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一流の音楽家が夢のマッチング ドリーム・デュオ

投稿日:2020年03月28日 10:30

今週は名手6人による3組のデュオをお届けいたしました。デュオのおもしろさは、ふたつの個性がぶつかり合って、ひとつの音楽を作り出すところ。どんな化学反応が起きるかわからないという点で、ソロとはまた違った期待感があります。
 最初はギターの村治佳織さんとチェロの宮田大さんの共演による久石譲作曲「君をのせて」。ほかの楽器に比べるとギターは音量の小さな楽器です。一方、チェロはオーケストラをバックにソロで朗々と歌い上げることもできる、豊かな響きを持った楽器。一見、アンバランスに見えますが、宮田さんは繊細な表現でギターにぴたりと寄り添ってくれました。
 一方、ヴァイオリンとピアノの組合せは王道のデュオ。レパートリーも豊富にあります。辻彩奈さんと反田恭平さんが選んだのはフォーレの「夢のあとに」。ともにスケールの大きな音楽を作り出せるおふたりがいっしょになって、深々としたエモーショナルなフォーレを演奏してくれました。
 ありそうでないのがクラリネットとサクソフォンの組合せ。同じ木管楽器ではあるのですが、サクソフォンはほかの楽器に比べると歴史が新しく、また音量も大きいため、このふたつの楽器のデュオを聴く機会はまずありません。ところが上野耕平さんと吉田誠さんのデュオで聴くと、この組合せがとても自然で調和しているように聞こえます。1曲目はフランスのバロック期の作曲家、ルクレールの「2つのヴァイオリンのためのソナタ」。2曲目は20世紀フランスの作曲家プーランクによる「2本のクラリネットのためのソナタ」。つまり、どちらも原曲は同じ楽器のデュオのために書かれていて、掛け合いのおもしろさを楽しめる作品です。上野さんと吉田さんの息の合った演奏が、楽曲の持つユーモアや機知を存分に伝えてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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映画音楽の秘密がわかる音楽会

投稿日:2020年03月21日 10:30

今週は映画音楽の名曲に込められた秘密を探ってみました。聴きなじんだあの曲に、そんな創意工夫が盛り込まれていたとは!
 映画「007」の「ジェームズ・ボンドのテーマ」の秘密はリズム。ギターが奏でる短いリズムの反復が聴く人を引き込みます。角田さんがおっしゃるように、ラヴェルの「ボレロ」と似た効果があるんですよね。
 同じスパイ映画でも「ミッション:インポッシブル」は、あえて不安定な5拍子を採用することで緊迫感を高めています。ハラハラドキドキの映画だから5拍子。クラシック音楽でも5拍子の名曲はいくつもあります。チャイコフスキーの「悲愴」第2楽章は5拍子のワルツで寂寞とした味わいを生み出していますし、ラフマニノフの交響詩「死の島」では海が5拍子で波打って不気味さを演出します。
 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」は8分の6拍子で波を表現しています。これも波や川の流れを表現する際によく使われる拍子。スメタナの「モルダウ」をはじめ、ショパンやメンデルスゾーンの「舟歌」などでも8分の6拍子が用いられています。
 「ロッキー」のテーマで印象的なのは、なんといってもトランペットでしょう。トランペットは歴史的に軍楽隊に欠かせない楽器であり、ファンファーレのための楽器でもありました。ヴェルディのオペラ「アイーダ」など、勝利の場面で高らかに鳴らされるのはいつもトランペット。だから「ロッキー」のテーマは、音楽が勝利を予告しているとも言えます。
 映画「ハリー・ポッター」のチェレスタの音色には、どこか現実離れした雰囲気があります。チャイコフスキーはほかの作曲家に先駆けて、バレエ「くるみ割り人形」の「こんぺい糖の踊り」でこの楽器を使いました。「くるみ割り人形」が大ヒットしたため、世界中のオーケストラがこの曲を演奏しようと、チェレスタを買い求めました。チェレスタが世界中に広まったのは、チャイコフスキーのおかげと言ってもいいでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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有名作曲家のひねりすぎた楽曲を楽しむ音楽会

投稿日:2020年03月14日 10:30

今週は好評の「有名作曲家のひねりすぎた楽曲を楽しむ休日」第2弾。大作曲家たちの発想力の豊かさには驚かされます。
 チャイコフスキーの大序曲「1812年」は、ナポレオン率いるフランス軍をロシア軍が撃退した史実を描いた人気曲。戦闘場面を描写するためにチャイコフスキーは楽譜に「大砲」の指示を書き込んだのですが、もちろん普通の演奏会では大砲など使えません。伝統的には大太鼓で代用されています。最近ではシンセサイザーで大砲の音を入れることも。自衛隊の音楽隊は、本物の大砲を使える日本で唯一の団体でしょう。
 ヘリコプター弦楽四重奏曲を作曲したのはドイツのシュトックハウゼン。20世紀の前衛音楽を語る上で外すことのできない作曲家です。ある晩、夢で4人の弦楽器奏者が4台のヘリコプターに乗って弦楽四重奏を演奏する光景を見たことから、この作品を着想しました。そんな途方もない夢の光景を現実化できるのはシュトックハウゼンくらいのもの。
 ハイドンによる音楽の回文もおもしろかったですよね。楽譜を前から読んでも後ろから読んでも同じ曲になるという、音楽の「タケヤブヤケタ」。これはいかにもハイドンらしい茶目っ気のあるアイディアです。原曲は交響曲第47番「パリンドローム(回文)」。今回はピアノ用に編曲したバージョンで反田恭平さんに弾いていただきました。録音を逆再生すると、音のアタックが頭ではなくお尻に来るので、音色はオルガンみたいに変化しますが、曲が同じであることはよくわかります。
 「ギロ」を作曲したドイツのラッヘンマンは、楽器の特殊奏法を駆使する作曲家として知られています。ピアノの鍵盤を打楽器のギロに見立てて、このような題が付いています。これも立派な音楽作品。ラッヘンマンは既存の演奏法では出てこない音を活用し、だれも聴いたことがない音を創出することで、音楽の可能性を広げているのです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ジャズが楽しくなる音楽会

投稿日:2020年03月07日 10:30

ジャズっておもしろそうなんだけれど、なんだか難しそう、聴き方がよくわからない……。そんなふうに思っていた方も、今回の放送でぐっとジャズが身近に感じられたのではないでしょうか。
 ジャズの基本の流れは「テーマ、アドリブ、テーマ」というお話がありました。よくジャズではアドリブが大切だといいますが、素朴な疑問がわきます。「だれかがアドリブで自由気ままに演奏しはじめたら、他の人たちはどうやって合わせるの?」。なんの約束事もなく、みんなが勝手に演奏をしたら曲にならないはず。でも「テーマと同じコードで演奏する」という約束事がちゃんとあったんですね。「マック・ザ・ナイフ」の演奏では、一定のコード進行もに従って、メンバー間でアドリブを回していく様子がよくわかりました。みんなで一緒に演奏する場面がありましたが、全員が同じコード進行で演奏しているため、音楽はきれに調和が保たれていました。もしばらばらのコード進行で演奏したら、ただの不協和音の連続になってしまうでしょう。そして、最後には最初のテーマに帰ってくる。これで「あ、終わったんだ」とわかります。
 クラシック音楽に親しんでいる方は、この説明を聞いて、どこかで聞いたことのある話だなと思いませんでしたか。多くの大作曲家たちが残した変奏曲も、やはり最初にテーマ(主題)が演奏され、これにテーマに基づくさまざまな変奏が続き、最後にまたテーマが帰ってくるという構成になっています。クラシックの場合は、すべてが楽譜に書かれていますが、モーツァルトもベートーヴェンもバッハも、アドリブの名手だったと伝えられています。モーツァルトの変奏曲とは、モーツァルトの天才的なアドリブを楽譜に書き残して保存したものと解釈できるかもしれません。協奏曲のカデンツァも本来はアドリブが前提。アドリブはジャズに限らず、音楽の根本をなすものなのでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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