今週は音楽と言語のつながりをテーマにお届けいたしました。言葉のない器楽曲であっても言語を意識して演奏するというお話が興味深かったですよね。日本語だけではわからない西洋音楽の奥深い世界を垣間見たように思います。
ブラームスですばらしい演奏を聴かせてくれたのは岡本誠司さん。昨年、第1位をなかなか出さないことで知られるミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で、見事第1位に輝きました。不思議に思われる方もいるかもしれませんが、クラシックの音楽コンクールではあえて第1位を出さず、第2位を最高位とすることがあります。そのコンクールの第1位とするふさわしい才能が見出せなかった場合に、やむを得ず第1位を空白にするわけです。たとえば、あのショパン国際ピアノ・コンクールでも、1990年と1995年は2回連続で第1位が出ませんでした。
せっかく若手にチャンスを与えるために開催しているのに、第1位を出さないのではなんのためのコンクールなのかわからない。そんな批判的な見方もあるでしょう。昨今の趨勢としては、なるべく第1位を出す傾向が強くなっていると感じますが、それでもミュンヘンのヴァイオリン部門はなかなか第1位を出してくれません。なにしろ第1位が出た回より、出なかった回のほうが多いのです(!)。前回2017年も、前々回2013年も第1位が出ませんでした。2009年以来、12年ぶりに与えられた第1位が岡本誠司さんだったのですから、これは快挙というほかありません。
その岡本さんが演奏してくれたのはブラームスの2曲。最初の「F.A.E.ソナタ」は3人の作曲家が楽章ごとに分担して作曲するという珍しいアイディアにもとづく作品ですが、現代ではブラームスが書いた第3楽章が単独で演奏されることがほとんどだと思います。エネルギッシュな「F.A.E.ソナタ」、そして最後に演奏された滋味豊かなヴァイオリン・ソナタ第3番、ともにブラームスの魅力がたっぷり詰まっていたと思います。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)