どんな音楽家にも初めての演奏体験があったはず。今週は現在大活躍中の5人の音楽家に初めての発表会や、プロへの第一歩について語っていただきました。
反田恭平さんがギロックの「ガラスのくつ」を弾いたり、村治佳織さんが「ちょうちょう」を弾く場面は新鮮でした。子供が発表会で弾くような曲でも、やっぱりプロが弾くとなにかが違います。吉田誠さんは本職のクラリネットではなく、3歳で始めたというピアノを演奏。びっくりしましたが、管楽器の場合はある程度身体の成長が必要なので、先にピアノを学んでいるケースも少なくないのでしょう。上野耕平さんの初舞台が「水戸黄門」だったというお話がおかしかったですね。
反田恭平さんのデビューのきっかけについてのお話も印象的でした。桐朋学園の学生たちが出演するカフェで演奏したところ、デビューの声がかかったということでしたが、デビュー前から反田さんに注目していた人はたくさんいたはず。私が反田さんの演奏を聴いたのは、おそらくその学生カフェの場面だったと思うのですが、客席に音楽業界関係者がたくさんいて驚いたことを記憶しています。そこから、瞬く間にコンサートデビューやCDデビューが決まり、反田さんの快進撃が始まりました。
その反田さん、吉田さん、宮田大さんの3人によるトリオが、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第4番「街の歌」で実現しました。高度な技術を持った3人ならではの親密で精彩に富んだ演奏を堪能できました。一般にピアノ三重奏といえば、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの編成ですが、この曲はピアノ、クラリネット、チェロという珍しい編成で書かれています。本日お聴きいただいたのはその第1楽章。この曲の第3楽章では当時の流行歌のメロディが使われています。街で流行の歌を使っているということから、付いた愛称が「街の歌」。機会があったら、ぜひ全曲を聴いてみてください。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)