今週は葉加瀬太郎さんが「僕にとってのアイドル」と語る坂本龍一の作品を演奏してくれました。ピアニストでもあった坂本龍一の作品をヴァイオリニストの葉加瀬さんが演奏するのは少し意外にも感じましたが、葉加瀬さんは「生前に彼自身が演奏していたものとは違う形になって、後世に残ってよいのではないか。現代におけるクラシック音楽ととらえたい」と語ります。
クラシック音楽の作曲家たちもかつては自分で自分の作品を演奏していました。バッハもモーツァルトもベートーヴェンも、基本的には自分が演奏するために曲を作ったのです。しかし、作曲者が世を去った後も、残された作品を他人がさまざまなスタイルや解釈でくりかえし演奏することで、これらはやがて「クラシック音楽」になりました。今後、坂本龍一作品も多くのアーティストが演奏を重ねることで、新たなクラシック音楽とみなされるようになるのではないでしょうか。
1曲目は「energy flow」。「ブラームスの弦楽四重奏のような」というお話があったように、4人の弦楽器奏者が繊細に絡み合いながら、しっとりとした情感豊かな音楽を紡ぎ出します。ラヴェルを思わせるようなフランス音楽の要素も感じられますね。
2曲目は映画「ザ・シェルタリング・スカイ」のテーマ。ヴァイオリンと箏とクラリネットという意外性のある組み合わせで、幻想的で儚い世界を描き出します。クラリネットの寂しげな表情が印象的でした。
3曲目は「TANGO」。タンゴと題されていますが、実際にはボサノヴァ調の楽曲。ヴァイオリンとチェロとアルトフルートが歌のパートを担当しました。ソロ楽器の対話が心地よく落ち着いたムードを作り出します。
4曲目は「andata」。今回は弦楽四重奏にインドネシアのガムラン、シンセサイザーが加わって、西洋と東洋、過去と現代を結びつける実験的な試みが行われました。ガムランが見知らぬ土地へと誘ってくれるかのようでした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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