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あの名曲の“有名になった意外な理由”を知る音楽会

投稿日:2026年04月04日 10:30

 今では世界中で盛んに演奏されるような人気曲でも、作曲者の生前はほとんど知られていなかったというケースは決して珍しくありません。今週は名曲が有名になった意外な理由に焦点を当ててみました。
 20世紀後半、録音再生技術の普及によって音楽の世界は大きく変貌しました。レコードが名曲を生み出す時代になったといってもよいでしょう。その典型が、パッヘルベルの「カノン」。この曲が有名になったのは、1968年録音のパイヤール室内管弦楽団によるレコードのおかげです。パイヤール室内管弦楽団は、楽譜から想像されるよりもずっと遅いテンポで、情感豊かなスタイルで「カノン」を演奏しました。このロマンティックな演奏解釈がなければ、これほどまでに「カノン」が有名になることはなかったかもしれません。
 同じくレコードが決定的な役割を果たしたのが、ヴィヴァルディの「四季」です。イタリアのイ・ムジチ合奏団による「四季」のレコードは世界的な大ベストセラーとなり、バロック音楽ブームの立役者となりました。1955年以来、イ・ムジチ合奏団はくりかえしこの曲を録音し、日本をなんども訪れて演奏会を開いています。家庭にステレオ装置が普及する時期と重なったこともあって、一頃はイ・ムジチの「四季」のレコードは一家に一枚あるのではないかと囁かれるほどの人気を誇りました。
 ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」は、他人の編曲によって原曲も有名になった珍しいケースです。この曲は作曲者の生前に出版されておらず、おそらく演奏されたこともなかったでしょう。しかし、ラヴェルがオーケストラ用にカラフルな編曲を施したことで人気を呼び、それに伴って原曲への注目度も格段に高まりました。
 リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」は、技巧的なアンコールピースとして、さまざまな楽曲で演奏されています。原曲はオペラ「皇帝サルタンの物語」の一場面。こんな形で曲が広まるとは、作曲者は想像もしていなかったのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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葉加瀬太郎がふたたび“坂本龍一を弾く”音楽会

投稿日:2026年03月28日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんがふたたび坂本龍一さんの名曲をスペシャルアレンジで演奏してくれました。葉加瀬さんは坂本龍一作品を「現代のクラシック音楽」と呼びます。モーツァルトであれ、ベートーヴェンであれ、作品はまず作曲者自身によって演奏され、やがて時を経て他人によってくりかえし演奏されることで、「クラシック」になりました。現在、坂本龍一作品も同様のプロセスをたどっていると言えるのではないでしょうか。
 1曲目に演奏されたのは「BEHIND THE MASK」。YMO時代の作品です。1979年発売のアルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」に収録されました。当時はシンセサイザーを用いたテクノポップが斬新な音楽として受け止められていましたが、今回は伊賀拓郎さんの編曲で、あえてアコースティックな楽器が用いられています。振り子式メトロノームが効いていましたね。半世紀近く前の作品なのですから、まさしく「クラシック」と呼ぶに足る名曲だと思います。
 2曲目は「Aqua」。こちらは1998年発売のアルバム「BTTB」収録の一曲。啼鵬さんの編曲による弦楽四重奏での演奏でした。葉加瀬さんの第1ヴァイオリンに、第2ヴァイオリンの成田達輝さん、ヴィオラの田原綾子さん、チェロの横坂源さんが加わった陣容は豪華。現代のトップ奏者たちによるドリーム・カルテットと言ってもよいでしょう。深みのある優しい音楽が紡ぎ出されていました。
 3曲目は「ぼくのかけら」。1981年発売のアルバム「左うでの夢」収録曲です。タブラ奏者のU-zhaanさんの編曲で、北インドの古典音楽を参考にした編成が、まったく新しい世界を切り拓いてくれました。
 おしまいは「Parolibre」。1986年発売のアルバム「未来派野郎」収録曲です。作曲者自身の編曲によるピアノ・トリオ・バージョンで、萩原麻未さんのピアノ、葉加瀬さんのヴァイオリン、横坂さんのチェロという名手たちの共演でお届けしました。とても抒情的な音楽で、ショパンへのオマージュとも言うべき淡いノスタルジーが漂っていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行が鍵盤上にオーケストラを表現する音楽会

投稿日:2026年03月21日 10:30

 今週はオーケストラ曲などをピアノ用に編曲した作品を辻井伸行さんに演奏していただきました。こういった編曲を「ピアノ・トランスクリプション」と呼びますが、19世紀から現代に至るまで、さまざまな名ピアニストたちが「ピアノ・トランスクリプション」を通じて、その名技を披露してきました。
 辻井さんが「自分がオーケストラの指揮者になった気分で自由にいろいろな楽器の音色を表現できる」と話していたように、ピアノ1台であっても、その表現力は原曲に劣るものではありません。今回はプレトニョフ、ヴォロドス、リストによる編曲作品をお届けしましたが、いずれもピアノの名手だけに、楽器の魅力が最大限に発揮される編曲が施されています。
 チャイコフスキーの「くるみ割り人形」を編曲したのは、名ピアニストであり名指揮者でもあるミハイル・プレトニョフ。来日も多いので、日本にもファンは多いと思います。原曲では「行進曲」のトランペットのファンファーレや、「こんぺい糖の踊り」でのチェレスタのきらびやかな音色が特徴的ですが、ピアノで演奏してもそれぞれトランペットやチェレスタのイメージが伝わってくるのがおもしろいところ。とくにペダリングを駆使した「こんぺい糖の踊り」は幻想的でした。
 ラフマニノフの「ここはすばらしい場所」の原曲は歌曲。愛の歌が辻井さんのピアノでやさしくしなやかに奏でられました。編曲者のアルカディ・ヴォロドスは超絶技巧を得意とするピアニストとして名声を誇り、すぐれた編曲者としても広く知られています。
 ワーグナーの歌劇「ローエングリン」より「エルザの大聖堂への行列」を編曲したのは、史上最大のピアニストとでもいうべきフランツ・リスト。リストはワーグナーの才能を認め、さまざまな形で支援を行いました。歌劇「ローエングリン」を指揮者として初演したのもリストです。ピアノによる「エルザの大聖堂への行列」は、音楽的に深く共鳴し合った天才同士から生まれたものといえるでしょう。味わい深い余韻が残りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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リストに学ぶ!「売れるコンサート」の音楽会

投稿日:2026年03月14日 10:30

 今週はリスト国際ピアノコンクール優勝者の阪田知樹さんをお迎えして、リストの「売れるコンサート」2大戦略について、教えていただきました。
 戦略その1は「超絶技巧で魅せる!」。リストと言われてまず連想するのは、華麗な超絶技巧がふんだんに盛り込まれた作品でしょう。なかでもよく知られるのが「ラ・カンパネラ」。作品そのものが高い演奏効果を持っていますが、阪田さんはそこに聴衆を熱狂させるための仕組みがあると言います。高音域の高速連打は視覚的な効果が抜群。しかもあんなふうに客席に目線を向けられたら、胸がきゅんとしてしまいますよね。両手の交差も「魅せる」要素のひとつ。ふつうに弾くよりも、聴く側のテンションが一段あがります。腕を高々と上げて強奏する姿も、キマっていました。
 戦略その2は「最新人気曲をアレンジ!」。当時はピアノ・トランスクリプション、すなわちオペラや歌曲、オーケストラ曲などをピアノ独奏用に編曲することが盛んに行われていました。録音再生技術のない19世紀のことですから、音楽を聴くということは、すなわち、人間が演奏するということ。話題のオペラの名場面をピアノ一台で演奏できるアレンジには、大きな需要があったのです。
 今回、阪田さんが演奏してくれたのはヴェルディのオペラ「リゴレット」を題材にリストが編曲した「リゴレット・パラフレーズ」。このオペラの主人公リゴレットは、公爵に仕える道化師です。大切な娘ジルダが公爵に弄ばれてしまい、リゴレットは復讐のために暗殺者を雇って公爵を殺そうとします。この曲では、公爵が居酒屋の女を口説いているところを目にしてジルダが動揺し、リゴレットは公爵がいかに不実な男であるかを娘に諭す、といった場面が描かれています(それでもジルダは公爵を忘れられず、公爵の身代わりとなって死ぬことを選ぶのですが……)。
 最後に演奏されたのは「調性のないバガテル」。時代の先を行くリストの革新性が感じられたでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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藤原道山と山田和樹が初公開する「尺八協奏曲の練習会」

投稿日:2026年03月07日 10:30

 今週は日本を代表する尺八奏者、藤原道山さんが、デビュー25周年を記念して開いたコンサートのリハーサルの模様と、本番のダイジェストをお届けしました。曲は道山さんがこの演奏会のために委嘱した新作、冷水乃栄流(ひやみず・のえる)さん作曲の尺八協奏曲「風は花となる」。尺八、そして日本音楽の未来のために、新しいレパートリーを作っていきたいという道山さんの思いから、注目の若手作曲家である冷水さんに新作の作曲が依頼されたのです。
 この新作のために世界的指揮者の山田和樹さんが、東京藝大の教官や講師から構成される藝大フィルハーモニア管弦楽団を指揮するというのですから、これ以上はないというくらいにすばらしいメンバーがそろいました。そして、世界初演のリハーサルを目にする機会はなかなかありません。今回はたいへん貴重な映像を見ることができました。
 オーケストラのリハーサルといっても、通常のレパートリーを演奏する場合と、新作を演奏する場合では大きく違います。最大の違いは、やはりそこに作曲家本人がいるということでしょう。奏者や指揮者が作曲家と直接コミュニケーションをとれることは、現代の音楽ならではの利点です。山田さんが冷水さんに作曲家の意図を尋ねる場面がなんどかありました。そのたびに、指揮者の指示により音楽の表情が変わってゆきます。同じ楽譜からも奏者によって異なる音楽が生まれてくることが、よくわかります。こういったリハーサルもまた創造の場であることを実感します。
 本番のダイジェストからも、この協奏曲の斬新さが伝わってきました。洋と和が融合した色彩感豊かな第1楽章、抒情的な第2楽章、技巧的でスリリングな第3楽章という構成でした。第3楽章のフィナーレはすごくカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第34回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2026年02月28日 10:30

 今週は第34回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けしました。今年の受賞者はヴァイオリンの金川真弓さん、チェロの北村陽さん、テノールの宮里直樹さんの3名。川瀬賢太郎さん指揮東京フィルとの共演で、見事な演奏と歌唱を披露してくれました。
 金川真弓さんはドイツに生まれ、日本でヴァイオリンを始めた後、アメリカに渡り、現在はベルリンを拠点に活動する国際派。日本のオーケストラの定期公演にもたびたび招かれ、さまざまな協奏曲で会場からの喝采を浴びています。今回はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲を選曲。ウィーンに生まれ、神童として名を馳せたコルンゴルトは、ナチスの台頭に伴ってアメリカにわたり、ハリウッドで映画音楽の分野で成功を収めました。このヴァイオリン協奏曲にも映画で用いたテーマが用いられています。のびやかな音色による生命力あふれる演奏を堪能しました。
 チェロの北村陽さんは少年時代より将来を嘱望された逸材で、21歳の若さながらもすでに多くのオーケストラと共演しています。今回、選んでくれたのはプロコフィエフの難曲、交響的協奏曲。この曲は作曲者最晩年の作品で、名チェリスト、ロストロポーヴィチとの協力関係から生まれました。交響的協奏曲という名前が示すように通常の協奏曲の枠を超える大規模な作品で、決して演奏機会の多い作品ではありませんが、こうして新世代の奏者が挑んでくれるのはうれしいですね。
 テノールの宮里直樹さんは、現在の日本のオペラ界にとってなくてはならない存在といってもよいでしょう。輝かしくリリカルな声は、オペラの主役にぴったり。喜劇でも悲劇でも持ち味が発揮されます。ドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」より「わが祖先の墓よ」では、恋に絶望した青年が死を望む心情が歌われます。胸が張り裂けそうになるような迫真の歌唱でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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グラミー賞も認める作曲家・挾間美帆が挑むジャンルを超えた音楽会

投稿日:2026年02月21日 10:30

 今週はグラミー賞にノミネートされるなど国際的に活躍するジャズ作曲家の挾間美帆さんと、ヴァイオリニストの滝千春さんが始めた新しいプロジェクト、MaNGROVE(マングローヴ)をご紹介しました。おふたりに加えて、ヴァイオリンの山根一仁さん、ヴィオラのルオシャ・ファンさん、チェロの佐藤晴真さん、コントラバスの木村将之さんが集結した豪華メンバーです。
 もともとマングローブとは、淡水と海水の混ざり合う場所に生育する植物のこと。クラシックとジャズが垣根なく混ざり合って、よい音楽を作り出したいという思いが、MaNGROVEのネーミングに込められています。今回、演奏された3曲を聴くと、まさにジャンルの垣根を越えた音楽であることがよく伝わってきます。
 1曲目は挾間さん作曲の「Introduction」。リズムのズレ、フレーズの複雑な絡み合いから新鮮な音楽が生まれてきます。説明を聞くと難しそうですが、曲を感じて楽しむのは、まったく難しくありません。どんなジャンルにも収まらないタイプの音楽だと思いますが、もしこの曲がクラシックのコンサートで演奏されたとしても、まったく違和感はないと思います。
 2曲目はプロコフィエフの組曲「ロメオとジュリエット」より「モンタギュー家とキャピュレット家」。挾間さんは原曲にジャズのブルーノートを聴きとって、曲にジャズ・セクションを設けたといいます。ソ連の作曲家プロコフィエフとジャズは一見遠そうでいて、実は近いというのがおもしろいところ。チェロの佐藤晴真さんのアドリブは貴重です。
 3曲目は挾間さんの「Believing in Myself」。奏者ごとにばらばらのフレーズがパズルのように組み合わされる凝った仕掛けがある作品ということですが、これもカッコいい曲ですよね。仕掛けが緻密であるだけではなく、音楽にさまざまな表情が込められており、知的であると同時にハートに訴えかけてくる音楽だと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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入賞者が語る!世界的コンクールがわかる音楽会

投稿日:2026年02月14日 10:30

 今週は国際コンクールで注目を浴びたふたりの音楽家、ピアノの桑原志織さんと指揮の米田覚士さんをお招きしました。
 桑原志織さんは2025年ショパン国際ピアノコンクールで第4位に入賞しました。数あるコンクールのなかでも、もっとも注目されるのがショパン・コンクール。642名ものピアニストがエントリーし、書類審査から予備審査、さらに1次予選、2次予選、3次予選と先に進むにつれて人数が絞られ、ファイナルには11名が進みました。オーケストラと共演して協奏曲を弾けるのは、この11名のみ。桑原さんの第4位入賞がどれほどの難関か、改めて感じずにはいられません。
 ショパン・コンクールでは、一部の参加者に対して予備予選を免除しています。一種のシード権のようなものですが、指定されたコンクールで第1位または第2位を獲得したピアニストは、1次予選から出場できます。桑原さんの場合は、その指定コンクールで第2位を受賞していたので、1次予選から参加できたわけです。こういった仕組みがあるのも、大規模なショパン・コンクールならではでしょう。
 一方、米田覚士さんは2025年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝を果たしました。ショパン・コンクールとは違って、書類審査なし、エントリーは早い者順だというお話にはびっくり。サイトのオープンから4時間後には全部の枠が埋まっていた言いますから、まるで人気公演のチケット取りのよう。
 若手指揮者の登竜門として有名な同コンクールは、これまでに小澤征爾さんや佐渡裕さん、沼尻竜典さん、山田和樹さんら、多くの日本人が優勝していることでも知られています。米田さんのお話にもあったように、ヨーロッパの指揮者は各地の劇場でオペラの経験を積んでキャリアを築くこともできますが、日本には同様の環境がありません。やはり、日本人が名前を知ってもらうにはコンクールが近道なのでしょう。ブザンソンの覇者、米田覚士さんのこれからの活躍が楽しみでなりません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ピアニスト・亀井聖矢がオーケストラの楽器を紹介する音楽会

投稿日:2026年02月07日 10:30

 今週は作曲活動にも力を入れるピアニスト、亀井聖矢さんをお招きしました。冒頭で亀井さんが演奏してくれたのは自作の「衝奏」。苦悩や葛藤のなかにも希望が垣間見えるような作品でした。名ピアニストが自作を演奏することは、クラシック音楽の伝統においてごく一般的なこと。亀井さんのお話にあったように「自作曲ならゼロ距離で表現できる」ところに魅力があります。
 いずれはオーケストラ曲も書いてみたいと語る亀井さんですが、今回はブリテンの「青少年のための管弦楽入門」でナレーター役を務めて、各楽器の特徴を紹介してくれました。オーケストラとの共演経験の豊富な亀井さんならではの言葉で語られていて、親しみが持てます。
 ブリテン(1913~1976)はイギリスを代表する20世紀の作曲家です。今年没後50年を迎え、音楽界での注目度が一段と高まっています。平和主義者として第2次世界大戦の犠牲者を悼んだ「戦争レクエイム」や、共同体から疎外される男の孤独を描いたオペラ「ピーター・グライムズ」、シェイクスピアの戯曲にもとづくオペラ「夏の夜の夢」など、数々の偉大な作品を残しました。
 今回の「青少年のための管弦楽入門」はもともと教育用に書かれた作品で、日本の学校教育でも鑑賞用教材として使われるなど、広く親しまれています。しかし、この作品の非凡なところは、単なる楽器紹介に終わっていないところでしょう。コンサートでナレーションなしで純粋な管弦楽曲として演奏されることもあります。実用性だけではなく、芸術性も高い名曲なのです。
 冒頭に演奏されるテーマは、同じイギリスの先輩作曲家パーセルの作品からの引用です。主題を変奏しながらオーケストラの各楽器のデモンストレーションがくりひろげられた後、壮大なフーガが始まります。終盤でパーセルの主題が重なり合う部分は鳥肌もの。田中祐子さん指揮の東京フィルが壮麗なクライマックスを築き上げました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会リターンズ

投稿日:2026年01月31日 10:30

 今週は大反響をいただいたミュージカル企画の第2弾、「ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会リターンズ」をお届けしました。ミュージカルやオペラの台詞の部分が歌になっているように、音楽番組のトーク部分もぜんぶ歌になっていてもいいのでは? そんな発想から生まれたのがこの企画。ミュージカルをミュージカル仕立てで説明するメタミュージカルを目指しました。
 今回のテーマは「愛」。ミュージカルに登場するさまざまな愛を題材とした名曲を、真彩希帆さん、石丸幹二さん、今井清隆さんに歌っていただきました。
 最初の曲はアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲の「ラブ・ネバー・ダイ」より「心で見つめて」。名作「オペラ座の怪人」から10年後を舞台に、クリスティーヌと息子グスタフ、ファントムたちの物語が描かれます。ここで表現されるのは「母の愛」。真彩希帆さんの清澄でのびやかな声がすばらしかったですね。続く「君の歌をもう一度」では、同作でクリスティーヌへの「執念の愛」を抱き続けるファントムの想いが吐露されます。石丸幹二さんのリリカルかつ力強い歌唱に圧倒されます。
 3曲目はアラン・メンケン作曲の「美女と野獣」より「愛せぬならば」。ミュージカル界の重鎮、今井清隆さんが深く温かみのある声で、ビースト(野獣)の「絶望の愛」を歌いあげます。円熟の歌唱に会場がわきあがりました。これは泣けます。
 4曲目はフランク・ワイルドホーン作曲の「ジキル&ハイド」より「罪な遊戯」。同一人物の善悪両面を体現するジキルとハイド、そして娼婦ルーシーの物語が描かれます。ハイドとルーシーの「危険な愛」が、石丸幹二さんと真彩希帆さんによってスリリングに歌われました。
 おしまいはクロード=ミシェル・シェーンベルク作曲の「レ・ミゼラブル」より「民衆の歌」。全員の歌唱と田中祐子さん指揮東京フィルのゴージャスなサウンドで、華やかなクライマックスが築かれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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