今週はタイトルと中身が食い違っている名曲に注目してみました。筆頭に挙げられるのはバッハの「G線上のアリア」。これは本当に不思議な現象なんですよね。原曲は管弦楽組曲第3番の第2曲「エール」と言います。ここでの「エール」とは「アリア」のこと。原曲は弦楽合奏と通奏低音で演奏されますが、これをドイツのヴァイオリニスト、アウグスト・ウィルヘルミがヴァイオリン曲に編曲しました。この編曲がヴァイオリンの最低音の弦、G線のみで演奏できる編曲だったことから「G線上のアリア」と呼ばれるようになり、なぜか原曲までもが「G線上のアリア」の題で広く親しまれるようになってしまいました。原曲と「G線」はなんの関係もありません。しかも、現代ではヴァイオリン曲として演奏する際も、もっぱらG線を使わずに弾かれるとか。今回、山根一仁さんがあえてG線だけで演奏してくれましたが、落ち着いた温かいムードがあって、これはこれで味わいがあります。
諸説あるのは、チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の一曲、「葦笛の踊り」。加藤昌則さんの「お菓子のミルリトンが誤訳で葦笛になってしまった」という説には説得力があります。なにしろ「くるみ割り人形」は、少女クララが王子さまとお菓子の国へと旅立つ物語。ほかに「こんぺいとう」や「チョコレート」が出てくるのですから、お菓子のミルリトンが出てきても不思議はありません。一方、多久潤一朗さんは、本当は「羊飼いたちの踊り」ではないかと指摘します。羊飼いの笛であれば、それに近い音色のフルートが主役になるのも納得できます。いったい、どちらなんでしょうね。
ビゼーの「アルルの女」組曲に登場する有名な「メヌエット」が、実は劇音楽「アルルの女」ではなく、オペラ「美しきパースの娘」の曲だったというのもおもしろい話です。これは組曲を編んだビゼーの盟友ギローの功績と言えるでしょう。ギローの大胆なアイディアが光っています。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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