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題名のない音楽会放送60周年組曲の音楽会

投稿日:2025年03月08日 10:30

 今週は一年間をかけて少しずつ収録を進めてきたスペシャル企画「題名のない音楽会放送60周年組曲」をお届けしました。イメージしたのは、バロック音楽の古典組曲。バッハでいえばフランス組曲やイギリス組曲、無伴奏チェロ組曲といった組曲が典型ですが、前奏曲で始まって、アルマンド、サラバンド、メヌエット、ジーグなど種々の舞曲が続くスタイルです。この古典組曲の枠組みを借りて、出演者のみなさんに一曲ずつ演奏してもらい、ぜんぶそろったところでひとつの組曲として放送しようというプランを立てて、収録を積み重ねてきました。こうしてまとめて聴くと、改めてすばらしい奏者のみなさんに参加していただけたと感じますね。
 全10曲からなる組曲ですが、最初はやはり前奏曲(プレリュード)がよいだろうということで、鈴木優人さんがバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻のプレリュード第1番を弾いてくれました。
 2曲目からはバロック期の舞曲にこだわらず、次々といろいろな踊りの音楽が登場します。第2曲から第5曲まではワルツ・セクション。反田恭平さんのショパン「小犬のワルツ」、角野隼斗さんの自作「大猫のワルツ」、上野耕平さんのボノー「ワルツ形式によるカプリス」、務川慧悟さん、小林愛実さん、反田恭平さんのラフマニノフの「6手ピアノのための小品」よりワルツが並びました。
 第6曲から第8曲は和のセクション。藤原道山さん、本條秀慈郎さん、LEOさんによる和楽器を用いたバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」、LEOさんの「松風」、藤田真央さんの野平一郎「音の旅」より「秋祭り」が演奏されました。
 第9曲と第10曲で、ふたたびバッハが帰ってきます。宮田大さんはバッハの無伴奏チェロ組曲第3番より第5曲ブーレを演奏。ブルース・リウさんはバッハのフランス組曲第5番のジーグを選んでくれました。明るく軽快なジーグは、組曲のしめくくりにぴったり。さわやかな幕切れでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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実はひねくれ者だったエリック・サティの音楽会

投稿日:2025年03月01日 10:30

 今週は異端児として知られるフランスの作曲家、エリック・サティの音楽をお楽しみいただきました。80年代頃、日本でサティのブームが起きました。「ジムノペディ」をはじめ、「グノシエンヌ」や「ジュ・トゥ・ヴ」など、サティの曲がよくBGMに使われるようなります。サティといえばおしゃれなカフェで流れていそうな曲、というイメージはこの頃にできたものでしょう。本日演奏された曲も、なにも知らずに聴けば気持ちのよい音楽ばかりだと思います。
 ところが実際のサティはとんでもないひねくれ者だったんですね。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んだら出版を断られたので、「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を持ち込んだというエピソードなど、並の神経ではありません。奇抜なタイトルの曲はほかにもたくさんあり、「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」などにも、サティのひねくれ者ぶりがあらわれています。
 奇行も多かったようです。自作のバレエ音楽をパリ・オペラ座で上演してもらおうと楽譜を送りますが、これを無視されたために支配人に決闘を申し込んだとか(面会は実現しましたが上演は断られました)、批評家に無礼な手紙を送ったかどで罰金刑を課されたりとか、さまざまな逸話が語り継がれています。
 楽壇の主流派にはなりえなかったサティですが、不思議なことにドビュッシーとは気が合ったようで、若くして知り合って以来、長年にわたる交友関係を築きました。ただし、その友情には複雑なところもあったようです。音楽界の脚光を浴びるドビュッシーに対して、サティは自身の屈従を隠そうとしてか、もっぱら道化役に甘んじたといいます。「梨の形をした3つの小品」は、ドビュッシーに「もっと形式に気を配るべきだ」と指摘されたサティが、その忠告にこたえた書いた作品だとか。サティのひねくれ者ぶりがよく伝わってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~本番

投稿日:2025年02月22日 10:30

 番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」。前回と前々回で練習の模様をお届けしましたが、今回はついに本番を迎えました。東京藝術大学の奏楽堂を舞台に、18歳以下の子どもたちが上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」を演奏してくれました。
 指揮の山田和樹さんが言うには「やる気のある子どもたちが集まった。二度とない経験ができた」。子どもたちの一期一会にかける思いが伝わってきました。こんなにも熱くて濃密な音は、ふつうの演奏会ではなかなか聴けるものではありません。子どもたちは緊張した面持ちで入場してきましたが、いざ演奏がはじまると、音楽に完全に集中している様子。みんなが指揮者をよく見ていることも、映像からわかりました。
 「ツィゴイネルワイゼン」の部分で、子どもたちが入り乱れてソロを奪い合うという趣向にはびっくり。まさか、そんな演出が入るとは! しかもみんなソロが上手なんですよね。「新世界より」の部分も練習の成果が発揮されて、アボカドのような濃厚さ。「ロメオとジュリエット」の部分では、モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、鋭く勢いのある音で表現されていました。
 「ラプソディ・イン・ブルー」の部分は柔らかく、しなやか。山田さんが大好きだと言っていたところですが、ニュアンスに富んだ音に胸がいっぱいになります。最後の「ボレロ」でみんながいっせいに立ち上がった場面も決まっていました。
 山田さんは今回の練習を通じて「こうしなきゃダメ!」といった指示は、ほとんど出さなかったと言います。みんなが自発的に考えて、リハーサルではうまくいかなかったことも本番ではうまくいったとか。本当に頼もしいですよね。子どもたちの前に広がる輝かしい未来に思いを馳せずにはいられません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの練習会~後編

投稿日:2025年02月15日 10:30

 今週は先週に引き続きまして、番組放送60周年を記念したプロジェクト「未来オーケストラ」の全体リハーサルの模様をお届けしました。指揮は世界の第一線で活躍する山田和樹さん。練習の間、次々と金言が飛び出してきて、まったく目が離せません。
 ドヴォルザークの「新世界より」の部分で山田さんが言っていたのは「自分の音を聴くことはすごく大事」。山田さんの指導で、トランペットの音がだんだんまろやかで伸びのある音に変わってゆきます。音のイメージを食べ物で表現する場面もおもしろかったですよね。ふつう、音楽を食べ物で表現する機会はあまりないと思うのですが、子どもたちからは、うどん、ドリア、肉など、いろいろな食べ物が挙がりました。山田さんのイメージはアボカド。石丸さんからは「アボカドをイメージして弾くと、音が粘っこくなった」という解説がありました。とろりとしてホクホクした食感のイメージが子どもたちに伝わったようです。
 第1ヴァイオリンに向かって「ひとりひとりがもっと個性を出して」と指導する場面も印象的でした。大勢で一緒に演奏するのですから、一見、みんなが同じように弾くことを要求しそうなものですが、そうじゃないんですね。目標は「自分にしか出せない音を出す」こと。指導の結果、パッと上を向いたような音が出てきました。
 プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」の部分では、山田さんはこの音楽がモンタギュー家とキャピュレット家の対立を表現したものであることを伝え、戦っている雰囲気を出してほしいと求めます。一気に音楽に命が吹き込まれました。
 「ウィリアム・テル」の部分の練習では、生きるヒントにまで話が及びます。「先回りできる人になったらすごい」。それが思いやりとつながっているのであり、人生がうまくいくと言います。子どもたちだけにとどまらず、大人にとっても学びの多いリハーサルだったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩山田和樹が育む未来オーケストラの練習会~前編

投稿日:2025年02月08日 10:30

 番組放送60周年を記念してスタートした新プロジェクトが、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」。今回は山田和樹さんの指揮による初めての全体リハーサルの模様をお届けしました。世界の第一線で活躍する山田さんが子どもたちを指導する様子が本当に興味深かったですよね。音に命が吹き込まれてゆくプロセスを目の当たりにした思いです。
 よく「指揮者はなにをしているのかわからない」と言われたりしますが、リハーサルの風景を見れば指揮者の重要性は一目瞭然。もちろん、プロのオーケストラと子どもたちのオーケストラではリハーサルのあり方は違うでしょうが、メンバーたちを触発し、ひとつの方向に向かうように導くという点では同じでしょう。山田さんが子どもたちにくりかえし求めていたのは「存在感」。音量が欲しいわけではなく、音に存在感がほしいのだと言います。
 ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で、山田さんは「僕を見てほしい」と要求します。楽譜だけを見るのではなく、指揮者を見る。そのためにまちがえたのなら責めないと言って、コミュニケーションを促します。山田さんの棒に合わせて、手拍子を打たせる練習がありましたが、その後で演奏をすると、みんながひとつになって棒の動きにぴたりとついていきます。山田さんの自在の棒にこたえて、格段に音楽が表情豊かになっているのがよくわかりました。
 ベートーヴェンの交響曲第7番でのコントラバスのシーンもおもしろかったですね。山田さんは弓をぜんぶダウンで弾いてみるように提案します。実際にやってみると、子どもたちはほとんどがふつうに弓を返すほうが好きだと答えます。山田さんは残念そうですが、そこでダウンを一律に求めるのではなく、子どもたちの自主的な選択に任せてしまうのが印象的でした。
 これから「未来オーケストラ」がどう変わってゆくのか。次回の後編も見逃せません!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編

投稿日:2025年02月01日 10:30

 今週は伊集院光さんをお招きして、人気企画「3曲でわかるクラシックの音楽会~オペラ編」をお届けしました。ソプラノの森麻季さん、テノールの西村悟さん、バリトンの大西宇宙さんが、それぞれの声とオペラの役柄の関係を解説してくれました。
 今回、歌われたのはプッチーニの「蝶々夫人」および「トゥーランドット」、そしてビゼーの「カルメン」に登場する名曲でした。この3作品はオペラ入門にもふさわしい傑作だと思います。
 プッチーニの「蝶々夫人」はなにしろ明治時代の長崎が舞台なのですから、日本人にとっては特別な作品です。没落藩士の娘、蝶々さんは芸者になり、アメリカ海軍士官ピンカートンと出会います。ふたりは結婚しますが、ピンカートンにとって蝶々さんはひとときの恋の相手。蝶々さんを見捨てて帰国してしまいます。蝶々さんは夫に一途な愛を捧げており、帰ってくると信じて「ある晴れた日に」を歌うのです。悲愛の物語であると同時に、個人と家の関係、国と国の関係など、いろんなテーマが作品に盛り込まれています。
 同じくプッチーニの「トゥーランドット」は北京を舞台にした名作。異国の王子たちが皇帝の娘トゥーランドットの課した3つの謎に挑むも、正解できず次々と処刑されるなかで、カラフだけが正しい答えを言い当てます。「だれも寝てはならぬ」はとてもカッコいい曲ですよね。全編にわたってスペクタクルにあふれ、プッチーニのオペラのなかでもっとも壮麗な作品だと思います。
 ビゼーの「カルメン」は生まじめな兵士ホセが自由奔放なカルメンと恋に落ち、道を踏み外すという物語。ホセを愛したカルメンですが、闘牛士エスカミーリョに心移りしてしまいます。「闘牛士の歌」をはじめ、このオペラは親しみやすいメロディの宝庫。ビゼーの天才ぶりが爆発した「オペラの中のオペラ」と言ってよいでしょう。
 決して堅苦しいものではありませんので、まだ観たことがないという方は、ぜひオペラを劇場で体験してみてください。無尽蔵の楽しみが待っています!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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平均年齢60歳の新人バンド!葉加瀬太郎&THE LADSの音楽会

投稿日:2025年01月25日 10:30

 今週は葉加瀬太郎&THE LADSのみなさんをお招きしました。葉加瀬太郎さんがジャンルの枠を超えて日本のトップ奏者たち9人と新たに結成したのがこのバンド。平均年齢60歳のベテランぞろいのメンバーながら、バンドとしては新人です。LADSとは若者たちの意。新しいことにチャレンジしていこうという気概がネーミングから伝わってきます。
 メンバーはドラムの屋敷豪太、ベースの渡辺等、パーカッションの田中倫明、キーボードやフルート他のマルチプレイヤーである大島俊一、マニピュレーターの八巻誠、ギターの田中義人、天野清継、チェロの柏木広樹、ピアノの羽毛田丈史。これら日本のトップミュージシャン9名にヴァイオリンの葉加瀬太郎が加わります。百戦錬磨のミュージシャンたちによる、まったくスタイルの異なる4曲をお楽しみいただきました。
 1曲目は天野清継作曲の「Moon Beams」。クロスオーバー、ジャズ、フュージョンの融合から生まれたという曲で、ソロの見せ場が満載。輝かしく、開放的なエネルギーにあふれていました。
 2曲目は柏木広樹作曲「VIDA FELIZ」。「幸せな人生」を意味する曲名にふさわしく、明るく軽快な曲調に心が浮き立ちます。葉加瀬さんのヴァイオリンは爽快。フルートのソロもカッコよかったですよね。
 3曲目は葉加瀬さん作曲の「“WATUUSI”!!」。耳なじみのない言葉ですが、“WATUUSI”(ワトゥーシ)とは「パーティでいちばん目立っているヤツ」なのだとか。ハモンドオルガンのレトロ感漂う音色が効いています。葉加瀬さんのエレキヴァイオリンも熱い!
 ドラムソロをはさんで4曲目は羽毛田丈史・葉加瀬太郎作曲の「Lads in Town」。カントリー、ブルーグラス、ジャズ、R&Bといったさまざまな要素が合わさって、独自のヴァイオリン音楽が生み出されていました。すばらしい高揚感でしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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葉加瀬太郎が直接指導!題名プロ塾の軌跡

投稿日:2025年01月18日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」のこれまでの軌跡をたどりました。プロの音楽家を目指す若者たちのために、葉加瀬さんがポップスの演奏法を指導するこのシリーズは、これまでに4回、開催されています。第1回の林周雅さんをはじめ、堀内優里さん、ミッシェル藍さん、新美麻奈さんの4名の合格者がこれまでにプロデビューを飾ってきました。
 第1回の林周雅さんの回は懐かしかったですね。「情熱大陸」のアドリブ演奏で、まさかの風船を使った演奏を披露。この荒技には度肝を抜かれましたが、オーボエ奏者の最上峰行さんからは手厳しいコメントが。でも、終わってみれば林周雅さんが見事に合格。その後の活躍ぶりには目覚ましいものがあります。
 林さんはポップスもクラシックもどちらの分野でも旺盛な活動を続けています。林さんが第2ヴァイオリンを務める弦楽四重奏団、ほのカルテットは大阪国際室内楽コンクール2023で第2位を獲得する快挙をなしとげました。注目度の高いコンクールですので、新たな弦楽四重奏団が頭角を現してきたという強い印象をクラシック音楽界に残しました。
 林さんのお話で印象に残ったのは、クラシックとポップスの違い。「リズムの感覚が真逆。クラシックではリズムの揺らぎが大切だが、ポップスはリズムが一定であることが大切」と話していました。クラシックの古典的なレパートリーでは、その作曲家や作品に応じた自然なリズムの揺らぎがあるもの。これをどう揺らがせるか、という点に奏者のセンスが現れます。しかし、クラシックであっても新しい時代の曲では、林さんの言うようにジャンルの垣根があいまいになり、ポップス的なインテンポの演奏が求められることも珍しくありません。クラシックもポップスも演奏できることは、これからの奏者にとって大きな武器になってゆくことでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑩「山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~誕生」

投稿日:2025年01月11日 10:30

番組放送60周年を記念して新たなプロジェクト、18歳以下の子どもたちによる「未来オーケストラ」がスタートしました。
 指揮を務めるのは、世界的指揮者の山田和樹さん。山田さんは2009年に第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したことをきっかけに国際的な注目を集め、現在はモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、さらにバーミンガム市交響楽団首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーを務めるなど、目覚ましい活躍をくりひろげています。欧米のトップレベルのオーケストラへの客演も多く、昨年はニューヨーク・フィルやサンフランシスコ交響楽団にデビューを果たし、今年6月には世界最高峰の楽団であるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会へのデビューが予定されています。ベルリン・フィルへのデビューともなれば、日本のみならず世界中の音楽関係者から注目が集まることはまちがいありません。
 そんな超多忙な山田さんが今回の企画では自らオーディションに立ち会って、書類審査を通過した104名もの参加者ひとりひとりを審査してくれました。オーディションは5時間にわたる長丁場となりましたが、その結果、山田さんが出した結論はまさかの「全員合格」! 全員そろって、クラシックの名曲をメドレーでつないだ「クラシックのおもちゃ箱」に挑戦することになりました。
 参加してくれた子どもたちは年齢も楽器もさまざまでしたが、音楽にまっすぐに向き合う姿勢は同じ。山田さんはオーディションを通じて、何人もの逸材に出会います。なかには以前に番組に出演してくれた懐かしい顔ぶれも。ほとんどの子が将来は音楽家になりたいと語ることに対して、山田さんは「もはや運の問題」と語ります。ふさわしい先生に出会うことの大切さ、そして最終的には「センスと表現力」が求められるのだというお話が印象に残りました。
 はたしてどんなリハーサルでは、山田さんがどんな指導をしてくれるのか。続きが楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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箏の革命者をたどる休日~失われた音を求めて~

投稿日:2025年01月04日 10:30

 あけましておめでとうございます。今週はLEOさんとともに、筑紫箏を巡る旅へと出かけました。
 現在の箏の起源をたどると安土桃山時代に九州北部で始まった筑紫筝にたどり着くといいます。筑紫筝曲の創始者は北九州の善導寺の僧侶、賢順。賢順は幼少時に善導寺で善導寺楽を通して筝と出会いました。賢順の弟子であった法水は、江戸で八橋検校に出会います。もともと三味線の名手として名を馳せていた八橋検校は、法水から筑紫箏を学んで箏に転向し、芸術音楽としての近世箏曲を確立するに至りました。
 佐賀県多久市の郷土資料館でLEOさんたちが目にしたのは、450年前の筑紫筝。そんなに昔の楽器なのに保存状態は意外と良いようですね。全面漆塗りで、美術品としての価値も感じさせる点は、西洋音楽の楽器と似ています。それにしても16世紀後半に製作された楽器が現存しているのはすごいことではないでしょうか。よくヴァイオリンの名器として、イタリアのストラディヴァリウスが挙げられますが、ストラディヴァリウスは17世紀後半から18世紀初めに製作されていますので、筑紫筝はさらに古い時代の楽器ということになります。
 残念ながらオリジナルの楽器を鳴らすことはできませんが、筑紫筝曲研究の第一人者、宮崎まゆみ先生のご協力により、復元楽器の筑紫筝をLEOさんに弾いてもらうことができました。「だいぶ小さくて、かわいらしい」と話すLEOさん。弾き方もずいぶん異なるようです。LEOさんが復元楽器で演奏してくれたのは「小倉の曲」。芯があって深みのある音色が印象的でした。グリッサンドにも味わいを感じます。
 さらにLEOさんは筑紫筝と二十五弦筝を用いて、旅から得たインスピレーションをもとに作った「常若」を演奏。幽玄な筑紫筝ときらびやかな二十五弦筝を組合せて、幻想的な世界を描き出していました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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