今週はピアノの連弾の魅力をお伝えいたしました。連弾といえば、プロのコンサートよりも家庭やピアノ教室などで楽しむイメージが強いと思いますが、名手たちの連弾ともなるとこんなにも華やかで迫力があるものなのかと改めて感じます。
レ・フレールの手を交差させる奏法や「千手観音」「椅子取り」といった奏法は、耳のみならず目も楽しませてくれます。ふたりの演奏による「ルパン三世のテーマ’78」は実にゴージャス。アニソンの古典ともいえる名曲ですが、ピアノの広い音域を使い切った厚みのあるサウンドが意外なほど曲調にマッチしていました。小林萌花さんが話していたように、オーケストラを連想させますね。
芝田奈々さんと佐藤和大さんが演奏してくれたのは、ブラームスのハンガリー舞曲とドヴォルザークのスラヴ舞曲。この両曲はオーケストラによる演奏で親しんでいる方のほうが多いかもしれませんが、原曲はピアノの連弾曲です。ブラームスはロマの民族音楽を素材に用いて、ピアノ連弾用にハンガリー舞曲を作曲したところ、これが爆発的なヒット作になりました。当時は現代と違って録音再生技術がありませんので、曲が売れるとは楽譜が売れるということ。ピアノの普及に伴い、ピアノ連弾用の楽譜の需要が高まっていたんですね。
今でこそ大作曲家として知られるドヴォルザークですが、ドヴォルザークの才能を見出したのはブラームスです。無名時代のドヴォルザークは生計のために奨学金に応募していたのですが、その際に審査員を務めていたのがブラームス。ブラームスは親切にも出版社にドヴォルザークを紹介します。ブラームスのハンガリー舞曲集で一儲けした出版社は、ドヴォルザークにも同様の曲を書いてほしいとリクエストしました。そこで誕生したのがスラヴ舞曲集。この「2匹目のどじょう」狙いはまんまと成功し、ドヴォルザークの名は一躍知られることになりました。出版社としても、なかなか演奏されない交響曲よりも、みんなが弾きたがる連弾曲のほうがビジネスになったのです。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)