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“ニュー・クラシック”を演奏する音楽会

投稿日:2025年09月27日 10:30

 近年、映画やゲームのために書かれた音楽が、単独の楽曲としてくりかえし演奏される例が増えてきたように思います。もともとの映画やゲームが発表されてから時間が経っても、音楽はずっと演奏され続けている……となれば、これは一種のクラシックでは。番組ではこういった新たな名曲を「ニュー・クラシック」と呼びたいと思います。今週はギターの村治佳織さんと、フルートのCocomiさんに、お気に入りの「ニュー・クラシック」を演奏していただきました。
 1曲目は植松伸夫作曲のゲーム「ファイナルファンタジーX」より「ザナルカンドにて」。これは名曲ですよね。ゲームファンの間で名高いばかりではなく、「ファイナルファンタジーX」をプレイしたことがなくとも聴いたことのある方は少なくないでしょう。ノスタルジックな曲調はギターにもぴったり。最初からギターのために書かれた曲なのかと思ってしまうほどです。
 2曲目はヤン・ティルセン作曲の映画「アメリ」より「ある午後のかぞえ詩」。2001年公開のフランス映画「アメリ」は日本でも社会現象といえるブームを引き起こしました。音楽を担当したヤン・ティルセンは映画音楽の作曲家ではなく、ジャンルにとらわれない活動をする音楽家です。「ある午後のかぞえ詩」はピアノ学習者にも人気が高く、映画音楽の枠を超えた名曲となっています。
 3曲目はグスターボ・サンタオラヤ作曲のゲーム「The Last of Us」より「メインテーマ」。2013年発売のパンデミックにより崩壊した世界を舞台としたサバイバルアクションゲームのために書かれました。儚く切ない曲想が心にしみます。
 おしまいはベンジ・パセク&ジャスティン・ポール作曲の映画「グレイテストショーマン」より「タイトロープ」。2017年製作のミュージカル映画です。メロディはのびやかで流麗なのですが、どこか寂しげで、内省的な雰囲気をまとっているところが印象に残りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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葉加瀬太郎が“坂本龍一”を弾く音楽会

投稿日:2025年09月20日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんが「僕にとってのアイドル」と語る坂本龍一の作品を演奏してくれました。ピアニストでもあった坂本龍一の作品をヴァイオリニストの葉加瀬さんが演奏するのは少し意外にも感じましたが、葉加瀬さんは「生前に彼自身が演奏していたものとは違う形になって、後世に残ってよいのではないか。現代におけるクラシック音楽ととらえたい」と語ります。
 クラシック音楽の作曲家たちもかつては自分で自分の作品を演奏していました。バッハもモーツァルトもベートーヴェンも、基本的には自分が演奏するために曲を作ったのです。しかし、作曲者が世を去った後も、残された作品を他人がさまざまなスタイルや解釈でくりかえし演奏することで、これらはやがて「クラシック音楽」になりました。今後、坂本龍一作品も多くのアーティストが演奏を重ねることで、新たなクラシック音楽とみなされるようになるのではないでしょうか。
 1曲目は「energy flow」。「ブラームスの弦楽四重奏のような」というお話があったように、4人の弦楽器奏者が繊細に絡み合いながら、しっとりとした情感豊かな音楽を紡ぎ出します。ラヴェルを思わせるようなフランス音楽の要素も感じられますね。
 2曲目は映画「ザ・シェルタリング・スカイ」のテーマ。ヴァイオリンと箏とクラリネットという意外性のある組み合わせで、幻想的で儚い世界を描き出します。クラリネットの寂しげな表情が印象的でした。
 3曲目は「TANGO」。タンゴと題されていますが、実際にはボサノヴァ調の楽曲。ヴァイオリンとチェロとアルトフルートが歌のパートを担当しました。ソロ楽器の対話が心地よく落ち着いたムードを作り出します。
 4曲目は「andata」。今回は弦楽四重奏にインドネシアのガムラン、シンセサイザーが加わって、西洋と東洋、過去と現代を結びつける実験的な試みが行われました。ガムランが見知らぬ土地へと誘ってくれるかのようでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会~夢響2025 後編

投稿日:2025年09月13日 10:30

 今週は先週に続きまして、年に一度のスペシャル企画「夢響」の後半をお届けしました。オーディションを通過した4名が、田中祐子さん指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演を果たしました。
 テノールの大塚敦司さんは1990年のワールドカップ決勝戦前夜に開かれた「三大テノール」をきっかけに、オーケストラと共演する夢を持ったと言います。曲はパヴァロッティが得意としたプッチーニの「誰も寝てはならぬ」。パヴァロッティは甘く輝かしい声で一世を風靡しましたが、大塚さんも甘い声の持ち主ですよね。オーケストラの分厚いサウンドと一体となった、堂々たる歌唱でした。
 フルートの小針梓さんは、子育てでいったん離れていた音楽活動に復帰して、オーケストラと共演する夢をかなえました。仕事と家庭を両立させながら音楽に向き合う姿に共感した方も多いのではないでしょうか。曲はハチャトゥリアンのフルート協奏曲の第1楽章より。冴え冴えとして詩情豊かなフルートのソロを披露してくれました。
 立花輝さんは指揮に挑戦。高校の吹奏楽部でクラリネットと指揮を担当しているそうですが、オーディションではピアノも弾いてくれました。指揮は相手がいなければ本当の練習はできませんので、楽器や歌とは違った難しさがあったと思いますが、自信を持った指揮ぶりでプロのオーケストラを引っ張ってくれました。曲はマーラーの交響曲第1番「巨人」の第4楽章より。この部分はカッコいいですよね。勢いのあるサウンドが出てきました。
 チェロの松村皐生さんは9歳。フォーレの「エレジー」をのびのびと演奏して、自分の音楽を奏でてくれました。わずか9歳とは思えない立派な演奏で、クライマックスの部分では胸がいっぱいになりました。
 全員がすばらしかったので、今回の審査はひとりに絞るのが難しかったと思いますが、スペシャル・ドリーマー賞は、指揮に挑戦した立花輝さんに決まりました。立花さん、おめでとうございます!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会~夢響2025 前編

投稿日:2025年09月08日 13:12

 今週は先週のオーディション編に続きまして、年に一度のスペシャル企画「夢響」の前編の模様をお届けしました。オーディションを通過した参加者たちが、ついに田中祐子さん指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演を果たします。
 トップバッターはピアノの春木穏流さん。まだ小学4年生です。昨年の参加者、久保壮希さんが客席からエールを送ってくれました。ふたりの友情が熱い! 曲は清塚信也さん作曲の「Brightness」より。みずみずしく高揚感にあふれた音楽が紡ぎ出されました。
 2番手はホルンの山路樹里さん。小中学校ではトランペットを吹いていたのに、高校では定員オーバーで、くじ引きでハズレをひいたことがホルンとの出会いになったとか。今ではホルンは自らの分身だといいます。応援団には師匠である元東京響楽団ホルン奏者の大和田浩明さんの姿も。曲はリヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第1番の第1楽章より。この曲はホルン奏者の憧れの曲でしょう。冒頭のファンファーレ風主題がカッコよかったですよね。
 3番手はオーボエの伊藤由貴さん。ベルリン・フィル入団という大きな夢を抱いての参加です。現在は高校3年生。来年はドイツの大学に進学するといいますから、すごいですよね。送り出す親御さんの姿に、子を応援する気持ちや心配する気持ちなど、いろいろな思いが滲み出ていたと思います。曲はハイドンのオーボエ協奏曲の第1楽章より。のびやかで生き生きとしたソロを披露してくれました。本当にすばらしい演奏でした。
 4番手はピッコロの小松有更さん。赤いベストがきまってました。「大好きな曲」というハチャトゥリアンのフルート協奏曲(原曲はヴァイオリン協奏曲)の第3楽章に挑戦。ピッコロによる演奏でこの曲を聴いたのは初めてでしたが、軽快にして爽やか。この曲の新しい魅力を発見した思いです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会~夢響2025 オーディション編

投稿日:2025年08月30日 10:30

 オーケストラと共演する夢をかなえる「夢響」が今年も開催されます。今回はそのオーディションの模様をお届けしました。オーディションには書類選考により選ばれた約100名が参加。審査員はチェリストの宮田大さんと指揮者の田中祐子さんです。オーディションの結果、8名の合格者が選ばれました。
 偶然ですが、フルートの小針梓さんとピッコロの小松有更さんが選んだのは、ハチャトゥリアン(ランパル編曲)のフルート協奏曲。この曲、原曲はヴァイオリン協奏曲ですが、名フルート奏者ランパルの編曲でフルート協奏曲としても親しまれています。フルートの小針さんは第1楽章、ピッコロの小松さんは第3楽章を演奏します。
 ホルンの山路樹里さんが選んだのは、リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第1番。この曲は本当にカッコいいですよね。第1楽章の冒頭はしびれます。
 歌の大塚敦司さんが選んだのはプッチーニの「だれも寝てはならぬ」。パヴァロッティに憧れての選曲ですが、よくわかります。パヴァロッティの「だれも寝てはならぬ」は最高でした。
 チェロの松村皐生さんは小学3年生。フォーレの名曲「エレジー」を演奏してくれました。この大人びた選曲からしてすばらしいのですが、演奏からも熱い気持ちが伝わってきます。
 オーボエの伊藤由貴さんは高校3年生。オーボエは難しい楽器の筆頭格に挙げられますが、「難しい楽器というイメージは持っていない」と語ってくれました。見事な音色でした。
 ピアノの春木穏流さんは小学4年生。昨年は観客席で久保壮希さんの応援団を務め、今回は自身が「夢響」に参加することになりました。今までにない熱い展開です。
 指揮でエントリーしたのは高校2年生の立花輝さん。審査の田中さんのリクエストにこたえて、ピアノでリストの超絶技巧練習曲第1番を弾いたことで、道が開けました。音源に合わせて指揮棒を振るだけではわからない、音楽への向き合い方が伝わったのでしょう。夢の実現まで、あとわずかです!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~アンコール 後編

投稿日:2025年08月23日 10:30

 今週は先週に引き続きまして、「山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会」アンコール放送の後編をお届けしました。スペシャル・アドバイザーであるチェロの宮田大さん、ホルンの福川伸陽さんという日本を代表する名手たちも加わり、練習を通してオーケストラがどんどん変わっていく様子が映像から伝わってきました。
 山田和樹さんがリハーサル中に目標として掲げたのは「自分にしか出せない音を出すこと」「このメンバーでしかできない音楽をすること」。ドヴォルザークの「新世界より」の部分では、第1ヴァイオリンに対して「個性を出してほしい」と求めると、ぐっと生き生きとした表情の音楽が返ってきました。具体的にどう弾くかという指示はないのですが、子どもたちがしっかりと言葉を受け止めて、音楽として表現してくれるのがすばらしいと思いました。ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分で山田さんが求めたのは「胸キュン」。山田さんのアドバイスによって、格段に情感豊かな音楽が湧き出してきます。
 本番の演奏は東京藝術大学の奏楽堂で行われました。曲は上田真樹さん編曲の「クラシックのおもちゃ箱」。クラシックの名曲が次々とメドレーで登場します。客席でこの演奏を聴きましたが、冒頭からすごい音が出てきたのにはびっくり。一期一会にかけるみんなの思いがひとつになっていて、まさしく「このメンバーでしかできない音楽」だったと思います。
 サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」の部分ではソロの奪い合いをする趣向まで飛び出します。この緊張感のある状況で、こんなに楽しいことをやってのけるとは。山田さんが大好きだというガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の部分では、とても甘美で、ノスタルジーに満ちた音楽が奏でられました。ラヴェルの「ボレロ」によるエンディングは感動的。子どもたちが切り拓く未来は、きっと輝かしいものになるにちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会~アンコール 前編

投稿日:2025年08月16日 10:30

 今年1月と2月に4週にわたって放送した「山田和樹が育む未来オーケストラの音楽会」は、第62回ギャラクシー賞優秀賞と第51回放送文化基金賞エンターテインメント部門最優秀賞を受賞しました。今週よりアンコール放送といたしまして、本企画を特別編集版で2週に凝縮してお送りいたします。
 未来オーケストラのオーディションには書類選考を経た104人が参加しました。山田さんは長時間のオーディションに立ち会った結果、「落とす人が見当たらなかった」と言い、全員を合格させます。
 104人ともなれば、オーケストラとしてもかなりの大編成。全員が参加できる曲が必要になりますが、パートによって人数はばらばら。そこで、通常の第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンに加えて第3ヴァイオリンを設けるなど、このオーケストラのための特別な編曲が用意されました。
 全体練習にあたっては、事前にメンバー全員に山田さんから手紙が送られています。そこにはメンバーへのリクエストがいくつか記されていました。たとえば、指揮者を「先生」と呼ばないこと。教える側と教わる側の一方的な関係を築くのではなく、ともに音楽を楽しむことを大切にしたいというのです。
 練習中には、譜面台にメンバーそれぞれのニックネームが貼られ、山田さんは盛んにメンバーたちとのコミュニケーションをとっていました。「今日どこから来たん?」とメンバーに尋ね、地元にまで届く音を求める場面は印象的。音量がほしいのではなく、音にメッセージ性がほしいという難しいリクエストでしたが、子どもたちはそれぞれに反応して、生き生きとした表情を持った音を返してくれます。
 指揮棒に合わせて拍手をする練習をした後の、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」もおもしろかったですね。山田さんの自在の棒にぴたりとメンバーがついてきて、みんながひとつになっている様子が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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日本版キャストが歌う!ディズニーの音楽会

投稿日:2025年08月09日 10:30

 今週はディズニーの名曲をそれぞれの日本版キャストのみなさんに歌っていただきました。共演は角田鋼亮指揮東京フィル。オーケストラのためのスペシャルアレンジによる演奏です。
 『ミラベルと魔法だらけの家』より「奇跡を夢みて」を歌ってくれたのは斎藤瑠希さん。いとこのアントニオが魔法を授かったときに、ミラベルが感情を爆発させる場面で歌われます。ミラベルが味わう疎外感がドラマティックな曲想で表現されます。斎藤瑠希さんの輝かしい声に厚みのあるオーケストラのサウンドが加わって、大きなうねりを生み出していました。
 実写版『白雪姫』の劇中歌「夢に見る~Waiting On A Wish~」を歌ったのは吉柳咲良さん。白雪姫が邪悪な女王により変わり果てた王国を憂い、自分にどうにかできないかと葛藤する場面で歌われます。ハープが白雪姫の優しさだけではなく、強さも表現するというお話がありましたが、決然とした曲調からも白雪姫が強いハートを持った、今の時代にふさわしいプリンセスであることが伝わってきます。
 『ライオン・キング:ムファサ』より「聞かせて」では、ムファサ役の尾上右近さんとサラビ役のMARIA-Eさんのおふたりが登場。秘めていた互いの思いを伝え合う場面で歌われます。サバンナの雰囲気を表現するマリンバをはじめ、オーケストラのさまざまな楽器が活躍して、広大な大地を描きます。尾上右近さんのリリカルな声、MARIA-Eさんの豊かで深い声がオーケストラと溶け合って、ゴージャスな音色を作り出していました。
 『ノートルダムの鐘』でカジモド役を歌ったのは石丸幹二さん。ヴィクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」を原作とした名作です。「僕の願い」では、大聖堂の鐘楼で孤独に暮らすカジモドの内面が歌われます。石丸幹二さんの温かみのある声は、純真なカジモド役にぴったり。精彩に富んだオーケストレーションとあいまって、すばらしい高揚感にあふれていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名指揮者の考察シリーズ!ボレロはなぜ繰り返すのか?を探る音楽会

投稿日:2025年08月02日 10:30

 今週は「名指揮者の考察シリーズ」。角田鋼亮さんにラヴェルの「ボレロ」について考察していただきました。
 ラヴェルの「ボレロ」は1928年の作曲。ラヴェルの代表作であるばかりか、フランス音楽屈指の人気曲として親しまれています。この曲はもともとはバレエのための音楽として作曲されました。スペイン風のバレエ音楽を書いてほしいと頼まれたラヴェルは、当初、スペインの作曲家アルベニスのピアノ曲「イベリア」をオーケストラ用に編曲しようと考えていました。ところが編曲の権利を巡る問題から計画が頓挫し、代わりに急遽オリジナルの作品を書くことに決めます。こうして短期間で完成されたのが「ボレロ」。延々と同じメロディをくりかえすこの曲は多くのオーケストラから演奏を拒否されるだろうと作曲者は考えていました。ところが、実際の反応は正反対。「ボレロ」は大成功を収め、各地のオーケストラがこぞって演奏する人気曲となったのです。
 指揮者の角田鋼亮さんは、「ボレロ」のくりかえしは人間の一生を表現したものだと考察します。スネアドラムが反復するリズムにベートーヴェンの「運命」の動機のリズムを読み取り、人が抗うことのできない運命のレールが敷かれていると解します。2つのメロディが表すのは、ひとつは「平穏な日常」、もうひとつは「変化と刺激」。なるほど、両者の交替は人生そのものです。曲の終盤の転調で高みに到達し、タムタムとともに人生の終着点を迎えます。とても説得力のある解釈だと思いませんか。
 こういった角田さんの解釈は、東京フィルの演奏にもしっかりと反映されていたと思います。前へ前へと進むエネルギッシュな演奏は、まさしく止まることのない人生。情熱にあふれた力強い「ボレロ」に圧倒されました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ワーグナーの壮大な楽劇『ラインの黄金』を知る音楽会

投稿日:2025年07月26日 10:30

 オペラの超大作といえば、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」。「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の全4部からなりますので、通して上演するには4日間が必要です。
 4部作のなかでは今回特集した「ラインの黄金」がいちばん短く、上演時間は2時間半ほど。いちばん長いのはおしまいの「神々の黄昏」で、こちらは正味4時間半くらいあります。「神々の黄昏」では幕間の休憩もたっぷり入りますので、実際の上演には6時間ほどかかります。そんな長丁場をオペラ歌手のみなさんは大編成のオーケストラと渡り合って歌うのです。はっきり言って、超人です。
 物語のスケールの大きさも尋常ではありません。今回の「ラインの黄金」は、ライン川の乙女たちが、地底のニーベルング族のアルベリヒに黄金を盗まれるところから物語が始まります。ラインの黄金で作った指環があれば権力は思いのまま。一方で神々の長であるヴォータンは、女神フリッカを報酬として巨人族にヴァルハラ城を建てさせるのですが、いざ完成すると、フリッカを渡す気などなく、狡猾な火の神ローゲと一計を案じて地底に向かいます。そして、策略でアルベリヒから指環や財宝をとりあげてしまいます。神様なのに卑怯ですよね。ヴォータンは巨人族に報酬として財宝を与えるのですが、その際に、指環まで要求されてしまいます。本当は指環を渡したくないヴォータンですが、智の女神エルダの警告に従って、指環を巨人族の兄弟に渡します。するとさっそく呪いが発動して、指環を欲する兄弟同士の殺し合いが起きるのです。
 北欧神話等が物語の題材になっていますが、オペラの台本を書いたのはワーグナー自身。すごいですよね。台本も曲もひとりで書いているのです。この物語は最後に「神々の黄昏」、すなわち神代の終焉までたどり着きます。なんという壮大さ。人類が生んだもっとも偉大なオペラのひとつと呼んでも過言ではありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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