今週は昨年のショパン国際ピアノコンクールでともに2位を獲得した反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさんのおふたりをお招きしました。コンクールのときの緊張した雰囲気とは違って、すっかりリラックスした様子で会話しているふたりの姿を見ると、なんだかほっとしますよね。
近年はコンクールでの演奏、さらに受賞者の発表までもがインターネットでライブ中継されるようになりました。このコンクールでも多くの日本のファンが受賞者発表の瞬間を固唾をのんで見守っていたと思います。2位にふたり名前が呼ばれたのには意表を突かれましたが、前例のないことではありません。
ガジェヴさんは「2位がいちばんいい。2位は可能性を秘めている」と言って笑っていましたが、あながちこれは冗談とも言い切れないところがあります。過去の同コンクールを振り返ってみると、2位や3位の受賞者が大ピアニストになることも珍しくありません。古くはアシュケナージや内田光子さんが2位でした。近年では前々回3位のトリフォノフが大家への道を歩んでいます。スポーツの大会とはちがい、少し時が経てば順位はあまり関係なくなってしまいます。
今回はおふたりともショパンの作品から一曲ずつ演奏してくれましたが、選曲が興味深かったと思います。いずれもキャッチーな有名曲というよりは、ショパンの奥深さを感じさせてくれるような作品でした。ガジェヴさんが弾いたのは前奏曲嬰ハ短調。これは有名な「24の前奏曲」とは別に書かれた前奏曲です。先頃行われた来日リサイタルでもこの曲を一曲目に弾いていたのを思い出します。反田さんが選んだのはノクターン第17番。ガジェヴさんが「静寂に包まれた湖の光景」とたとえていた冒頭部分が、実に繊細で典雅でした。
最後にガジェヴさんが演奏してくれたのは、ドビュッシーの12の練習曲より第11番「組み合わされたアルペジオのために」。透明感のある爽快なドビュッシーでしたね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)