今週のテーマは「コンクール優勝者の音楽会」。コンクールの目的は、すぐれた若い才能を発掘すること。通常は年齢制限があります。有名な国際コンクールには世界中から優秀な若者たちがこぞって集まります。難関をくぐり抜けて、権威あるコンクールに優勝することは、まさに「ミッション:インポッシブル」。
しかし、本当に大変なのは、優勝を果たした後でしょう。一時の話題を呼ぶだけではなく、たゆみなく成長を続け、聴衆の支持を獲得しなければなりません。今回ゲストに登場したピアニストの萩原麻未さんとチェリストの宮田大さんは、ともに著名なコンクールで優勝を獲得していますが、その上で、優勝後も着実にキャリアを深めているところがすばらしいですよね。
コンクールのファイナルでも演奏したというラヴェルのピアノ協奏曲とドヴォルザークのチェロ協奏曲。どちらもおふたりのキャラクターに合っているような気がしませんでしたか。才気煥発としたラヴェルと情感豊かなドヴォルザーク。それぞれ、まるで萩原さんと宮田さんのために書かれた作品であるかのようです。
ドヴォルザークのチェロ協奏曲で、宮田さんが「母への思い」を語っていましたが、この作品には作曲者のいろいろな思いが込められています。ひとつは「望郷」でしょう。ドヴォルザークは、故郷プラハをはるか離れて、ニューヨークで音楽院の院長を2年間にわたって務めました。19世紀末のことですから、ジェット機で大西洋をひとっ飛びというわけにはいきません。民謡風のメロディから故郷への思いが伝わってきます。
もうひとつはかつて恋した女性、ヨセフィーナへの思い。作曲中にヨセフィーナ重篤の報せを受け、ドヴォルザークは彼女が好んでいた歌曲のメロディを作品に引用します。ドヴォルザークが帰国してまもなく、ヨセフィーナは息を引き取りました。
ちなみに、ドヴォルザークの奥さんアンナは、ヨセフィーナの妹さんです。好きだった人に失恋して、結局、その人の妹と結ばれた……。よくある話といえば、よくある話でしょうか?