「題名のない音楽会」は今年、60周年を迎えました。今回は現在第一線で活躍する音楽家のみなさんに、過去の放送回から忘れられない名演を選んでいただきました。
Cocomiさんが挙げたのは、エマニュエル・パユが独奏を務めたビゼー作曲、ボルヌ編曲の「カルメン幻想曲」。パユといえば、ベルリン・フィル首席フルート奏者を務める現代最高の名手のひとり。ソリストとしても室内楽奏者としても活躍するフルート界のスーパースターです。その驚異的なテクニックと豊かな情熱がこの映像からも伝わってきました。なんどもくりかえして映像を見たために、パユの足を上げる癖がうつってしまったというCocomiさんのお話がおもしろかったですよね。
小林愛実さんが番組に初登場したのは2010年。まだ14歳でしたが、すでに天才少女として熱い注目を浴びていました。あの天才少女がこうして立派な大人のピアニストに育ったことに感慨を抱かずにはいられません。そんな小林さんが挙げてくれたのは、ラン・ランがオレンジでショパンを弾いた回。この秘技もさることながら、これをラン・ランに教えてくれたのが大巨匠として知られるダニエル・バレンボイムだったということにも驚きます。そんな茶目っ気があったとは。
鈴木雅明さんと優人さんは今年、番組内で初めての親子共演が実現しました。バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会では、よくおふたりの共演を目にしますが、こうしてトークをする場面は新鮮です。米良美一さんが歌う「もののけ姫」主題歌に「懐かしいね」という声が挙がっていました。「もののけ姫」で広く注目を集めた米良さんですが、それ以前から、バッハ・コレギウム・ジャパンで活躍していたことを思い出します。おふたりとも「米良ちん」と呼んでいて、仲間内の親密な雰囲気が伝わってきました。初代司会者の黛敏郎さんが司会するクイズ企画もおもしろかったですよね。「田園交響曲」のフレーズの反復には爆笑。これは難問でした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)