今週は「名指揮者の考察シリーズ」。角田鋼亮さんにラヴェルの「ボレロ」について考察していただきました。
ラヴェルの「ボレロ」は1928年の作曲。ラヴェルの代表作であるばかりか、フランス音楽屈指の人気曲として親しまれています。この曲はもともとはバレエのための音楽として作曲されました。スペイン風のバレエ音楽を書いてほしいと頼まれたラヴェルは、当初、スペインの作曲家アルベニスのピアノ曲「イベリア」をオーケストラ用に編曲しようと考えていました。ところが編曲の権利を巡る問題から計画が頓挫し、代わりに急遽オリジナルの作品を書くことに決めます。こうして短期間で完成されたのが「ボレロ」。延々と同じメロディをくりかえすこの曲は多くのオーケストラから演奏を拒否されるだろうと作曲者は考えていました。ところが、実際の反応は正反対。「ボレロ」は大成功を収め、各地のオーケストラがこぞって演奏する人気曲となったのです。
指揮者の角田鋼亮さんは、「ボレロ」のくりかえしは人間の一生を表現したものだと考察します。スネアドラムが反復するリズムにベートーヴェンの「運命」の動機のリズムを読み取り、人が抗うことのできない運命のレールが敷かれていると解します。2つのメロディが表すのは、ひとつは「平穏な日常」、もうひとつは「変化と刺激」。なるほど、両者の交替は人生そのものです。曲の終盤の転調で高みに到達し、タムタムとともに人生の終着点を迎えます。とても説得力のある解釈だと思いませんか。
こういった角田さんの解釈は、東京フィルの演奏にもしっかりと反映されていたと思います。前へ前へと進むエネルギッシュな演奏は、まさしく止まることのない人生。情熱にあふれた力強い「ボレロ」に圧倒されました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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