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突拍子もない作曲家リゲティの音楽会

投稿日:2023年05月27日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家リゲティの音楽をお届けしました。ハンガリーに生まれ、オーストリアに亡命したリゲティは、斬新なアイディアを用いて独自の作風を開拓し、戦後の現代音楽をリードした作曲家です。2006年に世を去って以降も、リゲティの作品は世界各国で盛んに演奏されており、20世紀後半の新たな「クラシック」になりつつあると言えるでしょう。今回演奏された4曲はどれも「突拍子もない」ながらも、リゲティの作品では人気曲の部類に入ります。
 最初の「ハンガリアン・ロック」はチェンバロという古楽器を用いているのがユニーク。リゲティのこともチェンバロのこともなにも知らずにパッと聴いたとしても、「カッコいいな」と感じるのではないでしょうか。
 「100台のメトロノームのための交響詩」も風変わりな作品ですよね。ふつうは交響詩といえばなんらかのストーリーがありますが、メトロノームが鳴っているだけなので、これは無機的な音響にすぎません。にもかかわらず、曲を聴くとそこになんらかのドラマを読みとらずにはいられないのが不思議なところ。名作です。近い将来、機械式メトロノームがだんだん入手困難にならないか、そこが少々気がかりではありますが……。
 「ムジカ・リチェルカータ」第1曲は、ずっと「ラ」の音だけで曲が作られていて、いちばん最後にレの音で終わるという趣向。「ラ」だけで生き生きとした音楽が書けるというのが驚きです。ちなみにこの第1曲に続く第2曲が、映画「アイズ ワイド シャット」で使われていました。
 最後はクラクションで演奏されたオペラ「ル・グラン・マカーブル」の前奏曲。クラクションを楽器として使った例としてはガーシュウィンの「パリのアメリカ人」がありましたが、リゲティのこの曲はクラクションのみで書かれているのですから、本当に発想がぶっ飛んでいます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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服部百音がお父さんに怒られそうな音楽会

投稿日:2023年05月20日 10:30

服部百音さんのお父さんといえば、「半沢直樹」や「真田丸」ほかで知られる作曲家、服部隆之さん。曾祖父・服部良一、祖父・服部克久、父・服部隆之という名門音楽一家に生まれ、ヴァイオリニストとしてクラシックの英才教育を受けてきた百音さんが、今回は古坂大魔王さんのプロデュースで異ジャンルの音楽とのコラボレーションに挑んでくれました。
 最初の挑戦はヒップホップとのコラボレーション。選ばれた作品はベルギー出身のフランスの作曲家フランクの代表作、ヴァイオリン・ソナタです。ロマン派のヴァイオリン・ソナタにおける屈指の傑作といってもいいでしょう。フランクの魅力は濃厚なロマンティシズムと暗い情熱。およそヒップホップからはかけ離れているのでは……と思いきや、KEN THE 390さんの編曲で、まさかの融合。原曲にある一種の執拗さが巧みに抽出されていたのではないでしょうか。
 ハードコア・ドラムンベースとのコラボレーションでは、ポーランドの作曲家シマノフスキのタランテラが選ばれていました。原曲はヴァイオリンとピアノのために書かれた「夜想曲とタランテラ」で、曲の後半が南イタリアの民族舞踊タランテラに由来する舞曲になっています。毒ぐもタランチュラにかまれたときにタランテラを踊ると治るという古い伝説がありますが、それくらい激しい舞曲なんですね。ハードコア・ドラムンベースの世界が見事にはまるのも納得です。
 最後はヘヴィメタルとのコラボレーション。フランスの作曲家ラヴェルの技巧的な名曲「ツィガーヌ」が選ばれていました。ツィガーヌとはロマ(ジプシー)のこと。原曲には神秘的で呪術的なムードがありますが、これをヘヴィメタルの重厚なサウンドと融合させて、エキサイティングな音楽がくりひろげられました。ヘヴィメタルになっても、原曲にある妖しさが生きているのがいいですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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左ききはツライよ・・・の音楽会

投稿日:2023年05月13日 10:30

左ききの割合はおよそ10人にひとりだとか。ハサミや急須のように、右ききを前提に設計されているものは少なくありません。であれば、音楽の世界はどうなっているのだろう……ということで、今週は左ききの音楽家のみなさんに集まっていただきました。
 ギタリストの場合、左きき用のギターを使うという方法もありますが、松崎しげるさんは、右きき用のギターをそのまま左右逆に持ち替えて演奏する派。これだと弦の並びが上下逆になってしまいますが、独自の「かき上げ」奏法を駆使しながら、見事に弾いてくれました。これはすごい技ですね。
 荒井里桜さんは左ききのヴァイオリニスト。ヴァイオリンの場合は普通、左ききでも右ききでも同じように弾きますので、見た目では区別がつきませんが、やはり左ききの方にとって右手による弓のコントロールは大変なようです。逆に左手の技術を要求する超絶技巧系の曲では有利な面もあるというお話にはなるほどと思いました。
 ギターと違って、ヴァイオリンを左右逆の手で弾く人はほとんどいないと思いますが、往年のフィンランドの名指揮者でヴァイオリニストでもあったパーヴォ・ベルグルンドは、左手に弓を持って演奏していたそうです。オーケストラに在籍していた頃は、隣の奏者とぶつかりそうになって大変だったとか。ベルグルンドは指揮棒も左手に持っていました。
 同じように左手で棒を振る指揮者が出口大地さん。出口さんのように左手に棒を持つ指揮者はかなり珍しいと思います。世界的指揮者では前述のベルグルンド、あとはイギリスのドナルド・ラニクルズが代表的な存在でしょうか。客席から見ても、指揮者が左手で棒を振っている姿はかなり新鮮に感じます。
 SINSKEさんは左ききのマリンバ奏者。演奏時のフォームや楽譜の指番号など、意外なところで右ききが前提になっているんですね。新しい作品では左手に超絶技巧が求められる傾向があって有利になるというお話は、ヴァイオリンの超絶技巧と通じるところがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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春から連想する音楽会

投稿日:2023年05月06日 10:30

今週は「春から連想する音楽会」と題して、連想ゲームのような音楽会をお届けしました。ゲスト奏者たちが連想する言葉を数珠つなぎで発表し、それぞれの言葉からイメージされる曲を演奏するという趣向です。
 まず「春」といえば「そよ風」ということで、イメージされた曲は映画「もののけ姫」より「アシタカとサン」。フルートの清澄な音色にギターとチェロの温かみのある音色が加わって、やさしくしなやかな音楽が奏でられました。「そよ風」にふさわしい心地よさでした。
 Cocomiさんが「そよ風」から連想した言葉は「旅」。曲はミシェル・ルグランの「キャラバンの到着」。1967年公開のフランスのミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」で用いられた名曲です。さまざまなアレンジで親しまれている曲ですが、本日はCocomiさんのフルートと林周雅ストリングスの演奏で。軽快で、気持ちが浮き立ちます。
 村治佳織さんが「旅」から連想した言葉は「ワクワク」。そして「ワクワク」からイメージした曲はファレル・ウィリアムスの「ハッピー」です。村治さんの華麗なギターにストリングスのソロ回しも加わって、カッコよかったですね。
 チェリストの上村文乃さんが「ワクワク」から連想した言葉は「笑顔」。曲はガッロの「12のトリオ・ソナタ第1番」第1楽章です。聴く人を笑顔にしてくれる爽快な音楽でした。ガッロという作曲家は多くの方にとってなじみが薄いはず。むしろこのメロディは、ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽「プルチネッラ」に登場する曲として親しまれていると思います。20世紀の作曲家ストラヴィンスキーは、イタリアの知られざる古楽を題材に用いて、このバレエ音楽を作曲しました。その元ネタのひとつが、このガッロのトリオ・ソナタなんですね。18世紀の作曲家とは思えないほどフレッシュでキャッチーな曲調で、ストラヴィンスキーが目をつけるもの納得です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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