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題名のない音楽会の“クリスマス・パーティー!”

投稿日:2024年12月21日 10:30

 今週はクリスマス・パーティー企画。フルートのCocomiさん、笙のカニササレアヤコさん、田中祐子さん指揮東京フィルハーモニー交響楽団のみなさんをお迎えして、クリスマスにぴったりの名曲を演奏していただきました。
 最初の曲は田中祐子さん指揮東京フィルの演奏で、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」より「行進曲」。「くるみ割り人形」はクリスマスイブに起きる不思議な出来事を題材にしたバレエ音楽です。少女クララがクリスマスプレゼントにもらったくるみ割り人形が、夜になると王子さまに変身し、クララをお菓子の国へと誘います。毎年この時期になると、世界中の劇場でこのバレエが上演されます。
 石丸幹二さんが歌ってくれたのは「ビー アワ ゲスト(おもてなし)」。こちらはミュージカル「美女と野獣」の名曲です。作曲はアラン・メンケン。「リトル・マーメイド」や「アラジン」など数々の名作を手がけてきたディズニー音楽の巨匠です。石丸さんの輝かしい声がパーティへの期待感を高めてくれます。
 Cocomiさんは「Let’s Fall In Love」で、洒脱で軽快な演奏を披露してくれました。この曲は1933年の同名の映画で使われ、以後、スタンダード・ナンバーとして親しまれています。作曲者はハロルド・アーレン。ミュージカル「オズの魔法使い」の「オーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)」を作曲した人ですね。
 カニササレアヤコさんは「きよしこの夜」と「O’HOLY NIGHT」をまさかの笙で演奏。笙がパイプオルガンに似ているというお話には目から鱗が落ちました。たしかに、どちらも多数の管に空気を吹き込んで音を出す楽器です。
 おしまいはフルートと笙の共演でクリスマス・キャロル「JOY TO THE WORLD」。笙が単旋律を奏でるアレンジは新鮮です。クリスマスとお正月が一度にやってきたような祝祭感がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会

投稿日:2024年12月14日 10:30

 ミュージカル映画の名作に「シェルブールの雨傘」という作品があります。主演はカトリーヌ・ドヌーブ。といってもミュージカルなので、歌は吹き替えで、ダニエル・リカーリという歌手がうたっています。この作品では会話の部分もすべてが歌になっています。オペラでいうところのレチタティーヴォ(叙唱)みたいなもので、物語がすべて音楽とともに進んでいくのです。
 これって、すばらしいなと思うんですよね。セリフではなく、音楽になっているから表現できることがたくさんあると思うのです。ミュージカルであれば、歌うのは自然なこと。だったら音楽番組もぜんぶトークの部分が歌になっていてもおかしくないのでは。そんな発想から生まれたのが、今回の「ミュージカルをミュージカルで説明する音楽会」。番組全編をミュージカル仕立てにして、ミュージカルの魅力をお伝えしました。
 もちろん、これはミュージカル界を牽引してきた石丸幹二さんの司会があってこそ。さらに大人気トップスターの井上芳雄さん、注目度ナンバーワンの若手である屋比久知奈さんが加わって、豪華歌手陣の共演が実現しました。曲はいずれもミュージカルの代表的な名曲ばかり。シチュエーション別に、主役の歌として「モーツァルト!」より「僕こそ音楽」、ドラマのある歌として「レ・ミゼラブル」より「オン・マイ・オウン」、駆け引きの歌として「エリザベート」より「闇が広がる」、ロマンスの歌として「ミス・サイゴン」より「世界が終わる夜のように」をお届けしました。締めくくりは「レ・ミゼラブル」より「民衆の歌」。トーク部分には「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」を用いました。
 井上芳雄さんの明るくリリカルな声、屋比久知奈さんの伸びやかで艶やかな声、石丸幹二さんの輝かしく芯のある声、三者三様の魅力が伝わってくるぜいたくな声の饗宴だったと思います。田中祐子さん指揮東京フィルのサウンドはゴージャス。歌とオーケストラが一体になったときの高揚感は最高です!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑨ショパン国際ピアノコンクール第1位 ブルース・リウの音楽会

投稿日:2024年12月07日 10:30

 今週は2021年ショパン国際ピアノコンクールで第1位を獲得したカナダのピアニスト、ブルース・リウさんをお招きしました。このコンクールでは、第2位に反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさん、第3位にマルティン・ガルシア・ガルシアさん、第4位に小林愛実さんが入賞しています。今回ようやく第1位のブルース・リウさんの出演が実現しました。
 コンクール後、リウさんはクラシック音楽界における名門レーベルのドイツ・グラモフォンと契約するなど、着実にキャリアを積み上げています。「とても忙しくなって空港・ホテル・コンサート会場の3か所を回っているだけ」というお話から、トップアーティストの暮らしぶりが垣間見えます。とても多趣味であることは以前から耳にしていましたが、マジックにしてもレースにしても想像以上に本格的で驚きました。音楽家として多忙であるがゆえに、音楽以外の事柄にも情熱を注ぐことでバランスをとる必要があるのでしょう。
 現在、リウさんが力を入れているレパートリーはチャイコフスキーだとか。これは少し意外な感じもしました。ピアノ協奏曲を別とすると、演奏会でチャイコフスキーのピアノ曲を聴く機会は決して多くありません。リウさんが選んだ曲はピアノ曲集「四季」。忙しい日々を送るなかで、「四季」の各曲を日記のつもりで弾いて、自分の時間を過ごしたといいます。なるほど、この曲集はそんな密やかな時間にぴったりかもしれません。
 「四季」を題材に曲を書いた作曲家にはヴィヴァルディやハイドン、グラズノフらがいますが、これらの「四季」が春夏秋冬の4曲からなるのに対して、チャイコフスキーの「四季」は1月から12月までの12曲より構成されます。これは月刊誌で連載の形で各曲が発表されたため。6月の「舟歌」は切なく甘美な曲想が郷愁を誘います。4月は「松雪草」。リウさんのみずみずしい演奏から、春の息吹が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ありそうでなかったデュオ!ギターとマリンバの音楽会

投稿日:2024年11月30日 10:30

 今週は村治佳織さんと出田りあさんによるギターとマリンバのデュオをお楽しみいただきました。ギターは小さな空間に適した楽器、一方マ
リンバは大編成のオーケストラのなかからも音が突き抜けてくるほど大きな音が出る楽器です。本来なら共演困難なはずの楽器ですが、音響機器の発達のおかげでこういった組合せも可能になりました。
 最初に演奏されたのは映画「ディア・ハンター」より「カヴァティーナ」。カヴァティーナとはもともと簡潔で単純な形式の歌を指す言葉ですが、転じて抒情的な器楽曲を題するようにもなりました。たとえば、ベートーヴェンの後期の傑作、弦楽四重奏曲第13番の第5楽章もカヴァティーナと題されています。でも、この映画の大ヒット以来、カヴァティーナといえばこの曲が思い出されるようになったのではないでしょうか。ギターとマリンバの音色の組合せが絶妙で、幻想的な味わいがありました。
 2曲目はイギリスの作曲家ジェラルド・フィンジの「フォルラーナ」。これはかなり意外性のある選曲でした。フィンジはだれもが知る作曲家とは言えませんが、イギリス音楽ファンには根強い人気があります。ヴォーン・ウィリアムズやホルストに続く世代の作曲家で、ロンドン生まれながら都市の喧騒を離れ、イングランド南部に移って田舎暮らしを送りました。フィンジならではの田園情緒とみずみずしいリリシズムが、このフォルラーヌにも感じられました。
 おしまいの曲はラヴェルの「道化師の朝の歌」。こちらは人気曲ですね。原曲はピアノ曲ですが、ラヴェル本人の編曲によるオーケストラ版でも盛んに演奏されます。組曲「鏡」のなかの一曲で、フランス人のラヴェルはこの曲の題をあえてスペイン語で記し、ピアノでギターを模倣させてスペインの情景を想起させます。これを本物のギターで演奏しているのが今回の編曲のおもしろいところ。軽快でダイナミックなマリンバが加わって、道化師の情熱がよく伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑧世界遺産のある街・宗像で奏でる音楽会〜後編

投稿日:2024年11月23日 10:30

 先週に引き続いて今週も世界遺産の街、福岡県宗像市からお届けしました。宗像大社秋季大祭での漁船による海上パレードは壮観でした。
 宗像大社神宝館を訪れたLEOさんが目にしたのは、沖ノ島の奉献品である国宝「金銅製雛形五弦琴」。なんと約1300年前のものだとか。すごいスケール感ですよね。当時の人々が奏でる音楽はどんなものだったのか、想像をかきたてられます。
 そんなLEOさんが宗像の空と海の深い青色に触発されて演奏したのが、自作の「DEEP BLUE」。深い海を思わすような神秘的な序奏で始まり、やがてリズミカルな楽想が浮かび上がってきます。音色表現の多彩さが印象的でした。最後の余韻も味わい深かったですね。
 反田恭平さんは宗像大社高宮祭場を訪れて、鳥のさえずりや虫の鳴き声、風の音が交響曲のスコアのように感じられたといいます。ベートーヴェンも自然をこよなく愛し、ウィーン近郊の豊かな自然を創作力の源としていたことはよく知られています。反田さんが宗像で演奏する曲として選んだのは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第2楽章。この楽章に、反田さんは雨上がりの水滴や祈りの表現を感じると言います。
 「皇帝」はベートーヴェンが書いた最後のピアノ協奏曲です。この時代にはごく一般的なことですが、「皇帝」という題は作曲者による命名ではなく、他人が付けたニックネームです。全3楽章からなり、両端の第1楽章と第3楽章はまさにこのニックネームにふさわしく勇壮にして華麗。作曲当時、ベートーヴェンが住むウィーンはナポレオンが率いるフランス軍に攻め込まれ、ベートーヴェンの住居の近くにも砲弾が落ちたといいます。そんな戦時の空気がこの曲に反映されているように感じるのですが、真ん中の第2楽章だけはとても穏やかで、内省的です。人間同士の争いから一歩離れて、自然と対峙するベートーヴェンの姿が浮かび上がってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑧世界遺産のある街・宗像で奏でる音楽会〜前編

投稿日:2024年11月16日 10:30

 今週は番組60周年記念企画として、世界遺産の街、福岡県宗像市からお届けしました。反田恭平さん指揮のジャパン・ナショナル・オーケストラが、宗像ユリックスのハーモニーホールを訪れて「宗像の方々とともに音楽を楽しむ」をテーマに演奏を披露してくれました。
 最初に演奏されたのはモーツァルトの「劇場支配人」の序曲。この曲は石丸幹二さんが司会に就任した際に、番組オープニングテーマに用いられた曲ですね。モーツァルトの「劇場支配人」は少し珍しい作品で、オペラではありません。当時の皇帝ヨーゼフ2世がモーツァルトとサリエリのふたりの作曲家に、同じ祝宴用の音楽を依頼したのですが、モーツァルトには音楽劇を、サリエリにはオペラを依頼したのです。モーツァルトが書いたのは芝居の合間に使われる音楽にすぎませんので、「劇場支配人」は序曲と劇中の4曲しかありません。したがって、現在実際に上演されることは稀。この精彩に富んだ序曲を聴くと、どうせなら皇帝はモーツァルトにもオペラを依頼してくれたらよかったのに……と思わずにはいられません。
 反田さんにとって思い出深い企画である「振ってみまSHOW!」では、ブラームスのハンガリー舞曲第5番が演奏されました。反田さん指揮によるお手本演奏に続いて登場したのは、後藤芽衣さんと谷﨑彩優さん。おふたりとも9歳にして、オーケストラの指揮を体験することに。後藤さんは元気いっぱいにオーケストラをリード。谷﨑さんはテンポを動かして豊かな表情を描き出します。振り終えた後の感想は「ちとムズい」。でも、どちらも本当に立派な指揮ぶりでした。
 おしまいは宗像市の小学3年生、折尾晴香さんが「秋祭りの日のロンディーノ」で反田さん指揮ジャパン・ナショナル・オーケストラと共演。日本の祭りの情景が伝わってくるような生き生きとした演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新世代のイチ推し!新しいクラシックの音楽会2024秋

投稿日:2024年11月09日 10:30

 クラシック音楽は昔の作曲家が書いたものと思われがちですが、どんな名曲も書かれた時点では最新の音楽だったはず。現在も大勢の作曲家が活動しており、新作は日々生み出されています。今回はそんな「新しいクラシック音楽」と呼ぶべき作品を、廣津留すみれさんと多久潤一朗さんのおふたりに紹介していただきました。
 まず廣津留さんが演奏してくれたのは、マックス・リヒターがヴィヴァルディを再構築した「四季」より「冬」の第1楽章。マックス・リヒターはクラシックとエレクトロニカの融合から生まれた「ポスト・クラシカル」と呼ばれる分野の先駆的存在。「四季」のリコンポーズ(再作曲)で大きなムーブメントを作り出しました。7拍子になるところがおもしろかったですよね。
 続いて多久さんが選んだのは、イアン・クラークの「オレンジ色の夜明け」。イアン・クラークは現代のフルート奏者で、作曲家でもあります。アフリカの風景を題材にしたこの作品は、明快な曲想を持ちつつも、フルートの特殊奏法によって音色表現がぐっと拡大されています。斬新でありながらもアルカイックなムードが漂う曲でした。
 次の曲は廣津留さんによるアルヴォ・ペルトの「Darf ich…」。ペルトは現代の代表的な作曲家のひとり。簡潔さ、静寂、反復性を特徴とした作風で、その音楽には「祈り」の要素が色濃くにじんでいます。今回の曲はある種の問いかけを含んだ音楽で、聴く人がさまざまに解釈することができると思います。
 最後に演奏されたのは、多久さんが選んだニーノ・ロータの「フルートとハープのためのソナタ」第1楽章。清澄な響きによる優しい音楽でした。「ゴッドファーザー」や「ロミオとジュリエット」など映画音楽の分野であまりに有名なニーノ・ロータですが、本人は自身を映画音楽専門の作曲家とはみなさず、純音楽作品をいくつも残しています。ニーノ・ロータの映画音楽以外の作品は、これから再評価が進むのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もっと自由に誰でも音楽を楽しめる!el tempoの音楽会

投稿日:2024年11月02日 10:30

 今週はシシド・カフカさんが主宰するel tempo(エル・テンポ)のみなさんをお招きしました。昨年もご出演いただきましたが、el tempoは、ハンドサインによる即興演奏集団。シシドさんのハンドサインを読みとって、メンバーがさまざまなリズムを奏でます。指揮者とオーケストラのような関係を連想しますが、決定的に違うのは、これが即興演奏であること。その場で音楽を作り出す自由度の高さに魅力を感じます。
 ハンド・サインによる即興演奏の仕組みを編み出したのは、アルゼンチン出身のミュージシャン、サンティアゴ・バスケス。100種類以上のサインを駆使することで、一期一会の音楽を生み出します。シシドさんはサンティアゴ・バスケスへの共感からel tempoを結成しました。
 実際にそのサインについて、シシドさんが解説してくれましたが、本当にたくさんの種類があって驚きます。奏者を指定するサイン、スタッカートなどの表現を示すサイン、指を音符に見立ててリズムを伝えるサイン、音域の高低を表すサインなどなど。ひとつひとつはわかりやすいのですが、これを即座に読み取って演奏に反映するとなると、かなり難しそうです。でも、実際に会場の一員としてコール&レスポンスに参加してみましたが、やってみると楽しいんですよね。いつサインが来るのかと客席全員がシシドさんの動作を注視して、サインに応じていっせいに手を叩く様子は壮観。ゲーム感覚もあって興味深い体験でした。
 今回はel tempoとソニーグループで共同開発した新たな楽器、ハグドラムの演奏で、手話エンターテイメント発信団oioi(オイオイ)のおふたりも演奏に加わってくれました。ハグドラムは「演奏者を問わない」ことをコンセプトにしたインクルーシブデザインによる打楽器。叩いた音を光と振動で感じることができます。こんな合奏の楽しみ方もあるのだという発見がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~パガニーニ編

投稿日:2024年10月26日 10:30

 「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズ、今回は超絶技巧の元祖ともいうべきヴァイオリニスト、パガニーニをとりあげました。難曲を鮮やかに弾き切る服部百音さんには圧倒されるばかり。実に強烈でした。
 パガニーニは1782年、イタリアのジェノヴァに生まれたヴァイオリニストです。従来の常識をくつがえす華麗で斬新な演奏で名声を確立。イタリアのみならずウィーンやドイツ各地、さらにはパリ、ロンドンにも進出して、ヨーロッパ各地に旋風を巻き起こしました。あまりに凄まじいテクニックは「悪魔に魂を売り渡した代償として超絶技巧を手に入れた」と噂されたほど。どの都市に行っても聴衆は熱狂的にパガニーニを迎え入れ、高額なチケットが飛ぶように売れたと言います。
 もちろん、18世紀のことですから、パガニーニ本人の演奏は録音に残っていません。しかし当時の人々の証言は、パガニーニが並外れた天才だったことを伝えています。若きリストはパリでパガニーニの演奏を聴き、その壮絶な演奏に圧倒されて「僕はピアノのパガニーニになる!」と決意したと言います。また、シューベルトは貧乏だったにもかかわらず、大枚をはたいてウィーンでパガニーニの演奏を聴き、「アダージョで天使が歌うのを聴いた」と語っています。つまり、超絶技巧だけではなく、ヴァイオリンを歌わせる能力も卓越していたんですね。
 パガニーニは興行師としての才も長けており、巨万の富を築いたと言います。ただ、それゆえに自作が他人に広まることを嫌い、生前はほとんど楽譜を出版しませんでした。曲が盗まれることを恐れ、ヴァイオリン協奏曲を演奏する際は演奏会ごとにパート譜をオーケストラのメンバーに配り、演奏会が終わるとすぐに回収したという徹底ぶり。そのため、パガニーニのかなりの作品は散逸してしまったと考えられます。私たちは幸運にも後世まで残された楽譜から、その天才性に感嘆するほかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑦ 日本の伝統楽器を未来に繋げる音楽会

投稿日:2024年10月19日 10:30

 今週は番組60周年記念企画の第7弾といたしまして、新しいスタイルによる日本の伝統楽器の演奏をお楽しみいただきました。伝統楽器から、こんな響きが作り出されるのかという驚きがあったのではないでしょうか。
 最初に演奏されたのは、坂本龍一作曲の「東風 Tong Poo」。一世を風靡したYMOの名曲です。リリースは1978年。シンセサイザーのサウンドがテクノ旋風を巻き起こしました。当時は電子音が醸し出す未来的なイメージと、東洋風の曲調とのギャップが斬新だったのですが、今回はこれを藤原道山さんの尺八、本條秀慈郎さんの三味線、LEOさんの箏で演奏することで、また違った種類のギャップが生まれていたと思います。エキゾチックなような、なじみ深いような不思議なテイストがありましたね。
 藤原道山さんは尺八アンサンブルの風雅竹韻とともに、自作の「東風(こち)」を演奏してくれました。ソロの尺八と尺八アンサンブルの関係は「メインボーカルとバックバンド」のようなものだとか。同じ楽器のみによる合奏であるにもかかわらず、表現はおもいのほか多彩。尺八が重なり合って作り出される音色に温かみを感じました。
 三味線の本條秀慈郎さんはトランペットの松井秀太郎さんと共演。まさか、三味線とトランペットが共演可能だとは。曲はV.アイヤーの「JIVA(ジーバ)」。おふたりの編曲によって、とても現代的な響きが作り出されていました。トランペットの特殊奏法がふんだんに用いられ、とりわけ籐で作ったミュートによるまろやかな音色は印象的です。
 LEOさんは箏でミニマル・ミュージックに挑戦しました。曲はスティーヴ・ライヒのElectric Counterpointの第3楽章。ミニマル・ミュージックの分野における古典的名作といってもよいでしょう。10パート中9パートをあらかじめ多重録音しておき、その音源と共演するというユニークな演奏形態がとられています。オリジナルではエレキギターとエレキベースが使われていましたが、箏で聴いてもまったく違和感がありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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