今週はジャンルの異なる3人のトップギタリストのみなさんをお迎えしました。ギターほどあらゆるジャンルで使われ、なおかつ歴史のある楽器もないでしょう。文献や図像では13世紀にはすでににギターらしき楽器が登場すると言います。弦の数や材質など、時代とともに形を変えて、19世紀には現代のようなアコースティック・ギターが誕生しますが、この楽器の特徴はそこからさらにエレキギターへの発展を遂げたことでしょう。もともと音の小さな楽器だったギターが、電気的な増幅によりパワフルな楽器に生まれ変わり、ポピュラー音楽の急速な発展に寄与しました。エレキギターは20世紀の象徴的な楽器のひとつといってもよいと思います。
村治佳織さん、押尾コータローさん、マーティ・フリードマンさんの三人が共演する機会など、普通であればまずなさそうなもの。マーティさんは「サックスとピアノくらい違う」とおっしゃっていましたが、同じギターといっても、ずいぶん奏法が違うことに改めて驚きます。特にマーティさんのお話でおもしろかったのは、使用楽器「ジャクソン マーティ・フリードマン・モデル」について。全世界どこに行ってもまったく同じものが手に入るので、楽器を持ち歩く必要がないというのですから、これには目から鱗。アコースティックな楽器と違って、寸分たがわぬ同一の楽器が量産できてしまうんですね。クラシックの楽器とは事情がまるで違います。
三人がいっしょに演奏したのは、ラヴェルの名曲「ボレロ」。もともとボレロとはスペイン舞曲の一種ですから、この曲がスペインゆかりの楽器であるギターにアレンジされることには納得。おなじみのメロディがギターで奏でられると、ぐっと南欧的な雰囲気が漂ってきます。原曲でも斬新で色彩的なオーケストレーションが聴きどころですが、今回の異種ギター共演からも、ふだんは耳にすることのない新鮮な響きが聞こえてきました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)