来年はベートーヴェンの没後200年にあたります。クラシック音楽界では、すでにベートーヴェン・イヤーに向けて期待感が高まっており、さまざまな公演が企画されています。
今回、鈴木優人さんはカール・フィリップ・エマヌエル・バッハが与えた影響という角度から、ベートーヴェンの音楽の特徴を解説してくれました。バッハ一族が多数の音楽家を輩出したことはよく知られていますが、有名な大バッハの息子たちがどれだけ活躍したかは、あまり知られていないかもしれません。実は生前のエマヌエル・バッハは父バッハを凌ぐほどの名声を獲得しており、続く作曲家たちに多大な影響を与えたのです。
ベートーヴェンの交響曲に感じるエマヌエル・バッハの影響として、優人さんが挙げたのは「はっきりとした強弱の対比」「全員で弾くユニゾンの力強さ」「予想を裏切る大胆なハーモニー」という3つの要素。ベートーヴェンの交響曲第1番の第1楽章とエマヌエル・バッハのシンフォニア第1番の第3楽章、さらにベートーヴェンの交響曲第2番の第4楽章をお聴きいただきましたが、なるほど、この3つの要素はふたりの作曲家の共通項であることが、よく伝わってきました。
エマヌエル・バッハの音楽を聴くと、作風が父バッハとはぜんぜん違うことに驚きます。このシンフォニア第1番に限らず、彼の作品は感情表現がきわめて多彩で、気分がどんどん移り変わるため、先の展開が読めません。調和のとれた美の世界とは正反対で、冒険心にあふれ、聴く人を驚かせてやろうという意欲が伝わってきます。シンフォニアという言葉は初期の交響曲に使われる用語ですが、まさしくベートーヴェンの交響曲の先駆的な存在だと感じました。
精鋭ぞろいのバッハ・コレギウム・ジャパンによる演奏は、実にスリリング。ベートーヴェンは手に汗握る名演でしたね。当時の聴衆が感じた驚きに思いを馳せずにはいられません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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