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温泉地で生まれたクラシック名曲の音楽会

投稿日:2024年04月27日 10:30

 今週は温泉地で生まれたクラシックの名曲をお届けしました。温泉と聞くと、日本の温泉街のイメージが強いのですが、ヨーロッパにも温泉保養地がたくさんあるんですね。これらの温泉の多くは、上流階級の人々や文化人が長期滞在する社交場として発展してきました。モーツァルトが残した手紙には、奥さんのコンスタンツェが湯治に出かけていてたくさん費用がかかって大変だといった記述が残されています。
 ヘンデルやベートーヴェンが好んだ温泉地を実際に体験してきたのが、ピアニストで指揮者の大井駿さん。温泉地から生まれた4曲を演奏してもらいましたが、気のせいでしょうか、どの曲もとても心地よく、体がリラックスできたように感じられます。
 ヘンデルがドイツのアーヘンで療養した直後に作曲したのは歌劇「セルセ」。このオペラのなかでもっとも広く知られている曲が「オンブラ・マイ・フ」(懐かしい木陰よ)です。テレビCMなど、いろいろな機会で耳にする名曲です。高野百合絵さんの伸びやかで温かみのある声に癒されました。
 ベートーヴェンも好んで温泉地に滞在した作曲家です。保養地バーデン・バイ・ウィーンに滞在して作曲したのが、後期の大傑作、弦楽四重奏曲第13番。今回は第5楽章の「カヴァティーナ」をほのカルテットのみなさんに演奏していただきました。ほのカルテットは昨年、室内楽の国際的な登竜門として知られる大阪国際室内楽コンクールで第2位を獲得して注目を浴びています。気鋭のカルテットによる入魂の演奏でした。
 ショパンのマズルカ作品67-1はチェコの温泉地カルロヴィ・ヴァリで書かれた作品。故郷を離れてパリで暮らしたショパンは、ここで両親と久々の再会を果たしました。
 プッチーニが通った温泉はイタリアのモンテカティーニ・テルメ。ここでオペラ「ラ・ボエーム」の一部が作曲されたといいます。「ラ・ボエーム」では貧しい若者たちの悲恋が描かれていますが、プッチーニはずいぶんリッチな環境で曲を書いてたんですね……。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会〜ショパン編〜

投稿日:2024年04月20日 10:30

 今週は「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズの第2弾。第1弾のモーツァルト編に続いて、ショパン編をお届けしました。ゲストの伊集院光さんもおっしゃるように、ショパンといえばピアノ。ショパンはよく「ピアノの詩人」と呼ばれますが、作品の大半がピアノ曲である点で、大作曲家たちのなかでも異彩を放っています。ショパン国際ピアノ・コンクールで第4位を獲得した小林愛実さんが、ショパンが「ピアノの詩人」と呼ばれるゆえんを解説しながら、3曲を演奏してくれました。
 一曲目はノクターン第20番(遺作)。作曲者の死後に出版されたので「遺作」と記されていますが、若き日に書かれた作品です。小林さんは装飾音の使い方に、ショパンの「ピアノの詩人」らしさを感じるといいます。比較のために、もしも装飾音がなかったらどうなるかを演奏してくれましたが、たしかに音楽のキャラクターがまったく違ってきます。繊細な感情表現のために装飾音が欠かせないことがよくわかりますよね。
 二曲目は「24の前奏曲」から第17番。ここでの注目点は和声。和声の複雑化がメロディの厚みをもたらしていると言います。メロディを内側で支える内声の大切さが説明されていましたが、こういったお話を聴くと、ふだんよりも左手に注目して曲を聴こうという気持ちになります。メロディと内声の絡み合いがニュアンスに富んだ表現を生み出していました。
 三曲目は晩年の傑作、「幻想ポロネーズ」。一曲目にあった装飾音の要素と二曲目にあった複雑な和声の両方がきわめられた集大成的な作品として、この曲が選ばれました。テロップで解説されていたように、小林さんはこの曲を、ショパンが人生を振り返る曲として解釈しています。ノスタルジーを喚起する曲想ですが、その向こう側に大きなドラマがあることが演奏からも伝わってきたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画①角野隼斗「ラプソディ・イン・ブルー」の音楽会

投稿日:2024年04月13日 10:30

 「題名のない音楽会」は今年放送60周年を迎えます。60周年を記念したシリーズ企画のキーワードは「ボーダーレス」。今週はその第1弾として、ボーダーレスな活動を展開する角野隼斗さんをお招きしました。
 角野さんといえば、先日、ソニークラシカルとワールドワイド契約を結んだと発表されて、大きな話題を呼びました。これは日本人演奏家としては五嶋みどりさん、樫本大進さん、藤田真央さんに続く4人目の快挙。秋にワールドワイド・デビューアルバムをリリースするということですので、角野さんに対する国際的な注目が一段と高まることはまちがいありません。
 そんな角野さんが選んだ曲は、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。これぞボーダーレスな名曲です。大ヒット曲「スワニー」によって人気ソングライターとして世を席巻したガーシュウィンですが、1924年に開かれた「アメリカ音楽の実験」と題されたコンサートで「ラプソディ・イン・ブルー」を発表すると、クラシック音楽界からも注目を集めます。この曲は「ジャズ風協奏曲」を書いてほしいという依頼から生まれ、当初はジャズ・バンドによって演奏されていたのですが、後にオーケストラ用にアレンジされて、クラシックの名曲の仲間入りを果たしました。しばしば「シンフォニック・ジャズ」の代表曲に挙げられるように、ジャズとクラシックの垣根を越えた最大の成功作のひとつと言ってもよいでしょう。初演から100年を迎えた今も、その新鮮さは失われていません。
 今回の演奏では、角野さんが「弾き振り」に挑戦してくれました。ピアノとオーケストラが向き合って、音の対話をくりひろげる様子は実にスリリング。即興を随所に差しはさんで、角野さんならではの冒険心と遊び心にあふれた「ラプソディ・イン・ブルー」が誕生しました。本当にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第4弾〜後編

投稿日:2024年04月06日 10:30

 今週は先週に引き続いて、葉加瀬太郎さんによる人気企画「題名プロ塾」第4弾後編をお送りしました。最終レッスンに進んだ渥美結佳子さん、成宮千琴さん、新美麻奈さんの3名が、「ボーカリストとのデュエット」に挑みました。課題曲は映画「リトル・マーメイド」より「パート・オブ・ユア・ワールド」。豊原江理佳さんのボーカルとの共演です。
 クラシックのヴァイオリンを学ぶみなさんにとって、ボーカルとの共演は新鮮な体験だったのではないかと思います。葉加瀬太郎さんのチェックポイントは「歌手を引き立てるオブリガート」と「自分が映えるオブリガート」の弾きわけ。オブリガート(助奏)とは、ここではメロディを引き立てる対旋律のことを指しています。
 最初に演奏したのは渥美結佳子さん。さわやかな演奏を披露してくれましたが、葉加瀬さんのアドバイスは「ずっと弾き続けるのではなく、弾かないところがあっていい」。休むところは休み、主役になったときはもっと目立ってよいと言います。アドバイス後の演奏は、ぐっと対話性が豊かになったように思います。
 2番手に登場した成宮千琴さんは、インパクト抜群。イントロ部分もカッコよかったですし、ボーカルが入った後も華麗な演奏で盛り上げてくれました。デュエットとしては饒舌かもしれませんが、よく練られていたと思います。まるでオペラの白熱する二重唱を聴いているかのよう。
 最後に演奏したのは新美麻奈さん。キリリとした端正なソロで、バランスよくボーカルに寄り添っていました。葉加瀬さんは新美さんの演奏にケルト音楽的なイメージを感じたと言います。素朴な民族音楽風のテイストを加えることで、一段と豊かな味わいが引き出されました。
 三者三様の魅力がありましたが、選考の結果、選ばれたのは新美さん! 音楽的な引き出しの多さが評価されました。番組でのデビューが楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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