今週は市民が文化をつくる街、愛知県知多市を訪ねました。先週と先々週の2回にわたって金管アンサンブル「ちたUMEブラス」の奮闘ぶりをお伝えいたしましたが、今回は伝統芸能とアマチュアオーケストラがテーマです。
知多市に伝わる尾張万歳は、国の重要無形民俗文化財。現代の漫才のルーツとされますが、「漫才」ではなく「万歳」と書いて「まんざい」と読みます。初めて見たという方も多かったのではないでしょうか。もともとは正月に各家を訪れて、お祝いをするとともに家内の安全と繁栄を願うものだったんですね。尾張万歳保存会のみなさんに今回上演していただいたのは、正月に七福神を家に招き入れる「御殿万歳」。恵比寿、布袋、福禄寿、弁財天……と、次々と招福の神様が入場するのですから、これほどおめでたい話もありません。歌があり、リズムがあり、踊りがあり、物語性があるということで、まるでオペラみたいだなと思った方もいらっしゃるのでは。音楽の雰囲気は違いますが、神々が入場するという点で、ワーグナーの楽劇「ラインの黄金」の「ヴァルハラ城への神々の入城」を、つい思い出してしまいました。
チャイコフスキーの交響曲第4番より第4楽章を演奏してくれたのは、知多市民オーケストラのみなさん。知多市民オーケストラは知多市勤労文化会館30周年を記念して誕生した、団員約60名からなるアマチュア・オーケストラです。なんと、毎週ホールで練習ができるのだとか! 練習場の確保はアマチュアオーケストラにとって大きなテーマですが、たいへん恵まれた環境にあります。出口大地さんの指揮のもと、東京交響楽団の第1コンサートマスターの小林壱成さんとともに、堂々たる演奏を聴かせてくれました。情熱をみなぎらせながらも格調高いチャイコフスキーで、深い味わいがありました。終結部の高揚感はすばらしかったですね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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