現在オリンピックが開催されるパリでは世界中からアスリートたちが集まっていますが、パリはアーティストたちが集う芸術の都でもあります。今週は出口大地さん指揮東京フィルが、パリで生まれた名曲を演奏してくれました。演奏されたのはロッシーニ、ストラヴィンスキー、ガーシュインの作品。いずれも外国からパリにやってきた作曲家たちです。
ロッシーニはイタリア・オペラのヒットメーカー。「セビリアの理髪師」などで大成功を収めると、その人気はイタリア国外にも広がりました。やがてパリに招かれるとセンセーションを巻き起こし、フランス国王から「国王の首席作曲家」なるポストを与えられます。そんなロッシーニがパリの聴衆のために書いたオペラが「ウィリアム・テル」。当時37歳だったロッシーニはこれを最後にオペラ作曲家から引退し、以後はフランス政府から終身年金を得て、ロッシーニ風ステーキの発案など、美食家として名を馳せることになりました。
ロシア生まれのストラヴィンスキーは、ロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフに才能を見出され、バレエ音楽「火の鳥」を作曲します。パリで上演された「火の鳥」は大きな話題を呼びました。続くバレエ音楽「ペトルーシュカ」「春の祭典」は激しい賛否両論を巻き起こし、ストラヴィンスキーは一躍、時代を代表する作曲家となりました。
アメリカのガーシュインは、ミュージカルやジャズの世界で華々しい成功を収めた作曲家です。「ラプソディ・イン・ブルー」をきっかけに、クラシック音楽界でも注目を浴びるようになりましたが、ガーシュインは正規のクラシックの教育を受けていません。そこでガーシュインはパリに渡り、ラヴェルに教えを乞おうとしました。しかし、ラヴェルはこう言ったのです。「君はすでに一流のガーシュインなのだから、二流のラヴェルになることはない」。そんなガーシュインがパリの活気に刺激を受けて作曲したのが「パリのアメリカ人」です。花の都の賑わいが伝わってきましたね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)