「題名のない音楽会」は今年放送60周年を迎えます。60周年を記念したシリーズ企画のキーワードは「ボーダーレス」。今週はその第1弾として、ボーダーレスな活動を展開する角野隼斗さんをお招きしました。
角野さんといえば、先日、ソニークラシカルとワールドワイド契約を結んだと発表されて、大きな話題を呼びました。これは日本人演奏家としては五嶋みどりさん、樫本大進さん、藤田真央さんに続く4人目の快挙。秋にワールドワイド・デビューアルバムをリリースするということですので、角野さんに対する国際的な注目が一段と高まることはまちがいありません。
そんな角野さんが選んだ曲は、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。これぞボーダーレスな名曲です。大ヒット曲「スワニー」によって人気ソングライターとして世を席巻したガーシュウィンですが、1924年に開かれた「アメリカ音楽の実験」と題されたコンサートで「ラプソディ・イン・ブルー」を発表すると、クラシック音楽界からも注目を集めます。この曲は「ジャズ風協奏曲」を書いてほしいという依頼から生まれ、当初はジャズ・バンドによって演奏されていたのですが、後にオーケストラ用にアレンジされて、クラシックの名曲の仲間入りを果たしました。しばしば「シンフォニック・ジャズ」の代表曲に挙げられるように、ジャズとクラシックの垣根を越えた最大の成功作のひとつと言ってもよいでしょう。初演から100年を迎えた今も、その新鮮さは失われていません。
今回の演奏では、角野さんが「弾き振り」に挑戦してくれました。ピアノとオーケストラが向き合って、音の対話をくりひろげる様子は実にスリリング。即興を随所に差しはさんで、角野さんならではの冒険心と遊び心にあふれた「ラプソディ・イン・ブルー」が誕生しました。本当にカッコよかったですよね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)