今週は藤岡幸夫さん、山田和樹さん、三ツ橋敬子さんの三人の指揮者が集まって、歴代の名指揮者や指揮の秘密について語ってくれました。指揮者同士が語り合う風景って、それだけでもなんだか新鮮ですよね。
それぞれ憧れの名指揮者をひとりずつ挙げてくださりましたが、その人選がとても興味深いものでした。
藤岡さんは「帝王」カラヤン。20世紀後半の楽壇に君臨した大指揮者といえば、この人。ベルリン・フィルとともに流麗で輝かしいサウンドによって一時代を築きました。藤岡さん曰く、「カラヤンはライブの人」。カラヤンというと録音でも映像でも徹底的に作り込んだ記録を残す人というイメージがありますが、本領を発揮するのはライブだったといいます。これが言えるのはカラヤンの生演奏を体験している世代だからこそですね。
三ツ橋さんが挙げたのは天才肌のカルロス・クライバー。おそらくクライバーほど指揮姿の美しさで人々を魅了した指揮者はいないでしょう。クライバーはカラヤンとは正反対で、録音にも録画にも消極的で、しまいには指揮をすることすら珍しくなってしまい、存命中に半ば伝説の人になってしまいました。ですから、残された映像は限られているのですが、そのインパクトは絶大。三ツ橋さんによれば、「音楽が伝わってくる」指揮姿。ほれぼれとするようなしなやかな身振りには、各々に意味があって、それがプレーヤーに伝わるというあたりがクライバーの天才たるゆえんでしょうか。
山田さんはストコフスキを挙げていました。ストコフスキは既存の常識にとらわれず、次々と新しいアイディアを実現した人です。古い時代の大指揮者ですが、テンポの動かし方など独特の解釈を聴かせてくれることから、今でも根強い人気があります。ストコフスキ・ファンの方は快哉の声をあげたのでは。
三者三様、納得の人選だったのはないでしょうか。
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歴代の指揮者を語る音楽家たち
山田和樹と日本一の合唱団の音楽会
今週は「山田和樹と日本一の合唱団の音楽会」。
社会人から高校生まで、それぞれの世代で輝かしいコンクール歴を誇る合唱団を、世界的指揮者の山田和樹さんが指揮したらどうなるのか。そんな興味深い試みが実現しました。
山田和樹さんといえば、モンテカルロ・フィル芸術監督(9月~)、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィル正指揮者など、各地のオーケストラで要職に就く一方で、東京混声合唱団音楽監督も務めています。トップレベルの指揮者によるリハーサル風景を見られるという意味でも貴重な機会でした。
山田さんがどんな指導をするのか、事前にまったく予想がつかなかったのですが、いざ始まってみると短時間のなかで次々とリクエストを出して、作品に命を吹き込んでいきます。ほんの一言だけの指示でも、一気に音楽の表情が変わるのには驚かされました。山田さんの指導には「もっと花の香りがするように」といった比喩的な示唆もあれば、具体的な歌い方を指示するものもありました。そして、これらをただちに音楽に反映できてしまうのも、合唱団の実力があってこそ。教える側と教わる側がぴたりとかみ合って、密度の濃い練習になっていたと思います。
以前、山田さんにインタビューをしたときに「オーケストラの音は指揮者によってまったく変わる。不思議なことに、指揮台に立っただけでもその人の音が出てくる」といったお話をうかがいました。もしかすると、同じことが合唱団についても言えるのかもしれません。山田さんが合唱団の前に立った時点で、すでになにか化学反応が始まっているような気がするんですよね。
豊島岡女子学園コーラス部、東京フラウエン・カンマーコール、コンビーニ・ディ・コリスタ、どの団体にも劇的な変化が感じられました。特に印象的だったのが豊島岡女子学園コーラス部による木下牧子作曲「おんがく」。十代ならではの鋭敏な感受性がそのまま曲に直結しているようで、胸に迫るものがありました。
平成VS昭和 いま歌いたい合唱曲の音楽会
懐かしの一曲と再会した方も多かったのではないでしょうか。今週は「平成VS昭和 いま歌いたい合唱曲の音楽会」。昭和生まれと平成生まれの世代別にランキングが発表されました。
昭和生まれとしては「えっ、今はこんな曲が歌われているの?」と驚くような曲も。ボーカロイドの初音ミクが歌った「桜の雨」って、ご存知でしたか。作詞作曲はhalyosyさん。卒業の歌として広まっているのだそうです。今の時代ならではの新たな名曲と呼ぶべきでしょうか。
懐かしかったのは「気球にのってどこまでも」。かつて学校で歌ったという方も多いはず。長年、耳にする機会はありませんでしたが、聴けば一瞬で思い出す。そんなノスタルジックな一曲です。
合唱界の人気曲に交じって、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」がランク入りしていたのも印象的でした。こちらはモーツァルトがわずか35歳にして世を去る1791年に書かれた賛美歌。精妙でニュアンスに富み、宗教の枠を超えて歌い継がれています。
昭和生まれの第1位は「大地讃頌」。これは納得の結果でしょう。不動の人気ナンバーワンと言いましょうか、これほど愛唱されている合唱曲もありません。
指揮の山田和樹さんは現在、東京混声合唱団の音楽監督、さらには理事長まで務めています。ベルリンに拠点を置き、オーケストラの指揮者としてモンテカルロ・フィル音楽監督、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者等々、いくつものポストを持って世界中を飛び回っています。それでいて合唱の分野にもこれだけ力を注いでいるのですから、日本一多忙な指揮者といってもいいかもしれません。
山田和樹指揮東京混声合唱団という超強力コンビで聴く、おなじみの合唱名曲。プロが歌うとこうなるのか!という感動がありました。
指揮者のわがまま音楽会
指揮者のわがままって、いったいなんだろう……と思ったら、こういうことだったんですね。ノーリハーサルでの本番、楽団員の暗譜演奏、バラバラの楽器配置、楽団員が歌って演奏。どれも実際のコンサートではまずありえないようなことばかり。でも指揮者の山田和樹さんのお話を聞くと、音楽的な狙いがあってのことと知って納得しました。
ノーリハーサルで演奏してくれたのはプロコフィエフの「古典交響曲」の第3楽章。自在にテンポを動かしながら、強弱の表現もはっきりと付けた演奏でした。リハーサルがなくても、指揮のテクニックだけでこれだけ音楽を作ることができるとは。リハーサル嫌いの歴史的大指揮者クナッパーツブッシュも、こんなふうに指揮をしていたのでしょうか。
楽団員の暗譜演奏にもびっくりしました。指揮者で暗譜をする方は決して珍しくはありませんが、楽団員が暗譜で演奏する姿を見たのは初めて。譜面台がないと、ずいぶんオーケストラの景色が違って見えます。なにかさっぱりした感じ、とでもいいましょうか。暗譜のおかげなのでしょう、すこぶる精彩に富んだ「フィガロの結婚」序曲を聴くことができました。19世紀の名指揮者ハンス・フォン・ビューローが楽団員に暗譜を求めたのは、こんなスリリングな演奏を実現したかったからなのかもしれません。
いちばん予測が付かなかったのは、楽器のバラバラ配置。近年、一般的なストコフスキ式の楽器配置を見直して、それ以前のヴァイオリンを両翼に分ける対向配置を復活させようというトレンドが一部にあるのですが、山田さんのアイディアはもっと過激で、楽器ごとにグループを作らないという自由配置でした。さすがに楽器間の音のバランスは保てなくなってしまいますが、普段とは違った響きが生まれてくるのがおもしろかったです。オーケストラは集団である以前に、ひとりひとりのプレーヤーたちの集まりなんだな、ということも改めて感じました。