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名指揮者の考察シリーズ!ボレロはなぜ繰り返すのか?を探る音楽会

投稿日:2025年08月02日 10:30

 今週は「名指揮者の考察シリーズ」。角田鋼亮さんにラヴェルの「ボレロ」について考察していただきました。
 ラヴェルの「ボレロ」は1928年の作曲。ラヴェルの代表作であるばかりか、フランス音楽屈指の人気曲として親しまれています。この曲はもともとはバレエのための音楽として作曲されました。スペイン風のバレエ音楽を書いてほしいと頼まれたラヴェルは、当初、スペインの作曲家アルベニスのピアノ曲「イベリア」をオーケストラ用に編曲しようと考えていました。ところが編曲の権利を巡る問題から計画が頓挫し、代わりに急遽オリジナルの作品を書くことに決めます。こうして短期間で完成されたのが「ボレロ」。延々と同じメロディをくりかえすこの曲は多くのオーケストラから演奏を拒否されるだろうと作曲者は考えていました。ところが、実際の反応は正反対。「ボレロ」は大成功を収め、各地のオーケストラがこぞって演奏する人気曲となったのです。
 指揮者の角田鋼亮さんは、「ボレロ」のくりかえしは人間の一生を表現したものだと考察します。スネアドラムが反復するリズムにベートーヴェンの「運命」の動機のリズムを読み取り、人が抗うことのできない運命のレールが敷かれていると解します。2つのメロディが表すのは、ひとつは「平穏な日常」、もうひとつは「変化と刺激」。なるほど、両者の交替は人生そのものです。曲の終盤の転調で高みに到達し、タムタムとともに人生の終着点を迎えます。とても説得力のある解釈だと思いませんか。
 こういった角田さんの解釈は、東京フィルの演奏にもしっかりと反映されていたと思います。前へ前へと進むエネルギッシュな演奏は、まさしく止まることのない人生。情熱にあふれた力強い「ボレロ」に圧倒されました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ワーグナーの壮大な楽劇『ラインの黄金』を知る音楽会

投稿日:2025年07月26日 10:30

 オペラの超大作といえば、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」。「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の全4部からなりますので、通して上演するには4日間が必要です。
 4部作のなかでは今回特集した「ラインの黄金」がいちばん短く、上演時間は2時間半ほど。いちばん長いのはおしまいの「神々の黄昏」で、こちらは正味4時間半くらいあります。「神々の黄昏」では幕間の休憩もたっぷり入りますので、実際の上演には6時間ほどかかります。そんな長丁場をオペラ歌手のみなさんは大編成のオーケストラと渡り合って歌うのです。はっきり言って、超人です。
 物語のスケールの大きさも尋常ではありません。今回の「ラインの黄金」は、ライン川の乙女たちが、地底のニーベルング族のアルベリヒに黄金を盗まれるところから物語が始まります。ラインの黄金で作った指環があれば権力は思いのまま。一方で神々の長であるヴォータンは、女神フリッカを報酬として巨人族にヴァルハラ城を建てさせるのですが、いざ完成すると、フリッカを渡す気などなく、狡猾な火の神ローゲと一計を案じて地底に向かいます。そして、策略でアルベリヒから指環や財宝をとりあげてしまいます。神様なのに卑怯ですよね。ヴォータンは巨人族に報酬として財宝を与えるのですが、その際に、指環まで要求されてしまいます。本当は指環を渡したくないヴォータンですが、智の女神エルダの警告に従って、指環を巨人族の兄弟に渡します。するとさっそく呪いが発動して、指環を欲する兄弟同士の殺し合いが起きるのです。
 北欧神話等が物語の題材になっていますが、オペラの台本を書いたのはワーグナー自身。すごいですよね。台本も曲もひとりで書いているのです。この物語は最後に「神々の黄昏」、すなわち神代の終焉までたどり着きます。なんという壮大さ。人類が生んだもっとも偉大なオペラのひとつと呼んでも過言ではありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名指揮者の考察!ショスタコーヴィチの隠されたメッセージを探る音楽会

投稿日:2025年07月19日 13:42

 今年没後50年を迎えたショスタコーヴィチは、20世紀最大の交響曲作曲家のひとり。その作品の真意を巡る議論は尽きることがありません。なにしろ当時はソビエト共産党による文化統制が敷かれていましたので、芸術家たちは自由な表現を許されていませんでした。国家の方針に逆らう者は粛清されるという危険な状況で、文字通り命がけの活動を余儀なくされていたのです。
 そこで、ショスタコーヴィチが用いたのは、作品にメッセージを巧妙に隠すという手法。今回は指揮者の沼尻竜典さんが、隠されたメッセージについて考察してくれました。
 交響曲第10番に隠されていたのは「ラブレター」。なんだか意外ですよね。この曲にはふたつのイニシャルが込められていると言います。ひとつはショスタコーヴィチのイニシャルからとったD-S-C-H(レ-ミ♭-ド-シ)。ドイツ語ではミ♭をEsと呼ぶので、SをEsに当てはめています。沼尻さんによれば、これは「政治に翻弄される自身の姿」。この音型はショスタコーヴィチのさまざまな作品に登場するのですが、決して耳に心地よい音ではなく、まるで警告を発するような雰囲気があります。
 もうひとつのイニシャルは思いを寄せていた教え子、エルミラ。少し変則的なのですが、ELMIRAをE-L(a)-MI-R(e)-Aというふうに音名をイタリア語とドイツ語でミックスして読んで、ミラミレラに当てはめています。ホルンがこの主題を奏でていましたが、たまたまというべきなのでしょうか、D-S-C-Hとは対照的にロマンティックな性格が感じられるのがおもしろいところです。
 交響曲第5番は、党から批判されて窮地に陥っていたショスタコーヴィチが名誉を回復した作品です。なにも知らずに聴けばとても輝かしいフィナーレだと感じます。当局はこの曲を成功作だと認めました。しかし沼尻さんは、ここにショスタコーヴィチの旧作、プーシキンの詩による4つのロマンスから第1曲「復活」が引用されていると指摘し、これは「強制された歓喜」だと言います。凡庸な画家が天才の絵を塗りつぶすけれど、時が経つと絵の具が剥がれ落ちて、本来の天才の絵があらわれる、という詩は、状況を考えればかなり物騒な内容です。
 同じ曲を聴き方によって勝利とも皮肉とも受け止めることができる。音楽とはおもしろいものだと思いませんか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名演奏家の陰に名指導者あり

投稿日:2025年07月12日 10:30

 音楽家にとって不可欠とも言えるのが、才能を開花させる指導者の存在。今回はピアニストの角野隼斗さんを育てた名教師、金子勝子さんの指導法に迫りました。角野さんは「金子先生がいなかったら僕はピアニストになっていなかった」と言います。
 金子先生が20年をかけて考案した独自のメソッドが「指セット」です。すべての指を自在にコントロールするための基礎練習に用いられます。生徒のレベルや年齢に関係なく、曲の練習前に「指セット」を指導するのだとか。このトレーニングについて、角野さんが語った言葉でとりわけ印象に残ったのは「金子先生はシンプルなフレーズでも音楽的に弾かないことを許さない」。メカニックを鍛えることを最終的な目的にするのではなく、あくまでも音楽を表現するための練習なのだということがよくわかります。
 今回は、角野さんが小学5年生頃に初めて弾いたというショパンの「木枯し」を演奏してくれました。角野さんとショパンといえば、思い出すのは2021年のショパン国際ピアノ・コンクール。インターネットでライブ配信されたこともあり、セミファイナルまで進む様子が大きな話題を呼びました。それまでの活躍ぶりから、角野さんを従来のクラシック音楽の枠に留まらないタイプのピアニストと思っていたので、伝統と格式を誇るショパン・コンクールに参加したことを意外に感じたのを覚えていますが、その背景には金子先生の後押しがあったんですね。ピティナ・ピアノコンペティション特級に挑戦した際の「僕よりも先生のほうが僕のことを信じていた」という角野さんの言葉にも、グッとくるものがありました。
 おしまいに演奏されたのは、ガーシュウィンの名曲「アイ・ガット・リズム」にもとづく変奏曲。レベル1、レベル2、レベル3……と、どんどん技巧的に変奏され、ショパンの「英雄ポロネーズ」の引用をさしはさみながら、最後は華麗なレベル10へ。爽快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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宮殿で育まれる!ウィーン少年合唱団の音楽会

投稿日:2025年07月05日 10:30

 今週はウィーン少年合唱団のみなさんをお招きしました。その清澄な声はまさしく「天使の歌声」。少年合唱団ならではの透き通った清らかな声がすばらしかったですね。
 ウィーン少年合唱団のはじまりは、1498年に神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世が創設した宮廷礼拝堂の少年聖歌隊まで遡ります。なんと、500年を超える歴史があるとは。かつてはウィーン生まれの大作曲家シューベルトもこの合唱団に所属していました。
 現在は9歳から14歳の約90人が所属し、モーツァルト組、ハイドン組、シューベルト組、ブルックナー組というオーストリアの作曲家たちの名前がついた4つの組に分かれています。合唱団全体では毎年約300回ものコンサートを開催しており、4つの組が交替で演奏旅行に出かける仕組みになっています。今回出演してくれたのはモーツァルト組。モーツァルト組には日本人の団員が2名いましたが、ほかにもいろいろな国からやってきた団員がいて国際色豊か。昔のイメージとはずいぶん変わり、すっかり多国籍化が進んでいます。もっとも、子どもたちが話すのはドイツ語。国外からやってきた子どもたちはみんな寮生活を通して、身につけて行くのでしょう。歌とドイツ語を学んだ経験は、きっと卒団後も大いに役立つにちがいありません。
 卒団生は音楽の道に進む子もいれば、まったく違う分野で活躍する子もいて、さまざま。歌手ではカウンターテナーのマックス・エマヌエル・ツェンチッチがウィーン少年合唱団の出身。ウィーン・フィルのダニエル・フロシャウアー楽団長もこの合唱団の出身です。
 カペルマイスター(指揮者)のマヌエル・フーバーさんが、すごく日本語を上手に話すのでびっくりしましたが、フーバーさんが教えてくれたウィーン少年合唱団のモットーは「歌う人は幸せな生活を送れ、人を幸せにすることもできる」。これはとてもすてきな言葉だと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ジャンルの境界線を超えた音楽会

投稿日:2025年06月28日 10:30

 今週はジャンルの境界線を越えた音楽をテーマに、世界最高峰の名歌手サラ・ブライトマン、箏のLEO、ビートボックスのCOLAPSのみなさんをお招きしました。まさかの豪華共演の実現です!
 サラ・ブライトマンといえば、クラシックとポップスを融合させた「クラシカル・クロスオーバー」の第一人者。とくに有名なのは世界的大ヒットになった「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」でしょう。もともとはイタリアのオペラ歌手ボチェッリが歌っていた曲でしたが、サラ・ブライトマンとのデュエットによって人気に火が付きました。今回、その「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」を番組のために歌ってくれたのですから、感激せずにはいられません。甘くのびやかなエンジェルボイスは健在! ステージに立った瞬間から、特別なオーラが発せられているように感じました。
 さらに今回はビートボックス世界王者のCOLAPSさんも出演。COLAPSさんはパリ出身で、現在は東京を拠点に活動しています。日本文化への興味からLEOさんの箏との共演が実現しました。人間技とは思えないほど多種多様な音を自在に用いた演奏には、圧倒されるばかり。とくに舌を使ったドラムのハイハット! あんなに金属的な音を人体から出せるなんて信じられません。LEOさんとの共演では電子音のようなサウンドと鳥の鳴き声のような自然の音を箏の音色に巧みに融合させて、独自の世界を作り出してくれました。
 イングランド民謡「スカボロー・フェア」では、サラさんとLEOさんが共演。もともとはギターで演奏されるパートが箏で演奏されましたが、やはり伝統曲だけあって、洋の東西を超えて伝統楽器との相性がよいなと感じました。ありとあらゆるアーティストたちによって演奏されてきた名曲に、またひとつ新たな名演が加わったように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界を変える!!超新星の音楽会

投稿日:2025年06月21日 10:30

 今週は新世代のふたりの音楽家、古里愛さんと松井秀太郎さんをお招きしました。
 ピアノの古里愛さんは現在13歳。アメリカの名門、バークリー音楽大学に史上最年少の12歳で入学し、奨学生として在籍しています。12歳で大学に入学するということ自体がとてつもないことですが、それもあのバークリー音楽大学なのですから、驚きです。古里さんの目標のひとつは、20歳までにグラミー賞を受賞すること。すでに将来に向けての具体的なビジョンを描いているところが、すばらしいと思いました。お話からも聡明さがひしひしと伝わってきて、まだ13歳だということを忘れてしまいます。
 古里さんが1曲目に演奏したのは「This Moment」より。これを11歳で書いたといいますから、非凡というほかありません。2曲目は新曲の「the Shared」。日本の音階をベースラインに用いて日本人である自分自身を表現しているのだとか。変化に富んだリズムがおもしろいですよね。自由に羽ばたくような高揚感がありました。20歳までの目標として、グラミー賞受賞に加えて「ジャズスタンダードを作曲する」「クラシックを演奏する人にも愛される曲を作る」といった項目が掲げられていましたが、もしかするともっと早くにそうなるかも、という期待を抱かせます。
 トランペットの松井秀太郎さんは、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」と、サン=サーンスの原曲を松井さんが編曲した「DANSE MACABRE」を演奏してくれました。サン=サーンスの原曲は交響詩「死の舞踏」。骸骨がカチャカチャと音をたてながら踊るというグロテスクなユーモアを含んだ曲です。これが松井さんの手にかかると、自由で楽しくて、洒落っ気のある音楽に変身します。カッコいいですよね。
 おしまいは古里さんと松井さんの初共演で、オスカー・ピーターソンの「自由への賛歌」。ポジティブなエネルギーにあふれたフレッシュでのびやかな音楽を堪能しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新しい音楽の突破口!不協和音の音楽会

投稿日:2025年06月21日 10:18

 今回は「不協和音」が、いかに新しい音楽の世界を切り拓いてきたかをテーマにお届けしました。鈴木優人さんの解説で、「不協和音」とは避けるべきものではなく、むしろ音楽に不可欠な要素であることがよく伝わってきたのではないでしょうか。
 最初にモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」の例が示されましたが、現代の聴衆の感覚では、この曲がなぜ「不協和音」と呼ばれるのか、不思議に感じられると思います。曲名からどんなに恐ろしい音がするのかと思いきや、そこまでの違和感はありません。でも、当時は物議をかもしたのです。
 ベートーヴェンの「第九」の終楽章冒頭でも不協和音が鳴り響きます。一種のカオスの表現だと思いますが、耳にする機会の多い「第九」だけに、聴き慣れてしまうと衝撃が薄れてしまうかもしれませんね。
 その点、ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の第1幕前奏曲は、現代人にとっても「なんだかおかしいぞ」といった不安定さが感じられるのではないでしょうか。どこに向かっているのかわからない、宙ぶらりんな感じがあって、なんとも落ち着きません。このオペラでは古い伝説にもとづいた禁断の愛が描かれます。忠臣である騎士トリスタンは、叔父マルケ王の妃としてイゾルデを迎えに行くのですが、誤って媚薬を飲んだために、トリスタンとイゾルデの間に愛の炎が燃え上がります。これは決して許されない愛。その幕開けに、あの不穏なトリスタン和音が用いられるのです。
 ストラヴィンスキーの「春の祭典」やペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」といった20世紀の音楽になると、「不協和音」が猛威を振るいます。音と音がぶつかりあって、調和しません。ペンデレツキの曲は「これって本当に音楽なの?」といった疑問を抱かせるかもしれません。でも、この曲は今や古典になりつつあります。いずれ時が経つと、この曲もモーツァルトの「不協和音」のような存在になるのでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ウェディングで流したい新しいクラシックの音楽会

投稿日:2025年06月07日 10:30

 今週は結婚式に流したいクラシック音楽の新しいスタンダードを選んでみました。これまで結婚式のクラシックといえば、メンデルスゾーンの劇音楽「夏の夜の夢」の一曲である「結婚行進曲」、そしてワーグナーのオペラ「ローエングリン」に登場する「結婚式」が二大定番。ファンファーレで始まるメンデルスゾーンの「結婚行進曲」はいかにも華やか。一方、ワーグナーの「結婚行進曲」には厳粛な雰囲気があります。どちらも最高の名曲ですが、クラシックを使うならほかの選択もありうるのでは。ということで、選ばれたのが今回の5曲でした。
 チェロの佐藤晴真さんが新郎新婦入場の曲として選んだのは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番の前奏曲。これは納得ですね。組曲の冒頭に置かれる始まりの音楽ですから、入場にふさわしい曲だと思います。
 ピアノの田所光之マルセルさんがウェディングケーキ入刀の場面に選んだのは、シューマンの「献呈」。シューマンが妻となるクララに捧げた曲集の一曲です。シューマン夫妻の結婚は、クララの父の猛反対があったため、裁判沙汰の末に実現しました。なぜ反対されたかといえば、クララが天才ピアニストとして名声を築いていたのに対し、シューマンはこの時点でほとんど無名の音楽家だったから。格差婚だったんですね。
 Cocomiさんが新郎新婦の再入場の音楽に選んだのは、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番の第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」。すがすがしく爽やかな演奏でした。
 両親への手紙の場面の音楽には、佐藤晴真さんがウォルトンの「弦楽のための2つの小品」の第2曲「やさしき唇にふれて、別れなん」を選んでくれました。深く、しみじみとした味わいがありました。
 最後に演奏されたのは、新郎新婦退場の場面として、フォーレの「レクイエム」より「サンクトゥス」。「レクイエム」とは意外な選択でしたが、なるほど、この神聖な曲調はぴったりかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界一難しい楽器ホルンとオーボエを知る休日

投稿日:2025年05月31日 10:30

 しばしば難しい楽器の筆頭に挙げられるのがホルンとオーボエ。一流オーケストラには卓越したホルン奏者とオーボエ奏者が欠かせません。今回はオーボエ奏者の最上峰行さんと山本楓さん、ホルン奏者の福川伸陽さんと五十畑勉さんをお招きして、それぞれの楽器の難しさについて語っていただきました。
 オーボエ奏者というと、よく言われるのが「いつもリードを削っている」。リードは手作りだったんですね。消耗品なので、常に作り続けなければなりません。最上さんがリードを製作しているところを見せてくれましたが、予想以上に工程が多く、まさに職人の技です。トータルの製作日数は2週間から1か月だとか。ずいぶん日数がかかります。しかも10本作っても、使えるのは1本だけ! 本番を迎える前に、こんなに長い道のりがあったとは。湿気が大敵なので、山本さんは「天気がいい日は家にこもってリード作り」と言います。目に見えない苦労がたくさんある楽器だということがよくわかりました。
 ホルンの福川さんは、指をまったく動かさずに、唇だけで音程を操ってみせてくれました。そんなことができるんですね。しかし、福川さんのような名手でも「高い音を当てるのは神頼み」。たしかに一流オーケストラであっても、常に完璧とは行かないのがこの楽器です。一方で低音域は五十畑さんが実演してくれたように、息が足りなくなる苦労があります。
 それだけ難しい両楽器ですが、いずれも最高の音色を聴かせてくれる楽器でもあります。アルビノーニの「2つのオーボエのための協奏曲」では、オーボエのいくぶん愁いを帯びた甘く暖かい音色を、ベートーヴェンの「2本のホルンと弦楽四重奏のための六重奏曲」では、柔らかくふっくらとしたホルンの音色を堪能できました。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番では、ホルンとオーボエがともに独奏楽器を務めます。ぜいたくな音の饗宴でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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