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クラシック奏者が演奏したい平成ポップスの音楽会

投稿日:2023年04月29日 10:30

今週はクラシックの奏者たちが選んだ平成ポップスの名曲をお届けしました。近年は若者たちの間で平成に流行したポップスが注目されているのだとか。流行はくりかえすといいますが、現代はインターネットの動画配信やソーシャルメディアが浸透した結果、過去の名曲がリバイバルしやすい状況にあるといえるかもしれません。
 最初に演奏されたのは、ブラック・ビスケッツの「Timing~タイミング」。若いユーザーが多いTikTokの「踊ってみた」動画がきっかけで再ブレイクしたのだそうです。今回はヴァイオリン、フルート、尺八の3人のソリストとストリングスによる演奏で。とても軽やかなサウンドで爽快でしたね。
 廣津留すみれさんが選んだのは宇多田ヒカル「First Love」。シングル・アルバム累計800万枚というメガヒットを記録した名曲です。廣津留さんによれば「意外性のあるコード進行」が魅力。楽曲に時代を超える新鮮さがあるということなのでしょう。弦楽器のみによる編成で、繊細でしなやかなサウンドが印象的でした。
 多久潤一朗さんが選んだのはDREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」。中学生の娘さんも知っているといいますから、本当に世代を超えて受け継がれているんですね。この曲ではチェンバロがとても効果的に使用されています。チェンバロといえばバロック期に流行した楽器。今回はバロック音楽風のアレンジで「LOVE LOVE LOVE」が生まれ変わりました。最後の部分でクープラン「恋のうぐいす」、エルガー「愛のあいさつ」、クライスラー「愛の喜び」がおりこまれているという、愛に満ちたアドリブまで付いていました。
 藤原道山さんが選んだのは広瀬香美「ロマンスの神様」。こちらもTikTokで大流行しました。尺八による演奏はかなり意外でしたが、ノンリード楽器ならではの澄んだ音色が楽曲とマッチしていたように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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坂本龍一の音楽会

投稿日:2023年04月22日 10:30

今週は3月28日に逝去した坂本龍一さんの音楽を、過去の演奏とトークを中心にお届けいたしました。坂本龍一さんが番組に初めて登場したのは1984年。当時32歳の坂本さんが司会の黛敏郎さんと話している映像がありましたが、世代も分野も異なるふたりの日本を代表する音楽家が対話をしているという意味で、これは本当に貴重な映像だと思います。
 坂本さん本人のピアノによる「Merry Christmas, Mr. Lawrence」は1993年の演奏。今聴いても古びていない……というか、むしろ新鮮でみずみずしい音楽だと感じました。曲に漂うノスタルジーが、一段と際立って感じられます。
 「El Mar Mediterrani」では、坂本さんが新日本フィルをエネルギッシュに指揮していました。この曲はバルセロナ五輪開会式のために書かれた作品です。豊かな音楽文化を誇る芸術都市バルセロナだけあって、この開会式にはホセ・カレーラスやプラシド・ドミンゴ、モンセラート・カバリエ等々、レジェンド級の大歌手たちがたくさん登場していたのですが、そこに坂本さんも招かれて自作を指揮していたことにあらためて驚きます。
 「弦楽四重奏曲」第3楽章は、東京藝術大学在学中の19歳の作品。以前「放送2800回記念② 巨匠・坂本龍一からの伝達」の回で同曲の第1楽章をお届けしましたが、この第3楽章は初公開の映像です。ウェーベルンら新ウィーン楽派からの影響がストレートに感じられるアカデミックな書法で書かれています。坂本さんにもこんな時代があったんですね。
 最後の「The Last Emperor」は1993年、2019年、2023年の3種類の演奏による特別編集版でした。時の流れに思いを馳せずにはいられません。1993年と2019年の演奏では坂本さんがピアノを弾いていましたが、2023年でピアノを弾いたのは角野隼斗さん。名曲とは作曲者の手を離れ、次の世代へと受け継がれてゆく作品のこと。これからも多くの若い音楽家たちが坂本さんの作品を演奏し、作品に新たな生命を吹き込んでゆくことでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第3弾~後編

投稿日:2023年04月15日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」第3弾の後編。先週の結果を受けて、大森駿音さん、佐伯ミッシェル藍さん、丸山怜子さんの3人の塾生が、葉加瀬さんの最終レッスンを受けました。曲はかつて葉加瀬太郎さんがセリーヌ・デュオンと共演した「トゥー・ラヴ・ユー・モア」。清水美依紗さんの歌との共演です。
 葉加瀬さんが見たいポイントは「歌手を引き立てるオブリガート(歌やメロディを引き立てる対旋律)」と「自分が映えるオブリガート」。前に出すぎてもいけないけれども、歌手に隠れてしまってもいけないという難しさがあると思いますが、3人それぞれが個性豊かなヴァイオリンを披露してくれました。
 最初の大森駿音さんは、しっとりとしたイントロからやさしく歌手に寄り添う様子が印象的でした。葉加瀬さんのアドバイスは、歌のオブリガートに「休み」を入れること。隙間がなかったんですね。アドバイスを受けて、格段に音楽の流れが自然になったように思います。
 2番目の佐伯ミッシェル藍さんは、ヴァイオリンのつややかで深みのある音色が印象的。間奏のところがすごくカッコよかったですよね。葉加瀬さんのアドバイスは、休符の後、歌とハモるよりも同じ音のオクターブ上を弾いてサポートすること。これで歌が一段と映えるというのですが、実際に演奏を聴いてみると納得です。
 3番目の丸山怜子さんはオリジナリティの感じられるアプローチで、クラシカルなテイストがとりこまれていて聴きごたえがありました。アドバイスを受けた後のイントロには、葉加瀬さんから「さっき僕が弾いたのよりいいんじゃない」という褒め言葉まで。
 選考の結果、3人から選ばれたのは、佐伯ミッシェル藍さん。音楽はもちろんのこと、とても楽しんで弾いている姿にも魅了されました。これからの活躍が楽しみでなりません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第3弾~前編

投稿日:2023年04月08日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」第3弾の前編をお届けいたしました。5人の塾生のみなさんが、それぞれジャンルの異なるポップスに挑みましたが、さすが多数の応募から選ばれただけあって、みなさん本当にレベルが高い! 最初に演奏を聴くと「わ、うまい!」と感心してしまうのですが、そこに葉加瀬さんの的確なアドバイスが加わることで、さらに一段階レベルアップするのがすばらしかったですね。
 「パート・オブ・ユア・ワールド」ロック版に挑戦したのは大森駿音さん。大森さんがエッジーに(鋭く)弾いていたのに対して、葉加瀬さんの提案は「ファットに(どっぷり)弾く」。お手本を聴いて納得。ロックならエッジーなのがいいというわけではないんですね。
 「美女と野獣」フュージョン版を弾いたのは堀竹優衣さん。スパッと爽快に弾いてくれて、気持ちのよいヴァイオリンでした。葉加瀬さんがそこに求めたのは、フュージョンにふさわしいエレガントさ。これも納得です。
 「とびら開けて」カントリー・ミュージック版では、藤井美帆さんが切れ味の鋭い、ダイナミックな演奏を披露。胸のすくような快演でしたが、葉加瀬さんが求めるのはカントリーらしさ。マイクを活用してグルーヴを出すというアドバイスがありました。マイクを使わないクラシックにはない発想法です。
 「夢はひそかに」スウィング・ジャズ版では、佐伯ミッシェル藍さんの表情豊かでチャーミングな演奏に魅了されました。葉加瀬さんのお話に「歌のように休符を入れる」とありましたが、これはいろんなジャンルの音楽に言えることかもしれません。
 「いつか王子様が」バラード版では、丸山怜子さんが端正でのびやかなヴァイオリンを聴かせてくれました。葉加瀬さんが求めるのはバラードならではの「キュン」とした表情。アドバイス後に見違えるほど演奏が変わってびっくり。
 いったい最後に残るのはだれなのか。後編が楽しみです!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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葉加瀬太郎ピアノトリオの音楽会

投稿日:2023年04月01日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんがピアノの西村由紀江さん、チェロの柏木広樹さんとともに結成したピアノトリオ NH&K TRIO の演奏をお届けしました。「情熱大陸」のような聴きなれた曲でも、ピアノトリオで聴くとまた違った新鮮な味わいがありますよね。
 葉加瀬さんから「室内楽という言葉にとても惹かれている」というお話がありましたが、室内楽の分野では、ピアノ、ヴァイオリン、チェロによるピアノトリオは基本編成のひとつ。モーツァルトやベートーヴェンの時代から数々の名曲がピアノトリオのために作曲されています。同じく代表的な室内楽の基本編成に弦楽四重奏がありますが、多くの弦楽四重奏団が固定メンバーによる常設楽団として活動しているのに対して、ピアノトリオはもっとフレキシブル。かつてピアノのルービンシュタイン、ヴァイオリンのハイフェッツ、チェロのフォイアマンといったスター奏者からなるピアノトリオが「100万ドルトリオ」と呼ばれて絶大な人気を誇ったように、個性の強いソリスト同士が集まっても成立するのがピアノトリオだと思います。
 今回は3人それぞれが作曲した楽曲をピアノトリオで演奏することで、気心の知れたメンバー同士ならではの親密な雰囲気が醸し出されていました。
 西村由紀江さん作曲の「ビタミン」はまっすぐで爽やかな一曲。新年度を迎える今の時期にぴったりの前向きになれる音楽でした。
 柏木広樹さん作曲の「羽根屋」には、どこか懐かしさを感じさせるところがあります。旧知の仲間同士のリラックスした音の対話といった趣。
 葉加瀬太郎さんの「エトピリカ」では、3人の演奏から豊かな詩情が紡ぎ出されていました。ピアノトリオで聴くことで、一段と成熟した音楽として楽しめたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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