今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」のこれまでの軌跡をたどりました。プロの音楽家を目指す若者たちのために、葉加瀬さんがポップスの演奏法を指導するこのシリーズは、これまでに4回、開催されています。第1回の林周雅さんをはじめ、堀内優里さん、ミッシェル藍さん、新美麻奈さんの4名の合格者がこれまでにプロデビューを飾ってきました。
第1回の林周雅さんの回は懐かしかったですね。「情熱大陸」のアドリブ演奏で、まさかの風船を使った演奏を披露。この荒技には度肝を抜かれましたが、オーボエ奏者の最上峰行さんからは手厳しいコメントが。でも、終わってみれば林周雅さんが見事に合格。その後の活躍ぶりには目覚ましいものがあります。
林さんはポップスもクラシックもどちらの分野でも旺盛な活動を続けています。林さんが第2ヴァイオリンを務める弦楽四重奏団、ほのカルテットは大阪国際室内楽コンクール2023で第2位を獲得する快挙をなしとげました。注目度の高いコンクールですので、新たな弦楽四重奏団が頭角を現してきたという強い印象をクラシック音楽界に残しました。
林さんのお話で印象に残ったのは、クラシックとポップスの違い。「リズムの感覚が真逆。クラシックではリズムの揺らぎが大切だが、ポップスはリズムが一定であることが大切」と話していました。クラシックの古典的なレパートリーでは、その作曲家や作品に応じた自然なリズムの揺らぎがあるもの。これをどう揺らがせるか、という点に奏者のセンスが現れます。しかし、クラシックであっても新しい時代の曲では、林さんの言うようにジャンルの垣根があいまいになり、ポップス的なインテンポの演奏が求められることも珍しくありません。クラシックもポップスも演奏できることは、これからの奏者にとって大きな武器になってゆくことでしょう。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)