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放送2800回記念① 世界最高峰の少数精鋭楽団フィルハーモニクス ウィーン=ベルリンの音楽会

投稿日:2023年02月25日 10:30

番組放送2800回を記念して、今週より4週連続でお届けする「巨匠からの伝達(メッセージ)」、その第1弾はフィルハーモニクス ウィーン=ベルリン。ウィーン・フィルとベルリン・フィルの団員を中心とする7人の精鋭たちによるアンサンブルをお楽しみいただきました。
 ウィーン・フィルとベルリン・フィルといえば、世界のオーケストラの頂点に立つ二大楽団。オーケストラのキャラクターは対照的で、ウィーン・フィルはウィーンの流儀にもとづく伝統のサウンドを大切にする一方、ベルリン・フィルは次々と新しい挑戦に挑む先進的な多国籍集団という印象があります。そんなふたつのトップオーケストラのメンバーたちが一緒にアンサンブルを組んでいるのがおもしろいですよね。しかも、ジャズ、ポップス、伝統曲など、まったくジャンルにこだわらずに作品をとりあげ、それらすべてがフィルハーモニクス流のアレンジによって新鮮な音楽に生まれ変わっています。
 痛快だったのは「スウィング・オン・ベートーヴェン」。ベートーヴェンの「月光」ソナタの第3楽章と交響曲第7番の第2楽章が素材として用いられていました。編曲者のシュテファン・コンツさんは、ベルリン・フィルのチェロ奏者であり、かつてはウィーン・フィルにも所属していたという経歴の持ち主。クラシック音楽の伝統の中心にいる人が、こんなに遊び心を持ってベートーヴェンをアレンジしているのですから、本当に自由ですよね。
 バルトーク作品を原曲とする「子供のために」も楽しいアレンジでした。ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のダニエル・オッテンザマーが妙技を披露。ベルリン・フィルのコンサートマスター、ノア・ベンディックス=バルグレイもノリノリで、ふだんオーケストラで演奏する姿とはまた違った雰囲気に。
 おしまいの「フェリス・ナヴィダ」は、カリブ的な陽気さのなかにヨーロッパ流のエレガンスが漂う心地よい演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2023年02月18日 10:30

今週は第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの小林愛実さん、チェロの上野通明さん、ヴァイオリンの岡本誠司さんの3名。川瀬賢太郎指揮東京フィルと共演して、シューマン、チャイコフスキー、バルトークの名曲を演奏してくれました。
 小林愛実さんが演奏したのはシューマンのピアノ協奏曲。小林さんがとりわけ大切にしているという得意のレパートリーです。陰影に富んだ表現から、豊かな詩情があふれてきます。幼いころからYouTube等で脚光を浴びていた小林愛実さんが、メジャーレーベルからデビューを果たしのはわずか14歳のこと。当時、サントリーホールで記者発表会が開かれましたが、そのときのあどけない姿を思い出すと、感慨を覚えずにはいられません。
 上野通明さんはパラグアイで生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしたチェリスト。今回はチャイコフスキーの「ペッツォ・カプリチオーソ(奇想的小品)」を演奏してくれました。チャイコフスキーがチェロとオーケストラのために書いた作品というと「ロココ風の主題による変奏曲」が有名ですが、晩年に書かれたこの「ペッツォ・カプリチオーソ」にも味わい深い魅力があります。メランコリックで寂寞とした部分と、活発で技巧的な部分のコントラストが実に鮮やか。
 岡本誠司さんが選んだのは、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番。20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲として名高い作品ですが、実際にコンサートで耳にする機会は決して多くはありません。このような晴れの舞台で取り上げてくれるのは嬉しいですね。しっかりと芯のある美音から、バルトークならではの峻烈な輝きと土着的なエネルギーが伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行が挑むカプースチンの音楽会

投稿日:2023年02月11日 10:30

今週は辻井伸行さんの演奏でカプースチンの音楽をたっぷりとお楽しみいただきました。ニコライ・カプースチンは1937年、ウクライナ生まれ。2020年まで存命だった現代の作曲家、ピアニストです。
 カプースチンはモスクワ音楽院でピアノを学ぶ一方、ラジオ放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」を通じてジャズへの関心を深め、やがてジャズ・オーケストラの一員として活動するようになりました。早くから作曲にも取り組んでいましたが、作曲家として国際的に知られるようになったのは比較的近年のこと。超絶技巧の持ち主として知られるマルク=アンドレ・アムランら、世界的に著名なピアニストがカプースチンの音楽を演奏したことで、次第にカプースチンをレパートリーとするピアニストが増えてきました。レコーディングでも、今ではずいぶんたくさんのアルバムがリリースされています。
 カプースチンの音楽はぱっと聴いた感じでは、ジャズのように思えるのですが、実は即興演奏ではなく、通常のクラシックの楽曲と同様にすべての音が記譜されています。その点ではクラシックの名曲と変わりありません。しかも、辻井さんのお話にもあったように、ジャズのみならず、さまざまなジャンルの音楽の語法が取り入れられています。結果として、ジャンルを超越した独自の音楽になっていると思います。
 今回、辻井さんが演奏してくれたのはカプースチン作品のなかでもとりわけ人気の高い「8つの演奏会用エチュード」からの5曲。躍動感あふれるすばらしい演奏で、カッコよかったですよね。この曲は「エチュード」(練習曲)と題されてはいるものの、前奏曲で始まって「トッカティーナ」「間奏曲」等々、さまざまな性格の小曲が続くという構成になっており、バロック時代の古典組曲を思わせます。古典的な外枠に、スウィングやロック、ブギウギといった要素が自由に盛り込まれているところがおもしろいと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したいグラミー賞名曲の音楽会

投稿日:2023年02月04日 10:30

今週はグラミー賞を受賞した名曲を、クラシックの名奏者たちによる演奏でお届けしました。グラミー賞といえば世界でもっとも注目を集める音楽賞のひとつ。1959年に始まり、すでに60年を超える歴史を持っていますから、この賞自体がひとつの音楽史を刻んでいます。時を経てもなお聴き継がれる音楽は、新たな「クラシック」の仲間入りを果たしたとも言えますから、クラシックの奏者たちがグラミー賞の名曲を演奏することは決して不思議なことではありません。
 一曲目の「ウィ・アー・ザ・ワールド」はヴァイオリン、フルート、トロンボーン、ストリングスという独自の編成。しなやかで、どこかノスタルジーを刺激する音楽になっていたように思います。同じ曲からオリジナルとは一味違った新しい魅力が生まれてくるのがアレンジの妙ですよね。
 ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」は、「サタデー・ナイト・フィーバー」で一世を風靡した名曲。ディスコの雰囲気とフルートの澄んだ音色は一見遠そうですが、多久潤一朗さんの手にかかると、完璧なダンスミュージックに。それにしても回し吹きにはびっくりしました。
 エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」では、藤原功次郎さんの情感豊かで温かみのあるトロンボーンが印象的でした。藤原さんのお話にもありましたが、トロンボーンは歴史的に教会で用いられてきたことから、オーケストラではしばしば神や教会の象徴のように扱われます。たとえばモーツァルトの「レクイエム」やベートーヴェンの「第九」、マーラーの交響曲第3番など。そう考えると、この曲もトロンボーンで演奏されるのにふさわしいように思います。
 ビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」は、廣津留すみれさんのいう「気持ち悪い」ところが癖になりそうな曲です。ヴァイオリンのポルタメント(音から音へ滑らかに連続的に移る奏法)が効果的に使われていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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