今週は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位を獲得した川口成彦さんをお招きして、ピリオド楽器でショパンを演奏していただきました。ショパンが生きていた当時のピアノはこんな音色をしていたんですね。現代のピアノとはずいぶん違うと感じられたのではないでしょうか。
ピアノは時代とともに大きく姿を変えてきた楽器です。どんな作曲家もその当時の楽器のために曲を書いたのですから、作曲家の真の姿を知るためにはピリオド楽器について知ることが不可欠。そんな考え方が広まり、2018年、ポーランドの国立ショパン研究所は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールを開催しました。あの有名なショパン国際コンクールを開催する国立ショパン研究所が、ピリオド楽器奏者のためのコンクールを開いたとあって、音楽界で大きな話題を呼びました。そして今年、第2回のコンクールが開催されようとしています。5年に1度の開催は本家ショパン・コンクールと同じです。
川口さんのお話にあった、ピリオド楽器でわかるショパンの特徴のひとつは「静けさ」。当時の楽器ならではのモデレーターを使った演奏を披露してくれましたが、音のニュアンスががらりと変わりました。柔らかく幻想的な響きがします。現代のピアノにも弱音ペダルはありますが、仕組みも効果も違っています。
もうひとつの特徴は「語り」。ピリオド楽器は「音の子音」が豊かだといいます。これは少し難しい表現ですよね。言語における子音は、kとかpとかtといった母音以外の音を指していますが、楽器の音にも子音があるというのです。これは発音の瞬間に乗るノイズ的な成分が音のキャラクターを作り出すということなのでしょう。現代のピアノの均質で滑らかな音とはまたちがった、まるでおしゃべりをするかのような多様な発音が楽器から聞こえてくると感じたのですが、いかがでしょうか。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)