの「パヴァーヌ」。パヴァーヌとは古い時代の2拍子または4拍子のゆっくりとした宮廷舞踏を指します。古雅な雰囲気をまとったフォーレの「パヴァーヌ」に、ラン・ランは豊かでしみじみとした情感を注ぎ込んでくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

パリだからこそ生まれた名曲の音楽会

投稿日:2024年08月03日 10:30

 現在オリンピックが開催されるパリでは世界中からアスリートたちが集まっていますが、パリはアーティストたちが集う芸術の都でもあります。今週は出口大地さん指揮東京フィルが、パリで生まれた名曲を演奏してくれました。演奏されたのはロッシーニ、ストラヴィンスキー、ガーシュインの作品。いずれも外国からパリにやってきた作曲家たちです。
 ロッシーニはイタリア・オペラのヒットメーカー。「セビリアの理髪師」などで大成功を収めると、その人気はイタリア国外にも広がりました。やがてパリに招かれるとセンセーションを巻き起こし、フランス国王から「国王の首席作曲家」なるポストを与えられます。そんなロッシーニがパリの聴衆のために書いたオペラが「ウィリアム・テル」。当時37歳だったロッシーニはこれを最後にオペラ作曲家から引退し、以後はフランス政府から終身年金を得て、ロッシーニ風ステーキの発案など、美食家として名を馳せることになりました。
 ロシア生まれのストラヴィンスキーは、ロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフに才能を見出され、バレエ音楽「火の鳥」を作曲します。パリで上演された「火の鳥」は大きな話題を呼びました。続くバレエ音楽「ペトルーシュカ」「春の祭典」は激しい賛否両論を巻き起こし、ストラヴィンスキーは一躍、時代を代表する作曲家となりました。
 アメリカのガーシュインは、ミュージカルやジャズの世界で華々しい成功を収めた作曲家です。「ラプソディ・イン・ブルー」をきっかけに、クラシック音楽界でも注目を浴びるようになりましたが、ガーシュインは正規のクラシックの教育を受けていません。そこでガーシュインはパリに渡り、ラヴェルに教えを乞おうとしました。しかし、ラヴェルはこう言ったのです。「君はすでに一流のガーシュインなのだから、二流のラヴェルになることはない」。そんなガーシュインがパリの活気に刺激を受けて作曲したのが「パリのアメリカ人」です。花の都の賑わいが伝わってきましたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

3曲でクラシックがわかる音楽会〜シューベルト編〜

投稿日:2024年07月20日 10:30

 今週は「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズの第3弾。第1弾のモーツァルト編、第2弾のショパン編に続いて、シューベルト編をお届けしました。ゲストの伊集院光さんもおっしゃるように、シューベルトと言われてまっさきに思い出されるのが「魔王」や「野ばら」といった歌曲。シューベルトはわずか31歳で早世してしまいましたが、600曲を超える歌曲を書いています。今回はカウンターテナーの藤木大地さんに、シューベルトが「歌曲王」と称えられる理由を解説していただきました。
 まず最初に挙げられたのは、ゲーテの詩による「野ばら」。同じメロディに1番から3番まで、異なる詩があてはめられていますが、それぞれの詩が描く情景はまったく異なります。にもかかわらず、詩と曲がぴたりと噛み合っている点に、シューベルトの「歌曲王」ぶりが現れていると言います。シンプルな曲なのですが、詩を3番までたどってみると、意外なほどドラマティックな曲だということに気づきます。
 2曲目は「音楽に寄せて」。こちらも名曲ですよね。詩を書いたのはフランツ・フォン・ショーバー。詩人という以上にシューベルトの親友として言及されることの多い人物です。「野ばら」のようにゲーテの詩を使った場合でも、「音楽に寄せて」のように友人の詩を使った場合でも、シューベルトは詩と曲を密接に絡み合わせて、傑作を生み出しました。
 3曲目はピアノ五重奏曲「ます」の第4楽章。こちらは器楽曲におけるシューベルトの代表作と言ってもよいでしょう。シューベルトが歌曲「ます」のために書いたメロディが、ここでは変奏曲の主題として用いられています。同じメロディが次々と姿を変えてゆくのが変奏曲のおもしろさ。藤木さんは、このような器楽曲からも歌を感じると言います。そして、さまざまな情景を思い浮かべながら聴くと、この曲も実はとてもドラマティックであることが、よくわかります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

60周年記念企画④宮田大12人のチェリストたちの音楽会

投稿日:2024年07月13日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第4弾といたしまして、日本のトップ・チェリストたち12人によるアンサンブルをお楽しみいただきました。ロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクール優勝者である宮田大さんを筆頭に、近年、日本人チェロ奏者が国際コンクールで次々と上位入賞を果たしています。今回はそんな気鋭のソリストたちに日本を代表するプロ・オーケストラの首席奏者たちが加わって、超豪華メンバーによるアンサンブルが実現しました。
 同じ楽器だけでアンサンブルが成立するのは、音域が広いチェロならでは。ご存じの方も多いと思いますが、この分野には「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」という先駆者がいます。1972年にベルリン・フィルのチェロ・セクションのメンバーが集まって、本日も演奏されたクレンゲルの「讃歌」を演奏した際に「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」を名乗ったのが結成のきっかけ。以来、チェロ・アンサンブルの魅力を世界中に広めることになりました。
 クレンゲルの「讃歌」は1920年の作品。作曲者ユリウス・クレンゲル(1859~1933)はドイツのチェリストで、チェロのための作品を多数作曲しています。ライプツィヒに生まれ、父親はあのメンデルスゾーンと親交があったとか。クレンゲルは15歳にしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のチェロ奏者になったといいますから、卓越した才能の持ち主であったことはまちがいありません。「讃歌」は12人のチェロ奏者のために書かれた作品で、クレンゲル本人と11人の生徒たちでこの曲を演奏し、ベルリン・フィルの首席指揮者アルトゥール・ニキシュの65歳の誕生日を祝ったという逸話があります。
 その後、クレンゲルの「讃歌」はいったん忘れ去られてしまいますが、「ベルリン・フィル12人のチェリストたち」が蘇演したことで注目を集め、現在ではチェロ・アンサンブルの定番曲になっています。今回の放送を通じて、作品の魅力がますます多くの方に伝わったことでしょう。後世にこれほど人気を博すことになるとは、作曲者も想像していなかったにちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

  • mixiチェック

フォトギャラリー

フォトギャラリーを詳しく見る≫