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市民が文化をつくる街・知多で音楽会~歴史と文化をたずねて

投稿日:2025年11月29日 10:30

 今週は市民が文化をつくる街、愛知県知多市を訪ねました。先週と先々週の2回にわたって金管アンサンブル「ちたUMEブラス」の奮闘ぶりをお伝えいたしましたが、今回は伝統芸能とアマチュアオーケストラがテーマです。
 知多市に伝わる尾張万歳は、国の重要無形民俗文化財。現代の漫才のルーツとされますが、「漫才」ではなく「万歳」と書いて「まんざい」と読みます。初めて見たという方も多かったのではないでしょうか。もともとは正月に各家を訪れて、お祝いをするとともに家内の安全と繁栄を願うものだったんですね。尾張万歳保存会のみなさんに今回上演していただいたのは、正月に七福神を家に招き入れる「御殿万歳」。恵比寿、布袋、福禄寿、弁財天……と、次々と招福の神様が入場するのですから、これほどおめでたい話もありません。歌があり、リズムがあり、踊りがあり、物語性があるということで、まるでオペラみたいだなと思った方もいらっしゃるのでは。音楽の雰囲気は違いますが、神々が入場するという点で、ワーグナーの楽劇「ラインの黄金」の「ヴァルハラ城への神々の入城」を、つい思い出してしまいました。
 チャイコフスキーの交響曲第4番より第4楽章を演奏してくれたのは、知多市民オーケストラのみなさん。知多市民オーケストラは知多市勤労文化会館30周年を記念して誕生した、団員約60名からなるアマチュア・オーケストラです。なんと、毎週ホールで練習ができるのだとか! 練習場の確保はアマチュアオーケストラにとって大きなテーマですが、たいへん恵まれた環境にあります。出口大地さんの指揮のもと、東京交響楽団の第1コンサートマスターの小林壱成さんとともに、堂々たる演奏を聴かせてくれました。情熱をみなぎらせながらも格調高いチャイコフスキーで、深い味わいがありました。終結部の高揚感はすばらしかったですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ちたUMEブラス②夏合宿編

投稿日:2025年11月22日 10:54

 今週は先週に引き続きまして、愛知県知多市で活動する小中学生によるによる金管アンサンブル「ちたUMEブラス」の奮闘ぶりをお伝えいたしました。今回もサクソフォン奏者上野耕平さんが率いる PANDA Wind Orchestra が全力でサポート。本番2か月前の夏合宿に上野耕平さんといっしょにトランペットの中嶋尚也さん、トロンボーンの松永遼さん、ユーフォニアムの佐藤采香さん、テューバの芝宏輔さんが乗り込みます。
 演奏曲はMrs. GREEN APPLEの「ライラック」。子どもたちは楽器ごとに分かれてパート練習に取り組みます。とても示唆に富んだ練習風景で、プロの奏者はこんなふうに教えてくれるのかという感慨がありました。トランペット・コルネットのパート練習ではタンギングについて、さらには客席に向かって吹く大切さが教えられます。ユーフォニアム・テューバのパート練習では「体を通り抜けていく風をイメージ」して吹くというアドバイスがありました。佐藤さんの「風に色を付ける感じ」という表現がおもしろかったですね。トロンボーン・ホルンのパート練習では、「ミスを気にしない」というアドバイスも。ここでも息をしっかり入れる練習が行われました。
 上野さんによる全体練習では、「音には一個一個必ず色がある」というお話がありました。そして、だんだん前のめりになってくる子どもたちに、リズムとテンポをキープするように求めます。子どもたちはとても素直に先生たちの教えを吸収して上達します。上野さんも疲れたと言いつつも、しっかりとした手ごたえを感じているようでした。
 ところが、夏合宿から3週間後に第4回のレッスンを行ってみると、前回はできていたことができていません。こうなったら先に進むのではなく、もう一度、前回の復習です。子どもたちは少し不安げな表情を浮かべていましたが、さて、本番はどんな演奏になるのでしょうか。粘り強い練習が実を結びますように!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ちたUMEブラス①始動編

投稿日:2025年11月15日 10:30

 今週は愛知県知多市で活動する小中学生による金管アンサンブル「ちたUMEブラス」で奮闘する子どもたちの姿をご覧いただきました。サクソフォン奏者の上野耕平さんとPANDA Wind Orchestraのみなさんによるサポートを得て、5か月にわたる練習を経て本番のステージを目指します。今回はシリーズの第1回、始動編です。
 知多市では小学校の部活動が廃止になったことにともない、新たに「ちたUMEブラス」が発足しました。上野さんはこれを「これからの吹奏楽活動のモデル」と前向きにとらえ、積極的に応援していきたいと語ります。
 上野さんが「ちたUMEブラス」との練習で、最初に教えたのは、「息の使い方がいちばん大事」ということ。この先、どんなに上手になっても大切なことだと言います。息を全部吐き切る練習からスタートし、なるべく音を遠くへ飛ばすイメージを持つように指導します。子どもたちから「宇宙の外側」という表現が出てきましたが、すばらしい発想ですよね。レッスンを通じて、子どもたちの音が変わっています。レッスン後、上野さんが「少し教えただけであれだけ変わる」と話していましたが、子どもたちの吸収力はすごいと感じます。
 2回目のレッスンは本番と同じホールでの練習です。PANDA Wind Orchestraのトロンボーン奏者、山下純平さんが指導に当たりました。山下さんの教えは「音を鳴らすときは自然な呼吸で」。やはり息が大事なんですね。マウスピースを使った練習に、みんなで一生懸命取り組んでくれました。
 本番ではどの曲を演奏するのか。子どもたちから挙がった名前は、Ado、YOASOBI、Mrs. GREEN APPLE。最終的にリクエストの多かったMrs. GREEN APPLEの「ライラック」に決まりました。「ちたUMEブラス」のこれからの挑戦から目が離せません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト

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オーケストラの土台!コントラバスとティンパニを知る休日

投稿日:2025年11月08日 10:30

 今週は「オーケストラの土台」を担うコントラバスとティンパニに焦点を当ててみました。指揮者の角田鋼亮さんいわく、サッカーにたとえればコントラバスはディフェンダー、ティンパニはゴールキーパー。後方に頼りになる守備陣が控えているからこそ、攻撃陣はのびのびとプレイできるということなのでしょう。
 オーケストラではコントラバスだけが演奏する場面はほとんどありませんから、今回の放送を見て、「コントラバスってこんなことをやっていたんだ!」と知ることがたくさんあったのではないでしょうか。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を例に幣さんの解説がありましたが、メロディを奏でるヴァイオリンに寄り添うこともあれば、走りすぎているようならさりげなく落ち着かせたりと、陰で全体をコントロールしている話がおもしろいと思いました。
 瀬さんのコントラバスがオーケストラのなかで消費カロリーがナンバーワンだというお話にもびっくり。ベートーヴェンの「田園」第4楽章の嵐の場面を演奏してくれましたが、あんなに全身で弾いていたとは! そして「第九」終楽章のコントラバスは最高にカッコいいですよね。
 ティンパニはオーケストラではよく目立つ楽器です。豪快なイメージがありますが、実は音程がすぐに変わるなど、繊細な楽器でもあることがよくわかりました。武藤さんがバルトークの「管弦楽のための協奏曲」第4楽章を実演してくれましたが、両足を使ってペダルで音程を操るんですね。これは難しそう。塩田さんが実演してくれたマレットによる音の違いもたいへん興味深いものでした。硬く鋭い音から、柔らかく豊かな音まで変幻自在。これだけ音が違えば、曲の印象もずいぶん変わってきます。
 おしまいはティンパニとコントラバスのみで『スター・ウォーズ』より「帝国のマーチ」を。これだけでダース・ベイダーの恐ろしさが十分に伝わってきます!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新しいクラシックの音楽会2025秋

投稿日:2025年11月01日 10:30

 今週はヴァイオリニストの廣津留すみれさんおすすめの「新しいクラシック音楽」をお届けしました。クラシックというと、どうしても何百年も前の作曲家の名前が思い出されますが、現在も多くの作曲家たちが新作を生み出しています。
 最初に演奏されたのは、アイスランドの作曲家オーラヴル・アルナルズによるNear Light(ニア・ライト)。抒情的な曲想から淡いノスタルジーが漂ってきました。曲の終わり方も、ふっと宙に消えるようで余韻が残ります。アルナルズはハードコア/メタルバンドのドラマーとして活躍した経歴を持ち、ポスト・クラシカルの旗手とみなされている音楽家です。伝統楽器によるアコースティックなサウンドにエレクトロニカの手法を融合させたポスト・クラシカルは、近年の一大潮流となっています。クラシックの老舗レーベルであるドイツ・グラモフォンがアルナルズらポスト・クラシカルのアーティストたちと契約していることからも、その注目度の高さがわかります。
 2曲目はアメリカの作曲家フィリップ・グラスによるEchorus(エコラス)。フィリップ・グラスは音楽界のレジェンドといえるような存在です。ミニマル・ミュージックの分野で先駆的な役割を果たし、クラシックのみならずロックやポップスの分野においても続く世代に多大な影響を与えています。Echorusという曲名はecho(エコー、こだま)に由来するのだとか。廣津留さんと和久井映見さんのおふたりが息の合ったところを見せてくれました。ゆったりとした反復的な楽想が静かな高揚感を生み出していました。
 おしまいはアメリカのジェレミー・キトルによるThe Boxing Reels(ザ・ボクシング・リールズ)。リールとはスコットランド/アイルランドの伝統舞曲の一種。カントリー風、フォーク風のテイストがあり、楽器編成も自由なら曲の長さも自由という楽曲です。開放的な気分で楽しむことができました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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