今では世界中で盛んに演奏されるような人気曲でも、作曲者の生前はほとんど知られていなかったというケースは決して珍しくありません。今週は名曲が有名になった意外な理由に焦点を当ててみました。
20世紀後半、録音再生技術の普及によって音楽の世界は大きく変貌しました。レコードが名曲を生み出す時代になったといってもよいでしょう。その典型が、パッヘルベルの「カノン」。この曲が有名になったのは、1968年録音のパイヤール室内管弦楽団によるレコードのおかげです。パイヤール室内管弦楽団は、楽譜から想像されるよりもずっと遅いテンポで、情感豊かなスタイルで「カノン」を演奏しました。このロマンティックな演奏解釈がなければ、これほどまでに「カノン」が有名になることはなかったかもしれません。
同じくレコードが決定的な役割を果たしたのが、ヴィヴァルディの「四季」です。イタリアのイ・ムジチ合奏団による「四季」のレコードは世界的な大ベストセラーとなり、バロック音楽ブームの立役者となりました。1955年以来、イ・ムジチ合奏団はくりかえしこの曲を録音し、日本をなんども訪れて演奏会を開いています。家庭にステレオ装置が普及する時期と重なったこともあって、一頃はイ・ムジチの「四季」のレコードは一家に一枚あるのではないかと囁かれるほどの人気を誇りました。
ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」は、他人の編曲によって原曲も有名になった珍しいケースです。この曲は作曲者の生前に出版されておらず、おそらく演奏されたこともなかったでしょう。しかし、ラヴェルがオーケストラ用にカラフルな編曲を施したことで人気を呼び、それに伴って原曲への注目度も格段に高まりました。
リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」は、技巧的なアンコールピースとして、さまざまな楽曲で演奏されています。原曲はオペラ「皇帝サルタンの物語」の一場面。こんな形で曲が広まるとは、作曲者は想像もしていなかったのではないでしょうか。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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